インフォームドコンセントの使い方
インフォームドコンセントの意味と定義
インフォームドコンセントとは、「医師と患者との十分な情報を得た(伝えられた)上での合意」を意味する概念です。単なる同意書への署名ではなく、患者本人が必要な情報を説明され、理解した上で、選択・同意・拒否をすることを指します。
このプロセスには2つの重要なフェーズがあります。
- 第1フェーズ: 医療従事者側からの十分な説明
- 第2フェーズ: 患者側の理解、納得、同意、選択
「説明と同意」と日本語に翻訳されることが多いですが、その本質は患者の自己決定権を保証するための基本的行為です。医療従事者には、専門知識を持たない患者に対して、理解できる方法・言葉で現在の病状、必要な検査、治療選択肢について説明する義務があります。
興味深いことに、インフォームドコンセントには治療の「拒否」も含まれており、患者が充分な説明の元で治療方針を拒否し、医療従事者がそれを受け入れた場合も、適切なインフォームドコンセントとして認められます。
インフォームドコンセントの使い方における具体的プロセス
効果的なインフォームドコンセントを実施するためには、体系的なアプローチが必要です。日本医師会が推奨する基本的な説明内容には以下が含まれます:
- 病気の現状と病名についての詳細な説明
- 施行する治療方法の具体的内容
- 治療のリスクと危険度の正確な情報提供
- 代替治療法の有無とその利害得失
- 患者の予後に関する見通し
- 治療を行わない場合の不利益
実際の医療現場では、麻酔科での実例として、術前診察時に専門医が麻酔同意書を用いて、麻酔方法、具体的な医療行為、危険性、起こりうる合併症について体系的にチェックしながら説明を行う方法が採用されています。
説明の有効性を高めるための5つの条件も重要です:
- 話し手が事態をよく理解していること
- 相手に理解させる知識と能力があること
- 説明する時間的余裕があること
- 聞き手に理解する知的レベルがあること
- 聞き手の情緒が安定していること
インフォームドコンセントの使い方における説明技術とコミュニケーション
効果的なインフォームドコンセントの実践には、高度なコミュニケーション技術が不可欠です。医師は患者や家族の理解力、認識力、判断力、年齢を考慮し、説明を受ける際の患者の精神状態を踏まえた上で、理解度をチェックしながら説明する必要があります。
「説・問・提・合」フレームワークは、現代の医療現場で推奨される効果的な対話プロセスです:
- 説明: 治療内容の詳細な情報提供
- 問いかけ: 患者の価値観や希望の確認
- 提案: 患者に適した治療法の提示
- 合意: 話し合いを通じた最終的な合意形成
視覚的な説明ツールの活用も重要な要素です。獣医療の分野では、CT画像から作成した3Dプリンター模型を用いることで、専門家以外にも「やさしい」検査画像の活用を実現し、飼い主の理解を深める取り組みが報告されています。
また、説明後に患者が内容を振り返るために、必要最小限の情報が記載されたパンフレットの配布も推奨されています。これにより、患者は時間をかけて内容を検討し、家族と相談することが可能になります。
インフォームドコンセントの使い方における治験・研究分野での特殊な配慮
治験や研究分野においてのインフォームドコンセントには、通常の診療とは異なる特別な配慮が必要です。治験では、医師から患者に「くすりの候補」の使用を提案する際、患者の自由な意思に基づく文書での同意が必要不可欠となります。
治験におけるインフォームドコンセントの手続きは以下のように進められます。
- 治験の目的、方法、代替治療法の説明
- 「くすりの候補」の特徴(予測される効果と副作用)の詳細説明
- 説明文書の提供と持ち帰りでの検討機会の確保
- 家族との相談時間の十分な確保
研究分野では、特に侵襲的な検査や実験的手法を用いる場合、「十分なインフォームドコンセントの下」で実施することが学術的にも求められています。例えば、加湿器肺の診断における吸入誘発試験では、事前の十分なインフォームドコンセントを得た後に、厳密なプロトコルに従って検査が実施されています。
このような研究・治験分野でのインフォームドコンセントは、患者保護の観点から特に厳格な運用が求められており、説明内容の記録化や第三者による監査体制も整備されています。
インフォームドコンセントの使い方における医療従事者の心構えと患者との信頼関係構築
現代医療において、インフォームドコンセントは単なる法的手続きを超えた、医療従事者と患者の信頼関係構築の基盤となっています。医療現場では、時として期待した治療結果が得られない場合があり、そのような状況こそインフォームドコンセントの真価が問われます。
医療従事者の基本的心構えとして重要なのは、真実を誠実に伝えることです。治療結果が思わしくない場合でも、事実を隠さずに患者や家族と一緒に乗り切る姿勢が求められます。患者が「あの時、医師と一生懸命考えて決めたことだから」と思えるような納得できる選択を支援することが、真のインフォームドコンセントの目標です。
セラピストにおける特別な配慮も注目すべき点です。理学療法の分野では、インフォームドコンセントに基づいた治療を展開するために、「なぜ、何を目標に、どの位の期間治療するのか、その時の効果はどの位予測できるのか」を常に論理的に説明できる準備が必要とされています。
コミュニケーションの質的向上については、以下の要素が重要です。
- 患者の気持ちを引き出すための傾聴技術
- 膝を交えた話し合いの時間確保
- 患者の価値観を尊重した対話
- 専門用語を避けたわかりやすい説明
肺癌診療ガイドラインの使用実態調査では、回答者の80%以上がガイドラインをインフォームドコンセントの場面で活用しており、「患者さんに説明しやすくなった」との効果が報告されています。これは、標準化された情報ツールがインフォームドコンセントの質向上に寄与することを示しています。
最終的に、インフォームドコンセントは医師と患者が共同で疾病に対処するための信頼関係を前提とした協働プロセスであることを、すべての医療従事者が再認識する必要があります。