ファブリー病の症状と治療薬の特徴と対策

ファブリー病の症状と治療薬

ファブリー病の基本情報
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遺伝性疾患

X連鎖性遺伝形式をとり、α-ガラクトシダーゼA酵素の欠損により発症します

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早期症状

手足の痛み、発汗障害、皮膚の赤い発疹などが特徴的です

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主な治療法

酵素補充療法とシャペロン療法が根本的治療として行われています

ファブリー病は、α-ガラクトシダーゼA(α-GAL)という酵素が先天的に不足または機能低下していることで発症する遺伝性の代謝異常症です。この酵素の欠損により、グロボトリアオシルセラミド(GL-3)という糖脂質が全身の細胞に蓄積し、様々な臓器に障害を引き起こします。

ファブリー病は希少疾患とされていましたが、最近の新生児マススクリーニングでは約7,000人に1人の割合で患者さんが認められたという報告もあり、実際には考えられているよりも多く存在している可能性があります。特に心臓のみに症状が現れる「心ファブリー病」は、左心室肥大の男性患者の約3%に認められるという報告もあります。

ファブリー病の早期症状と診断のポイント

ファブリー病の症状は、小児期から現れるものと成人してから現れるものがあります。早期に現れる特徴的な症状としては以下のようなものがあります。

  • 四肢末端痛: 手足の先に強く焼けるような痛みやしびれ、チクチクする痛みが数時間続く症状です。この痛みは「ファブリー発作」とも呼ばれ、精神的ストレスや気温の変化、疲労によって引き起こされることが多いです。
  • 発汗減少・無汗症: 暑くても汗をかきにくく、体温調節が難しくなります。そのため、暑い夏には熱中症になりやすく、暑さへの適応が困難になります。
  • 被角血管腫: 胸、お腹、お尻、陰部、太ももなどに赤色の発疹が現れます。この発疹には痛みやかゆみはありません。学童期から発生し、次第に数と大きさが増えていきます。
  • 角膜混濁: 目がまぶしく感じるなどの症状が現れることがあります。角膜混濁はファブリー病に特徴的な症状ですが、通常は視力に影響しません。
  • 消化器症状: 食後に腹痛が起きたり、下痢・嘔吐などで食事がとれなくなることがあります。栄養不足から体重が減少することもあります。

これらの早期症状を見逃さず、適切に診断することが重要です。特に家族歴がある場合や、原因不明の上記症状が複数ある場合は、ファブリー病を疑う必要があります。

ファブリー病の進行と重篤な合併症

ファブリー病の症状は年齢とともに進行し、重篤な合併症を引き起こすことがあります。主な合併症には以下のようなものがあります。

1. 腎機能障害

尿のたんぱく量が増加することから始まり、腎機能が徐々に低下して、やがて腎不全になることがあります。30歳以降に尿タンパクがみられ、40歳以降には腎不全に至ることもあります。末期腎不全になると、透析や腎移植が必要となる場合があります。

2. 心機能障害

心肥大、弁機能障害、不整脈心筋梗塞、心不全などの心機能障害が起こることがあります。ファブリー病の症状の進行とともに心臓の機能が低下し、心不全に至ることもあります。

3. 脳血管障害

脳卒中や脳梗塞などの脳血管障害を起こすことがあります。これらは生命を脅かす重篤な合併症となります。

4. 聴覚低下

聴こえにくくなったり、耳鳴りがすることがあります。難聴が進行することもあります。

これらの合併症は、早期に適切な治療を開始することで進行を遅らせることができる場合があります。そのため、ファブリー病の早期診断と治療開始が非常に重要です。

ファブリー病の治療薬と酵素補充療法の実際

ファブリー病の根本的な治療法として、現在主に行われているのが「酵素補充療法」です。この治療法は、不足しているα-ガラクトシダーゼA酵素を点滴によって体内に補充し、蓄積したGL-3を分解・代謝することで、症状の進行を抑える治療法です。

日本では現在、3つのバイオ医薬品(1つのバイオ後続品を含む)がファブリー病の酵素補充療法治療薬として認められています。

  1. アガルシダーゼアルファ(リプレガル): 2週間に1回の点滴で、1回の投与時間は約1時間です。
  2. アガルシダーゼベータ(ファブラザイム): 2週間に1回の点滴で、1回の投与時間は約3時間です。
  3. バイオ後続品: 上記の薬剤のバイオシミラー製品です。

酵素補充療法の投与方法は以下の通りです。

  • 体重によって必要な量が決まり、その量を2週間ごとに点滴で補充します
  • 1回の投与に40分から2~3時間ほど時間をかけて薬を点滴します
  • 定期的に血液検査や尿検査などを行い、効果を確認したり、副作用がないかどうかチェックします

酵素補充療法の主な副作用としては、以下のようなものが報告されています。

  • 悪寒
  • 顔面紅潮(ほてり)
  • アレルギー反応(頭痛呼吸困難、腹痛、嘔吐、胸痛、そう痒、浮腫、じんましんなど)
  • 倦怠感や四肢疼痛
  • 流涙異常
  • 振戦(ふるえ)
  • めまい
  • 注射部位のかゆみや腫れ

また、薬に対する抗体ができる場合もあります。抗体ができることにより、薬の効果が減弱することがありますが、ほとんどの場合で薬を継続使用することにより、抗体が少なくなったり、薬の効果が回復しています。

酵素補充療法は、早期に開始するほど効果が高いと報告されています。そのため、ファブリー病と診断されたら、症状の有無にかかわらず、早期に治療を検討することが重要です。

ファブリー病のシャペロン療法と新たな治療法

酵素補充療法に加えて、ファブリー病のもう一つの根本的治療法として「シャペロン療法(薬理学的シャペロン療法)」があります。

シャペロン療法は、働きが悪い酵素α-ガラクトシダーゼA(α-GAL)の構造を安定化させ、酵素としての働きをサポートし、GL-3をためずに分解できるようにする治療法です。2日に1回、飲み薬を服用します。

シャペロンとは、フランス語で「介添人(結婚式で花嫁の世話をする人)」という意味です。正常な酵素は細胞の中で小胞体からゴルジ体、そしてリソソームへ運ばれますが、変異した酵素は構造が不安定なためリソソームに運ばれる前に分解されてしまいます。薬理学的シャペロンは、介添人のような役割をして、不安定な酵素にくっついてその酵素を安定化させ、途中で分解されることなくリソソームへと導きます。

シャペロン療法の特徴。

  • 経口薬であるため、点滴の必要がない
  • 低分子化合物のため脳血液関門を通過し、中枢神経症状に効果がある可能性がある
  • 全く酵素ができない場合やもともと酵素活性がない場合には効果がないため、投与前に患者さんの遺伝子の変化を調べる必要がある
  • 遺伝子変異のタイプにより有効例と無効例に分かれる(適応例である遺伝子型であるかどうかを医師に確認する必要がある)

また、現在は基質合成抑制療法や遺伝子治療などの新たな治療法の臨床試験も行われており、将来的にはさらに治療の選択肢が増える可能性があります。

ファブリー病患者の日常生活と対症療法の重要性

ファブリー病の根本的治療である酵素補充療法やシャペロン療法に加えて、各症状に対する対症療法も重要です。また、日常生活での注意点も患者さんのQOL(生活の質)向上に大きく関わります。

各症状に対する対症療法:

  1. 手足の痛み
    • てんかん薬(ジフェニルビダントイン、カルバマゼピンなど)が痛みの軽減や予防に有効です
    • 個人差もあるため、痛みを引き起こす原因となる体力の消耗、ストレス、急激な温度変化、疲労などをなるべく避けることも重要です
  2. 皮膚の赤い発疹(被角血管腫)
    • レーザー治療で除去することができます
  3. 心機能障害
  4. 腎機能障害
    • たんぱく尿を抑えるために、減塩やたんぱく質制限などの食事療法が行われます
    • 腎不全を起こした場合は、透析や腎移植などが行われます
    • 腎臓病は動脈硬化のリスクを高めるため、脂質の代謝をコントロールする薬が処方されることもあります
  5. 脳血管障害
    • 脳梗塞が起きた場合、抗血小板剤や血液凝固阻止剤などが処方されます
    • 外科的治療が行われる場合もあります
  6. 胃腸の症状
    • 胃腸の働きが悪いときは、低脂肪食などの食事療法を取り入れたり、胃腸の動きを助けるような薬が処方されます
  7. 眼の症状
    • 網膜の動脈が詰まった場合は視力障害が起こる可能性があるため、すぐに眼圧を下げたり眼底の血流を改善したりする治療を行います
  8. 耳の症状
    • 難聴が起こった場合は、ステロイドなどによる突発性難聴の一般的な治療を行います
    • 補聴器を使うこともあります

日常生活での注意点:

  1. 食事管理
    • ファブリー病は腎臓に障害をもたらす可能性がある疾患のため、塩分やたんぱく質の取りすぎには注意しましょう
    • 腎機能に影響が出ていなくても、腎臓に負担をかけない食事を心がけることが重要です
  2. 喫煙の回避
    • ファブリー病では、呼吸器疾患との関連についても報告があります
    • 喫煙により重症化する可能性があるため、心臓や肺の機能を維持するために、喫煙はしないようにしましょう
  3. ストレスや疲労の管理
    • ファブリー病の疼痛発作は、体力の消耗、精神的なストレス、疲労、環境の急激な変化によって引き起こされることが多いため、これらをなるべく避けるようにしましょう
  4. 定期的な検査
    • 全身の検査は、診断が確定したあとは、約半年ごとに行われるのが目安です
    • 心臓や腎臓など個別の臓器に症状がある場合には、別のタイミングで検査が必要になることもあります

ファブリー病の治療においては、医療機関での適切な治療に加えて、患者さん自身が日常生活で注意点を守ることも非常に重要です。医師や看護師、栄養士などの医療スタッフと協力しながら、症状の管理と生活の質の向上を目指しましょう。

ファブリー病は遺伝性疾患であるため、家族内に複数の患者さんがいる可能性があります。家族の中に症状がある方がいる場合は、早期診断のために遺伝子検査を検討することも重要です。

ファブリー病の治療に関する詳細情報 – 慶應義塾大学医学部ファブリー病外来
ファブリー病の治療法の詳細と患者向け情報 – ファブリーコネクト
ファブリー病の治療法と日常生活の注意点 – ライソライフ