鼻涙管結石 症状と診断と治療と合併症リスク

鼻涙管結石 症状と診断と治療

鼻涙管結石を理解するための要点
👁️

病態と症状の特徴

涙道閉塞の一亜型としての鼻涙管結石の位置づけと、流涙や反復する涙嚢炎などの症候を整理します。

🩻

画像・内視鏡による診断

CTやCT-DCG、涙道内視鏡での結石の描出所見と、他の閉塞原因との鑑別のポイントを概説します。

🩺

治療戦略と合併症予防

外科的摘出を中心とした治療アルゴリズムと、眼窩蜂窩織炎など重篤な合併症を回避するためのタイミングを整理します。

鼻涙管結石の定義と病態生理

鼻涙管結石(nasolacrimal duct stone)は、鼻涙管や涙嚢内に形成される小石状の硬い塊であり、涙道内の「涙石(dacryolith)」のうち、主に鼻涙管領域に位置するものを指す概念として理解されます。

涙道内に滞留した粘液・デブリ・炎症産物などを核として、時間経過とともに蛋白・脂質・カルシウム塩などが沈着し層状に硬化していくことで形成されるとされ、慢性炎症と機械的閉塞が悪循環を形成する点が病態の特徴です。

多くの症例では、鼻涙管閉塞症や原発性後天性涙道閉塞(PANDO)の一亜型として経過し、単純な粘膜肥厚や瘢痕性狭窄と臨床症状が類似するため、症状だけから鼻涙管結石を特定することは困難です。

参考)Beyond direct visualization: a…

また、感染性成分の関与が強い涙小管炎の菌石(涙小管結石)と異なり、非感染性涙石が主体とされる報告もあり、涙道内の部位により成分構成や背景病態が異なる可能性が指摘されています。

鼻涙管結石と涙道閉塞症との関連

鼻涙管結石は、涙道閉塞症の原因の一つとして位置づけられ、結石自体が機械的な閉塞因子となるほか、結石周囲の慢性炎症や肉芽形成が二次的な狭窄・閉塞を助長します。

涙嚢~鼻涙管移行部や鼻涙管中下部に結石が存在すると、涙嚢内に涙がうっ滞し、慢性的な涙嚢炎から急性増悪を繰り返す症例も少なくありません。

PANDOでは、単純なシリコーンチューブ留置やブジーで症状が改善する例もありますが、鼻涙管結石を伴う症例では結石自体の摘出が根治には必須とされ、涙道内視鏡やDCR(涙嚢鼻腔吻合術)時の十分な探索が重要になります。

一方で、涙嚢内結石や涙小管結石が単独で存在し、鼻涙管は比較的保たれているケースも報告されており、涙道全体を一つの連続した空間として評価しつつも、「どの部位にどのタイプの結石が存在するか」を意識した診断が求められます。

参考)結石の処理に16ゲージシースが有用であった涙囊内結石症例

鼻涙管結石による症状と臨床像

鼻涙管結石による主症状としては、慢性的な流涙(epiphora)、内眼角部の違和感・圧迫感、粘液性あるいは膿性の目やに、涙嚢部の圧痛など、一般的な涙道閉塞と共通する所見が主体となります。

結石による閉塞が進行すると、涙嚢が拡張し、圧迫により膿性分泌物が逆流するような典型的な慢性涙嚢炎の像を呈し、時に眼瞼腫脹や皮膚発赤を伴う急性炎症エピソードを反復することがあります。

興味深いのは、鼻涙管結石が契機となって眼窩蜂窩織炎を来した症例報告で、鼻涙管内の石灰化した涙石を背景に、急速に眼瞼腫脹・視力障害・強い疼痛を伴う重症感染へと進展した例が報告されています。

参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390863629155249280

この症例では、CTで鼻涙管内の石灰化病変と涙嚢腫脹が確認され、緊急の内視鏡下鼻副鼻腔手術で鼻涙管切開と結石摘出、排膿を行うことで後遺症なく治癒しており、結石が存在する症例では「単なる慢性流涙」ではなく「眼窩内感染の火種」としても警戒すべきであることが示唆されます。

鼻涙管結石の画像診断と涙道内視鏡の役割

鼻涙管結石の診断には、単純X線やCT、CT-DCG(CT dacryocystography)、CBCT-DCGなどの画像検査により、鼻涙管や涙嚢内の石灰化病変や造影欠損として描出されることが重要な情報となります。

CT-DCGでは、涙嚢内や鼻涙管に中等度の造影充填と不整な辺縁、時に周辺石灰化を伴う像が特徴とされ、こうした所見を認める場合には、術前から涙石存在を想定した骨開窓位置の設定や涙嚢上極まで含めた十分な掻爬の計画が推奨されています。

一方、涙道造影や通水検査だけでは、粘膜肥厚・膜様閉塞と結石による閉塞を明確に鑑別できないことが多く、特に上方に位置する涙嚢内結石では術前診断が困難だったとする報告もあります。

この点で、涙道内視鏡は閉塞部位の直接観察と結石の視認・把持・搔爬を可能にするツールとして重要であり、涙嚢内の大きな結石を18Gあるいは16Gシースを用いて掻爬し、下鼻道へ排出させた症例など、内視鏡とシースを組み合わせた工夫が有用だった報告もあります。

鼻涙管結石の治療戦略と手術手技

鼻涙管結石症では、保存的治療のみで根治することはほぼ期待できず、結石の機械的除去を伴う外科的治療が基本となります。

具体的には、涙道内視鏡下での結石摘出とシリコーンチューブ留置、あるいは鼻内法もしくは皮膚切開法によるDCR(涙嚢鼻腔吻合術)と涙嚢内掻爬を組み合わせた術式が選択肢となり、結石の位置・大きさ・炎症の程度、既往歴、全身状態を考慮して術式を決定します。

DCRを行う際には、結石が涙嚢上極や鼻涙管入口部周囲に潜んでいることがあり、骨窓を十分に高位に設定し、涙嚢全体、とくに上方 recess まで丹念に探索・掻爬することが推奨されます。

また、ほとんどの症例で結石周囲に膿性分泌や肉芽が存在することから、術前・術後の抗菌薬投与と、術中の十分な洗浄・排膿が合併症予防の観点で重要であり、内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)として耳鼻咽喉科が関与するケースも少なくありません。

鼻涙管結石と重篤な合併症(眼窩蜂窩織炎など)

鼻涙管結石が存在する涙道閉塞では、単純な慢性涙嚢炎だけでなく、涙嚢から眼窩内へ炎症が波及して眼窩蜂窩織炎を発症するリスクがあり、視力障害・眼球運動障害・頭蓋内合併症など重篤な経過をとりうる点に注意が必要です。

報告例では、高齢女性が鼻涙管内の涙石症に起因する鼻涙管閉塞を背景に急性眼窩蜂窩織炎を発症し、CTで涙嚢腫脹と周囲眼窩内炎症所見、鼻涙管内の石灰化病変が確認され、緊急の内視鏡下鼻副鼻腔手術と結石摘出により視機能障害なく回復したとされています。

このような症例では、眼窩蜂窩織炎としての対応(広域抗菌薬投与、入院管理、場合によりステロイドの慎重な併用など)に加え、原因病変である鼻涙管結石の迅速な除去が重要であり、眼科と耳鼻咽喉科の連携したチーム医療が予後を左右します。

眼窩内感染を疑うサイン(疼痛を伴う眼瞼腫脹、視力低下、眼球運動障害、発熱、白血球増多など)を認めた場合には、単なる涙嚢炎増悪と安易に判断せず、早期のCT評価と耳鼻咽喉科コンサルトをルーチンとして組み込んでおくことが実務上のポイントです。

鼻涙管結石の成分・発生機序と意外なリスク因子

鼻涙管結石の成分分析に関する総説では、涙石の中心部にデブリや線維性マトリックス、その周囲にムチン・脂質・細胞成分、さらに外層にはカルシウム塩を含む無機成分が層状に沈着していることが報告され、涙道内の慢性炎症と涙液組成の変化が複雑に関与していると考えられています。

特に、長期にわたる涙嚢炎・涙道炎、アレルギー性結膜炎などで粘稠な分泌物が持続する症例や、涙道手術後の不完全なドレナージ・肉芽形成などは、涙石形成のリスクを高める可能性が示唆されています。

意外な点として、真菌塊が石灰化して涙石様病変となった症例も報告されており、鼻副鼻腔真菌症などと同様に、CTで高濃度・石灰化を伴う病変を認めた場合には、細菌性だけでなく真菌性成分の関与も鑑別に含める必要があります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10795968/

さらに、涙道ステント長期留置や、局所薬剤(例:点眼ステロイド・粘稠なヒアルロン酸系点眼など)の長期使用が涙液の性状や局所の線毛機能に与える影響が、将来的な涙石形成にどの程度関与するかについては、現時点で十分に解明されておらず、今後の検討が期待される領域です。

鼻涙管結石症例での多職種連携と外来フォローの工夫

鼻涙管結石は頻度としては稀な病態ですが、流涙や慢性涙嚢炎として一般外来に受診する患者に紛れており、医師のみならず看護師・視能訓練士・コメディカルスタッフが「通常の涙道閉塞と何が違うのか」を共有しておくことで、早期拾い上げにつながります。

具体的には、「流涙の割に涙嚢部の硬結が目立つ」「圧迫で砂利感のある抵抗とともに分泌物が出る」「抗菌薬治療を繰り返しても改善しない」などの微妙なサインを外来看護師が観察・記録し、医師にフィードバックすることで、画像検査や涙道内視鏡のタイミングを逃さない工夫が可能です。

また、結石摘出やDCR後のフォローでは、再閉塞や再発防止の観点から、術後の点鼻・点眼アドヒアランス、鼻洗浄・創部ケアの実施状況、鼻副鼻腔疾患のコントロール状況などを確認し、耳鼻咽喉科との情報共有を継続することが重要です。

参考)疾患から診療科を探す(当院で診療可能な疾患か否かは、事前にお…

医療者側としては、患者説明の際に「石がたまって詰まるタイプの涙道閉塞である」という病態を平易な言葉で説明し、再発予防のための生活指導や症状再燃時の受診目安を具体的に示すことで、適切なタイミングでの再受診と重症化予防につなげることが求められます。

参考)Dacryolithiasis: Tear Stone Re…

涙道閉塞と涙嚢炎・眼窩蜂窩織炎の関係、鼻涙管閉塞症の基礎的な解説と治療方針の全体像(鼻涙管結石の背景病態の理解に有用)

Q:富山大学で開発した改良型内視鏡下涙嚢鼻腔吻合術―涙道閉塞

涙道閉塞症の診断とCBCT-DCGを含む画像診断、涙嚢結石症例を含む涙道内視鏡・DCRの戦略(画像所見と術式選択の参考)

涙道閉塞症の診断と治療 – Dental Radiology

涙石症と鼻涙管閉塞を契機とした眼窩蜂窩織炎症例の詳細な報告(鼻涙管結石と重篤な合併症リスクの理解に有用)

涙石症による鼻涙管閉塞を契機に発症した眼窩蜂窩織炎の1例