胃切除後症候群 ガイドライン
胃切除後症候群 ガイドラインの定義と全体像
胃切除後症候群は、胃切除に伴う機能の欠損・障害や器質的障害を背景に起こる症状の総称で、単一の疾患名というより「術後の慢性問題の集合」として扱うほうが臨床に合います。
機能的障害にはダンピング症候群、消化吸収障害、輸入脚症候群などが含まれ、器質的障害には術後貧血、骨代謝障害、逆流性食道炎、残胃炎・残胃癌などが挙げられます。
ポイントは「術後の不調=ダンピング」だけに回収しないことで、症状を分類して鑑別の抜けを減らすと、必要な検査(内視鏡、採血、画像)と生活指導が自然に決まります。
また、胃癌術後のフォローアップでは、胃切除後の生活指導や胃切除後症候群への治療を行いながら、再発や二次癌の早期発見を目的に計画的フォローアップが行われている、という前提がガイドライン上でも示されています。
一方で、術後フォローアップの延命効果のエビデンスは乏しく、前向き研究が少ないため根拠が限定的である点も同時に明記されています。
だからこそ現場では「検査のための検査」にならないよう、症候(体重、食事量、便性状、貧血症状、骨痛、逆流症状)と検査を結びつけ、患者のQOLを落とさない運用が重要になります。
胃切除後症候群 ガイドラインで重要なダンピング症候群(早期・後期)
ダンピング症候群は代表的な胃切除後障害で、早期(食事中〜食後30分以内)と後期(食後2〜3時間)に分けて捉えるのが基本です。
早期は、動悸、冷汗、めまいなどの全身症状に加え、腹痛、下痢、腹部膨満などの腹部症状が出やすく、高張な内容物が急速に小腸へ移行することが一因と説明されています。
後期は、大量の糖質が急速吸収され一時的高血糖の後、インスリン分泌過剰で低血糖症状(冷汗、動悸、めまい、失神など)を来す、という機序が整理されています。
医療者が「意外と落としやすい」のは、後期ダンピングが“糖尿病の低血糖”のように見えるのに、HbA1cは正常で起こり得る点です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/94/1/94_1_80/_pdf
問診では、症状の出現タイミング(食後すぐか、2〜3時間後か)と、糖分摂取で軽快するかを必ずセットで確認すると、患者説明もそのまま指導に変換できます。
現場の教育としては「低血糖っぽい=とりあえず食べない」ではなく、後期が疑わしいときは糖分補給で改善することがあるため、患者に携帯方法まで含めて具体化して伝える運用が現実的です。
胃切除後症候群 ガイドラインに沿う食事と栄養の実装(分割食・水分)
食事療法の基本は、1回量を減らして回数を増やし、ゆっくり食べることです。
実務としては「1日5〜6回の分割食」「よく噛む」「少量ずつ」をセットで指導し、退院後の生活に合わせて回数・間食の入れ方を調整します。
またダンピング予防の観点から、食事中の水分摂取を控え、食間に水分を補うという資料もあり、“水分は制限”ではなく“タイミングをずらす”と伝えるほうが患者の納得感が上がります。
栄養指導でありがちな失敗は、カロリーだけを追って症状を悪化させることです。ダンピングが強い患者では、糖質の摂り方(急速吸収しやすい形を避ける、摂取の分散)を意識しないと、食事量を増やしたつもりが症状増悪で摂取継続できません。
一方、小胃症状(すぐ満腹になる、膨満感、食欲低下)では、食事回数の増加に加えて、経口栄養剤などを“補助的に併用する”選択肢が示されています。
外来では、体重変化だけでなく「食事1回量」「間食回数」「食後の横になる習慣」「食事中の水分量」をチェック項目として固定化すると、指導の質が担当者でブレにくくなります。
参考)https://www.jsgp.jp/pdf/citizen/support_eiyou.pdf
【食事指導のチェックリスト(外来で使える形)】
- 🍽️ 1日5〜6回に分けられているか。
参考)https://miyazaki.jcho.go.jp/wp-content/uploads/2021/11/Postoperative-Nutrition-counseling.pdf
- 🥤 食事中の水分を控え、食間で補えているか。
- ⏱️ 食後症状の時間(30分以内/2〜3時間後)が記録できているか。
- 🛌 食後の過ごし方(すぐ横になる/動く)で症状が変わるか。
胃切除後症候群 ガイドラインで注意すべき貧血と骨代謝障害(B12・鉄・Ca)
術後貧血は、低酸状態で鉄の吸収が低下して鉄欠乏性貧血が起こり得ること、さらに内因子欠乏によりビタミンB12吸収障害から巨赤芽球性貧血(悪性貧血)が起こり得ることが整理されています。
ビタミンB12は肝臓に約5年分貯蔵があるため、全摘など切除範囲が大きいほど障害が高度になり、特に胃全摘では数年経ってから定期補充が必要になり得る、という“時間差”が実務で重要です。
よって退院直後に症状がなくても、数年後にしびれや倦怠感で来院し、そこで初めてB12欠乏に気づく、という事態を避けるため、長期フォローの採血項目(鉄、葉酸、B12など)を施設でルーチン化する価値があります。
骨代謝障害は、Ca吸収障害や脂溶性ビタミンDの吸収低下などが背景となり、ゆっくり進行して発症まで10年以上かかることもある、とされています。
症状として腰痛、関節痛、しびれ、う歯などが挙げられ、DXAなどで骨塩量を測定し、必要に応じて予防的に活性型ビタミンDとカルシウム剤併用が勧められると記載されています。
「術後は痩せたから仕方ない」で片付けず、骨痛や転倒リスクが出た段階で“術後の栄養・吸収問題”に立ち返るのが、ガイドライン的な思考の近道です。
胃切除後症候群 ガイドラインの独自視点:QOL質問票PGSAS-45で「症状の見える化」
胃切除後の生活の質(QOL)評価として、PGSAS-45(Postgastrectomy Syndrome Assessment Scale)という質問票が紹介されている資料があり、症状や生活障害を系統的に把握する目的で使われています。
独自視点として重要なのは、PGSAS-45のような共通スケールを“研究の道具”で終わらせず、外来の問診を標準化するテンプレとして転用することです。
例えば「下痢」「ダンピング」「食事関連のつらさ」「社会生活への影響」を定期的に点検する枠組みがあると、医師・看護師・管理栄養士の誰が問診しても、拾うべき問題が同じになり、介入の優先順位(食事調整→薬物→検査→紹介)が組み立てやすくなります。
また胃癌術後のフォローアップでは、二次癌の早期発見のために内視鏡、CT、腫瘍マーカーなどが有用とされ、腫瘍マーカー上昇が画像より先行する可能性にも触れられています。
ここにPGSAS的な「症状の見える化」を重ねると、検査の予定がある患者でも、生活上の困りごと(食後失神に近い、仕事中の低血糖様症状、慢性下痢、骨痛)を“検査結果待ち”で放置しにくくなります。
結果として、ガイドラインで触れられている「生活指導」や「長期にわたる注意深い術後管理」を、現場の運用に落とし込む足場になります。
胃癌術後フォローアップ(CT・内視鏡・腫瘍マーカー等)の根拠と考え方(ガイドライン本文)
胃切除後症候群の病態(ダンピング、貧血、骨代謝障害などの整理)と対策の概説(総説PDF)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/94/1/94_1_80/_pdf

改訂版 胃を切った人のための毎日おいしいレシピ250: 一部摘出・全摘出の方も