硝子体の濁りと加齢の関係

硝子体の濁りと加齢

この記事で分かること
👁️

加齢による硝子体の変化

20歳頃から始まる硝子体の濁りのメカニズムと生理的な変化について

⚠️

飛蚊症の原因と種類

生理的飛蚊症と病的飛蚊症の違い、危険なサインの見分け方

🏥

治療法と対処方法

レーザー治療から硝子体手術まで、症状に応じた治療選択肢

硝子体混濁とは何か

硝子体は眼球の内部を満たす無色透明なゼリー状の物質で、眼球の形を保ち、光を屈折させる重要な役割を担っています。この硝子体に何らかの原因で濁りが生じる状態を硝子体混濁と呼びます。外部から入った光は角膜、水晶体、硝子体を通過して網膜に到達しますが、硝子体が濁ると光が遮られ、その影が網膜に映り込むことで視覚症状が現れます。

参考)疾患から診療科を探す(当院で診療可能な疾患か否かは、事前にお…


硝子体混濁の主な症状として、虫が飛んでいるような黒い影が見える飛蚊症、ものがかすんで見える霧視、ものがゆがんで見える変視症、光がまぶしく感じる羞明などがあります。濁りの程度や範囲によって症状の現れ方は異なり、部分的な濁りであれば飛蚊症として自覚され、全体的に濁っている場合は視力低下や霧視といった症状を引き起こします。

参考)硝子体混濁の見え方は?飛蚊症との見え方の違いや硝子体手術につ…


診断には眼底検査やOCT検査(光干渉断層計)が用いられ、網膜の状態を詳しく調べることができます。混濁が強い場合、原因の特定が難しくなるため、早期の検査が重要です。

参考)硝子体混濁の見え方と治療法について

加齢に伴う硝子体の変化

通常、硝子体はゼリー状の物質で構成されていますが、20歳頃を過ぎると徐々に濁りが生じ始めます。40代になると、硝子体の組成が変化し、内部に液体がたまった小部屋のような空間ができる現象が起こります。この現象は「離水」と呼ばれ、加齢に伴う自然な変化です。

参考)飛蚊症とは – 飛蚊症の原因と治療について|東京都中野区 ふ…


さらに年齢を重ねると、液体のたまった空間はどんどん大きくなり、硝子体そのものは収縮していきます。60歳前後になると、硝子体の水分量が変化して萎縮し、網膜から硝子体が剥がれて隙間ができる「後部硝子体剥離」が起こりやすくなります。剥がれた硝子体の影が網膜に映り込み、飛蚊症として自覚されるのです。

参考)Vol.128 井上式!よくわかる目の病気事典「飛蚊症」


近視の人は眼球がラグビーボール状に長くなっているため、硝子体内部にできた空洞に線維などが集まりやすく、飛蚊症を引き起こしやすいという特徴があります。また、強度近視の方は硝子体が不安定なため、後部硝子体剥離が早めに発症する傾向があります。

参考)【後部硝子体剥離】輪っかが見える?飛蚊症との関係と網膜裂孔の…

硝子体の濁りによる飛蚊症の種類

飛蚊症には主に生理的飛蚊症、病的飛蚊症、生まれつきの飛蚊症の3つの種類が存在します。生理的飛蚊症は最も多く見られるタイプで、加齢による硝子体の自然な変化によって生じるため、基本的に治療は必要ありません。明るい場所で現れやすく、暗い場所では気にならないケースが多いのが特徴です。

参考)黒いものが飛ぶ 飛蚊症


病的飛蚊症は重大な眼の病気が隠れている可能性があり、注意が必要です。網膜裂孔や網膜剥離、硝子体出血、ぶどう膜炎などが原因となることがあります。特に網膜裂孔は液化した硝子体が網膜下に急速に流入することで網膜剥離の主な原因となります。

参考)「それって病気のサインかも」虫が飛ぶように見える「飛蚊症」網…


生まれつきの飛蚊症は、胎児期に硝子体内を走っていた血管やその周囲の組織が出生後も濁りとして残ることで生じます。視力に問題がなければ特に急いで治療する必要はありませんが、定期的な検査で異常がないか確認することが大切です。​
飛蚊症が急に悪化した場合、光がピカッと走るように見える光視症が現れた場合、視野の一部が黒く欠ける場合は、すぐに眼科を受診する必要があります。これらは網膜裂孔や網膜剥離のサインである可能性があります。

参考)網膜裂孔の原因とレーザー治療|茨城県水戸市の小沢眼科内科病院

硝子体混濁の治療方法

硝子体混濁の治療法は原因や症状に応じて異なります。何よりも優先すべきは、硝子体混濁の原因となった病気を的確に治療することです。感染症による混濁には抗真菌薬抗ウイルス薬が用いられ、非感染性疾患の場合はステロイドや免疫抑制薬が治療の中心となります。これらの治療は入院が必要で、慎重に投与量を調整しながら行われます。

参考)硝子体混濁 – みんなの家庭の医学 WEB版


網膜裂孔が見つかった場合は、レーザー治療(光凝固)が行われます。レーザーで網脈絡膜瘢痕癒着を作り、裂孔から液化硝子体が網膜下へ侵入することを防いで網膜剥離の発症を予防します。治療は外来で点眼麻酔を行い、5~10分程度で終了します。ただし、レーザー治療によって100%網膜剥離への進展を予防できるわけではありません。​
進行した硝子体混濁や網膜剥離に進行した場合は、硝子体手術が必要になることがあります。この手術は局所麻酔で行われ、濁った硝子体を切除し、必要に応じて眼内に空気やガス、シリコンオイルを充填します。手術時間は15分から1時間程度です。

参考)硝子体混濁は治る?目がかすんでしまう硝子体混濁の疑問を解決!…


生理的飛蚊症は放置していても視機能の低下をきたすことは稀ですが、見え方の違和感が強く日常生活に支障をきたしている場合には硝子体手術が勧められることがあります。ただし、生理的飛蚊症に対する硝子体手術は保険適用外(自費診療)で、手術費用は70万円+税(77万円)程度となります。

参考)何か飛んでいる(飛蚊症)

硝子体混濁の早期発見と予防

硝子体混濁は自然に治ることはほとんどなく、自然経過に任せると視力低下や霧視が進行し、日常生活に支障をきたす可能性が高まります。進行すると原因特定が難しくなり、視力低下の深刻化につながるため、早期発見と適切な治療が視力を保護するために重要です。​
後部硝子体剥離は加齢による自然な変化であり、残念ながら予防はできません。白髪や老眼と同じように「年齢による現象」と考えられています。ただし、強度近視の方や片目に後部硝子体剥離が起きた方は早めに発症する傾向があるため、定期的な眼科検診が推奨されます。

参考)後部硝子体剥離の原因と治療法|改善は可能?


硝子体混濁の原因となりうるぶどう膜炎の予防には、定期的な眼科検診、手洗いやうがいなどの基本的な衛生対策の徹底、免疫疾患がある場合の適切な治療継続が重要です。ストレスは免疫系に影響を与えるため、適度な運動やリラクゼーション法を取り入れたストレスの軽減も予防に役立ちます。健康的な生活習慣として、バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけることも大切です。​
視界に異常を感じた場合は、速やかに眼科専門医を受診することが推奨されます。特に飛蚊症が急に増えた場合、光が見える場合、視野の欠けやカーテンのような影がある場合は至急受診が必要で、網膜剥離の可能性があり救急対応が必要となります。​

硝子体混濁と酸化ストレスの関係

加齢に伴う眼の変化には、酸化ストレスが深く関与していることが研究で明らかになっています。通常の生理条件下では、活性酸素種(ROS)は呼吸や代謝活動の副産物として産生されますが、様々な内因性・外因性要因により体内でROSが過剰に産生されると酸化ストレスが生じます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11047596/


酸化ストレスは細胞にさまざまな病理学的変化を引き起こし、ミトコンドリア機能障害、DNA損傷、テロメア短縮、脂質過酸化、タンパク質の酸化的修飾などが生じ、これらすべてがアポトーシスや老化を引き起こす可能性があります。実際に酸化ストレスは網膜疾患を含むさまざまな加齢関連疾患を誘発することが多くの研究で示されています。

参考)https://www.mdpi.com/2076-3921/13/4/394/pdf?version=1711382873


硝子体の加齢性変化においても、酸化ストレスが硝子体のコラーゲン線維の変性や液化を促進し、硝子体混濁や後部硝子体剥離の進行に関与していると考えられています。体内の抗酸化防御システムを強化することや、抗酸化物質(ビタミンCやE、フラボノイド、カロテノイドなど)の摂取が、酸化ストレスを抑制し、加齢に伴う眼の変化を遅らせる可能性があります。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10044767/


ただし、抗酸化物質の効果については、適切な用量と個人の状態に応じた使用が重要であり、医師と相談しながら取り組むことが推奨されます。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10475008/