イロプロスト商品名と製剤の種類

イロプロスト商品名と製剤特性

国内唯一の吸入製剤ベンテイビスは販売中止となりました。

この記事の3ポイント要約
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イロプロストの商品名

国内商品名はベンテイビス吸入液、海外ではVentavisとして知られる吸入型プロスタグランジンI2製剤です

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販売中止の経緯

専用ネブライザI-nebの供給問題により2022年10月に販売中止が決定され、現在は使用不可能となっています

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代替治療の選択肢

トレプロスト吸入液が後継薬として登場し、1日4回投与で管理しやすい特徴を持っています

イロプロスト製剤の国内商品名と承認状況

イロプロストの国内商品名はベンテイビス吸入液10μgです。バイエル薬品が製造販売していた製剤で、2015年9月に肺動脈性肺高血圧症の適応で承認され、2016年5月に発売が開始されました。国内初の吸入型肺血管拡張剤として大きな期待を集めた製剤でしたが、現在は販売が中止されています。

この製剤の最大の特徴は、プロスタサイクリン(PGI2)誘導体を吸入という投与経路で使用できる点にありました。経口製剤や注射製剤と比較して、肺から直接肺動脈に作用させることで、全身への影響を最小限に抑えながら効果的に肺動脈を拡張できるというメリットがあります。バイオアベイラビリティは約80%と高く、患者自身が携帯用ネブライザを用いて自己投与が可能でした。

しかし2022年10月、バイエル薬品は販売中止を医療関係者に案内しました。販売中止の理由は専用ネブライザI-neb AADの供給問題です。新型コロナウイルス感染症の影響によりフィリップス社製のI-neb吸入器の安定供給が困難になったためです。

日経メディカル処方薬事典のベンテイビス情報ページでは、現在「販売終了」と記載されており、薬価基準からも削除されています。

ベンテイビスを使用していた患者さんには、他のプロスタグランジン製剤への切り替えが必要となりました。具体的には経口薬のベラプロストナトリウムや、後述するトレプロスト吸入液などの代替薬が検討されています。医療従事者にとって、既存患者の治療継続における薬剤選択は重要な課題となっています。

イロプロストの海外における商品名展開

海外ではイロプロストはVentavisという商品名で広く知られています。欧州では2003年9月に欧州連合で承認され、米国では2004年にFDAの承認を取得しました。日本での承認よりも10年以上早く臨床使用が開始されていたことになります。

海外でもVentavisは吸入製剤として提供されており、肺動脈性肺高血圧症の治療に用いられています。海外の臨床試験では、NYHAクラスIIIの肺動脈性肺高血圧症患者を対象に有効性が確認されました。1日6~9回の吸入投与により、6分間歩行距離の改善や臨床症状の軽減が報告されています。

注目すべき点は、欧米での長期使用実績です。海外では20年以上の使用歴があり、安全性プロファイルが蓄積されていました。これが日本での承認審査においても重要な参考データとなりました。

つまり海外実績が基盤です。

ただし海外でもネブライザの供給問題が発生しており、国によっては入手困難な状況が報告されています。日本と同様の課題を抱えている地域があることも事実です。

イロプロストには、実は別の商品名も存在します。Ilomedineという商品名で静注製剤が一部の国で承認されています。こちらはレイノー現象や重症下肢虚血の治療に用いられる製剤で、肺高血圧症の適応とは異なる使用法です。同じ有効成分でも投与経路や適応症によって複数の製剤が存在するということですね。

イロプロスト製剤の投与回数と用法用量

ベンテイビス吸入液の用法用量は、通常成人に対してイロプロストとして初回1回2.5μgをネブライザで吸入し、忍容性を確認した上で2回目以降は1回5.0μgに増量して1日6~9回吸入するというものでした。この投与回数の多さが、イロプロストの大きな特徴であり、同時に患者さんにとっての負担となっていました。

1日6~9回という投与回数が必要な理由は、イロプロストの半減期の短さにあります。吸入後の薬理作用の持続時間が短いため、安定した血中濃度を維持するには頻回投与が必要になります。起きている時間に約2~4時間おきに吸入する必要があり、患者さんの生活の質(QOL)に影響を与える要因でした。

1回の吸入時間は約4~10分程度です。専用のI-neb AADネブライザを使用し、患者さん個人の呼吸パターンに合わせて薬液が噴霧される仕組みになっていました。

つまり患者負担は大きいです。

忍容性が得られない場合は、1回2.5μgへの減量も可能とされていました。副作用として低血圧、潮紅、頭痛などの血管拡張に伴う症状が出現しやすく、個々の患者さんの状態に応じた用量調整が重要でした。投与間隔は最低2時間空けることが推奨されていました。

海外の臨床試験データでは、1日6回投与群と9回投与群で比較した結果、9回投与でより良好な運動耐容能の改善が見られたという報告があります。ただし投与回数が多いほど患者さんのアドヒアランス低下のリスクも高まるため、実臨床では6~7回程度の投与で管理されることが多かったようです。

プロスタグランジン製剤の種類と投与経路の違い

肺動脈性肺高血圧症の治療に用いられるプロスタグランジンI2製剤には、投与経路により複数の種類が存在します。それぞれの製剤の特性を理解することが、適切な治療選択に不可欠です。

まず注射製剤として、エポプロステノールナトリウム(商品名:フローラン)があります。これは持続静脈内投与が必要な製剤で、中心静脈カテーテルを留置して24時間持続投与を行います。最も強力な効果を持つ一方で、カテーテル関連感染のリスクや投与装置の管理が煩雑という課題があります。トレプロスチニル注射液(トレプロスト注)も同様に持続投与製剤です。

経口製剤では、ベラプロストナトリウム(ドルナー、プロサイリン)が古くから使用されています。1日3回の経口投与で使用でき、軽症~中等症のPAH患者さんに用いられます。セレキシパグ(ウプトラビ)は比較的新しい経口PGI2受容体作動薬で、1日2回投与です。代謝産物が長時間作用するため、半減期が長いという利点があります。

吸入製剤としては、イロプロストに代わってトレプロスト吸入液1.74mg(一般名:トレプロスチニル)が2023年3月に薬価収載されました。これは持田製薬が販売する製剤で、イロプロストと比較して消失半減期が長く、1日4回の吸入で管理できます。イロプロストの1日6~9回と比べると大幅に投与回数が減少し、患者さんの負担軽減につながっています。

結論は投与回数削減です。

各製剤の使い分けとしては、重症度や患者さんの生活背景に応じて選択されます。WHO機能分類クラスIVの重症例では持続静注製剤が選択され、クラスII~IIIでは経口薬や吸入薬が使用される傾向にあります。複数の作用機序の薬剤を併用する「併用療法」も標準的になってきており、プロスタグランジン製剤に加えてエンドセリン受容体拮抗薬やホスホジエステラーゼ5阻害薬を組み合わせることが多いです。

イロプロストの作用機序と臨床的意義

イロプロストはプロスタサイクリン(PGI2)の化学的に安定な合成誘導体です。体内のPGI2受容体(IP受容体)に結合し、細胞内のサイクリックAMP(cAMP)濃度を上昇させることで薬理作用を発揮します。この作用機序により、血管拡張作用、抗血小板作用、血管平滑筋細胞増殖抑制作用という3つの主要な効果が得られます。

肺動脈性肺高血圧症では、肺動脈の血管収縮、血栓形成、血管リモデリング(血管壁の肥厚や線維化)が病態の中心にあります。イロプロストはこれら3つの病態全てに作用するため、理論的には理想的な治療薬といえます。特に吸入投与により肺循環に選択的に作用し、全身循環への影響を最小限に抑えられる点が重要です。

臨床試験では、プラセボと比較して6分間歩行距離が平均36.4メートル改善したという結果が報告されています。これは日常生活における活動範囲の拡大につながる臨床的に意義のある改善です。また、NYHAクラスの改善率もプラセボ群と比較して有意に高いことが示されました。

ただし全ての患者さんに同じ効果が得られるわけではありません。急性血管拡張試験で陽性反応を示す患者さんは全体の約10~15%程度とされており、大多数の患者さんでは血管拡張作用だけでなく抗増殖作用が重要になります。

これが原則です。

副作用プロファイルとしては、血管拡張に伴う低血圧、潮紅、ほてり、頭痛などが高頻度に認められます。国内臨床試験では、主な副作用として低血圧13.3%、潮紅10.0%、ほてり10.0%が報告されました。重大な副作用として、鼻出血や喀血などの出血事象、失神、気管支痙攣があり、これらの早期発見と対処が重要です。

イロプロストには他のPGI2製剤にない特徴として、高い化学的安定性があります。エポプロステノールは室温で不安定で冷蔵保存と頻繁な薬液交換が必要ですが、イロプロストは室温保存が可能で取り扱いが比較的容易でした。この特性により患者さんの日常生活における制約が少なくなるメリットがありました。

現在、イロプロストの販売中止により、吸入型PGI2製剤を必要とする患者さんにはトレプロスト吸入液への切り替えが進んでいます。トレプロスチニルも同様の作用機序を持ちながら、1日4回投与という優位性があります。

PMDAのトレプロスト審査報告書には、イロプロストとの比較データが詳しく記載されており、医療従事者が代替薬を選択する際の重要な情報源となっています。

肺動脈性肺高血圧症治療において、プロスタグランジン製剤は依然として中心的な役割を担っています。イロプロストという選択肢は失われましたが、その臨床経験は後継薬の開発や使用法の確立に活かされています。患者さん個々の病態や生活背景に応じた最適な製剤選択が、治療成功の鍵となります。