下痢止め処方薬の強さと比較:ロペミン・フェロベリン・アドソルビンの作用機序と使い分け

下痢止め処方薬の強さと比較
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最強の運動抑制

ロペミン(ロペラミド)はオピオイド受容体に作用し、強力に蠕動運動を止めますが、感染性下痢への使用は禁忌です。

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生薬と収斂の合剤

フェロベリンはベルベリンの殺菌・蠕動抑制作用と、ゲンノショウコの収斂作用を併せ持つ、バランスの良い中間的な薬剤です。

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吸着作用の注意点

アドソルビンなどの吸着剤は、有害物質だけでなく、併用したロペラミドや抗菌薬まで吸着し効果を減弱させるリスクがあります。

下痢止め処方薬の強さと比較

臨床現場において、下痢(diarrhea)は最も一般的な主訴の一つですが、その治療薬選択において「とりあえずロペミン」「とりあえずビオフェルミン」といったルーチンワークに陥ってはいないでしょうか。下痢止め(止瀉薬)の処方薬には、明確な「強さ」の序列と、作用機序に基づいた厳格な使い分けが存在します。患者のQOLを維持しつつ、重篤な副作用(イレウスや中毒性巨大結腸症)を回避するためには、各薬剤の特性を深く理解する必要があります。

ここでは、主要な止瀉薬を「強さ」「作用機序」「適応病態」の観点から比較し、添付文書には詳しく書かれていない薬学的視点や、検索上位の記事では触れられていない独自の情報も交えて解説します。

[最強の止瀉薬] ロペミン(ロペラミド)の強力な作用機序と副作用のリスク

 

処方薬の中で最も強力な下痢止めとして位置づけられるのが、ロペミン(一般名:ロペラミド塩酸塩)です。この薬剤の「強さ」は、その作用機序が麻薬性鎮痛薬(オピオイド)と類似していることに由来します。

ロペラミドは、腸管壁内の神経叢に存在するオピオイド受容体(主にμ受容体)に作用します。この結合により、アセチルコリンやプロスタグランジンなどの伝達物質の遊離が抑制され、腸管の蠕動運動が強力に抑制されます。さらに、腸管からの水分や電解質の吸収を促進する作用も併せ持っています。特筆すべきは、ロペラミドは血液脳関門(BBB)を通過しにくいため、中枢性の麻薬作用(鎮痛や多幸感)はほとんど示さず、末梢性の止瀉作用のみを選択的に発揮するという点です。

参考)止瀉薬(下痢止め)一覧・作用機序【ファーマシスタ】薬剤師専門…

しかし、この「強力な蠕動抑制作用」こそが、諸刃の剣となります。

  • 感染性下痢への禁忌: O157などのベロ毒素産生菌や、サルモネラ、赤痢菌などによる感染性腸炎に対してロペミンを使用すると、毒素や細菌の排出が遅延し、症状が悪化するばかりか、中毒性巨大結腸症や穿孔といった致死的な合併症を引き起こすリスクがあります。原則として、発や血便を伴う下痢には使用しません。

    参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1g17.pdf

  • イレウス(腸閉塞): 高齢者や小児においては、強力な作用により腸管麻痺やイレウスを誘発しやすいため、慎重な投与が必要です。特に便秘と下痢を繰り返す過敏性腸症候群(IBS)の患者に対しては、便秘フェーズでの誤服用を避ける指導が不可欠です。

臨床的な「強さ」のイメージとしては、ロペミン >> フェロベリン > タンナルビン ≒ アドソルビン という序列が一般的ですが、ロペミンはその強さゆえに「止めるべきではない下痢」を止めてしまうリスクがあることを常に念頭に置く必要があります。

[バランス型] フェロベリンとタンナルビンの収斂作用と使い分けのポイント

ロペミンほどの強力な強制力はないものの、中等度の下痢に対して広く処方されるのがフェロベリン配合錠と、タンナルビン(タンニン酸アルブミン)です。これらは主に「収斂(しゅうれん)」というメカニズムを利用しています。

フェロベリンは、以下の成分を配合した合剤であり、ユニークな立ち位置にあります。

参考)フェロベリンってどんな薬?効果や副作用、使い方や剤形について…

  1. ベルベリン塩化物水和物:キハダ(黄柏)から抽出される成分で、殺菌作用、腐敗発酵抑制作用、そして腸管の蠕動抑制作用を持ちます。
  2. ゲンノショウコエキス:日本の民間薬としても有名な生薬で、タンニンを多く含み、強力な収斂作用を示します。

この「収斂作用」とは、腸粘膜のタンパク質と結合して不溶性の被膜を形成し、炎症を起こした粘膜を保護・引き締める作用のことです。これにより、粘液の分泌を抑え、刺激に対する感受性を低下させることで下痢を鎮めます。フェロベリンは、細菌性の下痢(軽度)に対しても、ベルベリンの殺菌作用があるため、ロペミンよりは使いやすい側面がありますが、やはり重篤な感染症には不向きです。

一方、タンナルビンは、収斂作用を持つ「タンニン酸」を「アルブミン(タンパク質)」と結合させた薬剤です。通常のタンニン酸は胃で作用してしまい、胃障害を起こす可能性がありますが、タンナルビンは胃酸では分解されず、腸内のアルカリ性環境下で初めてタンニン酸を遊離するように設計されています。

参考)https://www.phamnote.com/2018/01/blog-post_14.html

この特性から、タンナルビンは小腸下部から大腸にかけてのマイルドな炎症抑制に適しており、小児の下痢や、ロペミンを使うほどではない慢性的な軟便によく用いられます。ただし、牛乳アレルギーの患者には禁忌(アルブミンが牛乳由来の場合があるため、製剤による確認が必要)である点や、鉄剤と併用すると難溶性のタンニン酸鉄となり効果が減弱する点に注意が必要です。

参考)https://www.yoshida-pharm.co.jp/files/interview/532.pdf

[吸着剤の罠] アドソルビンの強力な吸着力による薬物相互作用と注意点

アドソルビン(一般名:天然ケイ酸アルミニウム)は、物理的な作用機序を持つ止瀉薬です。その実体は、非常に微細な多孔質の粘土鉱物であり、広大な表面積を持っています。この表面に、腸内の過剰な水分、粘液、そして下痢の原因となる毒素や細菌を吸着し、便として排出させることで効果を発揮します。

参考)『アドソルビン』と『タンナルビン』、同じ下痢止めの違いは?~…

作用自体はマイルドであり、全身への吸収もほとんどないため、小児や妊婦にも比較的安全に使用できる点がメリットです。しかし、この「吸着作用」には医療従事者が見落としがちな大きな落とし穴があります。

それは、「併用薬まで吸着してしまう」という問題です。

アドソルビンは吸着の選択性が低いため、同時に服用した他の薬剤も吸着してしまい、その吸収を阻害する可能性があります。特に注意が必要なのは以下の薬剤との併用です。

  • ロペラミド(ロペミン)との併用: 重度の下痢に対して、異なる機序の薬剤を併用しようとしてロペミンとアドソルビンを同時に処方するケースが見られますが、アドソルビンがロペラミドを吸着してしまい、ロペミドの効果を減弱させる可能性があります。併用する場合は、服用時間を2時間以上ずらすなどの指導が推奨されます。

    参考)医療用医薬品 : ロペラミド塩酸塩 (相互作用情報)

  • ニューキノロン系抗菌薬: 感染性腸炎の治療として抗菌薬が処方される際、下痢止めとしてアドソルビンが追加されることがありますが、キノロン系薬の吸収を著しく低下させ、治療失敗につながる恐れがあります。

「安全な薬」というイメージが先行しがちですが、ポリファーマシー(多剤併用)の患者においては、アドソルビンが他の重要薬の血中濃度を下げていないか、疑いの目を持つことが重要です。

参考:医療用医薬品 : ロペラミド塩酸塩 (相互作用情報) – 併用注意における吸着剤の影響

[調整役] セレキノンの蠕動運動調節作用とIBS治療における独自性

単に「止める」だけではない、ユニークな作用を持つのがセレキノン(一般名:トリメブチンマレイン酸塩)です。この薬剤は、文字通りの「下痢止め」というよりも、「消化管運動調律薬」と呼ぶべき性質を持っています。

セレキノンは、消化管平滑筋のオピオイド受容体に対して、状況に応じた二面的な作用(アンビバレントな作用)を示します。

参考)過敏性腸症候群の原因・治療|大阪市天王寺駅徒歩1分の「天王寺…

  1. 運動亢進時(下痢): 腸の動きが活発すぎる場合は、抑制的に働きます(副交感神経終末のオピオイドμ/κ受容体に作用し、アセチルコリン遊離を抑制)。
  2. 運動低下時(便秘): 腸の動きが鈍い場合は、促進的に働きます(交感神経終末のα2受容体を介した抑制を解除、または直接平滑筋に作用)。

この「整える」作用により、セレキノンは下痢型だけでなく、便秘型や混合型の過敏性腸症候群(IBS)に対しても第一選択薬の一つとなります。強力に下痢を止める効果はロペミンに劣りますが、ロペミンのように「効きすぎて便秘になる」「腹部膨満感が出る」という副作用が少なく、長期的なコントロールに適しています。

また、類似薬としてポリフル(一般名:ポリカルボフィルカルシウム)がありますが、こちらは高分子ポリマーが水分を吸収してゲル化し、便の性状を整える(水様便の水分を吸い、硬い便には水分を与える)という物理的な機序であり、セレキノンとはアプローチが異なります。IBS治療においては、神経に作用するセレキノンと、便性状に作用するポリフルを、患者の主訴(腹痛メインか、便性状異常メインか)に合わせて使い分ける手腕が問われます。

[日本未承認の視点] 世界標準のエンケファリナーゼ阻害薬「ラセカドトリル」の可能性

最後に、日本の保険診療では使用できませんが、世界的には標準治療の一つとなっているラセカドトリル(Racecadotril、商品名Hidrasecなど)について触れておきます。これは、既存の日本の処方薬にはない、全く新しい視点を提供する薬剤です。

現在の日本の下痢止め(特にロペミン)は、「腸の動きを止める」ことで下痢を止めます。しかし、これは前述の通り、細菌やウイルスの排出を止めるリスクを伴います。

対してラセカドトリルは、「エンケファリナーゼ阻害薬」というカテゴリーに属します。腸管内で分泌される内因性オピオイド(エンケファリン)の分解酵素を阻害することで、エンケファリンの濃度を高め、「水分と電解質の過剰分泌」のみを抑制します(antisecretory drug)。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4305700/

重要なのは、ラセカドトリルは腸の蠕動運動(transit time)には影響を与えないという点です。つまり、悪いものを外に出す蠕動運動は維持したまま、下痢の主因である「水分の出し過ぎ」だけを止めることができます。このため、ロペミドと比較して、便秘や腹部膨満感のリスクが有意に低いことが複数のメタ解析で示されています。

特に小児の急性胃腸炎において、欧州のガイドラインでは推奨度が高い薬剤ですが、日本では未承認です(2025年現在)。なぜ日本で導入されていないのかについては議論がありますが、医療従事者としては、「腸を止めずに分泌を止める」という治療戦略が世界には存在することを知っておくべきです。外国人旅行者が持参薬として持っている場合や、将来的に導入された際に、既存の「ロペミン一強」の常識を覆す存在になる可能性があります。

参考:A blind, randomized comparison of racecadotril and loperamide for stopping acute diarrhea in adults (英語論文) – ロペラミドとの比較試験

以上、下痢止め処方薬を「強さ」「作用機序」「海外の視点」から比較しました。

「下痢止め」という一つのカテゴリーの中にも、神経に作用するもの、物理的に吸着するもの、タンパク質を変性させるもの、そして分泌のみを抑えるものと、多種多様なアプローチが存在します。

目の前の患者の下痢は、蠕動亢進によるものか、分泌亢進によるものか、あるいは炎症による滲出性のものか。

その病態生理を見極めた上で、漫然とロペミンを出すのではなく、最適な「強さ」と「機序」の薬剤を選択することこそが、プロフェッショナルとしての職能ではないでしょうか?

#単語リスト(確認用)

ロペミン、ロペラミド、フェロベリン、アドソルビン、タンナルビン、セレキノン、強さ、比較、作用機序、副作用、使い分け、吸着、収斂、蠕動運動、感染性、禁忌、ランキング


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