ホモジニアスとヘテロジニアスの免疫測定法
免疫測定法は、抗原抗体反応を利用して生体内の様々な物質を高感度で測定する手法として、臨床検査において広く活用されています 。この測定法は、反応後の処理方法によって大きく二つの系統に分類されます 。
参考)(1)ヘテロジニアス反応とホモジニアス反応 (検査と技術 2…
ホモジニアス免疫測定法(Homogeneous Immunoassay)は、測定が終始溶液状態で行われる均一系の測定系を指します 。この方法では、抗原抗体反応の結果生じる結合型(Bound, B)と遊離型(Free, F)の分離操作、いわゆるB/F分離を行わずに測定が可能です 。一方、ヘテロジニアス免疫測定法(Heterogeneous Immunoassay)は、固相化された抗体などを用いて反応と洗浄が行われる非均一系の測定系です 。
参考)https://www.biodynamics.co.jp/wp/wp-content/uploads/2024/10/PressRelease241021.pdf
ホモジニアス法の測定原理と特徴
ホモジニアス免疫測定法の代表例として、均一エンザイムイムノアッセイ(HEIA)があります 。この方法では、検体中の抗原物質が試薬中の酵素(G-6-PDH)で標識された測定対象物質と競合反応を起こします 。抗体と結合できなかった酵素標識物質は酵素活性により補酵素NADを還元してNADHに変換しますが、抗体と結合すると酵素活性を失うため、検体中の測定対象物質の量に比例してNADHの量が増加します 。
参考)http://www.kyobiken.or.jp/system/site_data/site_0/page_677/version_5/file/0020.pdf
ホモジニアス法の最大の利点は、洗浄操作が不要であることです 。これにより手技が単純化され、自動化においても機械を簡単に製作できるという特長があります 。また、迅速性に優れており、ポイントオブケア診断やハイスループット検査に適しています 。
参考)イムノアッセイについて
しかし、ホモジニアス法には課題もあります。多くの場合、検出感度がヘテロジニアス法に比べて劣り、試料が最後まで存在するため試料の影響を大きく受けるという欠点があります 。特に感度の面では、ヘテロジニアス法に及ばないことが知られています 。
参考)https://patents.google.com/patent/JPH10206427A/ja
ヘテロジニアス法の測定原理と利点
ヘテロジニアス免疫測定法は、抗原抗体反応後にB/F分離を物理的に行う測定法です 。代表的な例として、ELISA(酵素結合免疫測定法)があります 。この方法では、固相化された抗体に抗原を結合させることにより抗原のみを分離する過程を経て分析が行われます 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku/56/7/56_7_521/_pdf
B/F分離には様々な方法が開発されており、磁性粒子を用いた方法も広く使用されています 。磁性粒子は抗原抗体反応時には均一な懸濁液となりますが、反応後は磁石を利用して瞬時に液相と分離できるため、分離の迅速化が図られています 。
ヘテロジニアス法の主な利点は、高い感度と試料の影響を受けにくいことです 。洗浄により未反応物質を除去するため、正確な測定結果を得ることができ、現在の臨床検査において標準的な方法として広く採用されています 。
ホモジニアス法とヘテロジニアス法の臨床応用
医療現場では、測定対象や目的に応じて両方の方法が使い分けられています。ホモジニアス法は、緊急検査や大量検体を扱う検査室で特に有用です 。その簡便性と迅速性から、ベッドサイド検査や救急医療での活用が期待されています 。
参考)抗体と混ぜるだけで洗浄不要の免疫測定法を実現する新たな測定素…
一方、ヘテロジニアス法は、高い精度と感度が要求される検査に適用されています 。感染症診断、ホルモン検査、腫瘍マーカー測定など、微量な物質の検出が必要な場面では、ヘテロジニアス法が選択されることが多いです 。
最近では、両方の利点を併せ持つ新しい測定技術の開発も進んでいます 。LOCI法(Luminescent Oxygen Channeling Immunoassay)のようなホモジニアス化学発光技術は、洗浄操作を必要とせずに高感度測定を実現する次世代技術として注目されています 。
ホモジニアス測定法の技術革新と発展
近年、ホモジニアス免疫測定法の技術的課題を克服する新しいアプローチが開発されています 。従来のホモジニアス法では、標的分子をホモジニアスに検出できる新たな測定素子の開発に毎回緻密な分子設計が求められていましたが、革新的な測定素子の開発により、この課題が解決されつつあります 。
特に注目されているのは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用した測定法や、量子ドットを用いた新しい標識技術です 。これらの技術により、従来のホモジニアス法の感度の問題が改善され、より高精度な測定が可能になっています。
参考)https://xlink.rsc.org/?DOI=c2an35328h
また、マイクロチップ技術との組み合わせにより、微量検体での測定や多項目同時測定も実現されています 。これにより、従来は困難とされていた複雑な検査パネルも、ホモジニアス法で対応できるようになってきています。
ヘテロジニアス測定法の最新技術動向
ヘテロジニアス免疫測定法においても、技術革新が続いています。特に、自動化技術の発達により、従来は手作業で行われていた洗浄操作が高度に自動化され、検査効率の大幅な向上が実現されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10122765/
最新の自動分析装置では、96孔や384孔のマイクロプレートを用いた高並列処理が可能となり、一度に数百から数千の検体を処理できるようになっています 。これにより、大規模疫学調査や薬物動態試験などの分野で威力を発揮しています。
さらに、新しい標識技術として、化学発光や電気化学発光を用いた方法も開発されており、従来の酵素標識法を上回る感度と特異性を実現しています 。これらの技術は、がんの早期診断マーカーや感染症の超早期検出などの臨床応用で期待されています。