飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の基礎知識
飽和脂肪酸の化学構造と特徴
飽和脂肪酸は化学的に構造中に二重結合を持たない脂肪酸で、炭素が4本の手で最大4つの原子と結合している。この構造的特徴により、飽和脂肪酸は室温で固体として存在し、融点が高いという物理的性質を示します。代表的な飽和脂肪酸には、炭素数18のステアリン酸(C18:0)があり、動物性脂肪や一部の植物油に多く含まれています。
トランス脂肪酸の分子構造と生成過程
トランス脂肪酸は構造中にトランス型の二重結合を持つ不飽和脂肪酸で、水素原子が炭素間の二重結合をはさんで反対側に配置されています。天然の不飽和脂肪酸の多くはシス(cis)型であるのに対し、トランス脂肪酸は人工的な油脂加工過程や反芻動物の胃内で生成されます。この構造的違いにより、トランス脂肪酸は飽和脂肪酸と類似した立体構造を持ち、融点がシス型不飽和脂肪酸より高くなります。
飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の健康影響メカニズム
飽和脂肪酸の摂取は血液中のLDLコレステロールを増加させ、心血管疾患のリスクを高めます。しかし、日本人を対象とした大規模研究では、飽和脂肪酸摂取量が多いほど脳出血や脳梗塞のリスクが低下することも報告されています。一方、トランス脂肪酸はLDLコレステロールを飽和脂肪酸と同様に増やすだけでなく、HDLコレステロールを減らすため、飽和脂肪酸よりも血液の脂質プロファイルを動脈硬化の原因となる方向に変化させます。
飽和脂肪酸を多く含む食品と摂取現状
飽和脂肪酸は肉類(特に脂身の多い部分)、乳製品(バター、チーズ、クリーム)、ココナッツオイル、パーム油などに多く含まれています。令和元年(2019年)国民健康・栄養調査の結果から、20歳以上の日本人の飽和脂肪酸の平均摂取量は総摂取エネルギーの8.4%相当で、目標量の7%を上回っています。これは多くの日本人が飽和脂肪酸を過剰摂取している現状を示しており、意識的な摂取制限が必要です。
参考)飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の違いとは?健康的な食生活のための…
トランス脂肪酸含有食品の実態と規制動向
トランス脂肪酸を多く含む食品として、農林水産省の調査では1位がポップコーンの素(4.8g/100g)、2位が乳等を主要原料とする食品(1.7g/100g)、3位がショートニング(1.0g/100g)となっています。現在、日本人のトランス脂肪酸摂取量は平均0.7gで、WHOが勧告する総エネルギー摂取量の1%未満を維持しています。しかし、製造者の自主的な取り組みにより、食品中のトランス脂肪酸含有量は減少傾向にあり、現在は「トランス脂肪酸ゼロ」(100gあたり0.3g未満)の商品が大半を占めています。