非アルコール性脂肪性肝疾患の症状と診断基準
非アルコール性脂肪性肝疾患における初期症状の特徴
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の最大の特徴は、初期段階でほぼ無症状であることなんです。肝臓には痛覚神経が存在しないため、脂肪の蓄積や軽度の炎症が起きていても患者さん自身は気づきにくいという特性があります。
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健康診断などで偶然にAST、ALT、γ-GTPといった肝機能マーカーの上昇を指摘されて初めて発見されるケースが大半です。初期段階で現れる可能性のある症状としては、疲れやすさや倦怠感、集中力の低下などの非特異的なものが中心となります。
また、一部の患者では右上腹部の重さや違和感、軽い吐き気といった消化器症状を訴えることもありますが、これらは日常生活の中で見過ごされることが多いんです。NAFLDの患者さんのうち約20%がNASH(非アルコール性脂肪肝炎)に進展すると報告されており、この段階でも依然として無症状のまま経過することが少なくありません。
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非アルコール性脂肪性肝疾患が進行した際の臨床症状
病状が進行してNASHから肝硬変へ移行する段階になると、より明確な症状が出現するようになります。代表的な進行期の症状として、黄疸(皮膚や眼球結膜が黄色くなる)、腹水による腹部膨満感、下肢の浮腫といった肝機能低下を反映する所見が認められます。
参考)脂肪肝|御所東にしかわクリニック|京都市上京区 内科・消化器…
食欲不振や体重減少も進行例では顕著になり、患者さんのQOL(生活の質)を大きく損なう要因となっています。さらに重度の肝硬変では、肝性脳症による意識障害や見当識障害が出現し、生命を脅かす状態に至ることもあるんです。
皮膚の掻痒感も進行期に特徴的な症状で、これは胆汁の流れが悪化することで生じると考えられています。NAFLDからNASHへの進展、そしてNASHから肝硬変への進行には数年から十数年の期間を要しますが、いったん肝硬変まで進んでしまうと元の状態に戻ることは困難です。
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非アルコール性脂肪性肝疾患の診断基準と検査方法
NAFLDの診断には、画像または組織学的に肝細胞の5%以上に脂肪蓄積が認められることが必要です。さらに、アルコール摂取量が男性で1日30g未満、女性で1日20g未満であることを確認し、薬剤や遺伝性疾患などによる二次性脂肪肝を除外する必要があります。
腹部超音波検査やCT検査は脂肪肝の診断に有用で、肝臓の輝度上昇や肝腎コントラストの増強といった特徴的な所見が得られます。血液検査ではAST、ALT、γ-GTPの上昇が認められ、特にNASHの症例では肝線維化の進展に伴って血小板数の低下や線維化マーカーの上昇が観察されます。
| 検査項目 | 診断における役割 |
|---|---|
| 腹部超音波・CT | 脂肪肝の存在を確認 |
| 血液検査(AST、ALT、γ-GTP) | 肝機能障害の程度を評価 |
| FIB-4 index | 肝線維化の進行度を推定 |
| エラストグラフィ | 非侵襲的に肝硬度を測定 |
| 肝生検 | NASHの確定診断に必要 |
NASHの確定診断には肝生検が必要とされており、組織学的に脂肪変性、炎症細胞浸潤、風船様肝細胞(ballooning hepatocyte)、線維化といった所見を確認します。最近では、体に負担の少ない超音波エラストグラフィやMRエラストグラフィが開発され、肝線維化と脂肪沈着の両方を同時に測定できるようになっています。
非アルコール性脂肪性肝疾患と糖尿病・肥満との関連
NAFLDの発症には肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧といったメタボリックシンドロームの構成要素が深く関与しているんです。高度肥満例では約90%、糖尿病患者では約50%がNAFLDを発症すると報告されており、これらの基礎疾患の管理が極めて重要です。
参考)https://hospital.ompu.ac.jp/liver_disease/shibo.html
インスリン抵抗性はNAFLDの病態において中心的な役割を果たしています。脂肪組織でインスリンの効きが悪くなると、脂肪組織に脂肪を蓄えることができず、遊離脂肪酸が肝臓に流れ込み、肝脂肪沈着やその後の炎症、線維化が促進されるメカニズムが解明されています。
参考)脂肪肝の重症型である非アルコール性脂肪肝炎の原因を解明
2023年からは国際的にNAFLDに代わって「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」という新しい名称が使用されるようになりました。MASLDの診断基準には肝脂肪蓄積に加えて、BMI≥25の肥満、高血圧、糖尿病またはHbA1c≥5.7%、高トリグリセリド血症または低HDLコレステロール血症のうち1つ以上の代謝異常を伴うことが条件となっています。
参考)脂肪肝と糖尿病|病気のはなし|公立学校共済組合 関東中央病院
興味深いことに、アジア人では肥満のないNAFLD/NASH症例も多く報告されており、これらの症例では脂肪組織のインスリン抵抗性が病態に関与している可能性が示唆されています。
非アルコール性脂肪性肝疾患の予後と肝硬変への進行リスク
NAFLDの予後について調べた複数の研究では、NAFLD全体から8年〜21年の経過で5%〜8%が肝硬変に進行し、NASHからは5年〜10年の経過で10%〜20%が肝硬変へと進展することが報告されています。さらに、肝硬変症例からは年率約2%の頻度で肝細胞がんが発生すると推定されており、決して看過できない予後なんです。
参考)非アルコール性脂肪性肝疾患|かい内科クリニック|大阪狭山市・…
NAFLDの中でも特に線維化ステージ3または4に該当する高度線維化を有するハイリスク症例は注意が必要です。これらの患者さんは、心血管イベント発症率が高い、非代償性肝硬変へと移行しやすい、肝細胞がんの発症率が高いといった特徴を有しています。
| 進行段階 | 進行期間 | 肝硬変への進展率 |
|---|---|---|
| NAFLD全体 | 8〜21年 | 5〜8% |
| NASH | 5〜10年 | 10〜20% |
| 肝硬変 | 年率 | 約2%が肝がん化 |
NASHから発癌した肝細胞がんでは、ウイルス性肝炎と比較してαフェトプロテインの陽性率が低く、PIVKA-IIの陽性率が高いという特徴があることも医療従事者として知っておくべき重要なポイントです。
適切な治療介入がない場合、NAFLDの10〜20%がNASHとなり、治療介入がなければ5〜10年で5〜20%の症例が肝硬変に進行するという事実は、早期発見と積極的な介入の重要性を示しています。
参考)https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/NASH-2010.pdf
非アルコール性脂肪性肝疾患における線維化評価の重要性
NAFLDの管理において肝線維化の程度を正確に評価することは、予後予測と治療方針決定のために極めて重要なんです。線維化の進行度を評価するためのスコアリングシステムとして、FIB-4 index(年齢、AST、ALT、血小板を用いた指標)、NAFLDフィブロシススコア(年齢、BMI、糖尿病、AST/ALT比、血小板、アルブミンを用いた指標)、NAFICスコア(フェリチン、空腹時インスリン、4型コラーゲン7Sを用いた指標)などが臨床で広く使用されています。
これらのスコアリングシステムは、身体所見や採血結果という簡便な情報からNASHが疑われる患者さんを選別することができるため、スクリーニングツールとして有用です。スコアリングシステムで高リスクと判定された症例については、より詳細な評価のために超音波エラストグラフィやMRエラストグラフィといった非侵襲的検査を実施します。
超音波エラストグラフィは、肝臓の線維化の程度を肝硬度として定量化できる装置で、患者さんの負担が少なく繰り返し検査が可能という利点があります。MRIを使用したMRエラストグラフィも同様に肝線維化と脂肪沈着の両方を同時に測定可能であり、NAFLDおよびNASHの診断と経過観察に有用とされています。
確定診断が必要な場合や組織学的な詳細情報が治療方針決定に重要な場合には、肝生検を検討することになります。肝生検では顕微鏡で肝組織を観察し、脂肪化(steatosis)、炎症細胞浸潤(inflammation)、風船様肝細胞(ballooning hepatocyte)、線維化(fibrosis)といった所見に着目して診断を行います。
日本肝臓学会の肝臓専門誌における最新の臨床研究では、NAFLD/NASHの組織学的評価法と予後との関連について詳細な解説がされています。
日本消化器病学会のNAFLD/NASHガイド2023には、診断基準から治療方針まで包括的な情報がまとめられており、医療従事者にとって重要な参考資料となっています。
非アルコール性脂肪性肝疾患における生活習慣改善の効果
NAFLDの治療における基本は、食事療法と運動療法による生活習慣改善なんです。体重の5%減少によってQOL(quality of life)の改善が認められ、7%以上の体重減少では肝線維化の改善効果が期待できることが複数の臨床研究で示されています。
参考)https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/disease/pdf/nafld_2023.pdf
食事療法ではカロリー制限が重要で、エネルギー比率として炭水化物50〜60%、脂質20〜25%と脂質を制限することが推奨されています。地中海式ダイエットに代表されるように、低炭水化物食に加えて不飽和脂肪酸を摂取することで肝脂肪化が改善するという報告もあります。
参考)脂肪肝の食事療法|MASLDを改善する食習慣と実践ポイント
| 栄養素 | 推奨される摂取方法 |
|---|---|
| 糖質 | 精製糖質を控え、1日130g以内を目標 |
| 脂質 | オメガ3系の魚油、オリーブオイルなど良質な脂質を選択 |
| タンパク質 | 魚、鶏肉、豆腐など良質なタンパク質をしっかり摂取 |
| 食物繊維 | 野菜を多く摂り、腸内環境を整える |
運動療法としては、ウォーキングなどの有酸素運動に加えて、筋肉量の増大に伴う基礎代謝の増加を目的とした筋力トレーニングも注目されています。しかし、実際に7%の体重減少が得られる症例は約9%程度にとどまるため、目標達成率の向上やアドヒアランスの維持が臨床的な課題となっているんです。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/4/110_729/_pdf
間欠的断食(16時間断食/8時間食事など)を導入するとインスリン感受性改善や生活習慣の制御に効果的という報告もありますが、急激な断食や極端な低栄養食は逆に肝脂肪を悪化させる可能性もあるため注意が必要です。
神戸大学の研究グループによる非アルコール性脂肪肝炎の原因解明に関する発表では、脂肪組織のインスリン抵抗性がNASHの病態に深く関与していることが示されており、新たな治療標的の可能性が提示されています。