壊死性筋膜炎と蜂窩織炎の違い

壊死性筋膜炎と蜂窩織炎の違い

壊死性筋膜炎と蜂窩織炎の主な違い
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感染部位の深さ

壊死性筋膜炎は筋膜に感染、蜂窩織炎は皮下脂肪織に感染します

症状の進行速度

壊死性筋膜炎は数時間で急速進行、蜂窩織炎は数日で緩やかに進行します

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疼痛の特徴

壊死性筋膜炎は激烈な痛み、蜂窩織炎は中等度の疼痛がみられます

壊死性筋膜炎の症状と診断のポイント

壊死性筋膜炎は筋膜を主座とする重篤な軟部組織感染症で、24時間以内に急速に進行する特徴があります 。初期症状では激烈な疼痛が突然発症し、感染部位に軽く触れるだけでも強い苦痛を訴えます 。皮膚の発赤や腫脹は蜂窩織炎と類似していますが、圧痛が周囲の正常皮膚にまで及ぶことが特徴的です 。

参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/10023/

進行期になると皮膚の変色(紫色や黒色)、水疱の形成、皮膚の壊死、悪臭を伴う分泌物、感覚の消失(感染部位の痛みが消える)などの症状が現れます 。これらの症状は数時間から数日で急激に悪化するため、緊急の医療処置が必要となります 。

参考)壊死性筋膜炎|こばとも皮膚科|栄駅(名古屋市栄区)徒歩2分

診断には血液検査によるLRINECスコアが有用で、CRP、白血球数、ヘモグロビン値、血清ナトリウム値、クレアチニン値、血糖値の6項目から算出します 。6点以上を壊死性筋膜炎のカットオフ値とし、8点以上では75%の可能性があるとされています 。

参考)LRINECスコア(ライネックスコア)

蜂窩織炎の症状と治療経過

蜂窩織炎は皮下脂肪織に生じる細菌感染症で、壊死性筋膜炎と比較して予後良好な疾患です 。症状は感染部位の発赤、腫脹、熱感、疼痛が主体で、中等度の痛みが特徴です 。発熱や倦怠感などの全身症状を伴うこともありますが、壊死性筋膜炎ほど急激な進行は示しません 。

参考)壊死性筋膜炎:どんな病気?どういう人に起こりやすい?検査や治…

治療は抗菌薬の投与が中心となり、軽症例では内服薬による外来治療が可能です 。一般的な治療期間は軽症であれば5~7日程度、中等症以上であれば1~2週間程度が目安となります 。重症例や基礎疾患を有する患者では入院による点滴治療が必要になることもあります 。

参考)蜂窩織炎の治療|早期発見と抗生物質が鍵!いつ治る?予防法も解…

治療開始後は比較的速やかに症状が改善し、まず発熱や悪寒といった全身症状が改善し、続いて患部の痛みや熱感が和らぎ始めます 。赤みや腫れは徐々に軽減していき、最終的には元の肌色に戻ります 。

壊死性筋膜炎の早期診断と緊急治療

壊死性筋膜炎の致死率は約30%と高く、早期診断・早期治療が生命予後を左右します 。診断の決め手は皮下組織の術中所見であり、疑った場合は早期に皮膚切開を行い筋膜所見を観察することが重要です 。

参考)https://www.okayama.med.or.jp/activity/kaiho_lineup/files/mamechishiki/1605_mamechishiki.pdf

治療は24時間以内、理想的には6時間以内の緊急手術が目標とされており、壊死組織の広範囲なデブリードマンと抗菌薬の静脈内投与が必要です 。手術では壊死した皮膚と軟部組織を完全に除去する必要があり、場合によっては複数回の手術が必要になることもあります 。

参考)皮膚の壊死性感染症 – 17. 皮膚の病気 – MSDマニュ…

LRINECスコアによる早期スクリーニングも重要で、HR≧120、低血圧、CPK上昇、CRP≧15mg/dLなどの所見がある場合は壊死性筋膜炎を疑う必要があります 。突然四肢に激痛を訴えるすべての患者では深部感染を念頭に置いた対応が求められます 。

参考)https://www.wakayama-med.ac.jp/med/eccm/assets/images/library/bed_side/22.pdf

鑑別診断における臨床的なポイント

壊死性筋膜炎と蜂窩織炎の鑑別において、最も重要なポイントは症状の進行速度と疼痛の程度です 。壊死性筋膜炎では皮膚所見の発赤部位と圧痛部位の解離がみられることが特徴的で、この所見がある症例は特に注意が必要です 。

参考)壊死性筋膜炎と蜂窩織炎の臨床的鑑別法は?【Dr.山本の感染症…

身体診察では皮膚の状態(発赤、腫脹、水疱、壊死)、疼痛の程度、体温、全身状態(意識レベル、血圧、脈拍)を詳細に観察します 。壊死性筋膜炎では病変の境界が不明瞭で、圧痛が周囲の正常皮膚にまで及ぶことが特徴的です 。

参考)https://researchmap.jp/kishikawa/misc/21318114/attachment_file.pdf

血液検査では白血球数、CRP、クレアチンキナーゼ、血小板数、電解質を測定し、LRINECスコアを算出します 。画像検査も併用しますが、Type2の壊死性筋膜炎では画像診断はわかりにくいことがあるため、臨床所見との総合判断が重要になります 。
壊死性筋膜炎の35~85%が初診時に蜂窩織炎や膿瘍などと誤診されているため、疑わしい症例では積極的な精査と専門医への相談が必要です 。

壊死性筋膜炎とガス壊疽の関係性と治療戦略

壊死性筋膜炎とガス壊疽は異なる病態ですが、しばしば混同されることがあります 。ガス壊疽は筋肉の中まで感染が及び、CTなどの検査で筋肉の中にガス(空気)を認める病態です。一方、壊死性筋膜炎は筋肉表面の膜(筋膜)に感染している状態を指します 。
近年では重篤な状態になりやすい病態として、これらを合わせて壊死性軟部組織感染症(NSTI)として分類されています 。ガス産生の有無による分類では、ガス陽性でグラム陽性桿菌の場合はクロストリジウム(ガス壊疽)、ガス陽性で多菌感染の場合は壊死性筋膜炎type1となります 。

参考)http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-fukuchiyama-150817.pdf

治療においては高気圧酸素治療(HBO)がガス壊疽の治療に有効とされていますが、壊死性筋膜炎に対してもαトキシンの産生を止め、菌の発育を抑制する効果が期待されています 。HBOにより壊死組織と生存組織の境目が明瞭になるため、デブリードマンを効率的に行うことが可能になります 。

参考)高気圧酸素)ガス壊疽以外の感染症にも適応あり 〜弱った白血球…

壊死性筋膜炎と重症蜂窩織炎の鑑別診断におけるLRINECスコアの有用性について詳細な研究結果が記載されています