平均赤血球容積MCVが低い原因と病態
平均赤血球容積MCVの基準値と診断基準
平均赤血球容積(MCV)の正常値は、男性で82.7~101.6fL、女性で79.0~100.0fLとされています 。MCVが80fL未満を示す場合、小球性貧血と診断され、その背景には複数の病態が考えられます 。
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WHO(世界保健機関)が定める貧血の診断基準では、成人男性でヘモグロビン値13.0g/dL未満、成人女性で12.0g/dL未満が貧血とされ、これらの数値と併せてMCVの評価が重要となります 。
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診断においては、単にMCV値のみでなく、血清鉄、TIBC(総鉄結合能)、フェリチンなどの鉄代謝マーカーを総合的に評価することが不可欠です 。
平均赤血球容積MCV低値で最も多い鉄欠乏性貧血
MCV低値の原因として最も頻度が高いのは鉄欠乏性貧血で、全貧血の約60-70%を占めています 。鉄欠乏性貧血では、体内の貯蔵鉄が枯渇することで赤血球内のヘモグロビン合成が障害され、結果として小さな赤血球が産生されます。
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特に月経のある女性、妊婦、成長期の小児に多く見られ、消化管出血や鉄摂取不足が主な原因となります 。血液検査では、血清鉄低値、TIBC高値、フェリチン低値の三徴候が特徴的です 。
参考)https://nara.med.or.jp/for_residents/8779/
進行した鉄欠乏性貧血では、爪のスプーン状変形(コイロニキア)、異食症(氷食症など)、レストレスレッグ症候群などの特徴的な症状が現れることがあります 。
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平均赤血球容積MCV低値を示す慢性疾患による貧血の特徴
慢性疾患による貧血(ACD: Anemia of Chronic Disease)は、世界で2番目に多い貧血として知られています 。関節リウマチなどの自己免疫疾患、慢性感染症、悪性腫瘍、慢性腎疾患などが背景疾患となります 。
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この病態では、炎症性サイトカインの影響により鉄の再利用が阻害され、適切な鉄が存在するにもかかわらず赤血球産生に利用できない状況が生じます 。血液検査では、血清鉄低値、TIBC低値またはあ正常値、フェリチン正常値または高値という鉄欠乏性貧血とは異なるパターンを示します 。
参考)https://www.matsuyama.jrc.or.jp/wp-content/uploads/pdfs/kr1_22.pdf
初期には正球性貧血を呈しますが、時間の経過とともに小球性貧血に移行することが多く、ヘモグロビン値は通常8g/dL以上を維持することが特徴的です 。
平均赤血球容積MCV低値における遺伝性疾患サラセミアの鑑別
サラセミアは、グロビン遺伝子の異常によるヘモグロビン合成障害を特徴とする遺伝性小球性貧血です 。日本においてもαサラセミアが3500人に1人、βサラセミアが1000人に1人の頻度で存在すると報告されています 。
参考)サラセミア – 血液疾患
サラセミアの診断において重要な特徴は、MCVが70fL未満と著しく低値を示し、同時に赤血球数が相対的に増加することです 。末梢血塗抹標本では標的赤血球が特徴的に観察され、これが診断の重要な手がかりとなります 。
参考)MCV値や網赤血球数の増減に注目|ベックマン・コールター
鉄欠乏性貧血との鑑別が重要で、サラセミアでは血清鉄、TIBC、フェリチンは正常値を示すため、鉄剤投与は無効です 。確定診断には遺伝子検査やヘモグロビン電気泳動が必要となります 。
参考)サラセミア
平均赤血球容積MCV低値の最新治療アプローチと予後管理
鉄欠乏性貧血の治療は、不足した鉄の補充が基本となります。経口鉄剤は最低でも半年間の継続投与が推奨され、維持療法の検討も重要です 。経口鉄剤で効果不十分な場合は、静注鉄剤の使用により体内不足量を計算して投与します 。
参考)小球性貧血患者の診断と治療について (medicina 58…
慢性疾患による貧血では、基礎疾患の治療が最優先となります。一部の症例では、エリスロポエチンや新規薬剤であるHIF-PH阻害薬(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素阻害薬)の使用が検討されます 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/112/5/112_769/_pdf
治療効果の判定には、ヘモグロビン値の改善とともにMCVの正常化を確認することが重要です。不適切な治療や診断の遅れは再発のリスクを高めるため、定期的なフォローアップと原因検索の継続が必要不可欠です 。