フィブリノゲン副作用と効果
フィブリノゲン基本効果と作用機序
フィブリノゲンは分子量340kDaの糖タンパクで、Aα鎖、Bβ鎖、γ鎖の3種のポリペプチドからなるヘテロ3量体が重合した構造を持ちます。肝臓で合成され、健常人血漿中には150-400mg/dL存在しています。
止血機構における中心的役割 🩸
フィブリノゲン製剤の投与により、重症例における低フィブリノゲン血症に伴う凝固機能障害に対してフィブリノゲンを補充し、血中フィブリノゲン濃度を効率的に上昇させることができます。これにより凝固機能を改善させ、出血傾向を是正する効果が期待されます。
治療効果の発現時間と持続性
フィブリノゲン濃縮製剤は新鮮凍結血漿(FFP)と比較して、短時間でフィブリノゲン濃度を上昇させることが可能です。FFP 1単位に含まれるフィブリノゲンは約200~250mgであることから、大量投与による容量負荷を避けながら迅速な効果が得られます。
臨床的有効性の指標
フィブリノゲン値が150mg/dL以下になると、ウージングを主体とする全身性の出血傾向が現れ、外科的処置において止血不可能な状態に陥ります。製剤投与により、この閾値を超える濃度まで速やかに回復させることで、臨床的に有意な止血効果が得られます。
フィブリノゲン重大副作用と対策
フィブリノゲン製剤の使用に際しては、生命に関わる重篤な副作用に十分注意する必要があります。1987年の販売開始から2019年8月末までに173,681本が供給され、16例41件の副作用が報告されています。
血栓塞栓症 ⚠️
最も注意すべき副作用として血栓塞栓症があり、以下の症状が報告されています。
血栓塞栓症の症状として、吐き気、嘔吐、脱力、まひ、激しい頭痛、胸の痛み、押しつぶされるような胸の痛み、突然の息切れ、激しい腹痛、お腹が張る、足の激しい痛みなどが現れます。
アナフィラキシーとショック
全身のかゆみ、じんま疹、喉のかゆみ、ふらつき、動悸、冷汗、めまい、顔面蒼白、手足が冷たくなるなどの症状が現れることがあります。これらの症状が認められた場合は、直ちに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。
副作用発現のリスク因子と予防策
- 投与速度を適切に調整し、急速投与を避ける
- 患者の凝固機能を定期的にモニタリング
- 血栓症の既往歴や危険因子を十分に評価
- 投与中は患者の状態を継続的に観察
厚生労働省の医薬品医療機器総合機構による資料では、使用理由が判明している5例の内訳として、先天性患者2例、後天性患者3例が報告されており、適応の適切な判断が重要です。
フィブリノゲン先天性欠損症への治療効果
先天性フィブリノゲン欠損症は、フィブリノゲンの量的・質的異常を伴う疾患で、無フィブリノゲン血症、低フィブリノゲン血症、フィブリノゲン異常症に大別されます。
無フィブリノゲン血症への効果 🧬
- フィブリノゲン抗原量が測定感度以下まで低下した状態
- ホモの遺伝子欠損による先天性疾患
- 出血傾向を認めるが、フィブリノゲン値が20mg/dL程度でも年間出血回数は1回程度
低フィブリノゲン血症への治療反応
低フィブリノゲン血症では、フィブリノゲン値が低いほど出血傾向の出現頻度が高くなりますが、100mg/dL程度では日常生活ではほとんど出血傾向は呈しません。ヘテロの異常症として、50-100mg/dL程度の値を示します。
フィブリノゲン異常症への対応
フィブリノゲン異常症では、フィブリノゲン抗原量は保たれているものの、機能的な異常を呈する病態です。トロンビンによるフィブリンモノマー形成が低下している症例や、フィブリンモノマーの重合不全を引き起こす症例など、様々な病態が含まれます。
補充療法の効果判定
先天性疾患に対するフィブリノゲン製剤の効果判定には、以下の指標が重要です。
- 臨床的出血症状の改善
- フィブリノゲン値の上昇度合い
- 凝固時間の正常化
- 手術時の止血効果
京都大学輸血部の資料によると、フィブリノゲン値測定にはClauss法が最も多く使用されており、50mg/dL程度が測定下限とされています。
フィブリノゲン手術時使用効果と注意点
心臓・大血管手術では死亡率が高く、8%の患者で大量出血となり、大量出血は死亡のオッズ比を8倍にも上げるとされています。このような高リスク手術におけるフィブリノゲン製剤の使用は、救命的な意義を持ちます。
体外循環手術での特殊な課題 🏥
体外循環が長時間に及ぶと以下の要因で凝固機能が低下します。
- 希釈性凝固障害の進行
- 炎症反応からトロンビンが大量産生され線溶亢進
- 低体温法の併用による凝固因子活性低下
- 血管手術(16.2%)では外傷(18.3%)と同様に高い院内死亡率
手術時の効果的な使用法
フィブリノゲン濃度が150mg/dLを下回ると、ウージングを主体とする全身性の出血傾向が現れ、外科的処置において止血不可能な状態に陥ります。この閾値を維持することが、術中止血管理の重要なポイントです。
FFPとの使い分けと併用効果
新鮮凍結血漿(FFP)のみでは短時間でフィブリノゲン濃度を上昇させることが難しく、大量投与による容量負荷によって希釈性凝固障害が亢進するほか、肺水腫や輸血関連肺障害等の副作用も懸念されます。
術中モニタリングの重要性
- 定期的なフィブリノゲン値測定
- PT、APTT、血小板数の同時評価
- 臨床的出血量と止血効果の観察
- 血栓症徴候の早期発見
大量出血症例においてFFPのみでなくフィブリノゲン濃縮製剤も用いた凝固因子の補充を行うことにより、迅速な止血が図れるとともに、輸血量の削減効果も期待されます。
フィブリノゲン値モニタリング臨床意義
フィブリノゲン値のモニタリングは、単なる数値管理を超えて、患者の病態把握と治療効果判定において極めて重要な臨床的意義を持ちます。
病態別のフィブリノゲン動態の理解 📊
上昇パターンとその意義
フィブリノゲンは正の急性相蛋白として、炎症反応時には増加することが多く認められます。同様の変動を示すα2-アンチプラスミンとの比較や、負の急性相蛋白であるアルブミンやアンチトロンビンとの対比により、患者の病態をより詳細に把握できます。
低下パターンの鑑別診断的価値
先天性疾患と後天性疾患の鑑別において、フィブリノゲン値の変動パターンは重要な手がかりとなります。
- 肝硬変・肝不全:PTやAPTTも延長し、アンチトロンビンやプロテインCも低下
- 播種性血管内凝固症候群(DIC):消費性低下だが、炎症反応が関与する場合は上昇することもある
- 線溶制御不能状態:α2-アンチプラスミンの消費性低下に伴う特異的パターン
治療効果判定における定量的評価
フィブリノゲン製剤投与後の効果判定には、以下の時系列評価が重要です。
- 投与前値の正確な測定
- 投与後30分、1時間、3-4時間での値の推移
- 臨床的止血効果との相関性評価
特殊病態でのモニタリングの注意点
慢性活動性EBウイルス感染症では、機序は不明ですが低フィブリノゲン血症を呈する場合があり、新鮮凍結血漿の補充では十分には回復しないため、「消費」「分解」が関与していると考えられます。
測定法の特性を活かした臨床判断
フィブリノゲン異常症では、測定原理(試薬ではなく測定機器の特性)によって値が異なる場合があります。光学的方法と物理的方法の使い分けにより、より正確な病態把握が可能となります。
日本麻酔科学会のガイドラインでは、フィブリノゲン製剤の適正使用における安全性の観点から、継続的なモニタリングの重要性が強調されています。