ゲノム編集のメリットとデメリット
ゲノム編集技術による革新的医療メリット
ゲノム編集技術は、従来の治療法では対処困難な遺伝性疾患に対して根本的な治療解決策を提供します 。CRISPR-Cas9をはじめとする技術により、DNA配列の狙った部分を正確に切断・修復することで、遺伝子レベルでの治療が可能となりました 。
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臨床応用において特に注目されるのは、血液疾患への治療効果です 。2023年にFDAが承認したCasgevyは、鎌状赤血球症とβサラセミアの患者に対して、患者自身の造血幹細胞を体外で遺伝子編集し体内に戻すことで、症状の劇的な改善を実現しています 。
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従来の対症療法とは異なり、ゲノム編集による治療は一度の処置で根治の可能性があります 。薬を投与し続ける必要がなく、特に難病疾患の克服に対する社会の期待は非常に高く、医療産業における新たな分野として急速な発展が期待されています 。
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ゲノム編集のオフターゲット効果と技術的デメリット
ゲノム編集技術の最大の懸念事項は、意図した遺伝子以外を誤って編集してしまうオフターゲット効果です 。狙った場所以外で変異を引き起こすリスクにより、がん化やその他の疾患を引き起こす可能性が指摘されています 。
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過去のマウス実験では多数の予測不能な変異が報告され、安全性が大きく懸念されました 。しかし、その後の複数の研究では解析手法の改善により、オフターゲット頻度は当初の懸念より遥かに低いという報告もなされており、正確なリスク評価は今なお続いています 。
さらに複雑な問題として、モザイク現象があります 。受精卵などを編集した際に、体内で編集された細胞と未編集の細胞が混在してしまう状態を指し、治療効果の低下や正確な評価を困難にします 。理化学研究所の報告によると、ゲノム編集で遺伝子の機能をオフにしたつもりが、細胞内で予期せぬ機能を持つ別のタンパク質が作られてしまう現象も発見されています 。
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ゲノム編集の倫理的課題と社会的デメリット
ゲノム編集技術の実用化において、最も深刻な課題の一つが倫理的問題です 。特にデザイナーベビーへの道を開く可能性があり、人間の自然な進化に手を加えることの是非について、倫理学者だけでなく多くの一般市民からも問題視されています 。
社会的不平等の拡大も大きな懸念材料です 。裕福な層のみがゲノム編集を利用することで新たな階層が形成され、遺伝的な差から偏見や差別が生まれる「遺伝的格差」の危険性が指摘されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jabedit/30/1/30_15/_pdf/-char/ja
日本学術会議は、人の生殖にゲノム編集技術を用いることについて、人の尊厳、優生思想や社会的差別、次世代への影響など看過できない問題が山積しており、倫理的正当性を認めることはできないとして、法規制の実現を提言しています 。医療格差の拡大により、個人の金銭的な裕福さが健康格差を深刻化させる恐れがあります 。
参考)提言「人の生殖にゲノム編集技術を用いることの倫理的正当性につ…
ゲノム編集の高額治療費と医療経済的デメリット
ゲノム編集治療の実用化における最も現実的な障壁の一つが、極めて高額な治療費です 。欧州で最初に承認された遺伝子治療は、約140万ドル(約1億4千万円)という高額な費用が設定されており、これは多くの患者にとって現実的でない金額です 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5363214/
単一の遺伝子治療の開発と承認に要する総コストは、1億ドルを超えると推定されています 。製造過程では高度に専門的な設備と厳格な製造制御が必要であり、グッドマニュファクチャリングプラクティス(GMP)適合施設の設置コストが禁止的な水準にあります 。
高額な治療費は医療保険制度にも大きな影響を与える可能性があります 。特定の遺伝的保因者が健康保険に加入できない、または他の加入者より高い保険料を課される事態も懸念されており、医療の商業化と自由診療の助長が危惧されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11197217/
ゲノム編集の将来性と新しい治療法の展開メリット
ゲノム編集技術は現在も急速に進歩しており、次世代技術の登場により更なる精密性と安全性の向上が期待されています 。ベースエディティングは、DNAの特定の塩基(A・T・C・G)を狙って置き換えることで、細かい遺伝子変異を修正できる技術として注目されています 。
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プライムエディティングは、DNAの特定の位置に「書き換え情報」を送り込むことで、より柔軟で広範な修復を可能とする技術で、いずれの方法でもDNAの二本鎖切断を入れないため、安全性が高くなると期待されています 。
エピゲノム編集と呼ばれる新しいアプローチでは、DNAの塩基配列そのものは変更せずに、遺伝子の発現(ON/OFF)を制御することで異常な遺伝子の働きを調整します 。比較的安全性が高い可能性がある新しいアプローチとして、前臨床や初期段階の研究が進められており、mRNAを活用した治療法も開発が進んでいます 。
ゲノム編集市場は、2025年に44億ドル、2032年には102億ドルに達すると予測されており、年間成長率12.8%という高い成長が見込まれています 。技術の進歩とともに遺伝的障害と癌の増加が、ゲノム編集市場の成長を促進しており、農業および産業バイオテクノロジー分野での応用拡大も期待されています 。