ギルテリチニブ添付文書における投与管理
強いCYP3A阻害剤との併用は避けるべきです。
ギルテリチニブの基本的な用法用量
ギルテリチニブフマル酸塩(商品名:ゾスパタ錠40mg)は、再発または難治性のFLT3遺伝子変異陽性急性骨髄性白血病(AML)の治療薬として2018年9月に承認されました。添付文書に記載された基本用法用量は、成人に対してギルテリチニブとして120mgを1日1回経口投与することとなっています。
投与タイミングは毎日ほぼ同じ時刻に服用することが推奨されます。臨床試験では、服用前1時間以上および服用後2時間以上は食事を避けるよう指導されていましたが、食事の影響試験において絶食下と食後での薬物動態に大きな差が認められなかったため、添付文書上は食事との関係について特別な制限は設けられていません。これは患者のアドヒアランス向上にもつながります。
患者の状態により適宜増減可能ですが、1日1回200mgを超えてはいけません。この上限設定は安全性プロファイルに基づいて慎重に決定されたものです。
通常3錠(120mg)での投与が基本です。
ギルテリチニブの用量調節基準と増量判断
4週間の投与により効果が見られない場合は、患者の状態を考慮した上で1日1回200mg(5錠)に増量することができます。この増量判断は、骨髄検査や血液学的検査結果、全身状態を総合的に評価して行う必要があります。効果判定には骨髄芽球の割合、末梢血所見、臨床症状の改善度などが指標となります。
200mgから減量する場合は1日1回120mg以下の用量とすることが添付文書で明記されています。つまり減量段階は通常投与量(120mg)、1段階減量(80mg)、2段階減量(40mg)という3つのレベルが設定されており、副作用の重症度に応じて適切な用量を選択します。
副作用発現時の休薬・減量・中止基準は症状別に詳細に定められています。たとえばQT間隔延長が500msecを超えた場合は、480msec以下またはベースラインに回復するまで休薬し、回復後は1段階減量して投与を再開できます。3週間以内に回復しない場合は中止を検討する必要があります。
段階的な用量調節が安全管理の鍵です。
PMDAの電子化添付文書では最新の用量調節基準を確認できます
ギルテリチニブ投与時の骨髄抑制管理
骨髄抑制はギルテリチニブの主要な副作用の一つであり、添付文書では重要な基本的注意として記載されています。臨床試験において、Grade3以上の骨髄抑制関連事象として貧血(40.7%)、血小板減少(22.8%)、好中球減少、発熱性好中球減少症などが高頻度で報告されています。
本剤投与開始前および投与中は定期的に血液検査を行い、患者の状態を十分に観察することが必須です。具体的には、白血球数、好中球数、ヘモグロビン値、血小板数を週1回程度モニタリングし、異常が認められた場合は速やかに対応します。骨髄抑制が顕著な場合は、感染症予防のための抗菌薬投与、輸血、G-CSF製剤の使用などの支持療法を併用します。
血小板数が25,000/μL未満に低下した場合や、Grade3以上の好中球減少が持続する場合には、休薬または減量を検討する必要があります。回復後の投与再開については、血球数がGrade2以下に改善してから判断することが望ましいとされています。
定期的な血液検査が患者安全を守ります。
特に投与開始初期の4週間は骨髄抑制が出現しやすい時期であり、より頻回なモニタリングと慎重な観察が求められます。患者や家族に対しても、発熱、出血傾向、感染徴候などの自覚症状について十分に説明し、異常時は速やかに連絡するよう指導することが重要です。
ギルテリチニブとQT延長のモニタリング体制
QT間隔延長はギルテリチニブの重大な副作用として添付文書に警告レベルで記載されています。臨床試験では11.6%の患者に心電図QT延長が認められ、一部では500msecを超える延長例も報告されました。このため投与開始前および投与中は定期的に心電図検査および電解質検査(カリウム、マグネシウム等)を実施することが必須となっています。
心電図モニタリングの頻度については、投与開始時、投与開始後1週間、2週間、4週間、その後は月1回程度が推奨されます。特にQT延長のリスク因子を持つ患者(先天性QT延長症候群、心疾患の既往、電解質異常、他のQT延長薬併用など)では、より頻回な観察が必要です。
電解質補正も重要な予防策です。低カリウム血症や低マグネシウム血症はQT延長を増悪させるため、投与前にこれらの電解質異常を是正し、投与中も定期的にモニタリングして正常範囲内に維持します。必要に応じてカリウム製剤やマグネシウム製剤を補充することで、QT延長のリスクを低減できます。
電解質管理がQT延長予防の基本です。
アステラスメディカルネットの副作用ナビゲーションではQT延長への対応が詳しく解説されています
QT間隔が500msecを超えた場合の対応は明確に定められており、480msec以下またはベースラインに回復するまで休薬し、回復後は1段階減量して投与再開を検討します。また、他のQT延長を引き起こす可能性のある薬剤との併用は避けるか、併用する場合は患者の状態を十分に観察する必要があります。
ギルテリチニブの薬物相互作用と併用注意薬剤
ギルテリチニブは主としてCYP3A4により代謝され、またP-糖タンパク質(P-gp)の基質でもあるため、これらを阻害または誘導する薬剤との相互作用に注意が必要です。添付文書では、強いCYP3A阻害作用およびP-gp阻害作用を有する薬剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシンなど)との併用は避けることが望ましいと記載されています。
これらの薬剤と併用すると、ギルテリチニブの血中濃度が著しく上昇し、副作用リスクが増大する可能性があります。臨床薬理試験では、強力なCYP3A阻害剤との併用によりギルテリチニブの曝露量が約2~3倍に増加することが示されており、用量調節なしでの併用は危険です。
一方、強いCYP3A誘導剤(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトインなど)との併用では、ギルテリチニブの血中濃度が低下し、治療効果が減弱する可能性があります。このような薬剤を併用している患者では、代替薬への変更を検討するか、やむを得ず併用する場合は治療効果のモニタリングを強化する必要があります。
CYP3A阻害剤との併用は慎重判断が原則です。
ゾスパタの薬物相互作用と安全性に関する詳細情報はメーカー提供資料で確認できます
抗真菌薬の使用については特に注意が必要です。AML治療では感染症予防・治療のためにアゾール系抗真菌薬が頻用されますが、これらの多くは強力なCYP3A阻害作用を持ちます。フルコナゾールは比較的CYP3A阻害作用が弱いため選択肢となりますが、それでも慎重な観察が求められます。イトラコナゾールやボリコナゾールの併用が必要な場合は、ギルテリチニブの減量や休薬を考慮し、副作用モニタリングを強化します。
ギルテリチニブ投与前のFLT3遺伝子変異検査の重要性
ギルテリチニブを投与するには、十分な経験を有する病理医または検査施設における検査により、FLT3遺伝子変異陽性が確認された患者に投与することが添付文書で明記されています。検査にあたっては、承認された体外診断用医薬品(コンパニオン診断薬)を用いることが必須です。
現在、日本では「リューコストラットCDx FLT3変異検査」が承認されており、再発または難治性AMLの骨髄液または末梢血の検体を用いて、FLT3-ITD変異およびFLT3-TKD変異を検出します。この検査により適切な患者選択を行うことで、ギルテリチニブの治療効果を最大化できます。
FLT3遺伝子変異は日本人AML患者の約25~30%に認められ、特に正常核型AMLで多いことが知られています。FLT3遺伝子変異陽性AMLは予後不良因子とされていますが、ギルテリチニブなどのFLT3阻害剤により治療成績の改善が期待できます。国際共同第3相試験(ADMIRAL試験)では、ギルテリチニブ投与群の全生存期間中央値が9.3カ月と、救援化学療法群の5.6カ月と比較して有意に延長しました。
コンパニオン診断薬による確認が必須です。
投与前検査では、FLT3遺伝子変異の有無だけでなく、変異のタイプ(ITD変異かTKD変異か)や変異アレル比率なども確認されます。これらの情報は治療効果予測や予後判定にも有用であり、治療戦略の決定に役立てられます。検査結果が陰性であった場合は、ギルテリチニブの適応とならないため、他の治療選択肢を検討することになります。