イノラスとエンシュアの違いは?成分やカロリー、味の種類を比較

イノラスとエンシュアの違い

イノラスとエンシュア 主な違いのポイント
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濃度とカロリー

イノラスは1.6kcal/mLと高濃度。エンシュアは1.0kcal/mLと1.5kcal/mLの2種類があります。

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脂質の種類

イノラスは消化吸収しやすい中鎖脂肪酸(MCT)を配合。エンシュアは長鎖脂肪酸が主体です。

味のバリエーション

エンシュア・Hは7種類と豊富。イノラスは紅茶やヨーグルトなど独自のフレーバーがあります。

イノラスとエンシュアの基本的な違い【成分・カロリー・濃度】

 

医療現場で頻繁に使用される経腸栄養剤、イノラスとエンシュア。これらは似ているようで、実は多くの違いがあります。まず最も基本的な違いは、その濃度とカロリーです 。

イノラス配合経腸用液は、1mLあたり1.6kcalという高濃度が特徴です 。そのため、1パック187.5mLで300kcalのエネルギーを補給できます 。これは、水分摂取制限が必要な患者さんや、少量で効率的にカロリーを摂取させたい場合に大きなメリットとなります。

一方、エンシュアには2つのタイプが存在します 。

  • エンシュア・リキッド®: 1mLあたり1.0kcalで、1缶250mLで250kcalです 。標準的な濃度で、比較的消化管への負担が少ないとされています。
  • エンシュア・H®: 1mLあたり1.5kcalで、1缶250mLで375kcalです 。イノラスに近い高濃度タイプで、より多くのカロリーを必要とする患者さんに適しています。

次に、タンパク質量とエネルギーバランスを示すNPC/N比を見てみましょう。NPC/N比(Non-Protein Calorie to Nitrogen Ratio)は、タンパク質以外のエネルギー(糖質・脂質)が、タンパク質(窒素源)1gあたりどれだけあるかを示す指標で、タンパク質の合成効率の目安となります。一般的に、150~200が効率的とされています 。

製品名 濃度 (kcal/mL) NPC/N比 特徴
イノラス 1.6 約120 タンパク質がリッチな配合
エンシュア・リキッド 1.0 約167 標準的なバランス
エンシュア・H 1.5 約134 タンパク質がややリッチな配合

イノラスやエンシュア・HはNPC/N比がやや低めであり、タンパク質を効率的に補給したい場合に適していると言えます 。
さらに、微量元素にも違いがあります。イノラスは、従来の経腸栄養剤では不足しがちだったヨウ素、セレン、クロム、モリブデンといった微量元素を配合している点が特徴です 。長期にわたる栄養管理において、これらの微量元素欠乏を防ぐ配慮がなされています。

参考情報:イノラスの組成に関する詳細な情報はこちらで確認できます。
栄養の基礎知識 | 輸液と栄養 – 大塚製薬工場

イノラスとエンシュアの味の種類と患者の好みの傾向

経腸栄養剤を経口摂取する場合、患者さんのQOL(生活の質)を維持するために「味」は非常に重要な要素です。アドヒアランスにも直結するため、味のバリエーションは選択における大きなポイントとなります。

エンシュアシリーズ、特にエンシュア・Hは、その豊富なフレーバー展開が大きな特徴です。2022年時点で、以下の7種類もの味が提供されており、患者さんの好みに合わせて選択肢が非常に広いです 。

  • 🍨 バニラ味
  • コーヒー
  • 🍌 バナナ味
  • 🍯 黒糖味
  • 🍈 メロン味
  • 🍓 ストロベリー味
  • 🍵 抹茶味

エンシュア・リキッドは、ストロベリー味、バニラ味、コーヒー味の3種類ですが、コーヒー味は出荷終了となっています 。

一方、イノラスはエンシュアほどの多種類展開ではありませんが、ユニークで飲みやすいと評されるフレーバーが揃っています。当初はヨーグルト、りんご、コーヒー、いちごの4種類でしたが 、最近では紅茶フレーバーも加わり、選択の幅が広がっています 。

  • ☕ コーヒーフレーバー
  • 🍵 紅茶フレーバー
  • 🍓 いちごフレーバー
  • 🍎 りんごフレーバー

患者さんの嗜好は様々ですが、一般的に「甘すぎる」と感じる方も少なくありません。イノラスは糖質として白糖を使用せずデキストリンのみを配合しているため、エンシュアと比較して甘さが控えめであるという特徴があります 。甘い味が苦手な患者さんや、毎日飲む上での飽きにくさを重視する場合には、イノラスのすっきりとした風味が高く評価されることがあります。

最終的には、サンプルを試してもらい、患者さん自身が最も継続しやすいと感じる味を選択することが、長期的な栄養管理の成功に繋がります。

イノラスに含まれる中鎖脂肪酸(MCT)とエンシュアの脂質構成の違い

イノラスとエンシュアの隠れた、しかし臨床上非常に重要な違いが脂質の構成にあります。特に、イノラスには「中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)」が配合されている点が大きな特徴です 。

MCTは、一般的な植物油や動物性脂肪に含まれる長鎖脂肪酸(LCT)と比較して、以下のような利点があります。

  • 消化・吸収が速い: MCTは、膵リパーゼによる分解や胆汁酸によるミセル化を必要とせず、門脈から直接肝臓に取り込まれて速やかにエネルギーになります。そのため、消化吸収機能が低下している患者さん(例:膵機能不全、胆汁うっ滞、短腸症候群など)にとって、効率的なエネルギー源となります。
  • ケトン体を生成しやすい: 肝臓で速やかに代謝されるため、ケトン体を生成しやすい特徴があります。

イノラスは、このMCTを脂質源の一部として利用しているため、消化管への負担を軽減しつつ、効率的なエネルギー補給が可能です 。さらに、ω-3系脂肪酸の供給源としてシソ油と魚油を配合し、ω-6系脂肪酸との比率を1:3に調整している点も特筆すべきです 。ω-3系脂肪酸は抗炎症作用などが期待されており、栄養管理においてそのバランスが注目されています。

一方で、エンシュアシリーズの脂質は主に長鎖脂肪酸で構成されています。これは健常な消化吸収機能を持つ多くの患者さんにとっては問題ありませんが、前述のような消化吸収不全がある場合には、下痢や脂肪便の原因となる可能性も考慮する必要があります。

この脂質構成の違いは、患者さんの病態や消化吸収能力に合わせて栄養剤を選択する上で、非常に重要な判断基準となります。例えば、術後で消化機能が不安定な患者さんや、慢性的な下痢に悩む患者さんには、MCTを配合したイノラスが有益な選択肢となり得ます。

参考論文:MCTの有効性に関する議論は多くの学術論文で見られます。例えば、消化吸収に関する基礎的な研究は栄養学の分野で広く行われています。

【独自視点】イノラスとエンシュアの在宅医療での使い分けと保険適用の違い

イノラスもエンシュアも、医師の処方箋に基づいて提供される「医薬品」であり、医療保険が適用されます 。在宅医療の現場でも、経口摂取が困難、または不十分な患者さんの栄養管理に広く用いられています 。しかし、両者の特性の違いから、在宅での使い分けにはいくつかのポイントがあります。

まず考慮すべきは「水分量」です。イノラスは1.6kcal/mLと高濃度な反面、含まれる水分量が100kcalあたり約62.5mLと少ないです 。例えば1日900kcalをイノラスだけで補給する場合、水分摂取量は約562mLにしかなりません 。これは、心不全や腎不全などで水分制限が厳しい患者さんにはメリットですが、一方で脱水のリスクも高まります。特に、自身で口渇を訴えられない高齢者や意識障害のある患者さんでは、追加の水分補給(白湯など)の管理が不可欠です。

エンシュア・リキッド(1.0kcal/mL)は水分量が多いため、脱水のリスクは相对的に低いですが、必要なカロリーを摂取するために投与量が多くなりがちです。在宅での介護者が管理する際、投与回数や1回あたりの量が多くなると、負担が増加する可能性も考えられます。

次に、「保管・管理のしやすさ」です。イノラスは主に紙パックで提供され、比較的小容量の規格(187.5mL/パックなど)があります 。一方エンシュアは缶での提供が主です。どちらも常温保存可能ですが、開封後の管理方法は異なります 。紙パックは飲み切りやすく、廃棄も容易なため、在宅での取り扱いやすさを重視する家族からは好まれる傾向があるかもしれません。

保険適用に関して、これらは医薬品であるため医療保険の対象ですが、介護保険では直接適用されません 。ただし、訪問看護師による栄養剤の注入指導や管理は、介護保険または医療保険のサービスに含まれる場合があります。在宅での栄養管理計画を立てる際は、ケアマネジャーや訪問看護師と密に連携し、患者さんとご家族の状況に合わせた最適な製剤と投与計画を検討することが重要です。

参考情報:在宅での経腸栄養剤の使用方法については、各製薬会社が患者・家族向けに詳しい資料を提供しています。
当社医薬品を在宅でお使いの患者さん向け情報 – 大塚製薬工場

イノラス使用時の注意点:浸透圧と副作用、エンシュアとの比較

イノラスを選択する際に、最も注意すべき点の一つが「浸透圧の高さ」です。イノラスの浸透圧は約670mOsm/Lと、他の多くの経腸栄養剤(通常300~400mOsm/L程度)と比較して約2倍高くなっています 。

浸透圧が高い液体が急に小腸へ流入すると、腸管内の浸透圧が血液の浸透圧を大きく上回り、体液が腸管内へ引き込まれます。これが刺激となって腸の蠕動運動が亢進し、下痢や腹部膨満感、腹痛といった消化器症状を引き起こす原因となります。これは「ダンピング症候群」の症状の一部と類似したメカニズムです。

そのため、イノラスを初めて導入する場合や、特に消化管が敏感な患者さんに使用する際は、以下の点に注意が必要です。

  • 少量から開始する: まずは少量から開始し、患者さんの忍容性を見ながら徐々に増量します。
  • 投与速度を遅くする: 特に経管投与の場合、投与速度は50mL/時間程度の低速から始め、問題がなければ徐々に速度を上げていきます 。急速な注入は避けるべきです。
  • 水分補給: 前述の通り、水分量が少ないため、別途水分補給を計画し、脱水を予防します。

エンシュアシリーズの浸透圧はイノラスほど高くないため、浸透圧性の下痢のリスクは相对的に低いと言えます。しかし、エンシュアでも下痢や便秘などの消化器症状は報告されており、投与量や速度、患者さんの体調に合わせた調整が必要です。

その他の注意点として、イノラス、エンシュア共に牛乳由来のタンパク質(カゼイン)を含んでいるため、牛乳タンパクアレルギーのある患者さんには禁忌です 。また、イノラスはビタミンK2(メナテトレノン)を含有しているため、ワルファリンを服用中の患者さんでは、ワルファリンの作用を減弱させる可能性があるため併用には注意が必要です 。

どのような栄養剤を選択するにしても、投与開始後は患者さんのバイタルサインや消化器症状、便の性状などを注意深く観察し、個々の状態に合わせて柔軟に投与計画を見直していくことが、安全で効果的な栄養療法の鍵となります。


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