反回神経麻痺の症状と原因、治療法

反回神経麻痺の症状

反回神経麻痺の主な症状
🗣️

声の異常

声のかすれ、気息性嗄声、発声困難などが現れます

💧

嚥下障害

水分でむせやすくなり、誤嚥のリスクが高まります

😮‍💨

呼吸の問題

両側麻痺では呼吸困難や吸気時喘鳴が生じることがあります

反回神経麻痺による声のかすれ

反回神経麻痺の最も特徴的な症状は、声のかすれ(嗄声)です。声帯を動かす反回神経が麻痺すると、発声時に左右の声帯が正常に閉じなくなり、声帯の間に隙間ができてしまいます。その結果、空気が抜けるような弱々しい声になり、息が漏れるような気息性嗄声が生じます。

参考)反回神経麻痺ではどのような症状がありますか? |反回神経麻痺


声を出すのに通常よりも大きな力が必要となるため、長時間話し続けることが困難になります。会話中に頻繁に息継ぎをしながら話す必要があり、声が途切れたり変化したりすることもあります。声帯が真ん中寄りの位置で動かなくなることで、十分な声量が出せず、発声中に声が裏返ることもあります。

参考)声がれ、嗄声(反回神経麻痺)

反回神経麻痺の片側と両側の違い

反回神経麻痺は、片側のみに生じる場合と両側に生じる場合で症状の重症度が大きく異なります。片側の麻痺では、麻痺した側の声帯が真ん中寄りの場所で動かなくなりますが、反対側の声帯は正常に動きます。そのため、発声時に声門が完全に閉じないことで息が漏れる声になりますが、呼吸への影響は比較的軽度です。​
一方、両側の反回神経麻痺では、両方の声帯が声門の真ん中またはその近傍で動かなくなるため、息の通り道が極端に狭くなります。声のかすれに加えて、息苦しさや息を吸うときに喉元で音がする吸気時喘鳴が現れます。重症例では呼吸困難が生じ、緊急の気管切開が必要となることもあります。

参考)反回神経麻痺

反回神経麻痺による誤嚥と嚥下障害

反回神経麻痺では、声帯による気道防御機能が低下するため、誤嚥のリスクが高まります。嚥下時の気道防御には喉頭蓋の翻転、披裂部の内転、声門閉鎖という3つのメカニズムがありますが、反回神経が麻痺すると披裂部の内転と声門閉鎖が障害されます。

参考)第8回 摂食嚥下障害の臨床Qhref=”https://knowledge.nurse-senka.jp/223803/” target=”_blank”>https://knowledge.nurse-senka.jp/223803/amp;A 「反回神経麻痺がある患者さ…


緊密な気道閉鎖ができなくなった結果、固形物は比較的安全に摂取できますが、水分は声帯の隙間から入り込むため誤嚥のリスクが特に高くなります。症状がひどい場合には、睡眠時に唾液でむせて目が覚めるという訴えも聞かれます。また、むせやすい、飲み込みにくい、咳や咳払いが増えるといった症状も現れます。

参考)https://e33.jp/book.php?no=3232008

反回神経麻痺の呼吸困難と息切れ

反回神経麻痺による呼吸への影響は、麻痺の程度によって異なります。片側麻痺では軽度の息切れを感じる程度ですが、両側麻痺では声帯が呼吸時に十分に開かないため、重度の呼吸困難が生じることがあります。

参考)反回神経麻痺の治療なら横浜市上大岡駅の西山耳鼻咽喉科医院まで


両側の声帯が閉じたまま動かなくなってしまうと、息の通り道が狭まり、息苦しさが出現します。吸気時には喉元で音がする吸気時喘鳴が聞かれ、場合によっては窒息のリスクもあるため、緊急の気管切開術が必要となります。気管切開後は呼吸を確保した上で、声門を広げる手術を行うことで日常生活の不便を軽減します。

参考)反回神経マヒと嗄声(させい)

反回神経麻痺のセルフチェック項目

反回神経麻痺が疑われる場合のセルフチェック項目として、以下のような症状や状況があります。声のかすれが長引く、息が漏れるような話し方になる、声が出しにくい、むせやすいといった症状が代表的です。

参考)反回神経麻痺のセルフチェックはできますか? |反回神経麻痺


さらに、強い息苦しさを感じる、息を吸うときに喉仏のあたりから音がするといった呼吸に関する症状も重要な指標となります。また、症状が首や胸の病気の手術の後から出現した場合や、全身麻酔の手術の後から出現した場合には、反回神経麻痺の可能性が高まります。これらの症状が複数当てはまる場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診することが推奨されます。

参考)反回神経麻痺が疑われる場合、何科を受診したらよいですか? |…

反回神経麻痺の原因と診断

反回神経麻痺の主な原因
🦠

特発性(原因不明)

ウイルス感染が疑われるが原因が特定できない最も多いタイプです

🏥

腫瘍性疾患

甲状腺癌、食道癌、肺癌などが神経を圧迫・浸潤します

⚕️

医原性(術後)

甲状腺手術や気管挿管による神経損傷が原因となります

反回神経麻痺の原因となる疾患

反回神経麻痺の原因は多岐にわたりますが、最も多いのは原因が特定できない特発性麻痺で、ウイルス感染による可能性が考えられています。次いで多いのが腫瘍性疾患で、甲状腺癌、食道癌肺癌乳癌などが反回神経を巻き込んで障害することがあります。

参考)反回神経麻痺(声帯麻痺、嗄声の原因の1つ)について


甲状腺良性腫瘍による反回神経麻痺の原因としては、腫瘍による神経の圧迫・圧排、腫瘍による神経の牽引・伸張、炎症の神経への波及が挙げられます。また、心臓肥大による圧迫、大動脈瘤悪性リンパ腫脳梗塞に合併することも知られています。医原性の原因としては、甲状腺手術後の合併症や気管挿管、外傷、のどの手術後などがあります。

参考)術前に反回神経麻痺を認めた甲状腺良性腫瘍の1例

反回神経麻痺の診断方法と検査

反回神経麻痺の診断には、まず鼻から細い内視鏡を挿入して声帯の状態を詳しく確認します。内視鏡検査により、麻痺の有無や麻痺している声帯の位置、動きの程度を直接観察できます。手術後など原因が明らかな場合は、続けて声の質を分析したり、息漏れの程度を計測したりする音声検査を行います。

参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E5%8F%8D%E5%9B%9E%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E9%BA%BB%E7%97%BA


原因が明らかでない反回神経麻痺が初めて見つかった場合は、腫瘍性の病気がないか調べるために画像検査が必要です。首の超音波検査で甲状腺癌やリンパ節の腫れを確認し、CT検査やMRI検査で首や胸、頭部の病気を調べます。さらに、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)や食道造影検査を実施することもあります。調べても異常が見当たらない場合はウイルス感染の可能性を考え、血液検査を行いますが、それでも原因が分からないこともあります。​

反回神経麻痺の左右差の理由

反回神経麻痺は左側に多く発症する傾向があり、左側が右側に比べて3倍多いという報告もあります。この左右差の理由は、左右の反回神経が異なる経路をたどるためです。右反回神経は鎖骨下動脈の下でUターンして喉頭へ向かいますが、左反回神経は大動脈弓の下でUターンして喉頭へ向かいます。

参考)反回神経麻痺の症状が左に多い理由は何ですか? |反回神経麻痺…


左反回神経のほうが長い経路をとるため、動脈やリンパ節、肺などの異常による影響を受けやすい傾向があります。反回神経は迷走神経から枝分かれし、右側は鎖骨下動脈のところで、左は大動脈弓のところをくぐって前方へ出て上方へ再び返って来るので反回神経と呼ばれます。上方へ返ったあとは食道と気管の間を上行し、甲状腺の裏側を通り喉頭に辿り着いて声帯を運動させるという複雑な経路を通ります。​

反回神経麻痺における甲状腺疾患の関連

甲状腺疾患は反回神経麻痺の重要な原因の一つです。甲状腺癌や甲状腺良性腫瘍が反回神経を圧迫したり浸潤したりすることで麻痺が生じます。また、甲状腺手術後の合併症としての反回神経麻痺も知られており、副甲状腺機能低下症と並んで甲状腺手術の主要な術後合併症の一つとなっています。

参考)甲状腺術後嗄声の頻度およびリスク因子と音声改善手術の問題点


反回神経は甲状腺両葉の後方を上行するため、甲状腺手術の際に損傷を受けるリスクがあります。甲状腺手術を行った直後の反回神経麻痺は、半年の経過観察で90%近くが治癒するという報告があります。一方、癌の浸潤により治療前から反回神経がダメージを受けている場合や、手術における合併切除では、症状に応じて音声治療を行う必要があります。​

反回神経麻痺の予後と自然治癒の可能性

反回神経麻痺の予後は原因や麻痺の程度によって異なります。特発性の反回神経麻痺の場合、神経を改善させるビタミンB12や自己治癒能力を高めるATP製剤などを使用しますが、治らないこともあります。麻痺してしまった神経を完全に戻す治療は、現在でも難しいのが現状です。​
場合によっては麻痺が自然に治ることもありますが、自然治癒が可能なのは発症から半年後までとされており、その見極めが重要になります。甲状腺手術後の反回神経麻痺では、半年の経過観察で90%近くが治癒するという報告もあり、術後の一時的な麻痺であれば予後は比較的良好です。しかし、癌の浸潤による麻痺や神経の合併切除を行った場合は、回復が困難なこともあります。​

反回神経麻痺の治療法

反回神経麻痺の主な治療法
💊

保存的治療

ビタミンB12やATP製剤による薬物療法を行います

🎤

音声訓練

プッシング法や硬起声などの発声訓練で声帯機能を改善します

🔬

手術治療

声帯内注入術や喉頭形成術で声帯の位置を調整します

反回神経麻痺の音声訓練方法

反回神経麻痺の音声訓練は、麻痺した声帯の緊張を高め、効率的な発声法を獲得することを目標とします。音声治療は間接訓練と直接訓練に分けられ、間接訓練は不適切な発声行動や環境調整を行うもので、直接訓練は実際に声を出して訓練を行うものです。

参考)https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=13381


代表的な訓練方法として、プッシング法や硬起声発声があります。プッシング法は麻痺した声帯の緊張を高める目的で行われ、両指を組んで横に引っ張りながら発声すると声が出やすくなります。その他にも、姿勢と呼吸の調整、指圧法による声帯位置の矯正、咳払い発声、ハミング、アクセント法、発声機能訓練(VFE)などが症状に応じて行われます。言語聴覚士による専門的な指導のもと、声門閉鎖力の向上を図ります。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjlp/64/3/64_143/_pdf

反回神経麻痺の声帯内注入術

声帯内注入術は、麻痺した声帯にコラーゲンヒアルロン酸などの物質を注入して声帯のボリュームを増し、声帯の位置を調整する治療法です。アテロコラーゲン注入は外来で受けられる日帰り手術として行われ、麻痺側声帯と健側声帯の隙間を埋めることで、発声時の気息性嗄声を改善します。

参考)反回神経麻痺


この治療法は比較的侵襲が少なく、短時間で施行できるメリットがありますが、注入した物質が体内に吸収されるため効果が一時的で、定期的な再注入が必要になることがあります。また、重度の症例では十分な効果が期待できない場合もあります。音声訓練やビタミン剤などの保存的治療をして6か月症状の改善がなければ、機能改善手術を検討します。​

反回神経麻痺の喉頭形成術

喉頭形成術は、反回神経麻痺の外科的治療として行われる手術で、声帯の位置や形状を物理的に調整します。入院手術として行われる方法には、頸部を切開してシリコン版を挿入する方法や、声帯を動かす筋肉や軟骨を牽引する方法があります。​
ヒレツ軟骨内転術や声帯内自家側頭筋膜移植術も選択肢の一つで、これらの治療により片側反回神経麻痺の症状を軽快させることが可能です。両側反回神経麻痺による重篤な誤嚥に対しては、甲状軟骨形成術Ⅰ型と反回神経再建術を併施することもあります。喉頭形成術は声帯内注入術よりも持続的な効果が期待できますが、より侵襲的な処置であるため、合併症のリスクも考慮する必要があります。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshns/29/2/29_163/_pdf

反回神経麻痺の原因疾患に対する治療

反回神経麻痺の治療において最も重要なのは、原因疾患の治療です。脳の病気や癌などの腫瘍が原因の場合は、原因となった病気の治療が第一となります。胸部大動脈瘤や肺癌、甲状腺癌、頭蓋底腫瘍など重篤な疾患が原因となることが多いため、反回神経麻痺症例に接した場合には十分な原因究明と原因疾患の治療が優先されます。​
甲状腺癌や食道癌などで神経を巻き込んでいる場合は、腫瘍の切除が必要です。原因疾患の治療が終了し、音声障害が残存する場合には音声治療の適応となります。ステロイド療法も選択肢の一つで、神経の炎症やむくみを抑制し、神経機能の回復を促進することを目的としますが、長期使用による副作用のリスクがあります。​

反回神経麻痺の両側麻痺に対する緊急治療

両側反回神経麻痺では呼吸困難が生じるため、緊急の気管切開が必要となります。急に息苦しくなった時は、緊急気管切開などの手術が必要となることがあり、窒息を防ぐための迅速な対応が求められます。​
気管切開は声帯の状態に応じて閉鎖可能な場合があります。気管切開後は呼吸を確保した上で、声門を広げる手術を行うことで日常生活の不便を軽減します。両側反回神経麻痺の場合、声帯が開いて麻痺した場合は声が出せない・よくむせるなどの症状が出現し、閉じて麻痺した場合は呼吸ができなくなってしまうため、症状に応じた適切な治療選択が重要です。​
<参考リンク>

反回神経麻痺の音声訓練について詳しく知りたい方は、日本音声言語医学会の論文を参照してください。片側声帯麻痺に対する音声治療手技としてプッシング法やVFEなどが解説されています。

片側声帯麻痺に対する音声治療 – 日本音声言語医学会

甲状腺手術と反回神経麻痺の関連について詳しく知りたい方は、日本内分泌外科学会の論文が参考になります。甲状腺術後嗄声の頻度やリスク因子が詳しく解説されています。

甲状腺術後嗄声の頻度およびリスク因子 – 日本内分泌外科学会

反回神経麻痺による嚥下障害の詳細については、看護師向けの解説記事が分かりやすく説明しています。反回神経の走行や嚥下障害のメカニズムが図解されています。

反回神経麻痺がある患者の摂食嚥下障害 – ナース専科