遺伝子治療によるがん治療の費用と保険適用
がん遺伝子治療CAR-T細胞療法の高額な費用構造
CAR-T細胞療法は現在最も注目される遺伝子治療法の一つですが、その費用は極めて高額です。日本では2019年の承認時にキムリア(tisagenlecleucel)が1回約3,349万円の薬価で設定されており、米国では37万3,000ドルから60万ドルの範囲で価格設定されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9840137/
治療には薬剤費以外にも様々な付帯費用が発生します。アフェレーシス(細胞採取)の平均費用は2泊3日で約44万円、その後の培養・製造・輸送費用も含めると総治療費は100万ドルを超える場合があります。CAR-T細胞の製造は患者個別のオーダーメイド治療のため、一般的な医薬品と異なり大量生産によるコスト削減が困難な構造となっています。
参考)6-2. 実際にかかる平均的な費用と概要|一般社団法人日本造…
治療対象患者数が年間200~300人程度と限定的である点が、高額な価格設定の理由の一つとされています。開発投資を回収し、さらなる研究開発資金を確保するため、少数の患者に対する価格設定が必然的に高額になる構造です。
参考)国内初の遺伝子改変がん免疫療法「CAR-T細胞療法」が承認
がん遺伝子治療における保険適用制度の現状
日本では公的医療保険制度により、CAR-T細胞療法も保険診療として受けることが可能です。患者の自己負担は高額療養費制度により所得に応じて月額上限が設定されており、実際の自己負担額は大幅に抑制されます。
参考)血液がんの最新治療法 CART細胞療法 |二宮医院|岐阜県各…
がんゲノム医療における遺伝子パネル検査も2019年より保険適用となっており、検査費用は保険点数56,000点(3割負担で168,000円)です。ただし、保険適用の対象は「標準治療がない固形がん」または「標準治療が終了となった固形がん」の患者に限定されています。
参考)縺後s繧イ繝弱Β蛹サ逋ゑス懷ⅲ蠎ォ逵檎ォ九°繧吶s繧サ繝ウ繧…
自由診療として提供される遺伝子治療の場合、がん抑制遺伝子治療では1回約69万円、がん遺伝子診断で約75万円など、全額患者負担となる高額な費用設定となっています。各医療機関により価格設定が異なり、治療コース全体では数百万円から数千万円の費用が発生します。
遺伝子治療がん治療の副作用とリスク管理
遺伝子治療には特有の副作用リスクが存在します。CAR-T細胞療法では、サイトカイン放出症候群(CRS)が代表的な副作用で、Grade3以上の重篤なCRSが5.6%の患者で発生することが報告されています。また、神経毒性も11.1%の患者で観察され、治療前の慎重な適応判定が重要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9733886/
従来の遺伝子治療では、2000年頃に造血幹細胞遺伝子治療で白血病の発症が相次いで報告され、使用したレトロウイルスベクターの挿入変異が原因と判明した歴史があります。この経験から現在の遺伝子治療では、より安全性の高いベクターシステムの開発が進められています。
参考)【きほんの質問】遺伝子治療による症状悪化リスク・副作用は? …
点滴による遺伝子治療では、皮下血腫・神経損傷などの合併症や、初回投与後の微熱(約1%)が報告されています。AAVベクターを用いた治療では、大量投与時にAAVに対する免疫反応による肝障害のリスクも指摘されており、投与量の適切な管理が求められます。
参考)がん遺伝子治療
膀胱がんにおける遺伝子治療の新規アプローチ
膀胱がん領域では、2025年に日本初の遺伝子治療薬ナドファラゲン フィラデノベクの承認申請が行われました。この治療法は、インターフェロンアルファ2b遺伝子を含む非複製型アデノウイルスベクターを3か月ごとに膀胱内に投与する画期的な治療です。
参考)遺伝子治療薬ナドファラゲン フィラデノベク、筋層非浸潤性膀胱…
従来のBCG(カルメット・ゲラン桿菌)治療が無効な高リスク筋層非浸潤性膀胱がんに対して、約40年ぶりの新しい治療選択肢となります。膀胱壁の細胞をインターフェロンの「マイクロファクトリー」に変化させ、局所的に高濃度のインターフェロンを発現させることで抗がん効果を発揮します。
参考)高リスク筋層非浸潤性膀胱がんに40年ぶり新薬登場へ…フェリン…
尿路上皮がんでは、FGFR遺伝子異常を標的とした分子標的治療薬バルバーサ(erdafitinib)も承認されており、遺伝子異常に基づいた個別化治療の新たな選択肢として期待されています。これらの治療法は、従来の化学療法で効果が不十分な患者に対する新しい治療戦略を提供しています。
参考)尿路上皮がんに対する、日本国内で初めてかつ唯一の遺伝子異常に…
次世代がん遺伝子治療技術の開発とコスト削減への取り組み
コスト削減への取り組みとして、インドでは国産CAR-T療法「ネックスカー19」が3万~5万ドルで提供されており、米国製品の約10分の1の費用を実現しています。製造コストが大幅に安価な国での生産により、治療へのアクセス改善が期待されています。
参考)MIT Tech Review: 難治性がん治療で期待も、超…
次世代のオンコリティックウイルス療法では、細胞融合能力を持つFUVAC(Fusogenic Oncolytic Vaccinia Virus)が開発され、従来のウイルス療法より強力な抗がん効果を示しています。この技術は投与した局所だけでなく、遠隔転移巣に対しても治療効果を発揮する特徴があります。
参考)ウイルスでがん退治—強力な抗がん効果を発揮する次世代がん治療…
免疫細胞療法においても技術革新が進んでおり、従来の化学療法に効果がない難治性血液がんに対して、70歳代の高齢者にも適用可能な比較的副作用の少ない治療法として期待されています。これらの技術進歩により、将来的にはより多くの患者がアクセス可能な治療費での提供が実現する可能性があります。
参考)【プレスリリース】難治性血液がんに対する遺伝子改変免疫細胞療…
がん遺伝子治療の費用・リスク詳細について(Dクリニック東京)
がん遺伝子治療の具体的な費用構造と治療プロセスの詳細情報
がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査(国立がん研究センター)
保険適用でのがん遺伝子パネル検査の受け方と適応条件の公式ガイド