フォンテインとバイオショックの正体と能力
フォンテインの正体とラプチャーでの暗躍
フランク・フォンテインは海底都市ラプチャーを舞台にしたバイオショックシリーズにおける最大の黒幕です。表向きは1958年にラプチャーの創造主アンドリュー・ライアンが放った襲撃部隊によって死亡したとされていましたが、実際には死を偽装し、アイルランド系労働者「アトラス」として活動を続けていました。フォンテインは密輸業者として才能を開花させ、「フォンテイン水産」「フォンテイン未来技術社」などの企業を起業して莫大な財産を築きました。彼の最終目的はライアンからラプチャーの支配権を奪うことであり、そのために主人公ジャックを遺伝子操作で生み出し、洗脳して自分の駒として利用したのです。
フォンテインの商才と演技力は並外れており、「フォンテイン救済センター」という救貧院施設を設立することで、才能に恵まれず何も成し遂げられなかった人々に食と住居を提供する慈善家を装いました。しかしその裏では、これらの人々を秘密裏にスプライサーの私兵部隊として組織化していたのです。彼はラプチャーの完全な資本主義が生み出した真の結果物とも言える存在であり、利益のためなら手段を選ばない冷酷な人物でした。
ゲーム中盤でライアンを殺害させた後、フォンテインはアトラスとしての演技をやめて正体を明らかにします。主人公ジャックにかけられた洗脳コード「親切にしてくれないか(Would you kindly)」の真実が明らかになる衝撃的な場面は、バイオショックを象徴する名シーンとして知られています。
フォンテインのADAM能力とプラスミド
最終決戦でフォンテインは自身に大量のADAMとプラスミドを投与し、人間の姿を捨てて超人的な怪物へと変貌を遂げます。ADAMとは海底都市ラプチャーで発見されたウミウシの一種から抽出される遺伝子改変物質で、人間の能力を劇的に変化させる力を持ちます。フォンテインはこれまで公私を混同しないために控えていたADAMの使用を解禁し、文字通り化け物となってジャックに襲いかかります。
フォンテイン戦は3段階に分かれており、各段階で異なる能力を使用してきます。第1段階では体当たりや炎を飛ばす攻撃、第2段階では氷を飛ばして体当たりする攻撃に加えてセキュリティボットを召喚する能力、第3段階ではさらに強力な電撃や複合攻撃を繰り出します。各段階でフォンテインの体力ゲージを削り切ると、彼は中央のADAM投与装置に戻ってADAMを補充しようとするため、プレイヤーはその隙にADAMを吸い取って彼を弱体化させる必要があります。
フォンテインの能力は通常のスプライサーとは比較にならないほど強大です。炎・氷・電撃といった複数の元素攻撃を自在に切り替え、高速移動と体当たりを組み合わせた連続攻撃でプレイヤーを追い詰めます。セキュリティシステムを掌握する能力も持ち、北側の壁にあるセキュリティ解除装置を使わない限り、無限にセキュリティボットが襲ってくる仕組みになっています。
フォンテインとリトルシスターの開発
フォンテインがラプチャーで最も重要視したビジネスの一つが、リトルシスターの開発とADAM製造システムの構築でした。彼は遺伝子工学の天才科学者ブリジット・テネンバウム博士に資金援助を行い、人間の少女をADAM製造工場に改造する非人道的な実験を推進しました。リトルシスターは体内にウミウシを寄生させられ、死体からADAMを採取する特殊な存在として作り上げられました。
リトルシスターの開発はラプチャー社会に深刻な倫理的問題を引き起こしました。元々は普通の人間の少女であった彼女たちは、ボロボロのドレスを身に纏い、異様な声と光る眼光を持つ化け物のような姿に変えられてしまいます。作中のダイアリーには、化物にされた娘を見た親がショックを受ける様子が記録されており、中には親自身がスプライサーと化して自分の娘を襲うという悲劇も示唆されています。
フォンテインはリトルシスターをビッグダディと呼ばれる護衛生物とペアにすることで、効率的なADAM採取システムを確立しました。ビッグダディはリトルシスターを「ミスター・バブルズ」と呼んで慕われ、彼女たちを守るために凶暴な戦闘能力を発揮します。このシステムによってフォンテインは莫大なADAMを蓄積し、最終的には自身の肉体強化にも使用することになります。
最終決戦でフォンテインが倒れた後、今までジャックによって救済されたリトルシスターたちが彼に襲いかかり、体内のADAMを奪い取ってフォンテインを完全に倒すという展開は、フォンテインが作り出した存在に最後は滅ぼされるという皮肉な結末を示しています。
フォンテインの事業展開と経済支配
フォンテインはラプチャーにおいて多角的な事業展開を行い、経済的支配力を拡大していきました。彼が経営していた主要企業には以下のようなものがあります。
- フォンテイン水産:表向きは水産業を営む企業でしたが、実際には密輸ビジネスの拠点として機能していました
- フォンテイン未来技術社(Fontaine Futuristics):遺伝子工学やバイオテクノロジー分野を手掛ける複合企業で、リトルシスター開発の中心施設でした
- フォンテイン救済センター:慈善事業を装いながらスプライサーの私兵部隊を秘密裏に育成する施設でした
フォンテイン未来技術社は特に重要な施設で、テネンバウム博士の研究室やADAM投与装置が設置されていました。ゲーム終盤でジャックはこの施設最深部でフォンテインと最終決戦を繰り広げることになります。施設内にはプラスミドやトニックの研究開発設備が整っており、200ADAMで購入できる強力なアップグレードも用意されていました。
フォンテインの経済戦略は、ラプチャーの完全な自由市場資本主義を最大限に利用するものでした。政府の規制が存在しないラプチャーでは、倫理的に問題のある事業でも利益が見込めれば実行できたのです。彼は人々の弱みにつけ込む天才的な商才を持ち、貧困層には救済を、富裕層には新しい技術や快楽を提供することで、社会のあらゆる階層に影響力を浸透させていきました。
フォンテインがもたらした医学的・倫理的問題
フォンテインのビジネスモデルは、バイオショックシリーズが提起する重要な医学倫理的問題の核心に位置しています。ADAM技術の無制限な商業利用は、現実世界における遺伝子編集技術や人体強化技術の規制問題と重なる部分があります。規制のない環境で利益追求が最優先される時、科学技術がどのような危険性を持つかを象徴的に描いています。
リトルシスターの開発は人体実験の最も極端な形態です。幼い少女を同意なしに遺伝子改変し、ADAM製造のための道具として利用する行為は、医学研究における被験者保護の重要性を浮き彫りにします。現実世界ではニュルンベルク綱領やヘルシンキ宣言などの国際的な倫理規範が人体実験を厳格に規制していますが、ラプチャーにはそのような制約が存在しませんでした。
厚生労働省の臨床研究に関する倫理指針では、研究対象者の尊厳と人権保護が最優先されることが明記されています。フォンテインの行為はこれらの基本原則をすべて無視したものでした。
フォンテインが大量のADAMを自己投与して怪物化する展開は、薬物依存や未承認医薬品の自己使用がもたらす危険性を示唆しています。ADAMの副作用として描かれる精神崩壊やスプライサー化は、薬物乱用による神経系への不可逆的なダメージを象徴的に表現していると解釈できます。現実の医学でも、承認されていない物質や過剰投与が重大な健康被害をもたらすことは広く知られています。
重症患者のリハビリテーションに関する日本の臨床実践ガイドラインのような医療ガイドラインは、患者の安全と倫理を確保するために存在します。フォンテインが活動したラプチャーには、こうした安全装置が一切機能していなかったのです。
バイオショックが描くフォンテインという人物は、利益のために人間性を完全に捨て去った資本主義の暗黒面を体現しています。彼の物語は、科学技術の進歩と商業化には適切な倫理的・法的枠組みが不可欠であるという教訓を、ゲームという媒体を通じて伝えているのです。