排胆薬一覧と催胆薬の違いと作用機序

排胆薬一覧と作用機序

排胆薬と催胆薬の基本
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排胆薬の定義

オッジ括約筋を弛緩させ、胆汁・膵液の十二指腸への排出を促進する薬剤

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催胆薬の定義

肝臓に作用して胆汁生成・分泌を促進する薬剤

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使用上の注意点

閉塞性黄疸、急性炎症時、高度肝障害例では禁忌

利胆薬は、胆汁の流れを改善して肝臓を保護する薬剤の総称です。これらは作用機序によって大きく「催胆薬」と「排胆薬」の2つに分類されます。催胆薬は肝臓に直接作用して胆汁の生成・分泌を促進するのに対し、排胆薬はオッジ括約筋(Oddi括約筋)を弛緩させて胆汁や膵液の十二指腸への排出を促進します。

胆道系疾患の治療において、これらの薬剤は重要な役割を果たしています。特に胆石症、胆のう炎、胆管炎、胆道ジスキネジーなどの疾患に対して効果を発揮します。適切な薬剤選択のためには、各薬剤の特性や作用機序を理解することが不可欠です。

排胆薬の種類と特徴一覧

排胆薬は、オッジ括約筋を弛緩させて胆汁・膵液の十二指腸への排出を促進する薬剤です。主な排胆薬とその特徴は以下の通りです。

  1. フロプロピオン(コスパノン)
    • 規格:錠40mg/80mg、カプセル40mg
    • 作用機序:COMT阻害による鎮痙作用と抗セロトニン作用
    • 適応症:胆道ジスキネジー、胆石症、胆のう炎、胆管炎、胆のう摘出後遺症、膵炎、尿路結石に伴う鎮痙効果
    • 特徴:特にオッジ筋の機能異常に有効
  2. トレピブトン(スパカール)
    • 規格:細粒10%、錠40mg
    • 作用機序:胆汁・膵液の分泌促進、消化管平滑筋の弛緩促進
    • 適応症:胆石症、胆のう炎、胆管炎、胆道ジスキネジー、胆のう切除後症候群に伴う鎮痙・利胆、慢性膵炎に伴う疼痛や胃腸症状の改善
    • 特徴:胆のう・胆管の内圧を低下させる効果がある
  3. パパベリン塩酸塩
    • 規格:注射剤
    • 作用機序:平滑筋直接弛緩作用
    • 適応症:胆道系の痙攣性疼痛
    • 特徴:非選択的な平滑筋弛緩作用を持つ

排胆薬は、胆嚢運動性排胆剤(Cholecystokinetic/Cholecystogogue)と非胆嚢運動性排胆剤(Noncholecystokinetic Cholecystogogue)に分類されることもあります。前者は胆嚢の収縮を促進し、後者はオッジ筋の弛緩により排胆を促進します。

催胆薬の種類と作用機序一覧

催胆薬は肝臓に作用して胆汁の生成・分泌を促進する薬剤です。さらに細かく分類すると、胆汁量を増加させる「水分催胆薬」と胆汁成分を増加させる「胆汁催胆薬」に分けられます。

水分催胆薬

  1. ウルソデオキシコール酸(ウルソ)
    • 規格:顆粒5%、錠50mg/100mg
    • 作用機序:胆汁分泌促進、肝細胞保護作用
    • 適応症:胆道系疾患、胆汁うっ滞を伴う肝疾患、慢性肝疾患、コレステロール系胆石の溶解など
    • 用法:胆道疾患、胆汁うっ滞を伴う肝疾患の利胆に対しては成人1回50mgを1日3回経口投与
  2. ケノデオキシコール酸(チノ)
    • 規格:カプセル125mg
    • 作用機序:コレステロール系胆石溶解、胆汁組成改善
    • 適応症:外殻石灰化を認めないコレステロール系胆石の溶解
    • 特徴:胆石溶解作用を持つ
  3. デヒドロコール酸
    • 規格:注射剤
    • 作用機序:水分催胆作用
    • 特徴:水利胆剤に分類される

胆汁催胆薬

  1. ウコン(クルクマ)製剤
    • 主成分:クルクミン
    • 作用機序:胆汁成分分泌促進
    • 用法:1.5〜2.5g、9〜12錠、5〜10ml
  2. アネトールトリチオン(フェルビテン)
    • 規格:1錠12.5mg
    • 用法:6錠/日
    • 作用機序:胆汁成分分泌促進

催胆薬は胆道内圧を上昇させる作用があるため、閉塞性黄疸、急性炎症時、高度肝障害例では禁忌となります。特にウルソデオキシコール酸は劇症肝炎患者には投与禁忌です。

排胆薬と催胆薬の違いと使い分け

排胆薬と催胆薬は、作用部位と作用機序が異なるため、臨床現場では症状や病態に応じて使い分けられています。

作用部位の違い

  • 催胆薬:肝臓に作用
  • 排胆薬:胆のう・胆管(特にオッジ括約筋)に作用

作用機序の違い

  • 催胆薬:胆汁の生成・分泌を促進
  • 排胆薬:胆汁の排出を促進

適応疾患の違い

  • 催胆薬:胆汁うっ滞を伴う肝疾患、慢性肝疾患、コレステロール系胆石など
  • 排胆薬:胆道ジスキネジー、胆石症、胆のう炎、胆管炎、胆のう摘出後遺症など

使い分けのポイント

  1. 胆汁生成に問題がある場合→催胆薬
  2. 胆汁排出に問題がある場合→排胆薬
  3. 両方に問題がある場合→併用療法

例えば、胆石症の患者で胆汁うっ滞も認められる場合は、ウルソデオキシコール酸(催胆薬)とフロプロピオン(排胆薬)の併用が考慮されることがあります。

排胆薬の臨床応用と注意点

排胆薬は様々な胆道系疾患の治療に用いられますが、その使用には以下のような注意点があります。

主な臨床応用

  1. 胆石症:胆石による疼痛緩和
  2. 胆のう炎・胆管炎:炎症に伴う疼痛緩和
  3. 胆道ジスキネジー:機能異常の改善
  4. 胆のう摘出後症候群:残存症状の緩和
  5. 慢性膵炎:膵液排出促進による症状改善

使用上の注意点

  1. 禁忌
    • 閉塞性黄疸患者(胆道内圧をさらに上昇させるリスク)
    • 急性胆のう炎・胆管炎の急性期(症状悪化のリスク)
    • 重篤な肝障害患者(肝機能悪化のリスク)
  2. 妊婦への投与
    • 妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましい
  3. 副作用
    • 消化器症状(下痢、便秘、腹部膨満感など)
    • ウルソデオキシコール酸では間質性肺炎の報告あり
  4. 相互作用
    • ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸はスルフォニル尿素系経口糖尿病薬の血糖降下作用を増強する可能性

適切な排胆薬の選択と用量調整は、患者の症状や病態、合併症、併用薬などを考慮して行う必要があります。

排胆薬の最新研究と今後の展望

排胆薬の分野では、より効果的で副作用の少ない薬剤の開発や、既存薬の新たな適応症の探索が進められています。

最新の研究動向

  1. 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)への応用
    • ウルソデオキシコール酸などの肝庇護薬がNASH治療に有用であるという報告が増えています。肝臓の脂肪化や炎症を抑制する効果が注目されています。
  2. 胆汁逆流性胃炎への応用
    • ドイツではウルソデオキシコール酸が胆汁逆流性胃炎に対して適応を持っています。日本でも今後、適応拡大の可能性があります。
  3. 自己免疫性肝炎や薬剤性肝障害への応用
    • ウルソデオキシコール酸は、自己免疫性肝炎や薬剤性肝障害の治療にも用いられることがあります。抗炎症作用や免疫調節作用が注目されています。
  4. 新規排胆薬の開発
    • より選択性の高いオッジ括約筋弛緩薬の開発が進められています。副作用の軽減と効果の増強が期待されています。

今後の展望

  1. 個別化医療への応用
    • 患者の遺伝的背景や病態に応じた排胆薬の選択が可能になると予想されます。
  2. 新規配合剤の開発
    • 催胆薬と排胆薬の最適な組み合わせによる配合剤の開発が期待されます。
  3. デリバリーシステムの改良
    • 薬剤の胆道系への送達効率を高める新しい製剤技術の開発が進められています。
  4. バイオマーカーの開発
    • 排胆薬の効果予測や治療効果モニタリングのためのバイオマーカー開発が進んでいます。

排胆薬は、胆道系疾患の治療において重要な役割を果たしていますが、その作用機序や適応症に関する理解はまだ発展途上です。今後の研究により、より効果的で安全な治療法の確立が期待されます。

胆道系疾患は患者のQOLに大きく影響するため、適切な薬物療法の選択は非常に重要です。排胆薬と催胆薬の特性を理解し、患者の病態に応じた最適な治療法を選択することが、臨床現場では求められています。

胆道系疾患の治療に関するより詳細な情報は、日本消化器病学会のガイドラインを参照することをお勧めします。

日本消化器病学会ガイドライン – 胆道系疾患の診療ガイドラインが掲載されています

また、薬剤の詳細な情報については、最新の添付文書や医薬品インタビューフォームを確認することが重要です。排胆薬と催胆薬の適切な使用により、患者の症状改善と疾患の進行抑制が期待できます。