眼球運動障害の種類と原因・症状・治療法

眼球運動障害の種類と原因

この記事でわかること
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眼球運動障害の分類

核上性・核性・核下性の3つに分類され、障害部位により症状が異なります

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主な原因疾患

神経麻痺、重症筋無力症、甲状腺眼症など多様な疾患が原因となります

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治療とリハビリ

原因療法とともに視能訓練やプリズム眼鏡などの対症療法を組み合わせます

眼球運動障害の3つの分類

眼球運動障害は障害される部位によって核上性、核性、核下性の3種類に分類されます。核上性障害は大脳皮質から脳幹の眼球運動中枢までの経路が障害されるもので、水平注視麻痺や垂直注視麻痺などが含まれます。核性障害は脳幹にある動眼神経核、滑車神経核、外転神経核そのものが障害されるタイプです。核下性障害は末梢神経から外眼筋までの障害で、動眼神経麻痺、滑車神経麻痺、外転神経麻痺などが代表的な疾患となります。

核上性障害の代表的な疾患として進行性核上性麻痺があり、核上性注視障害や姿勢反射障害を主症状とする慢性進行性の神経変性疾患です。この疾患では中脳と大脳基底核に萎縮や神経細胞脱落が生じ、特に垂直方向の眼球運動が障害されます。脳幹性核上性障害では内側縦束の障害による核間性眼筋麻痺や、橋の水平注視中枢から外転神経核に至る系の障害による側方注視麻痺が主な症候となります。

核下性障害における神経麻痺の原因は多岐にわたり、脳腫瘍動脈瘤による圧迫、頭部外傷脳血管障害糖尿病高血圧などの血管性病変、ウイルス感染などが報告されています。障害部位によって症状の組み合わせが異なるため、詳細な眼球運動検査と神経学的診察が診断において重要な役割を果たします。

眼球運動障害における神経麻痺の種類

動眼神経麻痺は第3脳神経の障害により生じ、眼瞼下垂、眼球運動障害、瞳孔散大の3つを主要症状として認めます。動眼神経は上直筋、下直筋、内直筋、下斜筋の4つの外眼筋と上眼瞼挙筋、瞳孔括約筋を支配しているため、麻痺が生じると眼球の内転、上方視、下方視が障害され、眼位は外下方へ偏位します。瞳孔が侵されている場合は散瞳し対光反射が障害されますが、糖尿病や高血圧などの微小血管性病変では瞳孔異常を伴わない麻痺が多いとされています。

滑車神経麻痺は第4脳神経の障害により上斜筋が麻痺し、患眼の外下方への眼球運動が制限されます。特徴的な所見として頭位異常が認められ、複視を避けるために患眼の対側に頭を傾けるhead tilt signが観察されます。原因として特発性、頭部外傷、虚血、先天性などが報告されており、麻痺が軽微となることがあり内下方視の困難として症状が表れることもあります。

外転神経麻痺は第6脳神経の障害により外直筋が麻痺し、眼球の外転制限と内斜視が生じます。麻痺眼側を注視すると増悪する水平性の複視を自覚し、複視を避けるため麻痺眼側への顔まわしという頭位異常がみられます。原因疾患として脳腫瘍、頭蓋内圧亢進、頭部外傷、多発性硬化症などの脱髄疾患、脳血管性病変、糖尿病、高血圧、ウイルス感染、ウェルニッケ脳症などが知られています。

眼球運動障害を引き起こす疾患の種類

重症筋無力症は神経筋接合部における抗アセチルコリン受容体抗体による自己免疫疾患で、眼球運動障害に眼瞼下垂を伴うことが特徴です。症状は繰り返し筋を使うことで悪化し、間欠性複視として表れることが多く、アイステスト(保冷剤を2分間上眼瞼にあてて下垂の改善をみる検査)やテンシロンテストが診断に有用とされています。全身型では四肢の筋疲労症状や球症状を伴うこともあり、胸腺腫を合併するケースも報告されています。

甲状腺眼症は免疫原性の炎症性疾患で、肥大した外眼筋の伸展障害によって眼球運動障害が生じます。好発部位は下直筋であり上転障害と上方視時の複視がみられることが多く、両眼の複数の外眼筋が障害されると複雑な眼球運動障害を呈します。起床時に複視が強く日中に改善する日内変動が特徴的で、眼球突出、眼瞼異常、視神経圧迫による視力障害などを合併することがあります。眼症状が甲状腺機能障害に先行することもあるため注意が必要です。

パリノー症候群は中脳背側の病変により生じる垂直共同注視麻痺の一種で、両側性の上方注視麻痺、散瞳、対光反射消失(瞳孔調節と輻輳による縮瞳は保たれる)、下方注視傾向、下向性眼振を特徴とします。原因として松果体腫瘍や中脳梗塞が報告されており、若年者における上方注視麻痺では腫瘍性病変の可能性を考慮する必要があります。

眼球運動障害の診断方法と検査

眼球運動検査は視標(検者の指など)を両眼で注視させ、その運動域を調べる基本的な検査です。9方向むき眼位検査では、被検者の眼前中央30〜50cmの距離から水平・上下・斜め45度方向に眼球運動の限界まで視標を動かし、必ず第1眼位に毎回戻りながら左右眼に差がないかを観察します。この検査により外眼筋の機能や神経支配の異常を評価することができ、麻痺筋の同定や複視の方向を確認することが可能です。

眼位検査では交代カバーテストやプリズムカバーテストを用いて斜視の有無と偏位量を測定します。遠見と近見での眼位を評価し、固視眼と非固視眼での偏位の違い(第1偏位と第2偏位)を確認することで、麻痺性斜視と共同性斜視の鑑別が可能となります。回旋偏位が疑われる症例では回旋偏位測定装置を用いた精密検査が行われ、斜視手術の術式決定や術中の調整に活用されます。

画像検査として頭部MRIやCTが重要な役割を果たし、脳梗塞、脳腫瘍、動脈瘤などの器質的病変の有無を確認します。特に瞳孔異常を伴う動眼神経麻痺では後交通動脈瘤やテント切痕ヘルニアの可能性があり、可及的速やかな神経画像検査が必要です。甲状腺眼症が疑われる場合は眼窩MRIで外眼筋の肥大を評価し、甲状腺機能検査により甲状腺ホルモン値を測定します。重症筋無力症では抗アセチルコリン受容体抗体検査や単線維筋電図検査が診断に用いられます。

眼球運動障害の治療法とリハビリテーション

眼球運動障害の治療は原因疾患に対する治療が基本となり、脳梗塞や動脈瘤などの重大なリスクが生じていないことを確認した上で原因療法を行います。重症筋無力症に対しては副腎皮質ステロイド内服、大量静注免疫グロブリン療法、胸腺摘除術などが選択されます。甲状腺眼症では甲状腺機能のコントロールとともにメチルプレドニゾロンパルス療法が実施され、活動期の炎症を抑制することで眼球運動障害の改善を図ります。

視能訓練は麻痺性斜視に対する有効な治療法であり、発症より6か月未満に開始することで治療効果が高まることが報告されています。衝動性眼球運動訓練は急速な眼球運動の反応性を改善し、fusion lock trainingは融像範囲の拡大を目的とした訓練法です。注視維持トレーニングでは固定した点を見つめながら頭を動かすことで視覚的安定性を向上させ、視覚的追従運動では動く物体を追う練習により眼球運動と体の動きの協調性を高めます。

プリズム眼鏡は両眼の視線のずれを補正する光学的治療法で、複視の症状を軽減し日常生活の質を改善します。症状が軽度の場合は片眼に眼帯をして物がダブって見えないようにする遮蔽法が用いられることもあります。障害の程度が重く保存的治療で改善が得られない場合は、外科的に外眼筋を調節して両眼の視線のずれを解消する斜視手術が検討されます。手術は局所麻酔下で術中に残余回旋斜視角を確認しながら行われ、術式の変更や追加の判断をその場で行うことが可能です。

MSDマニュアル 第3脳(動眼)神経の疾患

動眼神経麻痺の病因、診断、治療に関する詳細な医学情報が掲載されています。

難病情報センター 進行性核上性麻痺

核上性注視障害を主症状とする進行性核上性麻痺の疾患概要と診断基準が解説されています。

外転神経麻痺例に対する視能訓練効果

視能訓練の具体的な方法と治療効果に関する研究論文で、リハビリテーションの実践的な情報が含まれています。