胃洗浄チューブと手技と適応と合併症

胃洗浄チューブと手技

胃洗浄チューブ:現場で迷う4点
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適応は「ルーチンにしない」

急性中毒では胃洗浄は漫然と行わず、利益が合併症リスクを上回る状況に限って検討する。

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チューブ径と側孔が鍵

固形残渣を想定するなら太め・側孔多数の胃管を選び、閉塞と損傷を回避する。

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誤挿入と誤嚥を最優先で防ぐ

体位、気道保護、留置確認(必要時X線)を徹底し、合併症を減らす。

胃洗浄チューブの適応と禁忌

 

胃洗浄チューブは「入れれば安心」ではなく、適応の狭い処置として扱うのが安全です。胃洗浄は急性中毒患者にルーチンで行うべきではなく、モデル実験で除去率が安定せず時間とともに低下し、臨床転帰を改善する証拠が乏しいというPosition Statementの流れが、国内ガイドの議論にも影響しています。根拠の要点として、日本中毒学会の資料でも「胃洗浄は中毒患者ではルーチンに行われるべきではない」「摂取後1時間以内で生命に関わる可能性がある量を摂取した場合に考慮」という趣旨が明記されています。

一方で「摂取後の時間だけ」では決められない点も重要で、搬入経路・剤形(徐放、腸溶、塊形成)・摂取量の不確実性・併用薬などで判断が揺れます。ここで胃洗浄チューブを使う目的は、①まだ胃内に残存している毒物の物理的除去、②血液や血栓など胃内容の除去(消化管出血など)、③減圧、④解毒剤投与ルートの確保などに整理できます。経鼻胃管の適応としても、減圧・胃内容除去・胃内容採取・毒素除去(まれ)・活性炭投与などが挙げられています。

禁忌を曖昧にすると事故が増えるため、絶対禁忌・相対禁忌を言語化してチームで共有します。MSDマニュアルでは、重度の顎顔面外傷、上咽頭/食道閉塞、最近の腐食性物質摂取や憩室・狭窄など食道異常(穿孔リスク)を絶対的禁忌として示し、未治療の凝固異常、食道への最近の介入などを相対的禁忌に挙げています。さらに「顎顔面外傷で篩板が破壊されている可能性があると、誤って頭蓋内へ穿通するリスクが高まる」という注意は、手技経験があるほど見落としやすい“慣れの落とし穴”です。

胃洗浄チューブのサイズと側孔

胃洗浄チューブの選択は、細いチューブで「注入はできるが排液が詰まって進まない」という失敗を減らすところから始まります。急性中毒での胃洗浄の準備物品として、成人では34~36Fr(少なくとも20~30Fr)、乳幼児では16~28Frで、先端が丸く腰があり、側孔が多数開いた胃管が推奨されるという具体的な目安が提示されています。ここで重要なのは“太さそのもの”というより、固形残渣や薬剤塊を通過させ、側孔で吸引負荷を分散させる設計を選ぶことです。

現場では経鼻胃管(レビン、セイラムサンプなど)と「胃洗浄目的の太い胃管」が混同されがちです。MSDマニュアルにあるように、減圧目的にはレビンチューブ(単腔)やセイラムサンプチューブ(ダブルルーメン)などが選択肢になりますが、急性中毒の胃洗浄では固形物が通る“太め”が要件になります。つまり、目的(減圧・栄養・洗浄・採取)と、必要な内腔径・硬さ・側孔の数はセットで考える必要があります。

「意外に効く工夫」としては、閉塞が起きたときに力任せに陰圧を上げないことです。側孔が少ないチューブで強吸引を続けると、粘膜が吸い付いて損傷しやすくなり、出血→視野/排液悪化→さらに強吸引という悪循環に入ります(この“吸引の悪循環”は、トラブル時に起きやすい典型パターンです)。太さ・側孔の設計に加え、吸引圧を低圧・間欠にするという運用まで含めて「チューブ選択」と捉えると、合併症が減ります。

胃洗浄チューブの挿入と確認

胃洗浄チューブの挿入は、実務上は「経鼻胃管挿入の安全原則」を踏襲します。MSDマニュアルでは、挿入深度は耳介(または下顎角)から剣状突起までの距離などで推定し、患者が嚥下している間に進める、声が出せない・呼吸窮迫などがあれば気管内誤挿入を疑って直ちに抜去する、といった具体的手順が示されています。留置確認は、胃内容吸引、空気注入の聴診などが挙げられますが、注入を伴う用途(造影剤・栄養など)では胸部X線が強く推奨される点も明確です。

急性中毒での胃洗浄に寄せて言うと、確認のゴールは「胃内に入った」だけでは足りません。安全に洗浄できる位置(噴門直下に偏りすぎない、幽門側に行きすぎない等)にあり、排液が確実に戻る回路が成立することが重要です。排液が戻らないのに注入を続けると、胃拡張→嘔吐→誤嚥のリスクが一気に上がります。

また、気道保護は「挿管が必要な患者にだけ」ではなく、「誤嚥しやすい条件が揃っている患者に必要」という視点が重要です。MSDマニュアルでも、精神状態の変化がある患者など誤嚥リスクが高い場合、経鼻胃管挿入前に気道を保護(カフ付き気管内チューブ)すべき、とされています。胃洗浄は刺激が強く嘔吐反射も誘発しやすいため、ここを軽視すると“処置中に状態が崩れる”典型例になります。

胃洗浄チューブの合併症と予防

合併症は「挿入の合併症」と「洗浄そのものの合併症」に分けると整理しやすいです。挿入関連としてMSDマニュアルは、上咽頭外傷(出血の有無を問わず)、副鼻腔炎・咽頭痛、誤嚥、食道/胃の出血や穿孔、非常にまれだが頭蓋内や縦隔への穿通を挙げています。ここに、急性中毒の胃洗浄特有の合併症(反射・循環変動・体温/電解質)を重ねて評価します。

急性中毒領域の解説では、胃管挿入時の機械的損傷、誤挿入、胃管刺激による喉頭けいれん、洗浄刺激による副交感神経反射(低血圧・徐脈・不整脈)、大量の洗浄液使用による電解質異常や低体温などが合併症として整理されています。つまり、胃洗浄チューブは“消化器手技”であると同時に“循環・呼吸イベントを誘発し得る侵襲”であり、モニタリング(SpO2、心電図、血圧、体温)と吸引・酸素・挿管の即応性がセットになります。

体位も、単なる作法ではなく合併症予防の武器です。急性中毒での胃洗浄は、左側臥位・頭低位(約15度)を推奨し、幽門側を高位にして十二指腸への流出を防ぐ、という記載があります。左側臥位は誤嚥リスクを下げる意図もあり、実際に看護系の標準知識としても胃洗浄体位は左側臥位が適切とされています。

「意外な落とし穴」として、洗浄液の温度と量管理が挙げられます。大量の微温湯・生食を使うほど、低体温や電解質異常のリスクが上がるため、洗浄量を増やすときほど体温・循環の観察密度を上げる必要があります。さらに、排液量の概算でも良いので入出量管理に残し、後から「入れたのに戻っていない」事態をチームで早期に察知できるようにします(記録が“安全装置”になります)。

胃洗浄チューブと説明と倫理(独自視点)

検索上位の記事では、適応・手順・禁忌・合併症が中心になりやすい一方、医療安全上は「説明と同意」「チームの役割分担」「中止判断」がアウトカムを左右します。胃洗浄は、ガイドの流れとして“ルーチンでやらない”方向に進んできた経緯があり、患者・家族が「やらない=手を抜いた」と誤解することがあります。日本中毒学会資料でも、胃洗浄が漫然と行われてきた背景と、適応見直しの必要性が述べられており、医療者側がこの文脈を理解して説明に落とし込むことが重要です。

説明の骨子は、①目的(胃内残存の可能性がある毒物の除去)、②期待できる効果が限定的であること(時間経過で除去率が低下し、転帰改善の証拠が乏しいという前提)、③合併症(誤嚥、損傷、反射性徐脈、不整脈、低体温など)、④代替(活性炭、支持療法、解毒薬内視鏡など)の4点に絞ると、忙しい救急外来でも伝わりやすくなります。加えて、患者が不穏・錯乱・せん妄の場合、身体抑制の必要性が出ることがあり、ここは倫理的負担が大きい領域です。だからこそ「適応が薄いのに無理に行う」ことは、侵襲と倫理負担の両面で割に合いません。

チーム設計としては、胃洗浄チューブの挿入担当、気道担当、注入・排液担当、記録担当を分けるだけで、事故の芽が減ります。特に、誤挿入兆候(声が出ない、呼吸窮迫など)を見逃さない“観察役”がいると、挿入者が手技に集中していても安全性が担保されます。MSDマニュアルが示すような「声が出せない等があれば気管内を疑って直ちに抜去」などの中止基準を、声に出して共有しながら行う運用が、現場では最も再現性が高い安全策です。

【参考リンク:急性中毒における胃洗浄の位置づけ(ルーチンで行わない、適応の考え方の背景)】

日本中毒学会「急性中毒標準診療ガイド」関連PDF

【参考リンク:経鼻胃管挿入の適応・禁忌・合併症・確認(X線確認推奨など実務の要点)】

MSDマニュアル(プロフェッショナル版)「経鼻胃管の挿入」

【参考リンク:胃洗浄の具体的手技(チューブ径、体位、注入量、合併症の整理)】

救急系解説「薬物中毒の治療1:胃洗浄」

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