ゴニオメーター使い方と膝関節可動域測定法

ゴニオメーター使い方と膝

膝のROM測定を「再現性高く」行う要点
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軸合わせは「ランドマーク→線→角度」

まず触診で目印(外側上顆・腓骨頭・外果)を押さえ、基本軸・移動軸の“線”を作ってから読み取るとズレが減ります。

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肢位で誤差が決まる

膝屈曲は股関節屈曲位で代償と筋緊張の影響を整理し、伸展は骨盤・股関節の代償を先に固定します。

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記録は5°刻み+条件を書く

角度だけでなく、疼痛・代償・他動/自動・測定者・ゴニオメーター種類まで残すと、経過で意味のある比較ができます。

ゴニオメーター使い方と膝関節の基本軸・移動軸(ランドマーク)

 

膝関節のROM(関節可動域)測定で最初に決めるべきは、ゴニオメーターの「中心(軸)」と「基本軸」「移動軸」をどこに合わせるかです。膝は皮下脂肪や筋量、腫脹で目印が曖昧になりやすいため、“なんとなく当てる”ほど測定値が散ります。上位の解説でも、ランドマークへ合わせて角度を読むことが基本として強調されています。

膝関節(屈曲・伸展)の測定では、基本軸を大腿骨、移動軸を腓骨(腓骨頭と外果を結ぶ線)に置く方法が示されています。

参考)ゴニオメーターの使い方

臨床では「腓骨頭→外果」ラインを意識すると、脛骨粗面や脛骨前縁よりもブレが少ないことが多いです(脛骨前縁は軟部組織の影響を受けやすい)。特に装具・テーピング・腫脹がある患者では、触れやすい骨性指標(腓骨頭、外果)から線を取る発想が役立ちます。

測定の実務では、次の順でズレを減らせます。

  • ①触診:外側上顆(または外側顆付近の回転中心)、腓骨頭、外果を確認する。​
  • ②線を作る:大腿側は“大腿骨に沿う”意識、下腿側は“腓骨頭—外果”の直線を優先する。​
  • ③最後に中心を置く:中心(回転軸)を外側上顆付近に置き、アームが線に乗っているか再確認する。​

ゴニオメーター使い方と膝屈曲ROM(股関節屈曲位・代償)

膝屈曲ROMは、膝だけを曲げているつもりでも、股関節や骨盤の動き(代償)で角度が増えたように見えることがあるため、「肢位の固定」が品質を左右します。膝関節屈曲は股関節屈曲位で行う、と測定法の説明に明記されています。

これは、股関節伸展位のまま膝を曲げようとすると、前面の軟部組織の張力や骨盤の動きが入り、真の膝屈曲として比較しづらくなるためです。

臨床での“あるある”の誤差要因は、膝屈曲終末域で起きる次の現象です。

  • 臀部が浮く(骨盤後傾・体幹屈曲が混ざる)
  • 股関節が伸展位に戻る/外転外旋が混ざる
  • 下腿が回旋し、腓骨頭の位置関係が変わる(アームの当たりがズレる)

上位の実務記事でも、多関節筋が関与する運動では正しい肢位で測定しないと正確な数値が得られないこと、膝屈曲では股関節肢位の確認が重要と述べられています。

参考)ゴニオメーターの正しい測定方法とは?よくある悩みと解決策を徹…

そのため、膝屈曲の測定では「曲げる」より前に、固定と観察の段取りを作るのが安全です。

  • ッド上で背臥位、股関節屈曲位を作ってから膝屈曲へ誘導する。​
  • 終末域で“角度を取りに行く”より、代償が出た瞬間を見逃さず、そこで止めて読む。​
  • 疼痛が強い場合は角度を押し切らず、記録にpain等を残して再現性を優先する(経過比較で重要)。​

意外に見落とされがちなのが「アームの長さ」です。膝のようにレバーアームが長い関節では、短い角度計だと軸の位置が少しズレただけで読み取りが大きく変わりやすく、長いアームのゴニオメーターが推奨されています。

ゴニオメーター使い方と膝伸展ROM(0°・反張膝・痛み)

膝伸展は「0°」をどう扱うかで臨床判断が変わります。一般的な測定法では、膝伸展の参考可動域を0°とし、屈曲は130°と示されています。

この「0°」は、経過中の変化(伸展制限の改善や反張傾向)を拾う基準点なので、毎回同じ条件で測ることが重要です。

伸展で誤差が出やすいポイントは、見た目が“まっすぐ”でも、実際には骨盤前傾・股関節回旋・足関節肢位などが混ざっていることです。測定者が違うと、患者の「楽な肢位」を許容する範囲が変わり、同じ患者でも0°が-5°にも+5°にも見えてしまうことがあります。だからこそ、基本軸・移動軸を毎回同じ線に揃えるという原則に戻るのが有効です。

反張膝(過伸展)の評価では、ROMの“プラス方向”が臨床的に意味を持ちますが、目視だけでは誤差が大きくなりがちです。膝角度測定の方法比較では、膝角度評価において短いゴニオメーターや目視推定は精度が低くなりうる一方、長いアームやデジタル機器の方が最小有意差が小さい(変化を検出しやすい)ことが示されています。

つまり、反張膝のように「数度の差」が臨床判断に影響しやすい場面ほど、測定器具と手順の標準化が効いてきます。

実務の工夫としては次が有効です。

  • 伸展は「膝窩を押し付ける」より、膝蓋骨周囲の緊張や大腿四頭筋の過収縮が起きていないかを先に確認する。
  • 外果の位置が変わると移動軸がズレるため、下腿遠位の支持(タオル等)を一定にしてから読む。​
  • “最大伸展”を取りに行く場合は、他動か自動かを必ず記録に残す(比較可能性が上がる)。​

ゴニオメーター使い方と膝の測定誤差(再現性・5°刻み・器具選択)

膝ROMは、同じ測定者でも日によって数度ブレるのが現実です。だからこそ、手技の上手さ以前に「誤差の性質」を知っておくと、臨床での解釈が安全になります。膝角度測定の研究では、方法ごとに“最小有意差(これ以上差があれば変化とみなせる目安)”が異なり、デジタル機器6°、長いアームのゴニオメーター10°、スマホアプリ12°、短いゴニオメーターや目視推定は14°という結果が示されています。

この数字は「1〜2°単位の改善」を断言する危うさを示しており、臨床では“数度の変化”を語るときほど測定条件の一致が必須になります。

また、日本の測定の基準として、関節可動域は原則として5°刻みで表記すること、そして多関節筋が関与する場合はその影響を除いた肢位で測定することが解説されています。

5°刻みは粗いように見えて、実は臨床の誤差(測定者差・肢位差・器具差)を考えると合理的な落としどころです。

誤差を減らすための実務チェックリスト(入れ子なし)を用意すると、チームでの再現性が上がります。

  • ✅同じゴニオメーター(できれば長いアーム)を使う。​
  • ✅同じ体位(背臥位/座位など)と支持物(タオル、クッション位置)を使う。​
  • ✅ランドマークを「毎回同じ触り方」で探す(腓骨頭・外果・外側上顆)。​
  • ✅角度だけでなく、疼痛、代償、他動/自動、測定者を記録する。​

ゴニオメーター使い方と膝の独自視点:説明(患者指導)と感染対策・デジタル運用

検索上位の多くは「当て方・測り方」に集中しがちですが、現場で差が出るのは“患者への説明”と“運用設計”です。患者が緊張して大腿四頭筋が過剰収縮すると、屈曲終末域で痛みが増し、測定が早期に止まってしまうことがあります(結果として改善が頭打ちに見える)。そこで「今日は角度を競う日ではなく、前回と同じ条件で比べる日です」と最初に伝えるだけで、力みが減って再現性が上がることがあります(心理的安全性の確保)。

もう一点は感染対策です。膝角度測定の方法論文では、スマホを脚に直接当てて測る運用には“直接接触”が伴い、臨床現場では感染リスク面の注意が必要だと議論されています。

スマホやデジタル機器を使うなら、施設のルールに合わせて「清拭・カバー・患者接触面の管理」を先に決め、運用が破綻しない形に落とすのが現実的です。

さらに“意外な盲点”として、チームでROMを追うときは「同じ方法を使い続ける」ことが重要です。膝角度測定の研究でも、異なる方法を混ぜると比較の信頼性が落ちる可能性が示唆されています。

例えば、術後入院中は長いゴニオメーター、退院後外来は目測…のように変えると、改善・悪化の解釈が揺れます。最小有意差の考え方を踏まえ、最低でも「同じ器具」「同じ体位」「同じ記録ルール」に寄せると、数値が“臨床の意思決定に耐える情報”になります。

必要に応じて、根拠として次の論文を院内勉強会資料に引用できます(膝角度測定の精度と最小有意差の考え方が整理されています)。


単独行(参考リンク):膝角度測定の精度・最小有意差(短い角度計と目視の限界、長いゴニオメーターやデジタルの利点)Accuracy and reliability of knee goniometry methods (J Exp Orthop. 2018)
単独行(参考リンク):日本の基準に基づく膝関節ROMの基本軸・移動軸、参考可動域(屈曲130°・伸展0°)関節可動域の測定方法(股関節・膝関節・足関節・足部)
単独行(参考リンク):関節可動域測定の基準(5°刻み表記、多関節筋の影響を除いた肢位、器具選択の重要性)関節可動域の測定方法(概論)

アーテック(artec) ゴニオメーター 9724 透明