補助人工心臓費用と保険適用について

補助人工心臓費用について

補助人工心臓治療の費用概要
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初期費用

製品価格1600万〜1800万円、手術費用含め総額約2000万円

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維持管理費

1日約5万円の維持費、外来管理費も必要

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保険制度

体外式・植込型ともに保険適用、高額療養費制度活用可能

補助人工心臓の初期費用と治療費

補助人工心臓治療の初期費用は、製品価格として1600万円から1800万円の範囲に設定されており、手術費用を含めた総額では約2000万円という高額な治療費が必要となります 。植込型補助人工心臓HeartMate3の参考価格は税別で18,300,000円であり、これが現在の代表的な価格帯となっています 。

参考)(2ページ目)人工心臓は莫大な費用がかかる 再生医療の進化に…

体外式補助人工心臓セットの場合、成人用で約327万円の製品価格が設定されており、植込型と比較すると初期費用は大幅に抑えられています 。ただし、体外式は入院治療が継続的に必要となるため、長期的な治療費は膨大になる可能性があります 。

参考)https://med.nipro.co.jp/med_eq_category_detail?id=a1U1000000b543NEAQ

米国での治療費データを参考にすると、2002年時点でのDestination Therapy(DT)の手術入院費用は平均44日の入院で3400万円、1年間の再入院・再手術を含めた医療費総額が平均一人当たり850万円を要していました 。技術進歩により、現在では入院期間の短縮と再入院の減少により費用の大幅な削減が実現されています。

参考)我が国における植込型補助人工心臓適応適正化の考え方:Dest…

補助人工心臓の保険適用と償還制度

補助人工心臓治療は、体外式・植込型ともに現在では保険適用となっています 。植込型補助人工心臓は2011年4月より心臓移植への橋渡し(BTT)目的で保険適用が開始され、さらに2021年5月からは永久植込み使用(DT)目的でも保険適用が拡大されました 。

参考)人工心臓の費用と検査

診療報酬点数では、植込型補助人工心臓(非拍動流型)について以下の算定基準が設定されています 。

参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_10_1_8_1%2Fk604-2.html

  • 初日:58,500点(1日につき)
  • 2日目以降30日目まで:5,000点(1日につき)
  • 31日目以降90日目まで:2,780点(1日につき)
  • 91日目以降:1,800点(1日につき)

保険償還価格は植込型で約1900万円と設定されており、これは治療費の大部分をカバーしています 。外来での定期管理には「在宅植込型補助人工心臓(非拍動流型)指導管理料」が別途算定されます 。

参考)植込型補助人工心臓とは?-――その現状と将来展望 (医学のあ…

補助人工心臓治療の維持費用と管理コスト

補助人工心臓治療では、初期費用に加えて継続的な維持管理費用が必要となります。維持費は1日約5万円程度が必要とされており、年間では約1800万円の管理費が発生する計算になります 。
植込型補助人工心臓における感染症管理も重要なコスト要因となっています。ドライブライン(DL)感染は再入院の原因の13%を占め、平均入院期間5日で費用が11,506ドル(約120万円)という報告があり、VAD治療の費用対効果と患者QOLに大きな影響を与えています 。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsao/47/3/47_227/_pdf/-char/ja

費用対効果の観点から、J-MACS登録症例における1年間の補助人工心臓装着患者63例の分析では、費用対効果は2297万円/QALYと算出されており、米国のDT治療での2000万円/QALYと同等の結果を示しています 。大阪大学の経験では、3年以上植込型LVADで生存した症例の費用対効果は1086万円/QALYまで改善することが報告されています 。

補助人工心臓費用に対する高額療養費制度の活用

補助人工心臓治療の高額な費用に対しては、高額療養費制度の活用が重要な負担軽減策となります 。この制度により、月額の医療費自己負担額が所得に応じた上限額を超えた場合、超過分が払い戻される仕組みとなっています 。

参考)高額療養費制度

69歳以下の患者の場合、所得区分に応じて以下の自己負担限度額が設定されています 。

参考)https://www.e-humira.jp/cms/e-humira/medical/pdf/HUR_180807.pdf

  • 年収約1,160万円以上:252,600円+(総医療費-842,000円)×1%
  • 年収約770万円〜約1,160万円:167,400円+(総医療費-558,000円)×1%
  • 年収約370万円〜約770万円:80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
  • 年収約370万円未満:57,600円
  • 低所得者(住民税非課税):35,400円

入院治療では「限度額適用認定証」を事前に取得し医療機関に提示することで、窓口支払額が自己負担限度額までに制限されます 。人工呼吸器または体外式補助人工心臓を装着している場合、指定難病や小児慢性特定疾患が原因であれば、自己負担限度額がさらに軽減される制度もあります 。

参考)手術費用について

補助人工心臓の体外式と植込型の費用比較分析

体外式と植込型補助人工心臓では、初期費用と長期的な治療コストに大きな違いがあります。体外式補助人工心臓は製品価格が約327万円と植込型の約1900万円と比較して大幅に安価ですが、継続的な入院管理が必要となるため、長期使用では総医療費が膨大になります 。
植込型補助人工心臓の場合、高額な初期費用にもかかわらず、在宅管理が可能となることで入院費用の大幅な削減が実現されます。米国のデータでは、HeartMate XVEからHeartMate IIへの機器進歩により、平均入院期間が44日から27日に短縮され、入院費用が3400万円から1700万円へと半減しています 。
体外式補助人工心臓は年単位での入院継続を余儀なくされ、患者のQOLも制限されますが、植込型では自宅退院と社会復帰が可能となり、出血・感染・塞栓症などの合併症も少ないという利点があります 。この違いにより、長期的な治療コストと患者の生活の質の両面で植込型が優位性を示しています。
ただし、植込型補助人工心臓は現状ではBTT/DTの基準を満たす限られた症例に対してのみ保険診療での植込みが許可されており、適応拡大が今後の課題となっています 。