副甲状腺ホルモン作用とリン代謝の関係性解説

副甲状腺ホルモンの作用とリン

PTHが骨からリンとカルシウムを同時に溶かし出しているのに血中リンは下がります。

この記事の3つのポイント
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PTHは腎臓でリン排泄を促進

副甲状腺ホルモンは近位尿細管でナトリウム-リン共輸送体の発現を抑制し、リンの再吸収を減らして尿中排泄を増やします

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骨からカルシウムとリンを同時放出

PTHは骨吸収を促進することで骨からカルシウムとリンの両方を血中に動員しますが、腎臓でのリン排泄が優位なため血中リン濃度は低下します

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腎機能低下でリン排泄が困難に

慢性腎臓病や透析患者ではPTHが分泌されてもリンを排泄できず、二次性副甲状腺機能亢進症を引き起こします

副甲状腺ホルモンによる腎臓でのリン排泄メカニズム

 

副甲状腺ホルモン(PTH)は、血液中のカルシウム濃度を維持するために副甲状腺から分泌される84個のアミノ酸から構成されるポリペプチドホルモンです。

PTHの最も重要な作用の一つが、腎臓におけるリン排泄の促進です。具体的には、近位尿細管の刷子縁膜に存在する2a型および2c型ナトリウム-リン共輸送体(NaPi-IIaおよびNaPi-IIc)の発現を抑制します。これらの共輸送体は、尿細管を通過するリンを血液中に再吸収する役割を担っていますが、PTHはこれらのトランスポーター細胞膜から細胞質内に移動させることで、リンの再吸収を減少させます。

つまり腎臓での再吸収が減るということですね。

健常者では、糸球体でろ過されたリンの約85〜95%が尿細管で再吸収されますが、PTHの作用により再吸収率が低下し、より多くのリンが尿中に排泄されることになります。この作用は極めて強力で、PTHが分泌されると数時間以内に尿中リン排泄量が増加し始めます。

同時に、PTHは遠位尿細管においてカルシウムの再吸収を促進するため、カルシウムとリンで真逆の作用を示すのがPTHの特徴です。具体的にはTRPV5(transient receptor potential vanilloid 5)チャネルを介してカルシウムの再吸収を増やし、血中カルシウム濃度を上昇させます。

この二面性が重要なポイントです。

日本腎臓学会誌の副甲状腺ホルモンの分泌調節機構に関する論文では、PTHの腎臓での作用メカニズムが詳細に解説されています

副甲状腺ホルモンによる骨からのリン放出とその意義

副甲状腺ホルモンは骨にも強力に作用し、骨吸収を促進することで血中にカルシウムとリンの両方を動員します。

骨は体内最大のカルシウムとリンの貯蔵庫で、成人の体内には約1000g(東京ドーム約2個分の容積に相当)のカルシウムと約600gのリンが主に骨に蓄えられています。PTHは骨芽細胞に作用してRANKL(receptor activator of nuclear factor kappa-B ligand)の発現を増加させ、これが破骨細胞の分化と活性化を促します。

破骨細胞が活性化すると骨吸収が進行します。

活性化された破骨細胞は骨基質を分解し、カルシウムとリンを血液中に放出します。興味深いのは、骨からはカルシウムとリンが常に一定の比率(約2:1のモル比)で放出されるという点です。これは骨の主要な無機成分がヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)という結晶構造を持つためです。

しかし、ここで疑問が生じます。PTHが骨からリンを放出しているのに、なぜ血中リン濃度は上昇しないのでしょうか?

答えは腎臓でのリン排泄促進作用が骨からのリン放出よりも優位だからです。PTHの腎臓への作用は極めて強力で、骨から放出されたリンは速やかに尿中に排泄されるため、結果として血中リン濃度は低下します。実際、原発性副甲状腺機能亢進症の患者では高カルシウム血症とともに低リン血症が特徴的な所見として認められます。

MSDマニュアルの副甲状腺機能の概要ページでは、PTHの骨と腎臓への多面的な作用が専門的に解説されています

副甲状腺ホルモンと活性型ビタミンD産生の相互作用

副甲状腺ホルモンのリン代謝への影響は、活性型ビタミンD産生を介した間接的な経路も重要です。

PTHは腎臓の近位尿細管細胞に存在する1α水酸化酵素を活性化します。この酵素は25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)を活性型ビタミンDであるカルシトリオール(1,25(OH)2D)に変換する最終段階を担っています。

活性型ビタミンDが産生されると、小腸でのカルシウムとリンの吸収が促進されます。具体的には、小腸上皮細胞でカルシウム結合タンパク質(カルビンディン)の発現が増加し、カルシウム吸収効率が通常の10〜15%から40〜50%程度まで上昇します。同時にリンの吸収も促進されるため、食事由来のリンが血中に入りやすくなります。

腸管での吸収が増えるわけですね。

しかし、活性型ビタミンDには副甲状腺に対する重要なフィードバック作用があります。カルシトリオールは副甲状腺細胞の核内に存在するビタミンD受容体(VDR)に結合し、レチノイドX受容体(RXR)とヘテロ二量体を形成してPTH遺伝子の転写を抑制します。つまり、PTHが活性型ビタミンD産生を促進し、その活性型ビタミンDがPTH分泌を抑制するという負のフィードバックループが形成されています。

この相互調節機構により、通常は血中カルシウムとリンのバランスが精密に維持されます。ところが慢性腎臓病(CKD)患者では腎機能低下に伴い1α水酸化酵素の活性が低下するため、活性型ビタミンD産生が障害されます。

活性型ビタミンDが産生できないということです。

その結果、小腸でのカルシウム吸収が低下して低カルシウム血症となり、これがPTH分泌をさらに刺激して二次性副甲状腺機能亢進症の発症につながります。CKDステージ3(推定糸球体濾過量30〜59 mL/分/1.73m²)の段階から活性型ビタミンD濃度の低下が始まることが知られており、これがCKD早期からPTH上昇が見られる理由の一つとなっています。

腎機能低下時における副甲状腺ホルモンとリンの関係変化

腎機能が低下すると、副甲状腺ホルモンとリンの関係性は健常者とは全く異なる様相を呈します。

慢性腎臓病患者では、ネフロン数の減少により単位ネフロンあたりのリン排泄負荷が増大します。CKDステージ2〜3の段階では、まだ血清リン値は正常範囲に保たれていますが、これは代償的にPTHとFGF23(線維芽細胞増殖因子23)の分泌が亢進し、残存ネフロンからのリン排泄を最大限に促進しているためです。

リン利尿ホルモンが増えるということですね。

しかし、CKDステージ4(推定糸球体濾過量15〜29 mL/分/1.73m²)以降になると、PTHやFGF23がいくら分泌されても絶対的なネフロン数が不足しているため、リンを十分に排泄できなくなります。その結果、血清リン値が徐々に上昇し始め、透析導入時には多くの患者で血清リン値が5.5 mg/dLを超える高リン血症を呈します。

高リン血症は直接的に副甲状腺細胞を刺激してPTH分泌と副甲状腺細胞の増殖を促進します。さらに高リン血症は腎臓での1α水酸化酵素活性を抑制するため、活性型ビタミンD産生がさらに低下し、これもPTH分泌を刺激します。また、血中リン濃度が上昇すると血中カルシウムと結合してリン酸カルシウムを形成し、イオン化カルシウム濃度が低下するため、これも副甲状腺を刺激する要因となります。

複数の悪循環が形成されます。

透析患者における管理では、日本透析医学会のガイドラインでintact PTH値を60〜240 pg/mLの範囲に維持することが推奨されています。この範囲を外れると、骨病変や血管石灰化のリスクが上昇することが複数の研究で示されています。特にPTH値が240 pg/mLを超える状態が持続すると、高回転型骨病変(線維性骨炎)を引き起こし、骨折リスクが健常者の3〜5倍に増加することが報告されています。

PTH管理の場面では、血清リン値を適切な範囲(透析患者では3.5〜6.0 mg/dL)に保つことがまず重要です。食事指導によりリン摂取を1日800 mg以下に制限するとともに、食事中のリン吸収を阻害するリン吸着剤(炭酸カルシウム、炭酸ランタン、スクロオキシ水酸化鉄など)の適切な使用により、消化管からのリン吸収を減らします。

日本透析医学会の慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドラインでは、透析患者におけるPTH管理の詳細な推奨事項が記載されています

副甲状腺ホルモンとFGF23の協調的リン調節機構

近年の研究により、副甲状腺ホルモンに加えてFGF23(線維芽細胞増殖因子23)がリン代謝調節において重要な役割を果たすことが明らかになっています。

FGF23は主に骨細胞から分泌されるホルモンで、PTHと同様に強力なリン利尿作用を持ちます。FGF23はその作用を発揮するために、腎臓に発現するFGF受容体1(FGFR1)とその共受容体であるKlothoタンパク質の両方を必要とします。FGF23が受容体複合体に結合すると、PTHと同じく近位尿細管のナトリウム-リン共輸送体の発現を抑制してリン排泄を促進します。

リン利尿ホルモンが二つあるわけですね。

興味深いのは、FGF23はPTHとは異なる独自の作用も持っている点です。FGF23は1α水酸化酵素の発現を抑制すると同時に、活性型ビタミンDを不活化する24水酸化酵素の発現を促進します。つまりFGF23は活性型ビタミンD濃度を低下させることで、間接的に小腸からのリン吸収を抑制し、体内へのリン負荷を減らす作用を持ちます。

さらに、FGF23は副甲状腺にも直接作用してPTH分泌を抑制することが2007年に明らかになりました。副甲状腺細胞もKlothoを発現しており、FGF23-FGFR1-Klotho複合体を介したシグナルがPTH遺伝子の転写を抑制します。

相互に影響し合う仕組みです。

慢性腎臓病患者では、CKD早期の段階から血清FGF23濃度が上昇し始めることが知られています。これは腎機能低下によるリン蓄積を防ぐための代償機構と考えられます。しかしCKDステージ3bから4にかけて、FGF23濃度は正常の10〜100倍にまで上昇しますが、それでもリンを十分に排泄できなくなり、高リン血症が顕在化します。

透析患者ではFGF23濃度がさらに上昇し、正常の100〜1000倍に達することもあります。このような異常高値のFGF23は、心血管イベントや死亡率の増加と強く関連することが多数の疫学研究で示されています。具体的には、FGF23濃度が2倍になるごとに心血管死リスクが約1.3倍上昇するという報告があります。

FGF23の評価と管理の場面では、現時点で透析患者に対するFGF23測定は保険適用されていませんが、研究レベルでは予後予測因子として注目されています。FGF23を低下させる確立された治療法はまだありませんが、食事中のリン添加物を制限することでFGF23濃度が低下するという報告があり、加工食品に含まれる無機リンの摂取制限が重要と考えられています。


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