肺静脈と動脈血の循環機構
肺静脈に流れる動脈血の血液学的特徴
肺静脈に流れる動脈血は、肺胞でのガス交換により酸素飽和度が高い状態にあります 。動脈血の酸素分圧は約100mmHg、酸素飽和度は約98%となり、二酸化炭素分圧は約40mmHgまで低下します 。この数値は、肺胞内の酸素濃度と血液中の酸素濃度差による拡散現象の結果です 。
肺静脈血の酸素飽和度は肺動脈血と比較して著しく高く、健康な成人では肺動脈血の酸素飽和度約75%に対し、肺静脈血は約98%を示します 。この約23%の差は、肺胞毛細血管床での効率的なガス交換の証拠となっています。
参考)https://gifu-min.jp/midori/document/233/201909mebuki.pdf
血液中のヘモグロビンは、肺胞での酸素結合により酸化ヘモグロビンとなり、鮮紅色を呈します。この色調変化により、肺静脈血は静脈血でありながら動脈血の性質を持つという特殊な血液となります 。
参考)動脈血
肺静脈の解剖学的構造と血管特性
人体には通常4本の肺静脈が存在し、左右の肺から各2本ずつが左心房に流入します 。右上肺静脈、右下肺静脈、左上肺静脈、左下肺静脈という名称で呼ばれ、それぞれが独立して左心房後壁に開口しています。
参考)総肺静脈還流異常症
肺静脈の血管壁は動脈と比較して薄く、静脈としての構造的特徴を持ちながらも、動脈血を運搬するという機能的特殊性があります 。血管径は成人で約10-15mmであり、肺門から左心房まで比較的短い距離を走行します。
参考)看護師国試対策|心臓から出る血管、心臓に入る血管、動脈と静脈…
肺血管抵抗は体循環と比較して著しく低く、肺動脈圧は体血圧の1/5~1/10程度となっています 。これは肺血管の特殊な構築によるもので、効率的な血液循環を可能にしています。
肺循環におけるガス交換と血液浄化機構
肺胞での外呼吸は、毛細血管と肺胞間の0.2~0.25μmという極薄の血液ガス関門で行われます 。この微細な構造により、酸素と二酸化炭素の効率的な拡散が実現されています。
参考)ガス交換ってどんなもの?|ガス交換に関するQ&A(1)
静脈血が肺胞毛細血管を通過する際、酸素分圧勾配により酸素が血液中に溶解し、同時に二酸化炭素が肺胞内に放出されます 。この過程は約0.25秒という短時間で完了し、肺循環全体の循環時間は約4秒となっています 。
肺胞での内呼吸と対比して、全身組織での内呼吸では逆の現象が起こります 。細胞レベルでの酸素消費と二酸化炭素産生により、動脈血は静脈血へと変化し、再び肺循環での浄化を必要とする循環が成立します。
参考)肺循環と体循環の違いは?
肺静脈還流異常症による動脈血循環障害
総肺静脈還流異常症(TAPVC)では、4本の肺静脈すべてが左心房ではなく体静脈系に還流する先天性疾患です 。この異常により、酸素化された動脈血が右心系に還流し、全身への酸素供給が著しく低下します。
参考)総肺静脈還流異常症(TAPVD:Total Anomalou…
還流異常の分類には上心臓型、心臓型、下心臓型、混合型があり、それぞれ肺静脈の接続部位が異なります 。上心臓型では上大静脈への還流、心臓型では右心房への直接還流、下心臓型では門脈系への還流が特徴的です。
参考)総肺静脈還流異常症(TAPVC)|小児心臓外科|小児循環器・…
肺静脈狭窄を合併する場合、肺うっ血が急速に進行し、生後すぐの緊急手術が必要となります 。狭窄部位でのステント留置術は、低侵襲治療として注目されていますが、再狭窄率の高さが課題となっています 。
参考)総肺静脈還流異常症|病気と手術について|病気と手術について|…
肺静脈血流動態と心血管系への影響評価
肺静脈血流は心周期と密接に関連し、心房収縮期には逆流を防ぐメカニズムが働きます。左心房圧の上昇は肺静脈圧にも影響を与え、肺高血圧症の原因となる場合があります 。
参考)肺高血圧症|病気について|循環器病について知る|患者の皆様へ…
肺血管抵抗の増加は右心室への負荷増大を招き、右心不全の進行につながります 。平均肺動脈圧が25mmHg以上(近年20mmHgに変更予定)で肺高血圧症と診断され、早期介入が重要となります。
術中モニタリングでは、肺葉切除前後の末梢動脈血と肺静脈血の酸素分圧測定が行われ、肺機能評価の指標として活用されています 。この測定により、残存肺機能の予測と術後管理方針の決定が可能となります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/7fa020c273288968dea81624807b3b53c07ffafc