皮膚粘膜眼症候群と急性結膜炎の関連
皮膚粘膜眼症候群における急性結膜炎の臨床的特徴
皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)は発熱と眼粘膜、口唇、外陰部などの皮膚粘膜移行部における重症の粘膜疹を伴い、皮膚の紅斑と表皮の壊死性障害に基づく水疱・びらんを特徴とする疾患です 。この症候群において急性結膜炎は極めて重要な合併症の一つとなります 。
参考)http://eye.sjs-ten.jp/doctor/sjs-ten_about
急性期には50~70%の患者に眼症状がみられ、急性結膜炎は皮膚病変とほぼ同時に、あるいは皮膚病変より半日~2日程度先行して生じるため診断が困難な場合も多くなります 。眼病変の合併が疑われる場合(充血、眼痛)では、早急な眼科受診を行って「眼表面上皮のびらん(上皮欠損)」あるいは「偽膜」の有無をチェックする必要があります 。
参考)http://eye.sjs-ten.jp/doctor/diagnosis
急性期の眼所見では、結膜充血、偽膜形成、眼表面の上皮欠損の有無が重症度の評価項目となります 。軽い充血に見えても広範囲の上皮欠損を伴うことがあり、肉眼での判断は危険とされています 。痛くて眼を開けられないという症状は要注意のサインです 。
参考)https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=15055
皮膚粘膜眼症候群の診断基準と急性結膜炎の位置づけ
皮膚粘膜眼症候群の診断において、急性結膜炎は副所見として重要な位置を占めています 。診断基準では、皮膚粘膜移行部の粘膜病変を伴い、眼病変では偽膜形成と眼表面上皮欠損のどちらかあるいは両方を伴う両眼性の急性角結膜炎がみられることが明記されています 。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/4074
・主要所見として皮膚粘膜移行部(眼、口唇、外陰部など)の広範囲で重篤な粘膜病変が必須
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000198046.docx
・副所見として両眼性の急性角結膜炎(偽膜形成と眼表面上皮欠損を伴う)
・全身症状として38℃以上の発熱が認められる
・多発する紅斑(進行すると水疱・びらんを形成)を伴う皮疹が出現
診断においては副所見を十分考慮の上、主要所見5項目を全て満たす場合に確定診断されます 。眼科で診療されるスティーブンス・ジョンソン症候群には、皮膚科で診断されるSJSとTENの両方を含み、かつ、重篤な眼粘膜障害を伴った症例だけが含まれるという特徴があります 。
急性結膜炎の種類と皮膚粘膜眼症候群の鑑別診断
急性結膜炎には細菌性、ウイルス性、アレルギー性などの原因があり、皮膚粘膜眼症候群に伴う急性結膜炎との鑑別が重要です 。細菌性結膜炎では黄色膿性の眼脂が特徴的で、ウイルス性結膜炎では線維素性の眼脂がみられます 。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/conjunctivitis-2.pdf
細菌性結膜炎の特徴:
・黄色っぽい膿性の眼脂が出現
参考)https://brand.taisho.co.jp/iris/eye/ketsumakuen/003/
・濾胞形成はまずみられない
・インフルエンザ菌や黄色ブドウ球菌などが原因
・抗生物質の点眼薬による治療で1週間以内に治癒することが多い
参考)http://www.japo-web.jp/info_ippan_page.php?id=page04
ウイルス性結膜炎の特徴:
・透明または白っぽい線維素性の眼脂
参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/ok2cmi6_8g2
・小型の濾胞が下眼瞼結膜全体に認められる
・アデノウイルスやエンテロウイルスが原因
・耳前リンパ節腫脹を伴うことが多い
皮膚粘膜眼症候群に伴う急性結膜炎では、これらの感染性結膜炎とは異なり、全身の皮膚粘膜病変と同時に発症する特徴的な臨床経過を示します 。
皮膚粘膜眼症候群における急性結膜炎の治療戦略
皮膚粘膜眼症候群に伴う急性結膜炎の治療は、急性期の十分な消炎と角膜上皮幹細胞の温存、二次感染の防止が重要です 。眼粘膜障害は重篤な視力障害などの後遺症を生じる可能性があるため、早期からの適切な治療介入が必要となります 。
急性期治療のポイント:
・ステロイド点眼による十分な消炎治療
・角膜上皮幹細胞の温存を重視した治療
・MRSA や MRSE の監視培養を継続
・ステロイド点眼使用時の眼圧管理
・皮疹の程度が軽度でも眼所見が重度の場合はステロイドパルス治療を検討
全身管理については皮膚科との密接な連携が不可欠です 。熱傷に準じた治療と感染のケアが全身的に必要になります 。また、慢性期において無症候性のMRSAを検出することがあり炎症を悪化させるため、慢性炎症と感染の発症予防の管理が継続的に求められます 。
参考)http://www.tdc-eye.com/disease/disease08.html
皮膚粘膜眼症候群による急性結膜炎の長期予後と後遺症
皮膚粘膜眼症候群に伴う急性結膜炎の最も深刻な問題は、長期的な眼の後遺症です 。皮膚の発疹やびらんが消え、からだが回復した後にも、視力障害とドライアイが主な後遺症となります 。
主要な眼後遺症:
・角膜混濁による視力障害(光の通り道であるくろめの濁り)
・ドライアイ(涙腺導管の閉塞、マイボーム腺の障害による)
・眼瞼癒着、眼瞼内反、睫毛乱生
参考)https://www.shouman.jp/disease/details/14_10_015/
・不透明な結膜が角膜表面に伸展することによる視力障害
・最悪の場合は失明
慢性期の後遺症としては視力障害とドライアイが中心となります 。急性期の炎症により広範囲に角結膜上皮欠損を生じ、幹細胞が消失した場合、不透明な結膜が角膜表面に伸展し、視力障害を生じることになります 。
重篤な眼後遺症を生じるSJS患者は、皮膚科でSJSあるいはTENと診断される患者のうちの一部である点も重要です 。眼科医と皮膚科医の共同調査では、急性期に偽膜形成ならびに角結膜上皮欠損を伴う重篤な眼合併症を伴う症例は、SJS/TEN全体の約40%であったことが報告されています 。