腹腔内出血と症状の特徴

腹腔内出血と症状

腹腔内出血の主な症状
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急性ショック症状

血圧低下、頻脈、皮膚蒼白、冷汗などの循環不全による生命に関わる症状が出現します

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腹部症状

急激な腹痛、腹部膨隆、腹膜刺激症状が認められ、出血量により症状の程度が変化します

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検査所見の変化

赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値の低下など血液検査で貧血の進行が確認されます

腹腔内出血は腹部内の臓器や血管が損傷することで血液が腹腔内に漏れ出す状態を指し、生命を脅かす緊急性の高い病態です。出血量と出血速度によって症状の重症度が大きく変わり、適切な早期対応が救命の鍵となります。本記事では腹腔内出血の症状、原因、診断方法、治療法について詳しく解説していきます。

腹腔内出血の初期症状と特徴

腹腔内出血の初期症状は出血の速度と量によって異なりますが、最も特徴的なのは急激な腹痛です。腹腔内に血液が貯留すると多くの場合、急激な腹痛と腹膜刺激症状を呈し、血液が貯留した部位に圧痛を認めます。腸管蠕動は抑制され、腹部の膨隆が観察されることもあります。

急性の失血に伴い、突然の元気消失、起立困難、意識レベルの低下といった全身症状が見られます。特に大量出血から低循環性のショック状態に陥ると、頻脈や粘膜蒼白など低血圧の徴候が認められ、さらにはぐったりとした虚脱状態に進行します。

出血量が増加すると血圧低下、頻脈、皮膚蒼白、冷汗などのショック症状が顕著になります。これらの循環不全による症状は、赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値、中心静脈圧値、時間尿量の減少として検査所見にも反映されます。ショックに対する適切な処置を行わなければ、短時間で死に至る可能性があるため、迅速な対応が求められます。

腹腔内出血の主な原因

腹腔内出血の原因は大きく非外傷性と外傷性に分類されます。非外傷性出血には肝癌、脾嚢胞、動脈瘤破裂、卵巣嚢腫、子宮外妊娠、出血性膵炎、術後出血などが含まれます。特に肝臓や脾臓に発生した血管肉腫などの腫瘍からの出血は、犬や猫などの動物医療でも頻繁に遭遇する原因です。

外傷性出血は交通事故や転倒、スポーツによる外傷が一般的で、腹部に強い衝撃が加わることで実質臓器損傷、腸間膜損傷、血管損傷が生じます。肝臓や脾臓の損傷は腹腔内出血の主要な原因となり、大量の出血を引き起こす可能性があります。

内的要因による病気としては、肝硬変による門脈圧亢進、血液凝固異常、動脈瘤の自然破裂などがあります。肝硬変の場合、肝臓の血管が高圧になり血液が漏れやすくなるため、比較的軽微な刺激でも出血することがあります。また癌が進行し腹腔内に転移すると腫瘍の自然破裂により出血を引き起こすことがあり、この時点ですでに全身転移した腫瘍が確認されることも少なくありません。

妊娠中の合併症も重要な原因の一つです。胎盤剥離や妊娠性高血圧症候群、子宮外妊娠などが腹腔内出血を引き起こすことがあり、母体と胎児の生命に関わる緊急事態となります。さらに稀な原因として、心肺蘇生後の遅発性腹腔内出血も報告されており、胸骨圧迫による直達外傷が関与していると考えられています。

腹腔内出血の診断方法と検査

腹腔内出血の診断には迅速性が求められるため、ベッドサイドで実施できる超音波検査が第一選択となります。特に外傷においてはFAST(focused assessment with sonography for trauma)と呼ばれるエコー検査手法が推奨されており、心窩部、右横隔膜下腔、肝周囲、Morison窩、右傍結腸溝、左横隔膜下腔、脾臓周囲、左傍結腸溝、Douglas窩の順で検索を行います。

腹部超音波検査により腹水貯留が認められたら、直ちに穿刺によりそれが血液成分であることを確認し、出血原因となっている病変を探査します。出血は最少100mlの貯留で同定可能であり、エコー所見は通常無エコー領域として認められますが、経時的に凝血を生じると索状、網目状の内部エコーを伴ってきます。

全身状態が安定している場合は、CT検査により出血源の確認をより詳細に行うことができます。造影CTでは活動性出血の有無や損傷臓器の範囲を評価でき、治療方針の決定に重要な情報を提供します。さらに出血源の確認と塞栓術による止血を兼ねた腹部動脈造影(IVR)を行うこともあります。

血液検査では赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット値の低下により貧血の程度を評価します。同時に凝固機能検査、肝機能検査腎機能検査を実施し、重症度の評価と合併症の有無を確認します。緊急時の診断においては病歴、症状、所見の他、腹腔穿刺、腹腔洗浄法が有効であり、これらを組み合わせて総合的に判断します。

腹腔内出血の診断に関する詳細な医学論文(日本救急医学会雑誌)では、FASTの有用性と限界について詳しく解説されています。

腹腔内出血の治療と救命処置

腹腔内出血の治療は出血量と循環動態によって方針が決定されます。まず迅速に血管確保を行い、急速輸液によるショックに対する治療を開始します。経皮的静脈穿刺または静脈切開による輸液路確保と輸液、輸血、酸素投与、止血処置が基本となります。

実質臓器の単独損傷で出血が限局している場合は、IVR(画像下治療)による動脈塞栓術が有効です。カテーテルを用いて出血部位の血管を選択的に塞栓することで、開腹手術を回避できる可能性があります。この方法は低侵襲であり、患者への負担が少ないという利点があります。

消化管損傷や大量出血を伴う場合は開腹手術が選択され、損傷臓器の修復や切除が行われます。重症例では、ダメージコントロール手術を選択し、まず止血と汚染のコントロールに重点を置き、その後段階的な治療を行うことで救命率の向上を図ります。腹腔内多発臓器損傷や大血管損傷による高度の出血に対しては腹部大動脈遮断、もしくは開胸による胸部大動脈遮断を施行することもあります。

初期治療によってショックから離脱し、麻酔処置が可能となり次第、救命処置として緊急開腹手術による腫瘤の摘出、止血処置を行います。出血の程度や合併症によっては手術の前後で緊急輸血が必要となることがあり、輸血製剤の準備と適切な輸血管理が重要です。

腹腔内出血の術後管理と合併症予防

術後は厳重な全身管理が必要となります。循環動態の安定化、呼吸・腎機能の維持、感染予防が重要な管理項目です。再出血や臓器不全、感染症などの合併症に注意しながら、適切な輸液・輸血管理を継続します。

手術後には一時的な心筋の低酸素や低循環などによる不整脈が出ることがありますが、多くは一過性です。しかし重症例では多臓器不全に進展するリスクがあるため、バイタルサインの継続的なモニタリングと血液検査による臓器機能の評価が欠かせません。

状態が安定すれば早期離床とリハビリテーションを開始し、機能回復を目指します。また長期的な予後改善のため、栄養管理や疼痛コントロールにも注意を払います。摘出した腫瘤がある場合は病理学的検査を依頼し確定診断を行い、追加治療の必要性を検討します。

悪性腫瘍による腹腔内出血の場合、救命処置後も腫瘍の転移や再発のリスクがあるため、定期的な画像検査によるフォローアップが必要です。胸部レントゲン検査や心臓超音波検査、CT検査で腫瘍の転移の有無を継続的に確認し、必要に応じて化学療法や放射線療法などの追加治療を検討します。

腹腔内出血における予後と長期的な視点

腹腔内出血の予後は原因疾患、出血量、治療開始までの時間、患者の基礎疾患によって大きく異なります。外傷性の場合、早期診断と迅速な止血処置により救命率は向上していますが、多発外傷や大量出血を伴う重症例では依然として死亡率が高い状況です。

非外傷性の腹腔内出血、特に悪性腫瘍による出血の場合は、救命処置が成功しても原疾患の進行度によって予後が左右されます。肝癌や脾臓の血管肉腫など悪性度の高い腫瘍では、出血時にすでに転移している症例も多く、長期予後は厳しい場合があります。

再発予防の観点からは、原因疾患に対する根本的な治療が重要です。動脈瘤や血管奇形による出血の場合は、残存病変に対する予防的治療を検討します。肝硬変による門脈圧亢進が原因の場合は、基礎疾患の管理と定期的な画像検査によるサーベイランスが必要です。

患者の生活の質を維持するためには、術後のリハビリテーションと心理的サポートも欠かせません。重症例では集中治療室での長期管理が必要となり、筋力低下や廃用症候群のリスクがあるため、理学療法士や作業療法士と連携した包括的なリハビリテーションプログラムが推奨されます。また患者と家族に対する疾患説明と心理的ケアを通じて、治療への理解と協力を得ることが長期的な予後改善につながります。

腹腔内出血と腹部外傷の治療ガイドラインでは、最新の治療方針と予後に関する情報が提供されています。