斑状網膜と急性後部多発性斑状色素上皮症
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斑状網膜の所見と急性後部多発性斑状色素上皮症
「斑状網膜」という狙いワードは、厳密な単一疾患名というより、眼底で“斑状(patchy/placoid)”に見える網膜〜網膜色素上皮(RPE)レベルの変化を、臨床側が短く表現するための言い回しとして遭遇しやすい。
医療現場でこの見え方を代表する疾患の一つが、急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)で、後極部を中心に黄白色の斑状滲出斑が多発し、若年〜壮年(10〜30歳代)に多く、両眼性が多いとされる。
APMPPEは視力予後が良好で自然回復することが多い一方、軽度のぶどう膜炎や乳頭炎、網膜血管炎、漿液性網膜剝離を伴うことがあるため、「斑状=軽症」と決め打ちしない姿勢が安全側になる。
臨床説明では「斑状所見=どの層が障害されているか」を言語化すると、紹介状やカルテの再現性が上がる。例えば、
・RPE〜外網膜主体(白点症候群系)
・網膜血管(網膜血管炎、静脈閉塞など)
・脈絡膜〜ぶどう膜(原田病、後部ぶどう膜炎)
といった“層の当たり”を先に置くと、検査の優先順位が決めやすい。
斑状網膜のOCTとFAの評価
斑状病変の評価では、OCTで「どの層が主座か」を確認するのが出発点になる。APMPPEの解説では、OCTで病変に一致して網膜外層に高反射領域がみられる、といった所見が整理されている。
またAPMPPEでは、フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)で“早期低蛍光→後期過蛍光”といういわゆる蛍光の逆転現象が特徴とされ、斑状病変を見た際の鑑別に有用なパターンになる。
一方、斑状という見え方は血管障害でも出現しうるため、OCTだけで完結させないことが重要になる。例えば、網膜静脈分枝閉塞症では斑状の出血や血管蛇行が見られ、OCTで黄斑浮腫の程度を評価し、必要に応じて蛍光眼底造影やOCTアンギオグラフィーで血流評価を行う、という流れが一般向け解説でも示されている。
つまり「斑状網膜=白点症候群」と短絡せず、OCTで浮腫・漿液性剥離・外網膜障害のどれが主かを拾い、その後にFA/OCTAを当てて“血管要素の強さ”を確認する、という順番が実務的で事故が少ない。
斑状網膜のぶどう膜炎と網膜血管炎の鑑別
斑状所見を伴う病態のうち、紹介や緊急度判断で特に外したくないのが「ぶどう膜炎/後部ぶどう膜炎」や「網膜血管炎」の混在である。APMPPE自体も軽度のぶどう膜炎や網膜血管炎を伴うことがあるため、問診・前眼部所見・硝子体所見を含めた全体像で判断する必要がある。
実務上、ぶどう膜炎の活動性評価や経過記載の標準化は、施設間連携で強い武器になる。日本眼科学会系の「ぶどう膜炎診療ガイドライン」では、SUN Working Groupの評価案として前房細胞や硝子体混濁のグレード(0、0.5+、1+…)の考え方が示され、診療録の表現を揃える重要性が述べられている。
“斑状網膜”を主訴に紹介する立場でも、(可能なら)「硝子体混濁0.5+相当」「前房細胞1+」など半定量の言葉を添えると、受け手の眼科側が「炎症主導かどうか」を判断しやすくなる。
さらに鑑別の観点では、片眼性・両眼性、視力低下が“急激”か、飛蚊症や霧視が前景にあるか、といった臨床経過の把握が重要になる。ぶどう膜炎の記述語(急性/慢性/再発性など)の定義が整理されているため、紹介時に経過を言語化する際の参考になる。
斑状網膜と白点症候群の注意点
斑状の黄白色病変は、白点症候群の文脈でも頻出する。APMPPEは白点症候群の一つとして説明されることが多く、若年者に好発し、FAでの逆転現象など画像所見が診断に役立つ、という整理がなされている。
同じ白点症候群でも、MEWDSでは経過と画像パターンが異なりうるため、“斑状”という見え方だけで同一視しないことが重要になる(病変が黄斑下に及ぶと不可逆要素が残りうる、など)。
またAZOORでは、初期に眼底写真やFAがほぼ正常に見えることがある一方で、自発蛍光やOCTで外網膜(EZ)欠損が示唆される、といった落とし穴がある。
「斑状網膜」という言葉で相談が来たときに、眼底の“見た目の派手さ”だけで重症度を推定しないことが、紹介の安全性を上げる。
斑状網膜の独自視点:説明と連携
検索上位の解説は、疾患の定義や典型所見(APMPPEの黄白色斑、FAの逆転、自然回復など)に寄りやすいが、医療従事者向けの記事では「説明と連携の設計」が実務的な差分になる。APMPPEは視力予後が良好で1〜3か月程度で自然回復することが多いとされるため、患者側は“様子見で良い”と受け取りがちだが、同時に乳頭炎・網膜血管炎・漿液性網膜剝離などを伴うことがある点を、初回説明で必ず釘打ちしておくのが有用である。
具体的には、患者説明と他科・他施設連携では次のテンプレが役立つ。
✅患者向け(短文で)
・「斑状という所見は複数の原因で起こる」
・「炎症・血管・変性のどれが主体かを検査で決める」
・「急に見え方が落ちる/歪む/視野欠けが広がるなら前倒し受診」
✅紹介状・院内連携向け(情報の粒度)
・症状:発症日、急激/潜行性、片眼/両眼、霧視・飛蚊症・光視症の有無(ぶどう膜炎の経過記述と整合させる)
・所見:前房細胞・硝子体混濁の半定量(可能ならSUN準拠)
・検査:OCT所見の要点(外網膜高反射、漿液性剥離、黄斑浮腫など)と、必要ならFA/OCTA予定
この“臨床情報の型”は、病名を当てるより先に、受け手の意思決定(緊急性、必要検査、ステロイド適応の検討など)を助ける。ぶどう膜炎診療では、個々の症例に適した診断・治療を行うべきで、漫然と「ぶどう膜炎」として経過観察される状況を避ける必要がある、というガイドラインの問題提起とも整合する。
参考:APMPPEの疾患概要(典型所見、自然回復、合併しうるぶどう膜炎・網膜血管炎・漿液性網膜剝離など)
参考:ぶどう膜炎診療の用語・所見の定量(SUN準拠の前房細胞、硝子体混濁など)