ハイリスク一覧
ハイリスク薬剤の種類と管理要点
医療現場において特に注意を要するハイリスク薬剤は、診療報酬算定上11の薬効分類が定められている。これらの薬剤は投与時の厳格な管理と継続的なモニタリングが必要となる。
参考)ハイリスク薬とは?一覧と加算の算定要件・服薬指導のポイントを…
最も重要なハイリスク薬剤として抗悪性腫瘍剤が筆頭に挙げられる。がん治療においては投与量、投与間隔、併用禁忌薬の確認が生命に直結するためである。次に血液凝固阻止剤では、出血リスクと血栓リスクのバランス調整が重要となる。
参考)https://pod.ncc.go.jp/jp/ncch/division/pharmacy/040/formulary/docs/high-risk.pdf
免疫抑制剤、不整脈用剤、抗てんかん剤についてはTDM(治療薬物モニタリング)対象薬剤を含み、血中濃度の定期的測定が必要である。特に治療有効域が狭く、中毒域と有効域が接近している薬剤では、個人差を考慮した投与設計が不可欠となる。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/summary/4167
糖尿病用剤と膵臓ホルモン剤では低血糖リスクの評価が重要で、患者の腎機能や食事摂取状況を継続的にモニタリングする必要がある。精神神経用剤においては錐体外路症状、眠気、体重増加などの副作用に注意を要する。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001qswh-att/2r9852000001qts5.pdf
ハイリスク疾患における重症化要因
基礎疾患を有する患者は感染症や医療介入において重症化リスクが高まることが知られている。特に高齢者は最も重要な重症化リスク因子となっており、新型コロナウイルス感染症では死亡者の8割が65歳以上を占める。
糖尿病と高血圧の併存は特にハイリスク状態を形成する。糖尿病患者の40-60%が高血圧を併発し、これは非糖尿病患者の約2倍の頻度である。両疾患の併存により心血管イベントの発症率は2-3倍増加し、糖尿病性腎症の進行も著しく促進される。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/57/7/57_492/_pdf/-char/ja
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病、悪性腫瘍を有する患者では、免疫機能の低下や臓器予備能の減少により重篤な合併症を来しやすい。また肥満、喫煙は独立した重症化リスク因子として認識されている。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000823697.pdf
循環器疾患のリスク層別化においては、糖尿病があるだけで高リスク群に分類され、二次予防に相当するハイリスク状態とみなされる。特に糖尿病性腎症を併発すると死亡リスクが一層高まることが示されている。
ハイリスク患者群の特性と対応
医療機関では特定の患者群をハイリスクとして分類し、より慎重な医療提供を行う必要がある。手術を受けるハイリスク患者では、生活習慣病、中枢神経疾患、循環器疾患、呼吸器疾患、高度肥満などの術前合併症により周術期管理が複雑化する。
ハイリスク妊娠では母体または胎児・新生児に異常が発生する危険性が高く、妊娠前からの既存リスクと妊娠中に生じるリスクの両方への対応が必要となる。基礎疾患を有する妊婦では専門診療科との連携が不可欠である。
参考)https://www.bumrungrad.com/jp/conditions/high-risk-pregnancy
感染症におけるハイリスクグループでは、高齢者と基礎疾患保有者が重点管理対象となる。新型コロナウイルス感染症では、糖尿病・心不全・透析等の基礎疾患、免疫抑制剤や抗がん剤使用、妊婦がハイリスク者として特別な注意が必要とされる。
参考)https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei/2009/06/dl/info0602-01b.pdf
医療機関では、ハイリスク者が入院する病棟への面会制限、待機的入院の延期検討、専用エリアでの管理など、院内感染拡大防止策の徹底が求められる。
ハイリスク管理における医療連携体制
ハイリスク患者の管理では多職種連携による包括的アプローチが不可欠である。手術におけるハイリスク患者では、麻酔科医が各診療科との橋渡し役となり、必要に応じて薬物治療の依頼や手術延期の提案を行う。
集中治療室(ICU)管理では、麻酔科医が術前・術中・術後の一貫した管理を提供することで治療成績の向上を図っている。術後合併症に対しても全科協力による集学的治療が可能となる体制構築が重要である。
薬剤管理指導においては、ハイリスク薬使用患者に対して特定薬剤管理指導加算による手厚いフォローアップが診療報酬上も評価されている。薬剤師による服薬指導、副作用モニタリング、相互作用チェックが治療安全性向上に寄与している。
参考)ハイリスク薬とは?特定薬剤管理指導加算1を解説【令和6年(2…
健診後の医療機関受療では、重症化ハイリスク者に対する早期介入が循環器疾患の入院リスクや全死亡リスクの低下に寄与することが大規模疫学研究で示されている。健診事業と医療機関との連携強化が予防医学の観点からも重要性を増している。
参考)https://www.ncgm.go.jp/pressrelease/2023/files/20240126_01.pdf
ハイリスク評価における最新動向と課題
近年の診療報酬改定では、ハイリスク薬管理の重要性がより強調され、2024年度改定で特定薬剤管理指導加算の区分が細分化された。これにより薬剤師の専門性を活かしたハイリスク薬管理が更に推進されている。
参考)「薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイド…
人工知能(AI)を活用したリスク予測の研究も進展しており、多変量解析による重症化リスクスコアの開発が報告されている。5年間での大血管・細小血管合併症の発症予測精度向上により、より個別化された医療提供が期待される。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3631823/
ゲノム医学の発展により、薬物代謝酵素の遺伝子多型に基づいた個別化投与設計の重要性も増している。特に抗がん剤や免疫抑制剤では、遺伝子情報に基づいた投与量調整が治療効果と安全性の両立に寄与する可能性がある。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4644940/
しかし、ハイリスク管理の均てん化には地域格差、医療資源の偏在、医療従事者の専門性格差など多くの課題が残されている。特に高血圧と糖尿病の統合管理モデルの普及には、プライマリケア強化と専門医療機関との連携システム構築が急務となっている。