不眠症の症状
不眠症の入眠障害とその特徴
入眠障害は、寝床に入ってから30分以上経過しても眠りにつけない状態を指します。健康な人が消灯から30分以内に眠りにつけるのに対し、入眠障害では1時間以上眠れないことが特徴的ですよ。この症状は、強い不安やストレス、緊張が原因で起こることが多く、精神的な負担や緊張が大きくなるとさらに悪化しやすい傾向にあります。
参考)不眠症・睡眠障害
特に若年層に多くみられる症状ですが、不規則な生活リズムや概日リズム睡眠障害(睡眠相後退症候群、交代勤務障害、時差ぼけなど)が原因になっているケースもあります。入眠障害に悩まされる方は、リラックスした環境を作り、規則正しい睡眠スケジュールを確保することが重要ですね。
参考)不眠症の症状と種類:自身の睡眠の悩みを理解しよう|千葉市若葉…
日本では一般成人の30〜40%が何らかの不眠症状を有しており、特に女性に多いことが知られています。
不眠症の中途覚醒と睡眠維持の問題
中途覚醒は、一度は寝入ったものの夜間に何度も目が覚めてしまう症状を指します。一晩で数回から十回以上目が覚めることもあり、再入眠が困難になるケースが多いですよ。加齢とともに中途覚醒を訴える人が増えていき、高齢者では若い人と比べて途中で目が覚めることが多くなります。
主な原因としては、不眠症と日中の過度の眠気 – 09. 脳、脊髄、末梢神経の病…
不眠症の早朝覚醒と熟眠障害の特性
早朝覚醒は、朝方4時や5時に目が覚めてしまい、その後2度寝ができない状態を指します。起きる予定の時間より2時間以上早く目が覚め、再び眠れなくなる症状で、加齢とともに増加する傾向があります。この種の不眠症は、年齢を問わず、うつ病の徴候であることがありますよ。
早朝覚醒に伴い、日中の眠気、集中力の低下、疲労感、抑うつ気分などが現れることもあります。うつ病などの精神疾患や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害が隠れている可能性があるため、注意が必要です。
参考)不眠症の症状とは?タイプ別の原因と改善策も解説 – JR茨木…
熟眠障害は、睡眠時間は十分でも熟睡感が得られず、日中に眠気を感じる症状です。眠りが浅く、十分に熟睡できないため、睡眠による休養感が得られません。熟睡できずに浅い眠りを繰り返すことで、日中の機能障害につながります。
不眠症による日中の機能障害とその影響
不眠症の診断基準には、夜間の睡眠困難に関連した日中の機能障害が含まれます。具体的には、疲労または倦怠感、注意力・集中力・記憶力の低下、社会生活・家庭・職業生活上の機能障害または学業成績の低下、気分がすぐれない・イライラ、日中の眠気、行動の問題(過活動、衝動性、攻撃性)、やる気・気力・自発性の低下、過失や事故を起こしやすい、眠ることについて心配し不満を抱いているなどがあります。
参考)不眠症(睡眠障害)
不眠症または日中の過度の眠気があると、日中に眠気、疲れ、いらだちを覚え、集中力が低下したり活動に支障が出たりします。日中の過度の眠気がある患者は、仕事中や運転中に眠り込んでしまうこともあるため、安全面でも問題になりますよ。
参考)日本睡眠学会
研究によると、不眠症状を有する人の30〜50%が日中の機能障害を経験し、特に注意力、作業記憶、実行機能などの認知領域に影響が出ることが報告されています。睡眠不足は、単純注意、複雑注意、作業記憶を主に低下させ、認知パフォーマンスの全般的な障害を引き起こします。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7000136/
不眠症の診断基準と慢性不眠障害の定義
不眠症の国際的な診断基準として「睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)」があります。この分類では、睡眠の質に対する訴えがあること、訴えは適切な睡眠環境下においても生じていること、日中の機能障害が少なくとも1つ認められていることが求められます。
参考)不眠症の診断基準について|千葉市若葉区の都賀駅の内科病院でお…
慢性不眠障害の診断基準では、入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒、適切な時間に就床することを拒む、親や介護者がいないと眠れないのいずれかの症状を患者が訴えるか観察される必要があります。さらに、睡眠障害とそれに関連した日中の症状は、少なくとも週に3回は生じ、少なくとも3カ月間認められることが条件です。
一方、短期不眠障害では症状の頻度についての基準は設けられていません。不眠と日中の不調が週に3日以上あり、それが3カ月以上続くと慢性不眠症、3カ月未満の場合は短期不眠症と診断されます。
普通の睡眠環境で、日中に何らかの影響があって、睡眠のことで困っていることが不眠症の診断基準になるんですよ。
不眠症の原因とメカニズム
不眠症とうつ病・ストレスの関連性
不眠症とうつ病の関連性は、心理的要因や生物学的要因によって形成されます。日常生活や人間関係の問題、仕事のストレスなどが重なると、睡眠の質や量に影響を与え、不眠症やうつ病の症状を引き起こすことがありますよ。心的外傷体験や過去のトラウマも不眠症とうつ病のリスクを高める要因となります。
参考)不眠症とうつ病の関係性|千葉市若葉区の都賀駅の内科病院でおす…
不眠症が続くと、脳や体が休まらず、ストレスをうまく処理できなくなるため、うつ病を発症しやすくなる可能性があります。睡眠不足によって心の抵抗力が低下し、気分が落ち込みやすくなるんですね。逆に、うつ病に代表される精神疾患によって不眠症が引き起こされることもあり、両者は双方向の関係にあります。
参考)不眠症とうつ病の関係とは?症状の見分け方と効果的な治療法
研究によると、不眠症状はうつ病に先行して出現することが多いと言われており、うつ病患者の約41%で不眠症状が他の抑うつ症状に先行すると報告されています。また、うつ病の人の9割近くに何らかの不眠症状があらわれます。
共通点として、自律神経の乱れが挙げられます。ストレスや生活習慣の乱れが続くと、自律神経のバランスが崩れてしまい、その結果、睡眠にも影響が出て不眠症の症状が現れたり、気分が落ち込みやすくなってうつ病を発症しやすくなると考えられています。
不眠症の脳内メカニズムと神経伝達物質
不眠症は、脳の神経活動やホルモン分泌の異常が深く関与しています。脳内の視交叉上核(体内時計の中枢)の働きが乱れると、昼夜のリズムが崩れて眠気が訪れにくくなります。メラトニンやセロトニンなどのホルモン分泌が不足すると、自然な入眠のサイクルが妨げられますよ。
参考)[Page of 1] 不眠症の原因は脳にある?メカニズムを…
神経伝達物質のアンバランスも重要な要因です。GABA(ガンマアミノ酪酸)やセロトニンは抑制系の神経伝達物質で、これらが十分に働くことで脳の活動が抑えられ、眠りにつきやすくなります。一方で、ドーパミンやノルアドレナリンといった覚醒系の神経伝達物質が過剰に分泌されると、脳は活動状態を維持し続けてしまいます。
本来なら夜には抑制が効くはずの覚醒系が強く働くことで、「頭が冴えて眠れない」状態を引き起こすんです。つまり、不眠症は「抑制系(GABA・セロトニン)」と「覚醒系(ドーパミン・ノルアドレナリン)」のバランス崩壊によって生じます。
また、うつ病ではセロトニンやノルアドレナリンの不足が見られ、これが睡眠障害を引き起こすこともあります。不眠症とうつ病は遺伝的要素も関連しており、遺伝子の影響によって個人の脆弱性が生じることがありますよ。
不眠症と生活習慣・睡眠衛生の重要性
規則正しい生活は不眠症の予防に有効です。毎日同じ時間に起床・就寝することで体内時計が調整され、自然な入眠・覚醒サイクルが促されるからです。体内時計が整うとメラトニンの分泌が安定し、入眠困難感の改善や夜間の継続的な睡眠がしやすくなります。
定期的な運動、規則正しい食事は、睡眠と覚醒のリズムを安定させます。とくに朝食と朝、光を浴びることは大切ですよ。朝日を浴びることで体内時計を24時間に調整可能で、生活リズムを整えて決まった時間に眠たくなる習慣ができます。
参考)https://www.twmu.ac.jp/suimin/shidou/index.html
人間の体内時計はもともと24時間より少し長めにできているため、朝日を浴びて体内時計を調整していないと徐々にズレて不眠症になるリスクも高まるんです。メラトニンは朝日を浴びて14〜16時間後に分泌量が増えるため、夜間の入眠を促すリズムもでき、睡眠リズムにメリハリがつきます。
眠る前のカフェインやたばこ、アルコールは、睡眠の質を悪くするので控えましょう。不規則な食事・運動不足・ニコチン・アルコール過飲によって睡眠状態は悪化しますので、これら生活習慣を改善することは良質な睡眠を保つことにもつながります。
リラックスして寝れる環境調整も不眠症の予防効果があり、寝具や寝衣、照明や騒音対策などさまざまな角度から睡眠環境を整えられます。睡眠環境として適温は「20℃前後」、湿度は「40〜70%」と言われています。
厚生労働省の快眠のためのテクニックでは、寝具の条件や睡眠環境について詳しく解説されています。
不眠症の診断と治療
不眠症の評価法と終夜睡眠ポリグラフ検査
睡眠障害の代表的な評価法としては、「終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)」及び「睡眠潜時反復検査(MSLT)」があります。終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査は、脳波・眼球運動・心電図・筋電図・呼吸曲線・いびき・動脈血酸素飽和度などの生体活動を、一晩にわたって測定する検査です。
この検査により、閉塞性睡眠時無呼吸、周期性四肢運動障害、睡眠時随伴症などの睡眠障害の診断が可能となります。また、睡眠の状態も測定できますよ。脳波、眼球運動、筋電図、呼吸、心電図などの様々な体の変化を記録する電極をつけて、睡眠の状態を調べます。
睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠がありますが、このような睡眠が一晩の中でどのように出現しているかがわかります。睡眠中の深さ、中途覚醒、てんかんを含む脳波の変化、呼吸の状態、筋電図による体の動きなどもわかるんです。
不眠症では、終夜睡眠ポリグラフを行うことは少ないですが、「全く眠れない」と訴える方の場合、それなりに眠れていることもあるので、これを確かめるために行うこともあります。睡眠潜時反復検査(MSLT)は、日中の眠気を測定する検査で、日中9時、11時、13時、15時、17時に、約20分程度眠っていただき、眠るまでの早さからどの程度眠気が強いかを判定します。
不眠症の薬物療法と睡眠薬の種類
薬物療法では、寝つきをよくする薬や睡眠の質を改善する薬が使われます。睡眠薬には、ベンゾジアゼピン系のほか、より副作用の少ないオレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬などがありますよ。
参考)不眠症(睡眠障害)はどのように治療しますか? |不眠症(睡眠…
不眠症の症状は、大きく4つのタイプに分類され、特に入眠障害に悩まされる人が多く、加齢とともに中途覚醒や早朝覚醒を訴える人が増えていきます。これらの睡眠障害のタイプに応じて、治療の際は睡眠薬の種類を使い分けるなどのアプローチが取られます。
ただし、薬物療法は即効性がある一方で、長期的な効果の持続については認知行動療法と比較すると課題があります。また、睡眠薬の使用については、医師の指導のもと適切に行うことが重要です。
参考)第3回 睡眠不足や不眠への対処法(薬を使わない認知行動療法)…
不眠症の治療においては、原因疾患の治療が可能であればそれを優先することも大切で、睡眠時無呼吸症候群などの身体的な治療により改善することもあります。
不眠症の認知行動療法による治療アプローチ
不眠の対処法の1つに、薬を使わない「認知行動療法」があります。認知行動療法による不眠を改善する効果は睡眠薬による治療とほぼ同じで、欧米の不眠症治療のガイドラインで第一選択肢とされており、日本でも広がりつつあります。
認知行動療法とは、問題や症状の要因になっているその人の考え方や行動の習慣(くせ)を明らかにして、よい習慣に変えていくよう促す心理療法です。不眠に対する認知行動療法では、なぜ眠れないのか、自分の睡眠状況を見直して、不眠の背景にある自分の考え方や行動の習慣に気づき、眠れる習慣に変えていきますよ。
睡眠の認知行動療法では、「眠れないのでは」といった不安な考え方を見直し、リラックスして眠れるように習慣を整えます。また、一日の過ごし方や生活習慣を見直すことで、自然な眠りを促すための行動を増やします。例えば、起床時間を決める、眠くないときに布団の中で過ごすことをやめるなどがあります。
認知行動療法は、不眠に対するさまざまな解決方法を身につけることができ、治療終了後も効果が長く続くことが期待できます。ただし、薬のような即効性はなく、新しい習慣に体が慣れるまでに時間を要することもあり、効果が得られるまでにはある程度の時間が必要です。一般的には訓練を受けた医師や心理士による1時間程度のカウンセリングを4~6回ほどのスケジュールで行います。
国立精神・神経医療研究センターの気分障害に併存する睡眠障害の解説では、うつ病と不眠の関係について詳しい情報が提供されています。
不眠症と睡眠障害の医学的理解の深化
近年の睡眠医学の研究では、不眠症は単なる「寝不足」ではなく、脳と自律神経の調整機能に異常が生じているサインともいえることがわかってきました。ストレスによる交感神経の過剰な働きが、脳を「覚醒モード」のまま保ってしまい、入眠を妨げることがあります。
脳には、覚醒を維持するためのネットワークが存在し、その中心が脳幹の上行性網様体賦活系(ARAS)や、感情処理を担う扁桃体です。脳幹の覚醒システムは、日中の活動を維持するために大脳皮質を刺激し続けますが、通常は夜になると活動が低下するはずです。しかし、ストレスや緊張が強いと、このシステムが夜間でも働き続けてしまいます。
扁桃体は「不安」や「恐怖」といった感情に関わり、強い不安や心配ごとがあると扁桃体が活発になり、交感神経が優位になって心拍数や血圧が上昇します。布団に入っても体が覚醒状態のままになり、眠れない状態が続くんですよ。
睡眠による休養感は、こころの健康に重要で、眠れないとき、眠っても疲れが取れないときには、うつ病の可能性もあります。睡眠不足や不眠は、生活習慣病の危険を高めるため、十分な睡眠を確保することで生活習慣病を予防できます。
不眠症の医療従事者向け診療の実践的視点
医療従事者として不眠症患者に対応する際は、まず包括的な睡眠歴と医学的評価が必要です。不眠症の原因は多岐に渡り、それぞれの原因に応じた対応が求められます。
参考)不眠症
不眠症状は、主に次の4つに分けられ、入眠障害(入眠困難)は寝つきが悪く入眠するまで長い時間を要する症状、中途覚醒は入眠した後夜中に何度も目が覚める症状として理解する必要があります。早朝覚醒と熟眠障害も含めた4つの症状タイプは、どれか1つではなく2つ以上重複して現れる場合もあるため、詳細な問診が重要ですよ。
参考)睡眠障害4つのタイプ
睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)に基づいた診断では、適切な睡眠環境下においても症状が生じていること、日中の機能障害が認められることを確認する必要があります。慢性不眠障害の診断には、週3回以上の頻度で3カ月以上症状が持続していることが基準となります。
国立精神・神経医療研究センターの終夜睡眠ポリグラフ検査の解説では、検査の詳細な方法と診断における役割が説明されています。
治療においては、認知行動療法と薬物療法を適切に組み合わせることが推奨されています。特に、睡眠衛生指導を含む包括的なアプローチが、長期的な改善につながりますね。