硝子体炎とぶどう膜炎
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硝子体炎の硝子体混濁と評価
硝子体炎は用語としては「硝子体に炎症細胞が出現し、硝子体混濁(vitreous haze)や硝子体細胞を伴う状態」を臨床的に指すことが多く、実務では「ぶどう膜炎の中間部〜後部病変」や「眼内炎の硝子体波及」をまず想定して整理します。
硝子体混濁は、活動性の把握と治療反応判定のために“半定量”で書けることが重要で、SUN Working GroupはNEI基準をほぼ踏襲し、traceを0.5+として0〜4+で評価する枠組みを示しています。
この「0.5+」は多忙な外来で見落とされがちな微妙な増悪を拾うのに役立ち、紹介状や多施設共同診療でも情報が劣化しにくいのが利点です。
臨床では、硝子体混濁の“見え方”だけに頼ると角膜混濁・白内障・小瞳孔の影響を受けやすく、SUNもその限界(陳旧性混濁と活動性混濁の区別、限局病変の評価困難など)を明記しています。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jja2.12855
したがって、所見記載は「硝子体混濁+硝子体細胞+眼底炎症所見(血管炎、滲出、乳頭腫脹など)」をセットにして、どれが活動性を担っているかを文章で補うと診療の再現性が上がります。
また、再発性・慢性の用語もSUNでは罹患期間や非活動期の有無で定義されるため、硝子体炎が「慢性化」しているのか「再発性」なのかを、経過の記述語で揃えると治療計画(維持療法の要否)に直結します。
硝子体炎の診断検査と超音波
硝子体炎の初期対応では、視機能の評価(視力・眼圧・炎症スコア)に加え、眼底の観察可能性が鍵となり、硝子体混濁で眼底透見不能の状況は“診断の停滞”そのものがリスクになります。
日本眼炎症学会のガイドラインでは、感染を疑う場合は眼内液採取(培養・鏡検・薬剤耐性)を速やかに行うこと、真菌性ではβ-Dグルカン測定や血液培養、内因性では血液培養を行うこと、感染巣不明なら全身検索も行うことが述べられています。
つまり硝子体炎の検査は「眼内」だけで完結せず、特に内因性眼内炎を疑う場面では他科連携で全身スクリーニングを同時並行に走らせる設計が重要です。
眼底透見が難しい場合に、超音波Bモード検査で眼内評価を試み、手術タイミングを逃さないようにする、という記載もガイドライン内に明確にあります。
この一文は臨床的に示唆が大きく、「硝子体炎=薬で様子を見る」になりがちな症例でも、網膜剥離・膿瘍・出血など“待ってはいけない構造変化”を拾う道具立てを持つべき、というメッセージです。
硝子体混濁が強い症例ほど、光学的検査(眼底写真や蛍光造影)に依存しすぎず、Bモードで“構造の安全確認”を先に済ませると、治療選択が早くなります。
医療従事者向けの実務ポイントとしては、検査オーダーの順番を固定化するとミスが減ります。
✅ 例(外来での初動)。
・視力/眼圧/前房細胞・フレア/硝子体混濁グレード(0〜4+、trace=0.5+)
・散瞳可能なら眼底所見(血管炎、滲出、乳頭腫脹、網膜炎)
・透見不良なら超音波Bモードで網膜剥離や眼内病変の評価
・感染疑いなら眼内液採取と培養・鏡検、内因性疑いなら血液培養+全身検索
硝子体炎の原因と鑑別
硝子体炎の鑑別は大きく「感染性ぶどう膜炎(ヘルペス、トキソプラズマ等)」「眼内炎(術後・内因性)」「非感染性ぶどう膜炎(サルコイドーシス等)」「腫瘍性(眼内リンパ腫など仮面症候群)」の4本柱で考えると、漏れが減ります。
ガイドラインでは、ステロイド療法に反応が乏しい硝子体混濁や網膜滲出病巣様の所見では、眼内リンパ腫に代表される仮面症候群を疑い、診断のために硝子体手術(細胞診など)を行うことがあるとされています。
この“反応が乏しい”という言い回しは重要で、単に炎症が強いのではなく「典型的なぶどう膜炎の治療設計に乗らない」こと自体が鑑別の根拠になります。
感染性の代表として眼内炎をみると、細菌性は急激な眼痛・毛様充血・前房蓄膿・硝子体混濁などを呈し、進行が速い点が特徴として記載されています。
真菌性では、早期に硝子体混濁や網膜白色滲出病巣(fungus ball)を呈し、晩期に前房蓄膿や滲出性網膜剥離などに進むことがあるとされ、細菌性より“緩徐”に見えるぶん、見逃しが臨床問題になります。
内因性眼内炎では発熱など全身症状を伴うことが多く、感染巣として肝膿瘍・尿路感染・心内膜炎などが挙げられる一方、感染巣不明もあるとガイドラインに明記されており、“眼だけ診て終わり”が危険な疾患群です。
非感染性の代表であるサルコイドーシスは多臓器疾患で、眼症状として霧視・飛蚊症・視力低下が挙げられています。
さらに「眼病変を強く示唆する臨床所見」として、塊状硝子体混濁(雪玉状、数珠状)を含む所見が診断項目として整理されており、硝子体炎(硝子体混濁)の形が鑑別に直結する点が特徴です。
硝子体炎を診る医療者の実務としては、硝子体混濁を「量」だけでなく「形(雪玉状・数珠状・びまん性など)」で言語化しておくと、後から全身疾患の診断に結びつくことがあります。
硝子体炎の治療と硝子体手術
硝子体炎の治療は原因別に最適化されますが、感染性を疑う場面では「抗微生物療法の開始」と「必要なら硝子体手術へ早く踏み込む」ことが視機能予後を左右します。
眼内炎(細菌性)では、広域抗菌スペクトルの抗菌薬の局所・全身投与を速やかに開始し、硝子体混濁で眼底透見不能になった場合や網膜下膿瘍があれば、早期に抗菌薬灌流下での硝子体手術が必要とされています。
真菌性眼内炎でも、抗真菌薬(フルコナゾール、ボリコナゾール等)の全身投与や硝子体内投与が基本で、重症例では抗真菌薬灌流下の硝子体手術が必要になることがあると記載されています。
非感染性ぶどう膜炎の硝子体炎では、局所治療(ステロイド点眼、後部テノン囊下注射など)から全身治療(経口ステロイド、免疫抑制薬、生物学的製剤)までガイドラインで整理されていますが、感染性に対して後部テノン囊下注射を行うと急激な増悪を生じうる点が注意として明記されています。
この注意書きは、硝子体炎の現場で起こりがちな「とりあえずステロイドを足す」を抑制する重要な安全情報で、感染性の可能性が消えない状態では投与経路・強度を慎重に選ぶべき根拠になります。
医療安全の観点では、硝子体炎の治療方針を立てる際に「感染の除外が不十分なまま強い局所ステロイドを入れない」ことをチームルール化すると、事故が減ります。
硝子体手術の適応は、①炎症活動期(急性網膜壊死の網膜剥離、術後眼内炎の硝子体波及、真菌性眼内炎の薬物抵抗性混濁など)、②炎症鎮静期(残存硝子体混濁が視機能障害、薬物抵抗性の囊胞様黄斑浮腫など)、③診断と治療を兼ねる(仮面症候群・眼内リンパ腫、病原体同定)という形でガイドラインに明確に整理されています。
特に“診断と治療を兼ねた硝子体手術”は、硝子体炎を「炎症だから内科的に治す」だけでなく「診断のために介入する」という視点を与え、ステロイド抵抗性・再燃反復例の停滞を打破します。
術中は炎症で網膜が脆弱化し医原性裂孔のリスクがあること、後部硝子体膜が強固に癒着することがあることなど、ぶどう膜炎特有の注意点も示されています。
参考リンク:ぶどう膜炎の定量評価(硝子体混濁0〜4+、trace=0.5+)、眼内炎の検査・治療、硝子体手術適応の根拠がまとまっています。
参考リンク:サルコイドーシスの眼病変の診断要素(塊状硝子体混濁:雪玉状・数珠状など)と全身像が整理されています。
難病情報センター:サルコイドーシス(指定難病84)

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