エルゴメトリンとエルゴタミンの作用機序の違い

エルゴメトリンとエルゴタミンの違い

エルゴメトリンとエルゴタミンの主な違い
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適応症の違い

エルゴメトリンは産科領域で子宮収縮に、エルゴタミンは片頭痛治療に使用される

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作用機序の特徴

両薬剤ともセロトニン受容体に作用するが、標的臓器と受容体サブタイプが異なる

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副作用プロファイル

エルゴタミンは血管収縮による心血管系副作用、エルゴメトリンは子宮収縮による産科合併症に注意

エルゴメトリンの作用機序と臨床応用

エルゴメトリン(エルゴノビン)は麦角アルカロイドの一種で、主に産科領域で分娩後出血の予防と治療に使用されます 。本薬剤は子宮平滑筋に選択的に作用し、持続的な子宮収縮を引き起こすことで子宮血管を圧迫し、止血効果を発現します 。

参考)https://med.mochida.co.jp/interview/par-t_n26.pdf

作用機序の詳細として、エルゴメトリンはα-アドレナリン受容体、ドーパミン受容体、セロトニン受容体(特に5-HT2受容体)に作用し、子宮およびその他の平滑筋に強力な効果を示します。興味深いことに、エルゴメトリンは妊娠子宮に対してのみ収縮作用を示し、非妊娠子宮にはほとんど作用しないという選択性を持っています 。

参考)エルゴメトリン – Wikipedia

薬物動態面では、経口投与では15分以内に作用を発現し、注射ではさらに早く効果が現れます。効果は45分から180分持続します 。このような特性から、分娩第III期(胎盤娩出期)の短縮と出血量の減少に効果的です 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3295875/

エルゴタミンの片頭痛治療での作用

エルゴタミンは従来、片頭痛治療の中心的な薬剤として使用されてきました 。本薬剤は血管収縮作用により片頭痛の症状を緩和しますが、トリプタン製剤の登場により現在では限定的な症例にのみ使用されています 。

参考)急性期治療(エルゴタミン製剤)

エルゴタミンの作用機序は、脳血管のセロトニン受容体に結合することで血管収縮を引き起こし、拡張した血管を正常化することです 。しかし、血管収縮作用が非選択的であるため、全身の血管に影響を与える可能性があります 。

参考)片頭痛の薬[急性期治療薬](こばやし小児科・脳神経外科クリニ…

臨床的には、発作時間が48時間以上と長い症例や、頭痛の再発が起こる症例でトリプタンよりも有効な場合があります 。ただし、作用を増強するため通常カフェインとの合剤として使用され、可能な限り早期の服用が必要です 。

エルゴメトリンとメチルエルゴメトリンの比較

現在の臨床では、エルゴメトリンよりもその誘導体であるメチルエルゴメトリンが広く使用されています。メチルエルゴメトリンはエルゴメトリンをメチル化した合成化合物で、エルゴメトリンと比較して子宮収縮作用の強さと持続性が向上しています 。

参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/sonota/JY-00387.pdf

薬理学的な違いとして、メチルエルゴメトリンの子宮収縮作用はエルゴメトリンよりやや強く、作用持続時間も長くなっています。一方で、血圧上昇作用はエルゴメトリンやエルゴタミンより弱いという特徴があります 。

参考)https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1amp;yjcode=2531401A1126

作用発現時間も優れており、静脈内投与で0.5〜1分、筋肉内投与で2〜5分、経口投与でも3〜5分と迅速で、作用持続時間は3〜6時間です 。このような薬物動態の改善により、産科緊急事態への対応がより効果的になっています。

エルゴタミンの長期使用に伴う問題点

エルゴタミン製剤の使用には、薬物乱用頭痛という重要な問題があります。長期連用によりエルゴタミン誘発性の頭痛が出現し、投与を急に中止すると頭痛を主訴とする禁断症状が現れることがあります 。

参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00058330.pdf

このため、使用頻度は週に1回まで、または月に6回までなど、具体的な制限を設ける必要があります 。また、慢性エルゴタミン中毒と呼ばれる血管攣縮による高度の末梢血管狭窄、動脈内膜炎、四肢のチアノーゼなどの重篤な副作用も報告されています 。

参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2001/P200100027/67022700_21300AMY00274_220_2.pdf

長期使用による線維症も問題となり、胸膜、後腹膜、心臓弁の線維性変化が現れたとの報告があります 。これらのリスクから、現在ではより安全性の高いトリプタン製剤が片頭痛治療の第一選択となっています。

参考)https://www.nichiiko.co.jp/medicine/file/01850/information/08_096.pdf

エルゴメトリンの産科領域での最新知見

近年の研究では、分娩後出血の予防におけるエルゴメトリンの位置づけについて新たな知見が得られています。日本産婦人科医会のガイドラインでは、オキシトシンが子宮収縮薬の第一選択とされており、メチルエルゴメトリン単独やオキシトシンとの併用による出血量減少のエビデンスは限定的とされています 。

参考)(1)予防 href=”https://www.jaog.or.jp/note/1%E4%BA%88%E9%98%B2/” target=”_blank” rel=”noopener”>https://www.jaog.or.jp/note/1%E4%BA%88%E9%98%B2/amp;#8211; 日本産婦人科医会

しかし、エルゴメトリンとオキシトシンの組み合わせ(シントメトリン)は、500ml以上の産後出血のリスクを有意に低下させることが系統的レビューで示されています 。一方で、副作用の発生が増加することも確認されており、利益と害のバランスを慎重に検討する必要があります 。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6491201/

エルゴメトリンの作用機序に関する分子レベルの研究も進んでおり、セロトニン受容体サブタイプへの選択的作用や、エンドテリン受容体を介した血管作用などの詳細なメカニズムが解明されています 。これらの知見は、より効果的で安全な使用法の確立に寄与することが期待されています。

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1915880/

日本薬学会による麦角アルカロイドの詳細な解説
日本産婦人科医会による産後出血予防のガイドライン
脳疾患専門医による片頭痛治療でのエルゴタミン製剤の位置づけ