未分画ヘパリンの一般名とは何かご存知ですか

未分画ヘパリンの一般名について

未分画ヘパリンの基礎知識
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一般名の基本

ヘパリンナトリウムまたはヘパリンカルシウムとして知られる

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化学的特性

分子量5,000-40,000の多硫酸化グリコサミノグリカン

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臨床的重要性

世界で最も広く使用される抗凝固薬の一つ

未分画ヘパリンの一般名の正式表記

未分画ヘパリンの一般名は、日本薬局方においてヘパリンナトリウム(Heparin Sodium)として正式に記載されています。また、製剤によってはヘパリンカルシウムの形態も存在し、これらは塩の種類による違いとなります。

英語圏ではUnfractionated Heparin(UFH)という表記が広く使用されており、医学論文や国際的なガイドラインではこの略語が頻繁に見られます。これは低分子量ヘパリン(LMWH)との区別を明確にするために用いられる表現です。

国際非専売名(INN)としては、ナトリウム塩の場合は「Heparin Sodium」、カルシウム塩の場合は「Heparin Calcium」として登録されており、世界共通の一般名として認識されています。

未分画ヘパリンの分子構造と薬理学的特徴

未分画ヘパリンは、グルコサミンウロン酸の二糖単位が繰り返し結合した直鎖状の多糖構造を持ちます。その分子量は5,000~40,000ダルトンという広い範囲に分布しており、これが「未分画」と呼ばれる理由の一つです。

分子構造の特徴。

  • 多硫酸化されたグリコサミノグリカン
  • β-D-グルクロン酸またはα-L-イズロン酸を含有
  • N-アセチル-D-グルコサミンとの二糖繰り返し構造
  • 平均2.5個の硫酸基を一つの二糖単位に保有

この複雑な構造により、未分画ヘパリンはアンチトロンビンIII(ATIII)に結合してその立体構造を変化させ、トロンビンや活性化第X因子(Xa因子)に対する阻害活性を著しく増強させます。

未分画ヘパリンの臨床適応と使用方法

未分画ヘパリンの主要な臨床適応は多岐にわたり、以下のような状況で使用されます:

急性期治療

予防的使用

  • 手術中・術後の血栓塞栓症予防
  • 長期臥床患者の血栓予防
  • カテーテル関連血栓の予防

医療機器関連

  • 血液透析時の抗凝固
  • 人工心肺装置使用時の血液凝固防止
  • 血管カテーテル挿入時の抗凝固維持

投与方法は持続静脈内注射が基本で、1日10,000~35,000単位を使用し、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)を対照の1.5~2.0倍に維持することが推奨されています。

未分画ヘパリンと低分子量ヘパリンの作用機序の違い

未分画ヘパリンと低分子量ヘパリンの最も重要な違いは、その抗凝固作用のスペクトラムにあります。

未分画ヘパリンの作用特性

  • トロンビンとXa因子の両方を阻害
  • アンチトロンビンとトロンビンの両方に結合が必要
  • 17個以上の糖鎖を持つ分子のみがトロンビン阻害可能
  • 抗Xa/抗トロンビン比は約1:1

低分子量ヘパリンとの比較

  • 低分子量ヘパリンは主に抗Xa活性を発揮
  • 糖鎖が短いためトロンビンとの結合が困難
  • 抗Xa/抗トロンビン比は約3-4:1
  • より予測可能な薬物動態を示す

この作用機序の違いにより、未分画ヘパリンはより包括的な抗凝固作用を示しますが、同時に出血リスクも高くなる傾向があります。一方、低分子量ヘパリンは選択的なXa因子阻害により、より安全性の高いプロファイルを示します。

未分画ヘパリンの副作用と禁忌事項の管理

未分画ヘパリンの使用において、医療従事者が特に注意すべき副作用としてヘパリン起因性血小板減少症(HIT)があります。HITは未分画ヘパリンの使用により血小板数が著しく減少し、逆説的に血栓症を引き起こす重篤な合併症です。

主要な副作用

  • 出血(最も頻度の高い副作用)
  • HIT(未分画ヘパリンで低分子量ヘパリンの10倍発症率が高い)
  • アナフィラキシー様反応
  • 長期使用による骨粗鬆症
  • 肝機能障害

絶対禁忌

  • 活動性の出血
  • 重篤な血小板減少症
  • HIT の既往がある患者
  • 重篤な肝障害または腎障害

相対禁忌と注意事項

  • 最近の外科手術
  • 消化管潰瘍の既往
  • 血圧(収縮期血圧180mmHg以上)
  • 妊娠中の使用(胎盤通過性は低いが慎重投与)

拮抗薬としてプロタミン硫酸が使用可能で、緊急時の出血に対する迅速な対応が可能です。ただし、プロタミン自体にもアナフィラキシーのリスクがあるため、使用時には十分な注意が必要です。

未分画ヘパリンの品質管理と将来展望

従来、未分画ヘパリンは主にブタの小腸粘膜から抽出されており、2008年に中国製ヘパリンの汚染事故が発生して以来、品質管理と供給源の多様化が重要な課題となっています。

現在の品質管理アプローチ

  • 厳格な原料スクリーニング
  • 高度な分析技術による構造解析
  • 国際的な品質基準の統一
  • トレーサビリティシステムの確立

バイオエンジニアリングによる新しいアプローチ

研究レベルでは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用いたバイオエンジニアード・ヘパリンの開発が進められています。この技術により、動物由来の感染症リスクを排除し、より安定した供給が可能になると期待されています。

低抗凝固活性ヘパリンの開発

最近の研究では、抗凝固活性を低下させた低抗凝固活性牛由来ヘパリン(LABH)の開発も報告されており、癌治療や炎症性疾患への応用が検討されています。これは従来の抗凝固作用以外のヘパリンの薬理効果を活用する新しいアプローチです。

未分画ヘパリンは今後も医療現場において重要な薬剤であり続けると考えられますが、品質管理の向上と新しい製造技術の導入により、より安全で効果的な治療選択肢として発展していくことが期待されています。

日本血栓止血学会による詳細なヘパリン類の解説
医薬品データベースでの低分子量ヘパリンの詳細情報