faecalis enterococcusの感染症と治療
faecalis enterococcusの特徴と感染症(尿路感染症・菌血症・心内膜炎)
腸球菌(Enterococcus)はヒト腸管の常在菌として遭遇頻度が高く、検体から検出されたときに「汚染か、病原か」の見極めが最初の関門になります。特にfaecalis enterococcus(Enterococcus faecalis)は、尿路感染症(UTI)やカテーテル関連感染、菌血症、感染性心内膜炎などで臨床問題になりやすい菌種です。
MSDマニュアル(医療者向け)でも、腸球菌感染症の治療や薬剤感受性の特徴(E. faeciumの方が耐性が高い等)が整理されており、腸球菌を“ひとまとめ”にしない重要性が示されています。
臨床での“あるある”は、尿培養でE. faecalisが出た瞬間に広域セフェムを継続してしまうことです。腹腔内感染症の抗菌薬選択に関する解説でも、セフェムがE. faecalisに無効である点に触れられており、「腸球菌をターゲットにすると選択肢が狭まる」一方で、重症例ではカバーを検討する場面がある、といった現実的な整理がなされています。
現場では次のように“病原性の確からしさ”を積み上げると判断が安定します。
- 採取部位:無菌部位(血液、心内膜)なら原則病原性を重く見る。
- 菌量・反復性:尿で同一菌が反復して優位に出る、白血球増多や症状が一致する。
- 背景:尿路閉塞、結石、留置カテーテル、最近の抗菌薬投与、免疫抑制など。
- 臨床像:発熱・悪寒、CRP上昇、臓器特異的症状(排尿痛、側腹部痛、心雑音など)。
faecalis enterococcusの治療と第一選択(ABPC・ペニシリン)
E. faecalis治療の基本は「感受性があるならアミノペニシリン系を軸にする」です。日本化学療法学会系の資料(セミナーQ&A)でも、E. faecalisに対する治療の第1選択がペニシリンGやアンピシリン(ABPC)であることが明記され、カルバペネムが“感受性結果上は効くように見える”場面があっても、第一選択はペニシリン系である、という臨床メッセージが示されています。
この「第一選択を外さない」姿勢は、抗菌薬適正使用(ASP)でも重要で、過剰な広域化を避けつつ、標的菌に強い薬を適量・適期間で使うことにつながります。
一方で、感染巣と重症度で“同じE. faecalisでも作戦が変わる”点が重要です。例として、感染性心内膜炎は菌量が多く、治療期間も長くなりやすいため、単純性UTIと同じ感覚で抗菌薬を選ぶと失敗します(治療期間、併用の要否、血液培養のフォローなどが別物)。
実務でのチェック項目を簡潔にまとめます。
- 感受性:ABPC感受性の有無(まずここ)。
- 感染巣:UTIか、菌血症か、心内膜炎か(治療強度が変わる)。
- ソースコントロール:カテーテル抜去、ドレナージ、結石・閉塞解除。
- フォロー:血培陰性化確認、再培養、必要時の心エコー。
参考:E. faecalisの第一選択がABPC/ペニシリンであること(実地の抗菌薬選択の考え方)
【第38回セミナー 講演および症例提示に関するQ&A(PDF)】
faecalis enterococcusの耐性(VRE・vanA/vanB)と機序
faecalis enterococcusを語るうえで、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)は「薬の話」だけでなく「院内対策の話」でもあります。国立感染症研究所(NIID)のIASR解説では、VREの耐性機序として、細胞壁前駆体の末端が通常のD-Ala-D-AlaからD-Ala-D-LactateやD-Ala-D-Serに置換され、バンコマイシンが結合できなくなる、という要点が丁寧に説明されています。さらに、高度耐性(高MIC)を示すVanA/VanB/VanD/VanMなどは、可動因子上の耐性遺伝子を外来性に獲得することで成立し、単なる抗菌薬投与や突然変異だけで高度耐性が生じるわけではない、という点も重要です。
この「可動因子(プラスミド、トランスポゾン)で広がる」という理解は、アウトブレイク時の対応速度を左右します。すなわち、“個人の耐性化”ではなく“病棟内で増える仕組み”として捉え、接触予防策や環境整備、検査体制を早期に立ち上げる動機になります。
また、IASRでは臨床で多いVanA型・VanB型、菌種としてはE. faeciumが主で次いでE. faecalisが多い、といった疫学的な並びも述べられています。E. faecalisはE. faeciumほどではないにせよVREになり得るため、「E. faecalisだからVREは薄い」と決め打ちしない方が安全です。
VREを疑ったときの“現場での行動”は次の通りです。
- 検査:バンコマイシンMICと耐性型(vanA/vanB等)確認、必要ならスクリーニング。
- 感染対策:接触予防策、患者動線・物品動線の切り分け、環境清拭の強化。
- 抗菌薬:不要なバンコマイシン/広域薬の整理(選択圧の低減)。
- 情報共有:検査部・ICT/AST・病棟でタイムリーに共有。
参考:VREの耐性機序(D-Ala-D-Alaの置換、vanRSHAXYZなど遺伝子群、可動因子で獲得)
faecalis enterococcusのバイオフィルムと病原因子(esp・asa1)
faecalis enterococcusが“しぶとい”と感じる症例の背景に、バイオフィルムが関与していることがあります。尿路カテーテル、尿路ステント、胆道ドレーン、中心静脈カテーテルなど、異物表面はバイオフィルム形成の温床になり、抗菌薬が届きにくい(あるいは効きにくい)状態を作ります。
日本の研究費データベース(KAKEN)には、院内感染症としての腸球菌性尿路バイオフィルムに関する研究概要があり、E. faecalis臨床株でasa1やespなど病原性遺伝子の保有率を検討していること、さらにasa1保有E. faecalisが遺伝情報交換の中心的役割を担う可能性が示唆されたことが述べられています。これは「バイオフィルム=単に付着」ではなく、「遺伝子(耐性や病原性)をやり取りしやすい場になり得る」という視点につながり、見落とすと痛いポイントです。
参考(研究概要としての一次情報):
院内感染症としての腸球菌性尿路バイオフィルムの病原的意義(KAKEN)
ここは検索上位記事でも触れられやすい領域ですが、医療者向けに“行動に落ちる”形にすると価値が出ます。
- バイオフィルム疑いのサイン:抗菌薬で一時改善→中止で再燃、同一菌が遷延、カテ関連。
- 優先順位:抗菌薬変更より先にデバイス交換・抜去の検討(ソースコントロール)。
- 検体戦略:デバイス先端培養、尿の再採取(採取法の見直し)、血培複数セット。
- チーム連携:泌尿器・外科・放射線(ドレナージ)とAST/ICTの同時進行。
faecalis enterococcusの独自視点:グリコペプチドの“見えない失敗”を減らす処方設計
(ここは意図的に“独自視点”として、検索上位が薬剤名の羅列に寄りがちな点から一歩進めます。)
VREの機序を読むと、バンコマイシンは「薬が弱い」のではなく「標的が消える(置換される)」ために効かなくなる、という構造的な失敗だと分かります。NIID IASRでは、D-Ala-D-Alaへの特異的結合がバンコマイシンの作用点であり、VREでは末端がD-LactateやD-Serに置換され結合できないため耐性になることが説明されています。つまり、投与量設計やTDMの最適化だけで解決しない“カテゴリミス”が起こり得ます。
この理解が役に立つのは、「グラム陽性球菌=とりあえずVCM」という反射的判断を止める瞬間です。腸球菌では、種(faecalis/fecium)、薬剤感受性、感染巣、ソースコントロールの可否で、最初の一手が患者転帰を左右します。
現場で“見えない失敗”を減らすための処方設計の観点を挙げます。
- 菌名が出たら“抗菌薬の得意・不得意”を即再評価:E. faecalisならABPC軸を第一に検討。
- VREが絡むときは「耐性獲得=遺伝子+可動因子」の前提で感染対策を同時に走らせる。
- デバイス感染が疑わしい場合、抗菌薬の変更回数を増やすより、交換・抜去の意思決定を前倒しする。
- 「培養陰性化」だけで終わらず、再燃の原因(異物、閉塞、膿瘍)を最後まで詰める。
権威性のある日本語の参考リンク(VREの耐性機序を体系的に理解でき、院内対策と治療選択の根拠になる)
NIID IASR:バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の薬剤耐性機構

Molecular Charactrization of Enterococcus faecalis: Study of virulence determinants among E. faecalis isolated from patients with significant bacteriuria in Najaf, Iraq