副鼻腔気管支症候群の症状と病態
副鼻腔気管支症候群の代表的症状
副鼻腔気管支症候群(SBS:Sinobronchial Syndrome)は、慢性副鼻腔炎に慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎などの下気道炎症性疾患が合併した病態として定義されています。この疾患は「慢性・反復性の好中球性気道炎症を上気道と下気道に合併した病態」と専門的に説明され、長引く咳嗽の鑑別診断として非常に重要な位置を占めています。
参考)VI.副鼻腔気管支症候群
最も特徴的な症状は、痰が絡む湿性咳嗽が長期間継続することです。この湿った咳は8週間以上続くことが多く、特に朝の起床時に痰を伴う咳が多く出る傾向があります。喘息でみられるような「ヒューヒュー」という喘鳴や呼吸困難発作は起こらないのが大きな特徴です。痰は黄色から緑色で粘り気のあるものが出ることが一般的で、咳払いをしたくなるような喉の違和感が続きます。
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上気道症状として、慢性副鼻腔炎に伴う様々な症状が同時に現れます。鼻づまりや黄色・緑色で粘り気のある鼻汁、鼻の奥からのどに鼻汁が流れ込む後鼻漏、嗅覚障害、頭重感などが代表的です。後鼻漏によって鼻汁が気管に流れ込むと、その刺激で咳が誘発されることもあります。のどに痰がからむ違和感や胸のゼロゼロした感じを自覚する患者も多く見られます。
参考)副鼻腔気管支症候群
微熱や全身のだるさを感じることもありますが、高熱が出ることは少ないとされています。風邪薬や一般的な咳止めを使用してもなかなか改善しない場合には、この副鼻腔気管支症候群の可能性を考える必要があります。特にアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の既往がある方は、この症候群を起こしやすいと言われています。
副鼻腔気管支症候群の発症メカニズム
副鼻腔気管支症候群が発症するメカニズムは、副鼻腔と気管支が同じ呼吸器系の気道として連続しており、同じ種類の粘膜で覆われていることに関係しています。鼻の横にある空洞である副鼻腔に炎症が起こると、鼻汁が喉の方に降りてきて気管支に入り、気管支炎を引き起こすのです。
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同時に、鼻閉(鼻づまり)によって鼻呼吸ができなくなり口呼吸になることで、より一層気管支炎が発症しやすい状態になります。粘膜の一部が炎症を起こしてそれを放置していると、炎症箇所がどんどん広がってしまい、最終的に慢性副鼻腔炎と慢性気管支炎が合併して副鼻腔気管支症候群へと悪化します。
気道を守るさまざまな防御機構に障害が生じると、副鼻腔と気管支の両方で慢性的な炎症が起こりやすくなると考えられていますが、病態の詳細なメカニズムについてはまだ十分に解明されていません。ただし、鼻水と痰の両方で白血球の一種である好中球の増加が確認されることが、この疾患の炎症パターンの特徴とされています。
参考)副鼻腔気管支症候群
副鼻腔気管支症候群に合併する下気道疾患
副鼻腔気管支症候群では、慢性副鼻腔炎に加えて複数の下気道疾患が合併することが知られています。主な合併疾患として、慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎の3つが挙げられます。
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慢性気管支炎は、気管支に慢性の炎症が続く病気で、慢性的に痰の絡んだ咳が継続します。気管支拡張症は、何らかの原因によって気道が感染や炎症を繰り返して非可逆的に拡張してしまう病態です。気管支が拡張すると本来の機能を果たせなくなり、慢性的な咳や痰、息切れなどの症状が現れます。進行例では低酸素血症や肺高血圧症による右心不全が呼吸困難を悪化させることもあります。
びまん性汎細気管支炎は、細気管支に慢性的な炎症が発生する病気で、1969年に日本から世界に向けて初めて報告された疾患です。「びまん性」とは限局性でなく肺全体広範囲におこるもので、「汎」は細気管支壁内に留まらず周囲にも炎症が及ぶという意味を持ちます。ほとんどの患者で慢性副鼻腔炎を合併し、鼻づまり、色のついた鼻汁、嗅覚低下などの症状があります。
参考)びまん性汎細気管支炎 – 日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック…
これらの疾患はいずれも副鼻腔気管支症候群という概念に含まれ、マクロライド系抗菌薬による治療が効果的であるという共通点があります。症状は徐々に進行するため、治療を行わない場合は肺機能のさらなる低下を引き起こす恐れがあり、早めの診断と治療が必要です。
副鼻腔気管支症候群の診断方法と検査
副鼻腔気管支症候群の診断には、長期的にせきが続く他の病気と区別するために、様々な検査が必要となります。診断の基本となるのは、詳細な問診と身体診察です。8週間以上続く湿性咳嗽があり、副鼻腔炎様の症状(鼻づまり、膿性鼻汁など)を伴う場合に、この疾患を疑います。
画像検査として、副鼻腔レントゲンや副鼻腔CTが有用です。これらの検査では、粘膜の腫れや液体のたまりを確認することができます。副鼻腔気管支症候群の場合、胸部CTでは気管支拡張や小葉中心性の粒状影(ツブツブとした影)が認められることがあります。最近では、メディカルスキャニング施設と連携してCT検査によるびまん性汎細気管支炎やびまん性気管支拡張症の診断を受けることができる医療機関も増えています。
参考)副鼻腔気管支症候群(ふくびくうきかんし症候群) – 【目黒駅…
血液検査や痰の検査も診断の参考になります。特に、鼻水と痰の両方で白血球の一種である好中球の増加を確認することが、診断の重要な手がかりとなります。好中球が増加しているということは、細菌感染を伴う炎症が持続していることを示しています。
呼吸機能検査も必要に応じて実施され、肺機能の状態を評価します。副鼻腔気管支症候群では、慢性副鼻腔炎を背景として下気道炎症が併発するため、上気道と下気道の両方の評価が不可欠です。容易に原因が特定できない湿性咳嗽の場合は、第一に考慮すべき病態とされています。
副鼻腔気管支症候群の治療法とマクロライド療法
副鼻腔気管支症候群の治療の基本は、マクロライド系抗菌薬少量長期療法です。マクロライドは主に気管支炎や肺炎等に効果のある抗生物質で、呼吸器科ではびまん性汎細気管支炎などに対してマクロライド少量長期投与療法が広く行われています。
マクロライド系抗生物質には免疫を調整して炎症を抑える作用があります。抗菌作用ではなく、気道上皮での粘液分泌の抑制、水分泌抑制、線毛運動の亢進、好中球浸潤の抑制、抗炎症作用などを期待して投与されます。マクロライド療法により、炎症で障害された鼻粘膜や気管支粘膜を正常の状態に回復させることが可能になります。
参考)マクロライド療法
具体的には、14員環マクロライドという種類の抗生物質を通常量の半量で長期間(3〜6か月)服用する治療法が採用されます。エリスロマイシン(EM)に比べて、ニューマクロライドと呼ばれるクラリスロマイシン(CAM)の方が効果があると言われています。治療効果は2〜4週間で感じられるようになり、2〜3ヶ月で最大限の効果が得られます。
参考)慢性気管支炎と慢性副鼻腔炎のためのマクロライド抗生物質:少量…
マクロライド療法は徐々に効果があらわれるため、効果の判定には4週間から8週間を要します。副作用の少ないマクロライド系抗生物質を半量にすることで、抗生物質であっても安心して長期間の服用を続けることができます。ただし、効果には個人差があり、定期的に医師の診察を受けて経過観察することが必要です。
痰を切る薬(去痰剤)を併用することもあります。軽症の場合は去痰剤を服用するだけで症状が軽減され、治療開始から数週間で症状が改善されることもありますが、症状がひどい場合には数ヵ月単位で治療期間を要する場合も少なくありません。通常の咳止めでは良くならないのが特徴で、原因に応じた適切な治療が重要です。
長期間抗生物質を服用することになりますが、安全性は高く、多くの患者に有効性を示しています。治療を検討する際は、医師とよく相談し、治療のメリットとリスクを十分に理解した上で進めることが重要です。治療中は定期的な診察を受け、症状の変化や副作用の有無に注意しながら継続することが推奨されます。
<参考文献>
日本内科学会「副鼻腔気管支症候群」の詳細については、以下の資料が参考になります。
日本内科学会雑誌「副鼻腔気管支症候群」