ホスホマイシン何系
ホスホマイシン何系の分類と作用機序(MurA)
ホスホマイシン(略号FOM)は、そのまま「ホスホマイシン系抗生物質」に分類され、β-ラクタム系やキノロン系などとは異なる独立したカテゴリーとして理解するのが実務的です。根拠は、作用標的が細菌の細胞壁合成酵素MurAであり、ホスホマイシンがMurAを不可逆的に失活させることで、ペプチドグリカン生合成の初期反応を阻害する点にあります(添付文書の作用機序記載)。
添付文書では「UDP-GlcNAcエノールピルビン酸エーテル生成を触媒する酵素(MurA)を不可逆的に失活」と説明されており、一般的な「細胞壁合成阻害薬」という括りの中でも“かなり上流”を止める薬として押さえると理解が速いです。
この「上流阻害」は、臨床現場でしばしば話題になる“交叉耐性が少ない(別系統なので効くことがある)”という説明にもつながります。日本化学療法学会雑誌の総説でも、ホスホマイシンは化学構造と作用標的が他薬剤カテゴリーと異なり、キノロン系薬やβ-ラクタム系薬などと交叉耐性を示さないことが期待される、と整理されています。
また、ホスホマイシンはin vitroでグラム陽性菌・グラム陰性菌に殺菌的に作用する旨が添付文書に明記されており、静菌か殺菌かを問われた際の説明の軸になります。
参考)輸送体蛋白質GlpTとUhpTの変異は黄色ぶどう球菌において…
一方で「何系?」という質問の裏には、「結局どこに効き、どう使い分けるのか?」が含まれることが多いので、作用点(MurA)と取り込み(次節)をセットで説明すると、現場の納得感が上がります。
参考)https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20231222so1amp;fileId=210
ホスホマイシン何系と抗菌スペクトル(適応菌種・適応症)
ホスホマイシンの「効く菌」を語るときは、まず国内添付文書にある適応菌種・適応症を起点にするのが安全です。
ホスホマイシンカルシウム水和物錠(例:ホスミシン錠)の添付文書では、適応菌種としてブドウ球菌属、大腸菌、赤痢菌、サルモネラ属、セラチア属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア・レットゲリ、緑膿菌、カンピロバクター属が挙げられています。
適応症としては、深在性皮膚感染症、膀胱炎、腎盂腎炎、感染性腸炎、涙嚢炎、麦粒腫、瞼板腺炎、中耳炎、副鼻腔炎が記載されています。
実際の処方設計では、ホスホマイシンを「尿路に強い古典薬」と雑にまとめてしまいがちですが、添付文書上は眼科・耳鼻科領域の感染症も含まれ、国内一般臨床試験での有効率データも掲載されています。
例えば、尿路感染症の臨床成績として、急性単純性膀胱炎で100%(18/18例)の有効率が示された、という記載があります(症例数は少ないため過大解釈は禁物ですが、説明材料にはなります)。
また重要な基本的注意として「原則として感受性を確認し、最小限の期間にとどめる」旨が明記されており、適正使用の観点からも“便利だからと漫然投与しない”が前提です。
ホスホマイシン何系と耐性機序(FosA・GlpT・UhpT・MurA)
ホスホマイシン耐性は、ざっくり言うと「薬を壊す」「薬が入らない」「標的が変わる」の3系統に整理できます。日本化学療法学会雑誌の総説では、外来性耐性遺伝子(fosA/fosB/fosX/fomA/fomBなど)獲得による不活化、染色体変異(MurA活性中心近傍の変異)、そして取り込み輸送体GlpT/UhpTやその制御系の変異による取り込み低下が、代表的機序として述べられています。
特に現場で説明価値が高いのは「取り込み輸送体」です。ホスホマイシンは細胞内標的(MurA)に届く必要があるため、GlpT(グリセロール3リン酸取り込み)とUhpT(グルコース6リン酸取り込み)を介して菌体内に入る、という前提があり、この“入口”が壊れると効きにくくなります。
同総説には、crpやuhpA/uhpB/uhpC、さらにcyaAやptsIなどの変異がGlpT/UhpTの発現低下を介して耐性化に関与し得ることも記載されており、単純に「glpT変異だけ」ではない点が重要です。
あまり知られていない(ただし臨床的に“気持ち悪さ”を残す)話として、遺伝子獲得や点突然変異だけではなく、環境由来の小分子が転写制御を介して一過性に感受性を下げうる可能性が指摘されています。
総説では、インドールやトリメチルアミンNオキシド(TMAO)が転写制御因子(CpxRやTorR)を介してGlpT/UhpT発現を抑え、感受性低下に関与し得る、という“可逆的でPCRでは拾えないタイプ”の耐性化が紹介されています。
この論点は、感受性検査(in vitro)と臨床反応のズレを議論するときの材料になり得ますが、現時点では「すぐに深刻な問題になる可能性は低い」とも同総説内で慎重に述べられており、現場への落とし込みは過剰にならないよう注意が必要です。
ホスホマイシン何系と嫌気・バイオフィルムの意外な特性(独自視点)
ホスホマイシンは「嫌気(低酸素)環境で抗菌活性がむしろ強まる」という、直感に反する性質が知られています。日本化学療法学会雑誌の総説では、嫌気環境下ではGlpT/UhpT発現が亢進し、取り込み量が増えることで感受性が高まる機構(FNR活性化やCRP-cAMPの関与)が説明されています。
この点は、バイオフィルム深部が嫌気的になりやすい、という感染巣の微小環境と結びつけて理解すると臨床的な示唆が出ます。
同総説では、尿路感染でのバイオフィルム形成や、バイオフィルム環境における他剤との併用で殺菌が強まる可能性に触れ、FOMの“取り込み依存”という性質が環境で増幅されることが示されています。
ここでの独自視点としては、「ホスホマイシンは薬理学的に“入口の発現を上げれば強くなる”タイプの抗菌薬であり、逆に“入口が下がると急に弱くなる”タイプでもある」という捉え方です。
つまり、同じMICでも、感染巣の酸素状態・代謝物・制御系の状態で取り込みが揺れると、見かけの効果が変動し得るため、治療がうまくいかないときに“耐性遺伝子がない=安心”と早合点しない、という思考習慣が役立ちます。
さらに、総説には「CLSI/EUCASTの試験ではグルコース6リン酸添加が推奨される(UhpT誘導のため)」という趣旨の記述もあり、試験系自体が取り込みを意識して設計されている点は、薬剤感受性検査の解釈を上司に説明する際の説得材料になります。
(参考リンク:添付文書。適応菌種、適応症、用法用量、副作用、作用機序(MurA)など一次情報)
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00000233.pdf
(参考リンク:日本化学療法学会雑誌の総説。GlpT/UhpT、MurA、耐性遺伝子fosAなど、嫌気環境で活性増強・一過性耐性(インドール/TMAO)まで俯瞰)
https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/07206/072060561.pdf