グラム陽性菌の一覧と分類について

グラム陽性菌の一覧と分類

グラム陽性菌の主要分類
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グラム陽性球菌

ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌などが含まれる

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グラム陽性桿菌

バシラス属、クロストリジウム属、リステリア属などが含まれる

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分類系統

フィルミクテス門と放線菌門に主に分類される

グラム陽性球菌の主要な種類と特徴

グラム陽性球菌は臨床的に最も重要な細菌群の一つであり、形態学的特徴により大きく分類される。この分類において、ブドウ球菌(Staphylococcus)は直径約1μmの球形細菌で、ブドウ房状の集塊を形成することが特徴的である。

参考)グラム陽性菌、グラム陰性菌にはどのような菌が含まれますか? …

ブドウ球菌属の中で最も病原性が高いのは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)である。この菌はコアグラーゼ陽性であり、皮膚や粘膜に常在しながらも重篤な感染症を引き起こす可能性がある。一方、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)をはじめとするコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は、通常は非病原性とされるが、免疫不全患者や医療機器関連感染症の原因となることもある。

参考)https://www.chiringi.or.jp/camt/wp-content/uploads/2013/12/f8ed4772bb777d91adf9f0e82a636238.pdf

レンサ球菌属(Streptococcus)は連鎖状に配列する球菌で、カタラーゼ陰性であることがブドウ球菌との鑑別点となる。代表的な菌種には、A群レンサ球菌(S. pyogenes)、B群レンサ球菌(S. agalactiae)、肺炎球菌(S. pneumoniae)が含まれる。A群レンサ球菌は劇症型レンサ球菌感染症の原因菌として近年注目されており、1980年代から現在まで発症例・死亡例が相次いでいる。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/2c3e07890118cd7c7ffba638eb4e4f152cd951bc

肺炎球菌は双球菌の形態を示し、肺炎や髄膜炎などの重篤な感染症の原因となる。腸球菌(Enterococcus)属は、消化器外科領域でしばしば問題となる薬剤耐性菌として知られており、特にバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は院内感染対策上重要な位置を占める。

参考)グラム染色で細菌を分類する方法とその原理|(株)愛研|水質や…

グラム陽性桿菌の分類と病原性

グラム陽性桿菌は芽胞形成能により有芽胞桿菌無芽胞桿菌に大別される。有芽胞桿菌の代表格であるバシラス属(Bacillus)は、好気性環境で生育し、環境抵抗性の高い芽胞を形成する特徴を持つ。

参考)【グラム陽性桿菌について】

バシラス属の中で最も病原性が高いのは炭疽菌(B. anthracis)である。この菌は人獣共通感染症である炭疽を引き起こし、主として皮膚感染の形をとるが、吸入による肺炭疽は致命的となることがある。また、セレウス菌(B. cereus)は食中毒の原因菌として知られ、血液培養で検出された際には強い溶血性を示すことが鑑別の手がかりとなる。

参考)https://www.microbio.med.saga-u.ac.jp/Lecture/kohashi-sb1/part3/

クロストリジウム属(Clostridium)は偏性嫌気性の有芽胞桿菌群で、ウェルシュ菌(C. perfringens)やディフィシル菌(C. difficile)が代表的である。これらの菌は嫌気性環境でのみ生育するため、嫌気ボトルでの培養が必要となる。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/587ccf466965b885f7311d18807f00e47ebd4876

無芽胞桿菌群にはリステリア属(Listeria)が含まれ、特にL. monocytogenesは人畜共通感染症であるリステリア症の原因菌として重要である。この菌は0.5~2μmの短桿菌で、20~25℃で活発な運動性を示し、低温や高塩濃度環境でも増殖可能という特異な性質を持つ。リステリア菌は通性細胞内寄生性細菌として、マクロファージ内でも増殖可能であり、特に妊婦や免疫不全患者では重篤な感染症を引き起こす。

参考)リステリア属(Listeria)

グラム陽性菌の細胞壁構造と染色特性

グラム陽性菌の最大の特徴は、その厚いペプチドグリカン層にある。この細胞壁構造は、グラム陰性菌の薄いペプチドグリカン層とは対照的で、厚さが20~80nmに達することもある。ペプチドグリカン層には、タイコ酸(teichoic acid)とリポタイコ酸(lipoteichoic acid)が存在し、これらがキレート因子としての役割を果たすとともに、細胞壁に粘着性を付与している。

参考)グラム陽性菌 – Wikipedia

グラム染色においては、この厚いペプチドグリカン層がエタノールによる脱色に抵抗し、最初に染色されたクリスタルバイオレットの紫色を保持する。一方、グラム陰性菌では薄いペプチドグリカン層のため、クリスタルバイオレットが容易に脱色され、対比染色のサフラニンによる赤色が強く現れる。

参考)http://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-2_23.pdf

グラム陽性菌の細胞表層構造は、化学物質に対する感受性にも影響を与える。一般的に、グラム陽性菌は外膜を持たないため、抗菌薬や消毒剤などの化学物質に対してグラム陰性菌よりも感受性が高いとされる。しかし、芽胞形成菌では芽胞状態において極めて高い抵抗性を示すため、滅菌や消毒において特別な配慮が必要となる。

参考)グラム陽性菌と陰性菌の特徴ー化学物質に対する耐性の違い

系統分類学的には、多くのグラム陽性菌はフィルミクテス門(Firmicutes)と放線菌門(Actinobacteria)に分類される。フィルミクテス門の名称は、ラテン語の「強固な」を意味するfirmisと「皮膚」を意味するcutisの合成語であり、グラム陽性菌の厚い細胞壁構造を表している。

参考)ファーミキューテス(firmicutes)|用語集|腸内細菌…

臨床における抗菌薬感受性パターン

グラム陽性菌に対する抗菌薬選択は、菌種と薬剤耐性パターンにより大きく異なる。ブドウ球菌感染症では、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)とメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の鑑別が治療選択の分岐点となる。MSSAに対しては第1~2世代セフェム系薬が第一選択となる一方、MRSAに対してはバンコマイシン、リネゾリドダプトマイシン、アルベカシンが選択される。

参考)https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM1012_03.pdf

レンサ球菌群では、β-ラクタム系薬に対する感受性が比較的良好に保たれているが、近年では軽度耐性株の出現が報告されている。特にB群レンサ球菌では、菌分裂時の隔壁合成酵素(PBP2X)をコードする遺伝子(pbp2x)に変異が生じた株が確認されており、将来的にはβ-ラクタム系薬の抗菌力低下が懸念される。

参考)β溶血性レンサ球菌とは; 7. 抗菌薬感受性: 厚生労働科学…

グラム陽性嫌気性球菌群(GPAC)は、通常の嫌気性菌感染症治療薬を含む多くの抗菌薬に感受性が高いとされる。カルバペネム系薬(イミペネムメロペネム)に対しては極めて良好な感受性を示し、グリコペプチド系薬(バンコマイシン、テイコプラニン)にも感受性がある。しかし、ペニシリン系薬とクリンダマイシンに対しては耐性株の存在が報告されており、特にF. magnaではペニシリン耐性率12.6~13.6%、クリンダマイシン耐性率6.7~21.8%という数値が示されている。

グラム陽性菌による感染症の臨床的特徴

グラム陽性菌感染症の臨床像は菌種により大きく異なる。血液疾患患者における細菌性血流感染の解析では、グラム陽性菌は全体の13.5~21.0%を占め、主要な病原菌として金黄色葡萄球菌、表皮葡萄球菌、屎腸球菌が挙げられる。これらの患者では、86.9%が悪性血液疾患を有し、76.7%が粒細胞欠乏期にあることが特徴的である。
消化器外科領域では、グラム陽性球菌感染症の増加傾向が認められており、特に黄色ブドウ球菌と腸球菌による感染が問題となっている。術後感染症における原因菌の変遷として、従来のグラム陰性桿菌優位からグラム陽性球菌の占める割合が増加している傾向がある。

参考)https://www.semanticscholar.org/paper/8967e6995e11b1c2855fdeb75d2322fa262a7b56

リステリア症は人畜共通感染症として、特に妊婦、新生児、高齢者、免疫不全患者において重篤な症状を呈する。感染経路は主に汚染された食品の摂取によるもので、4℃以下の低温や12%食塩濃度下でも増殖可能なため、冷蔵保存された食品でも感染源となりうる。
炭疽は主として皮膚感染の形をとり、露出部の手、腕、頭部などの創傷から菌や芽胞が侵入して悪性膿疱を形成する。重症例では全身への播種により死亡例も報告されており、特に吸入による肺炭疽は致命率が高いことで知られている。