医療用機械の種類と分類について
医療用機械、すなわち医療機器は私たちの医療現場に欠かせない存在です。薬機法(医薬品医療機器等法)第2条第4項において、医療機器は「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であって、政令で定めるもの」と定義されています。
医療機器は非常に多岐にわたり、4,000種類以上あるとされています。一般的に病院の大型機器をイメージする方が多いですが、実は私たちが日常的に使用する体温計や救急絆創膏なども医療機器に含まれるのです。
医療機器市場は年々拡大しており、2018年の国内市場規模は約2.8兆円に達しています。過去5年間の年平均成長率(CAGR)は4.8%と堅調な成長を続けています。また、医療機器の輸出額は5,723億円、輸入額は13,685億円と、現状では輸入超過の状況にあります。
医療用機械の一般医療機器とその特徴
一般医療機器は、医療機器の中でも人体への影響が極めて少ないとされるクラスⅠに分類される医療機器です。これらは日常生活でも頻繁に使用されるものが多く含まれています。
一般医療機器の代表的な例としては以下のようなものがあります。
- 体温計
- 救急絆創膏
- X線フィルム
- 経腸栄養注入セット
- ネブライザー
- 血液ガス分析装置
- 手術用不織布
これらの医療機器は、使用における安全性が高く、不具合が生じても人体へのリスクが低いとされています。そのため、製造販売に際しては比較的緩やかな規制が適用されています。
体温計を例に挙げると、電子体温計や耳式体温計など様々なタイプがありますが、いずれも測定値の誤差が生じたとしても、直ちに重大な健康被害につながる可能性は低いと考えられています。ただし、正確な体温測定は診断の基礎となるため、適切な精度管理は重要です。
ネブライザーは、薬液を霧状にして口や鼻から吸入する治療に用いられる機器です。気管支喘息やクループなどの疾患治療に広く使用されており、在宅医療でも重要な役割を果たしています。
医療用機械の管理医療機器とカテーテルの関係
管理医療機器は、クラスⅡに分類される医療機器で、人体に影響を与える恐れがあるものの、適切に使用すれば安全性が確保できるものです。これらの医療機器は、一般医療機器よりも厳格な管理が求められます。
管理医療機器の代表例には以下のようなものがあります。
- X線撮影装置
- 心電計
- 超音波診断装置
- 注射針・採血針
- 真空採血管
- 輸液ポンプ用輸液セット
- フォーリーカテーテル
- 吸引カテーテル
- 補聴器
- 家庭用マッサージ器
- コンドーム
- 医療機器プログラム(一部)
特にカテーテルは管理医療機器の中でも重要な位置を占めています。カテーテルとは、医療用に用いられる柔らかい管のことで、血管や消化管、尿管、または胸腔、腹腔などに挿入して使用します。
フォーリーカテーテル(尿道カテーテル)は、尿道からカテーテルを挿入し、生成された尿を体外に排泄する役割を果たします。長期間の留置が必要な場合もあり、適切な管理が重要です。不適切な使用は尿路感染症などの合併症を引き起こす可能性があります。
吸引カテーテルは、気道内の分泌物を吸引するために使用されます。特に人工呼吸器を装着している患者や、自力で痰を出すことが困難な患者に対して重要な役割を果たします。
胃管(マーゲンチューブ)も管理医療機器の一種で、鼻あるいは口から胃に挿入して使用するチューブです。胃洗浄や経管栄養、胃内容物の吸引などに使用されます。
これらのカテーテル類は、適切な挿入技術と管理が求められ、医療従事者には十分な知識と技術が必要とされます。
医療用機械の高度管理医療機器と人工呼吸器の重要性
高度管理医療機器は、クラスⅢおよびクラスⅣに分類される医療機器で、人体に重大な影響を与える恐れがあるものです。これらは最も厳格な管理が求められる医療機器カテゴリーです。
高度管理医療機器(クラスⅢ)の例。
- 粒子線治療装置
- 人工透析器
- 硬膜外用カテーテル
- 輸液ポンプ
- 自動腹膜灌流用装置
- 人工骨
- 人工心肺装置
- 多人数用透析液供給装置
- 成分採血装置
- 人工呼吸器
- 特定のプログラム
高度管理医療機器(クラスⅣ)の例。
人工呼吸器は高度管理医療機器の代表的な例です。人工呼吸器は、呼吸機能が低下した患者の呼吸を補助または代行する生命維持装置です。COVID-19パンデミックにおいても、重症患者の治療に不可欠な機器として注目されました。
人工呼吸器には、侵襲的人工呼吸器と非侵襲的人工呼吸器があります。侵襲的人工呼吸器は気管挿管や気管切開を通じて使用され、非侵襲的人工呼吸器はマスクを通じて陽圧換気を行います。
人工呼吸器の操作や管理には高度な専門知識が必要で、臨床工学技士や集中治療専門の医師・看護師が担当することが多いです。設定の誤りや不適切な管理は患者の生命に直結するため、厳格な安全管理体制が求められます。
日本集中治療医学会の人工呼吸器関連ガイドライン – 人工呼吸器の適切な使用と管理について詳細に解説
医療用機械の診断系と治療系の分類と市場動向
医療機器は機能や用途によって、診断系医療機器、治療系医療機器、その他医療機器の3つに大きく分類することもできます。この分類は市場分析や産業動向を把握する上で重要です。
【診断系医療機器】(国内市場の約25.2%、7,036億円)
- 画像診断システム
- 画像診断用X線関連装置及び用具
- 生体現象計測・監視システム
- 医用検体検査機器
- 施設用機器
【治療系医療機器】(国内市場の約53.2%、14,853億円)
- 処置用機器
- 生体機能補助・代行機器
- 治療用または手術用機器
- 鋼製器具
【その他医療機器】(国内市場の約21.5%、6,005億円)
- 歯科用機器
- 歯科材料
- 眼科用品及び関連製品
- 衛生材料
- 衛生用品及び関連製品
- 家庭用医療機器
市場動向としては、過去5年間(平成22~26年)において、「画像診断用X線関連装置及び用具」を除くすべての医療機器の市場規模が成長しています。「画像診断用X線関連装置及び用具」の市場規模縮小は、主にX線撮影用品(写真フィルム)のデジタル化による生産減少が原因とされています。
診断系医療機器の国内市場規模の年平均成長率(CAGR)は5.4%、治療系医療機器は4.4%、その他医療機器は5.0%と、いずれも堅調な成長を示しています。
特に近年は、AIやIoT技術を活用した診断支援システムや、ロボット技術を応用した手術支援システムなど、先端技術を取り入れた医療機器の開発が進んでいます。これらの新技術は診断精度の向上や治療の低侵襲化に貢献し、医療の質の向上に寄与しています。
厚生労働省の医療機器産業ビジョン – 日本の医療機器産業の現状と将来展望について詳細に解説
医療用機械の臨床工学技士による管理と安全性確保
医療機器、特に高度管理医療機器の安全な運用には、専門的知識と技術を持つ人材が不可欠です。その中心的役割を担うのが臨床工学技士です。
臨床工学技士は、医学と工学の両方の知識を持ち、生命維持管理装置の操作や保守点検を行う医療専門職です。1987年に制定された「臨床工学技士法」に基づいて国家資格化されました。
臨床工学技士の主な業務には以下のようなものがあります。
- 生命維持管理装置の操作
- 人工呼吸器の設定と管理
- 人工心肺装置の操作
- 血液浄化装置(人工透析装置など)の操作
- 補助循環装置(IABP、ECMO等)の操作
- 医療機器の保守管理
- 定期点検の実施
- 故障時の対応
- 安全性の確認
- 使用記録の管理
- 医療機器の安全使用のための研修・指導
- 医師や看護師への操作指導
- 新規導入機器の使用法の教育
- 安全使用のための院内研修
臨床工学技士は手術室や集中治療室(ICU)、冠状動脈疾患集中治療室(CCU)、透析室などで活躍しています。特に手術中は生命維持管理装置の操作や監視を担当し、機器の不具合発生時には迅速に対応することで患者の安全を確保しています。
医療機器の安全性確保のためには、適切な保守点検が不可欠です。臨床工学技士は定期的な点検スケジュールを作成し、メーカーの推奨する点検項目に基づいて機器の性能や安全性を確認します。また、医療機器の使用履歴や修理履歴を記録・管理することで、機器の状態を把握し、計画的な更新や修理を行うことができます。
近年の医療機器は高度化・複雑化しており、適切な管理がますます重要になっています。臨床工学技士の役割は今後さらに拡大していくと考えられます。
日本臨床工学技士会 – 臨床工学技士の業務や活動について詳細に解説
医療用機械のインパルスとネブライザーの最新技術動向
医療機器の技術は日々進化しており、従来の機器も新しい技術を取り入れて改良されています。ここでは、インパルスとネブライザーの最新技術動向について紹介します。
【インパルスの進化】
インパルスは、術後の安静を要する患者の足底静脈叢を間欠的に圧迫することにより、下肢の深部静脈血栓症(DVT)を予防する医療機器です。近年のインパルス装置には以下のような技術革新が見られます。
- 圧力センサーの高精度化
- 患者の足の形状や大きさに合わせて最適な圧力を自動調整
- リアルタイムでの圧力モニタリングによる安全性向上
- ワイヤレス化とモバイル連携
- Bluetooth技術を活用した無線操作
- スマートフォンアプリとの連携による使用状況の記録と分析
- 医療スタッフへのアラート通知機能
- バッテリー技術の向上
- 長時間駆動が可能な高性能バッテリーの搭載
- 患者の移動時にも継続使用が可能
- AI技術の導入
- 患者の活動状況に応じた圧迫パターンの最適化
- 血栓形成リスクの予測と予防的介入の提案
【ネブライザーの技術革新】
ネブライザーは、薬液を霧状にして吸入する治療に用いられる医療機器です。近年のネブライザー技術には以下のような進展が見られます。
- メッシュ式ネブライザーの普及
- 超音波振動によって微細な穴(メッシュ)を通して薬液を霧化
- 従来のジェット式に比べて静音性が高く、粒子径が均一
- 携帯性に優れ、バッテリー駆動で外出先でも使用可能
- スマート化とコネクティビティ
- 使用履歴の自動記録と医療機関への送信
- 吸入タイミングの通知機能
- 薬液の残量管理と自動注文システム
- 吸入効率の向上技術
- 呼吸同調型ネブライザーの開発(患者の吸気に合わせて薬剤を噴霧)
- 肺深部への到達率を高める粒子径制御技術
- 薬剤の無駄を減らす残量最小化設計
- 多剤対応型ネブライザー
- 複数の薬剤を順番に吸入できる機構
- 薬剤間の相互作用を防ぐ洗浄機能の内蔵
これらの技術革新により、患者の治療アドヒアランスの向上や医療従事者の業務効率化が期待されています。特に在宅医療の推進に伴い、使いやすく効果的な医療機器の需要は今後さらに高まると予想されます。
日本呼吸療法医学会 – 呼吸療法に関する最新の研究や技術動向について解説
医療機器の技術革新は、患者のQOL向上と医療の質の向上に大きく貢献しています。医療従事者はこれらの最新技術を理解し、適切に活用することが求められています。