医療法人と医療法人社団の基礎知識と核心ガイド
医療法人は「社団」と「財団」を含む総称
「医療法人」と「医療法人社団」の違いを一言で説明すると、医療法人は医療法に基づいて設立される法人全体の総称であり、医療法人社団はその一類型です。したがって、医療法人社団は医療法人に含まれますが、すべての医療法人が医療法人社団とは限りません。
医療法第39条では、医療法人は「社団」または「財団」とされています。このため、医療機関の開設・運営を目的とする医療法人には、一般に「医療法人社団」と呼ばれる社団たる医療法人と、「医療法人財団」と呼ばれる財団たる医療法人の2形態があります。実務上は医療法人社団が多く、診療所や病院の名称として「医療法人社団○○会」という表記をよく見かけます。厚生労働省も、医療法人の基本区分を社団たる医療法人と財団たる医療法人として整理しています。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/houkokusho_shusshi_09.pdf)
ここで重要なのは、「医療法人社団」という名称が、単に格調を高めるための屋号ではないことです。法人の設立根拠、組織構造、最高意思決定機関、基本規則の名称などに結び付く法的な区分です。一方で、患者が医療機関を選ぶ場面では、社団か財団かによって保険診療の可否や医療の質が直ちに決まるわけではありません。違いが特に問題になるのは、設立、役員構成、社員の入退社、ガバナンス、承継、解散時の残余財産処分などの法人運営です。
なお、個人開設の診療所は医療法人ではありません。医師個人または歯科医師個人が開設者となる形態であり、法人格を持たない点で医療法人とは異なります。医療法人化を検討する際には、「個人開設か医療法人か」という比較と、「医療法人社団か医療法人財団か」という法人内部の区分を分けて理解する必要があります。
社団たる医療法人と財団たる医療法人の本質
社団たる医療法人、すなわち医療法人社団は、医療施設を開設することを主たる目的とする「人の集合体」に法人格が与えられたものです。設立に関与する者が社員となり、社員の意思によって法人の重要事項を決定する仕組みが基本になります。ここでいう「社員」は、雇用されて働く従業員を意味しません。法人の構成員として議決権を持つ者であり、一般企業の従業員や、社会保険上の被保険者とは別の概念です。
これに対し、財団たる医療法人は、医療施設を開設する目的で無償寄附された「財産」に法人格が与えられたものです。つまり、社団が人を基盤とするのに対し、財団は寄附財産を基盤とします。東京都の医療法人制度の案内でも、医療法人社団は複数の人が集まり預金、不動産、備品などを拠出して設立するのに対し、医療法人財団は個人または法人が無償で寄附する財産に基づいて設立されるものと説明されています。
hokeniryo.metro.tokyo.lg(https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/2025-03-27-115622-450)
| 項目 | 医療法人社団 | 医療法人財団 |
|---|---|---|
| 法的な位置付け | 社団たる医療法人 | 財団たる医療法人 |
| 設立の基盤 | 医療事業を行うために集まった人の集合体 | 医療事業のために無償寄附された財産 |
| 基本規則 | 定款 | 寄附行為 |
| 中心となる意思決定機関 | 社員総会 | 評議員会 |
| 構成員に当たる者 | 社員 | 評議員 |
| 実務上の位置付け | 診療所・病院で広く見られる形態 | 比較的限定的で、寄附財産を基盤とする形態 |
社団と財団の区別は、開設する病院・診療所の種類を分けるものではありません。どちらも医療法の下で、病院、常時医師または歯科医師が勤務する診療所、介護老人保健施設、介護医療院などを開設することを主たる目的とする法人です。医療法人は、株式会社のような営利法人ではなく、かといって公益法人そのものでもない、医療法に基づく特別法人として位置付けられています。
pref.kanagawa(https://www.pref.kanagawa.jp/documents/48595/unei-01.pdf)
また、医療法人社団における「社団」は、一般社団法人と完全に同じ制度を意味するものではありません。医療法人は医療法による規律を受けるため、設立認可、役員、業務、財産、広告、医療機関の開設、定款変更などに医療法上のルールが適用されます。名称が「社団」であることだけから一般社団法人の制度をそのまま当てはめないよう注意が必要です。
組織運営では社員総会と評議員会が分かれる
医療法人社団では、社員総会、理事、理事会、監事を置くことが求められます。社員総会は社員によって構成され、定款変更、役員の選任・解任、重要な運営事項など、法人の根幹に関わる意思決定を担います。理事会は理事で構成され、日常的な業務執行に関する意思決定や理事の職務監督を行います。理事長は原則として理事の中から選出され、医療法人を代表します。
一方、医療法人財団では、評議員、評議員会、理事、理事会、監事を置きます。社団における社員総会に相当する役割を、財団では評議員会が果たします。厚生労働省の通知でも、社団たる医療法人には社員総会・理事・理事会・監事を、財団たる医療法人には評議員・評議員会・理事・理事会・監事を置くことが明確に示されています。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3595&dataType=1&pageNo=1)
- 医療法人社団の社員は、従業員ではなく、法人の構成員として議決権を持つ者です。
- 社員総会の決議要件、社員資格、入社・退社の手続は、医療法と定款に従って整理します。
- 理事長、理事、監事の選任や任期、親族等の役員構成は、医療法と定款の両面から確認が必要です。
- 医療法人財団では社員ではなく評議員が置かれ、評議員会を通じた統治が行われます。
- 「出資者」「社員」「理事」「理事長」を同一人物として扱う前提で考えると、承継時に認識のずれが生じやすくなります。
クリニックの承継や複数診療所の運営では、誰が社員であるか、誰が理事であるか、誰が理事長として代表権を持つかを区別して管理することが不可欠です。たとえば、院長が理事長であるケースは多いものの、「院長であること」と「社員であること」、「法人の代表者であること」は法的には別の地位です。診療所の管理者変更、理事長変更、社員の異動、役員改選では、定款、議事録、登記、都道府県への届出または認可申請の関係を個別に確認しなければなりません。
組織運営上の手続に不備があると、金融機関対応、行政手続、医療機関の承継、役員間の紛争、法人税務や相続税の検討にも影響する可能性があります。日常的には少人数で円滑に運営されている医療法人社団でも、社員総会や理事会の開催・議事録作成を形式だけで済ませず、定款との整合性を保つことが重要です。
定款・寄附行為と持分の考え方を確認する
医療法人社団では、法人の基本ルールを「定款」で定めます。定款には、名称、主たる事務所の所在地、開設する医療施設、役員、社員、社員総会、資産、会計、公告、解散、残余財産の処分など、法人運営の根本事項が記載されます。医療法人財団では、同じような根本規則を「寄附行為」と呼びます。社団が定款、財団が寄附行為を用いるという点は、両者を見分ける実務上の基本です。
hokeniryo.metro.tokyo.lg(https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/2025-03-27-115622-450)
定款または寄附行為の変更には、内容に応じて都道府県知事の認可が必要となる場合があります。法人名、目的、事務所、役員、社員資格、公告方法、事業内容、解散時の残余財産の帰属先などに変更が生じる場合、単に法人内で決議すれば完了するとは限りません。変更対象、定款の規定、所管都道府県の手引き、登記の要否をまとめて確認することが必要です。
医療法人社団を理解するうえで特に混同が多いのが、「持分のある医療法人」と「持分のない医療法人」です。これは社団と財団の違いとは別の論点です。以前は、出資者が退社時に出資額に応じた払戻しを受けたり、解散時に残余財産の分配を受けたりすることを定款で定める、持分の定めのある社団医療法人が設立されていました。
しかし、2007年4月1日以降、持分の定めのある医療法人は新たに設立できなくなりました。そのため、現在新設される医療法人社団は、原則として持分の定めのない医療法人です。これは、医療法人の非営利性をより明確にし、医療を担う法人の財産が特定の出資者へ過度に帰属する仕組みを見直す趣旨と関係します。
hokeniryo.metro.tokyo.lg(https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/2025-03-27-115622-450)
ただし、過去に設立された持分の定めのある医療法人は現在も存在し得ます。したがって、医療法人社団という名称だけで、持分の有無を判断することはできません。承継、相続、退社、法人の組織再編、解散、出資持分の評価などを検討する場合は、必ず設立時期、定款、出資の経緯、社員構成、過去の定款変更履歴を専門家と確認する必要があります。
設立・承継で医療従事者が押さえる実務ポイント
医療法人の設立は、一般的な会社設立と同じ感覚では進められません。医療法に基づき、原則として都道府県知事の認可を受けたうえで設立登記を行う必要があります。医療法人は、認可を受けるだけでは成立せず、登記を経て法人として成立します。複数の都道府県に医療機関を開設する法人については、認可権者が異なる場合もあるため、事業計画の段階から所管行政庁を確認することが重要です。
mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/2houkokusho_h24-02-05_3.pdf)
個人診療所から医療法人社団へ移行する場合、診療所の開設者変更、賃貸借契約、医療機器、従業員の雇用、社会保険、金融機関との契約、電子カルテ・レセプト関連の登録、各種許認可・届出などを横断的に整理する必要があります。医療法人化は節税だけを目的に判断するものではなく、事業継続性、複数医師での運営、分院展開、人材採用、資金調達、承継方針、ガバナンス負担を総合的に検討するべきです。
特に承継では、「理事長を後継者に変更すれば終わり」と考えるのは危険です。持分の有無、社員構成、理事・監事の任期、定款の社員資格規定、後継者の医師免許や管理者要件、診療所の開設許可・届出、金融機関との借入契約、賃貸借契約、従業員対応などを一体で点検しなければなりません。医療法人社団は人の集合体を基盤とするため、誰が社員として法人の意思決定に関与するかが、承継後の安定運営に直結します。
また、法人名に「医療法人社団」と付いているからといって、特定の医師や創業者個人が法人財産を自由に処分できるわけではありません。医療法人の財産は法人に帰属し、理事長個人の私有財産とは区別されます。役員報酬、親族への取引、関連会社との契約、不動産賃貸借などは、医療法人としての適正な意思決定と記録が求められます。
医療法人と医療法人社団の違いを正確に整理すると、「医療法人」は制度上の大きな枠組み、「医療法人社団」は人の集合体を基礎とする代表的な法人形態と理解できます。自院の法人形態を確認する際は、登記簿の商号だけではなく、定款、社員名簿、役員名簿、過去の認可書類、持分の定めの有無、所管都道府県の手引きを確認してください。設立・定款変更・承継・解散に関わる判断では、行政書士、司法書士、税理士、弁護士などの専門家と連携し、医療法上の手続と税務・登記の手続を分けずに進めることが大切です。

医療情報の基礎知識(改訂第3版): 演習問題付(第27~32回医療情報基礎知識検定試験問題)