反跳痛の診断と腹膜炎の症状評価

反跳痛の診断と症状評価

反跳痛の基本理解
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定義と機序

腹壁圧迫後の急激な離脱時に生じる強い疼痛

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臨床的意義

腹膜炎の重要な診断指標として活用

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評価方法

系統的な触診技術による正確な判定

反跳痛の基本的な定義と病態生理

反跳痛(rebound tenderness)は、腹膜炎の際に認められる重要な腹膜刺激症状の一つです。この症状は、腹壁を静かに圧迫した後、急に圧迫を解除することで強い疼痛を感じる現象として定義されます。

ブルンベルグ徴候(Blumberg’s sign)とも呼ばれるこの症状は、ドイツ人外科医ヤーコプ・モーリッツ・ブルムベルクによって報告されました。壁側腹膜の炎症性刺激によって生じると考えられており、筋性防御とともに腹膜刺激症状の代表的な所見として位置づけられています。

病態生理学的には、炎症により感作された壁側腹膜が、圧迫解除時の急激な組織移動によって強く刺激されることで疼痛が生じます。この現象は、腹膜に炎症が波及していることを示す重要な指標となります。

医療従事者にとって、反跳痛の正確な理解と評価技術の習得は、急性腹症の診断において極めて重要な技能といえるでしょう。

反跳痛の診断手技と評価方法

反跳痛の診断は、系統的な触診技術によって行われます。正確な評価のためには、以下の手順を遵守することが重要です。

まず、患者の腹部に4本の指を揃えて配置し、腹壁にゆっくりと垂直に押し込みます。この際、患者の表情や反応を注意深く観察することが大切です。次に、押し込んだ手を急激に離し、患者に圧迫時と離脱時のどちらがより強い痛みを感じるかを確認します。

触診の順序は疼痛部位を最後にし、はじめは弱く、次第に強く圧迫するようにします。これにより、患者の不安を軽減し、より正確な評価が可能となります。

反跳痛が明らかでない場合の代用として、咳で疼痛が増強するかを確認することも有用です。また、必ず左右を比較して評価することで、局所的な炎症の有無をより正確に判定できます。

高齢者では自覚症状や腹部所見が乏しいこともあるため、特に注意深い観察が必要です。

反跳痛と腹膜炎の関連性

反跳痛は腹膜炎の診断において極めて重要な所見です。腹痛があり、発熱や腹膜刺激症状(筋性防御、反跳痛)が認められる場合、腹膜炎を強く疑う必要があります。

腹膜炎の原因として多いのは、消化管穿孔、急性虫垂炎、外傷、外科手術後の縫合不全などです。これらの病態では、無菌の腹腔内に細菌感染が生じたり、出血・外傷・穿孔による化学的刺激が加わったりすることで腹膜炎が発症します。

急性虫垂炎では、典型的にはみぞおちから始まる痛みが右下腹部に移行し、その部位で圧痛と反跳痛を認めます。押すと痛みがあり、離すと飛び上がるような激しい痛みを感じる反跳痛の症状が出現した場合は、腹膜炎に移行している可能性があるため、迅速な医療対応が必要です。

消化管穿孔による腹膜炎では、板状硬の腹部所見とともに反跳痛、筋性防御を認めることが多く、緊急手術の適応となります。

反跳痛の鑑別診断と臨床的判断

反跳痛の評価において、緊急性のある腹痛と緊急性のない腹痛の鑑別は極めて重要です。一般的な胃の痛みや胃腸炎による痛みでは、圧痛は認めるものの反跳痛や筋性防御は通常認められません。

圧痛のみが認められる場合は、その時点では緊急性のない腹痛と判断されることが多いです。一方、反跳痛や筋性防御が認められる場合には、腹膜炎を起こしている可能性があるため、緊急性がある腹痛として対応する必要があります。

医師国家試験でも頻出される内容として、反跳痛、筋性防御、打診による圧痛、踵下ろし試験陽性は、いずれも腹膜炎の所見として重要視されています。これらの所見を総合的に評価することで、より正確な診断が可能となります。

打診所見も重要で、消化管穿孔では腹腔内遊離ガスにより太鼓を叩いたような響きが聞かれ、進行した腹膜炎では打診でも痛みが強くなる所見が認められます。

反跳痛評価における医療従事者の注意点と実践的アプローチ

医療従事者が反跳痛を評価する際には、患者の心理的側面への配慮も重要です。腹痛を訴える患者は腹部を触られることに不安を感じるため、十分な説明と配慮が必要です。

看護師による観察では、患者が腹痛を訴えた際に、腹痛の部位や痛みの性状をよく聞き、発熱の有無などのバイタルサイン異常や腹膜刺激症状の有無を確認することが重要です。腹膜炎の患者は、動いたり軽微な衝撃を受けたりするだけで痛みが増悪するため、じっと痛みを我慢して動かないことが多いという特徴があります。

妊娠中の虫垂炎のように、典型的なマックバーニー点とは異なる部位に症状が現れる場合もあります。このような特殊な状況では、より慎重な評価と迅速な対応が求められます。

PTP(Press Through Package)誤飲による消化管穿孔症例では、特に60歳以上の高齢者に多く、患者自身がPTPを誤飲したことを認識していない場合も少なくありません。このような症例では、詳細な病歴聴取とともに、反跳痛をはじめとする腹膜刺激症状の評価が診断の鍵となります。

医療従事者は、反跳痛の評価技術を習得するだけでなく、患者の全身状態を総合的に判断し、適切なタイミングで専門医への相談や緊急対応を行う判断力も求められます。

急性腹症の診断において、反跳痛は単独の所見として評価するのではなく、病歴、他の身体所見、検査結果と総合的に判断することが重要です。特に、痛みのパターン、発症時期、痛みの場所、随伴症状などを系統的に評価し、腹膜炎の可能性を適切に判断する能力が医療従事者には求められています。