エンシュアとメイバランスの違い
エンシュアとメイバランスの基本的な成分とカロリー比較
エンシュアとメイバランスは、医療現場や在宅介護で頻繁に利用される経口栄養剤ですが、その成分やカロリーには明確な違いがあります 。これらの違いを理解することは、患者さん一人ひとりの状態に合わせた適切な栄養管理を行う上で非常に重要です。エンシュアは「医薬品」に分類される経腸栄養剤であり、特に「エンシュア・H」は1.5kcal/mLという高濃度タイプで、少ない量で効率的にエネルギーとたんぱく質を補給する必要がある場合に適しています 。一方、メイバランスは「食品」扱いの濃厚流動食で、1.0kcal/mLの標準的なタイプから、たんぱく質を強化したもの、微量元素や食物繊維を配合したものなど、非常に多くのバリエーションが存在します 。
具体的な成分を比較すると、その設計思想の違いが見えてきます。例えば、標準的なエンシュア・リキッド(1.0kcal/mL)は250mLで250kcal、たんぱく質8.8gを含みます 。対して、高濃度タイプのエンシュア・Hは同じ250mLで375kcal、たんぱく質13.2gを摂取できます 。メイバランスMiniカップ(125mL)は200kcal、たんぱく質7.5gと少量で高エネルギーを摂取できるよう工夫されています 。さらに、メイバランスArg Miniカップのように、褥瘡や創傷治癒のサポートが期待されるアミノ酸「アルギニン」を2500mg配合した製品もあります 。
これらの栄養剤は、窒素源(たんぱく質源)においても特徴があります。エンシュアは消化吸収されやすい乳たんぱく質と大豆たんぱく質をバランス良く配合した「半消化態栄養剤」に分類されます 。これは、ある程度の消化能力が残っている患者さんに適しています。メイバランスも同様に半消化態のものが多いですが、製品によっては消化態のペプチドを配合したものも存在します 。以下の表に代表的な製品の成分比較をまとめます。
| 製品名 | 分類 | 1本あたり カロリー/量 |
たんぱく質 | 特徴的な成分 | 浸透圧(mOsm/L) |
|---|---|---|---|---|---|
| エンシュア・リキッド® | 医薬品 | 250kcal / 250mL | 8.8g | 乳・大豆たんぱく質 | 約480 |
| エンシュア・H® | 医薬品 | 375kcal / 250mL | 13.2g | 高濃度(1.5kcal/mL) | 約540 |
| 明治メイバランスMiniカップ | 食品 | 200kcal / 125mL | 7.5g | 豊富な味、難消化性デキストリン | 約320~400 (味による) |
| 明治メイバランスArg Miniカップ | 食品 | 200kcal / 125mL | 10.0g | アルギニン2500mg配合 | 約520 |
経腸栄養剤の成分や分類に関するさらに詳しい情報
経腸栄養(EN) | 輸液と栄養 – 大塚製薬工場
エンシュアとメイバランスの保険適用と価格の違い
エンシュアとメイバランスの最も大きな違いは、その法的な位置づけにあります。この違いが、保険適用と価格、そして入手方法に直接結びついています 。
エンシュア(エンシュア・リキッド、エンシュア・H)は「医薬品」です 。そのため、購入には医師の診断と処方箋が必須となります。医薬品であることの最大のメリットは、健康保険が適用される点です。例えば、術後患者の栄養保持や、長期にわたり食事が困難な特定の疾患(例:炎症性腸疾患など)の栄養管理に用いられる場合、患者さんの自己負担額を大幅に軽減できます 。薬価基準にも収載されており、価格が公的に定められています。ただし、誰でも自由に購入できるわけではなく、あくまで治療の一環として処方されるものです。
一方、メイバランスシリーズは「食品」(濃厚流動食)に分類されます 。したがって、医師の処方箋は不要で、ドラッグストアやオンラインストアなどで誰でも自由に購入することができます 。この手軽さがメイバランスの大きな利点です。しかし、食品であるため健康保険は適用されず、購入費用は全額自己負担となります 。価格は販売店によって異なりますが、1本あたり200円前後から購入可能です。このため、「普段の食事に少し栄養をプラスしたい」「退院後の体力維持に」といった、病気の治療目的というよりは栄養補助目的で利用されるケースが多く見られます。
- エンシュア 💊
- 分類:医薬品
- 入手方法:医師の処方箋が必要
- 保険適用:あり(適用疾患・条件あり)
- 価格:薬価基準に基づく(保険適用で自己負担軽減)
- メイバランス 🛒
- 分類:食品
- 入手方法:ドラッグストア、通販などで自由に購入可能
- 保険適用:なし(全額自己負担)
- 価格:オープンプライス(販売店により異なる)
このように、患者さんの経済的負担や入手の手間を考慮すると、どちらを選択すべきかは自ずと変わってきます。治療として長期的な栄養管理が必要な場合はエンシュア、一時的な栄養補助やQOL向上を目指すならメイバランス、という使い分けが一つの目安となるでしょう。
エンシュアとメイバランスの副作用(下痢)と浸透圧の関係
経腸栄養剤を導入する際に最も頻繁に遭遇する副作用の一つが下痢です 。その主な原因として、栄養剤の「浸透圧」が深く関わっています。浸透圧とは、溶液が水分を引き込もうとする力のことで、ヒトの体液の浸透圧(約290mOsm/L)と大きく異なる液体が腸管内に急激に流入すると、腸管内へ水分が移動し、下痢を引き起こしやすくなります 。
一般的に、栄養剤は濃度が高くなるほど、つまり単位体積あたりのカロリーや栄養素が多くなるほど浸透圧も高くなる傾向があります 。例えば、1.5kcal/mLと高濃度のエンシュア・Hの浸透圧は約540mOsm/Lであり、体液の約2倍です 。このような高浸透圧の栄養剤を急速に投与すると、下痢のリスクが高まります 。そのため、少量から開始し、患者さんの忍容性を見ながら徐々に増量していくのが原則です。
メイバランスシリーズは、味や飲みやすさを重視した製品が多いため、製品によっては浸透圧が比較的低めに調整されているものもあります 。しかし、メイバランスArg Miniカップのように特定の機能性成分(アルギニンなど)を多く含む製品は、浸透圧が約520mOsm/Lとエンシュア・Hと同程度に高くなることもあり、一概に「メイバランスは下痢しにくい」とは言えません 。
下痢を予防・対策するためには、以下の点が重要です。
- ✅ 低濃度・低速度からの開始: 特に高浸透圧の製品では、指示された量の半分程度の速度や濃度から始め、数日かけて目標量まで増やします。
- ✅ 適切な水分補給: 高濃度の栄養剤は100kcalあたりの水分量が少ないため、脱水を防ぎ、便性を整えるためにも追加の水分(白湯など)補給が不可欠です 。
- ✅ 温度の調整: 冷たいまま投与すると腸管を刺激し、蠕動運動が活発になりすぎて下痢の原因となることがあります。人肌程度に温めることで、副作用を軽減できる場合があります。
- ✅ 乳糖不耐症の確認: エンシュアやメイバランスのほとんどの製品は乳糖を含まないか、ごく微量ですが、まれに乳製品のたんぱく質自体が合わない方もいます。主成分として乳たんぱく質やカゼインが使われているため、牛乳アレルギーのある方には注意が必要です 。
経腸栄養剤と下痢対策に関する参考情報
医薬品経腸栄養剤に仲間入りした新規2製剤の特徴とは?
エンシュアとメイバランスの在宅での意外な使い方と選び方
在宅医療や介護の現場では、栄養状態の改善だけでなく、患者さんのQOL(生活の質)をいかに維持・向上させるかが大きな課題です。エンシュアやメイバランスを単に「飲む」だけでなく、少し工夫を加えることで、食の楽しみを広げ、栄養摂取をよりスムーズにすることができます 。これはトップ記事ではあまり語られない、臨床現場の知恵とも言えるでしょう。
😋 メイバランスを使った簡単アレンジレシピ
メイバランスはコーヒー味、ストロベリー味、ヨーグルト味など、非常に多彩なフレーバーが揃っているのが最大の強みです 。毎日同じ味では飽きてしまう患者さんでも、この多様性を活かせば、手軽なデザートに早変わりします。
- ふるふるプリン: お好みの味のメイバランスMini(125mL)を耐熱容器に入れ、ゼラチンパウダー(約2-3g)を振り入れてよく混ぜます。電子レンジで軽く温めて溶かし、冷蔵庫で冷やし固めるだけで、栄養満点のプリンが完成します。
- 栄養強化スムージー: バナナや冷凍ベリーなど、患者さんの好きな果物と一緒にミキサーにかければ、飲みごたえのあるスムージーになります。食欲がない朝でも、これなら飲めるという方も多いです。
- アイスクリーム: メイバランスを製氷皿やアイスキャンディーの型に入れて凍らせるだけ。特に夏場の食欲不振時や、口内炎などで冷たいものを好む患者さんにおすすめです。
🔥 エンシュアを温める際の注意点
経管栄養の場合や、冷たいものが苦手な患者さんには、エンシュアを温めて提供することがあります。これにより、下痢などの消化器症状を予防する効果も期待できます 。しかし、温め方には注意が必要です。
- 直火や電子レンジでの急激な加熱はNG: たんぱく質が熱で変性し、固まったり、風味が損なわれたりする原因となります。また、ビタミン類も熱に弱いものがあります。
- 湯煎で人肌に: 推奨されるのは、40℃程度のぬるめのお湯で湯煎する方法です。これにより、成分への影響を最小限に抑えながら、飲みやすい温度に調整できます。
嚥下調整食への応用
エンシュアもメイバランスも、嚥下調整食のベースとして非常に有用です。市販の「とろみ調整食品」を使えば、患者さんの嚥下機能に合わせた適切なとろみを簡単につけることができます。これにより、誤嚥のリスクを低減しながら、必要な栄養を安全に摂取することが可能になります。特に在宅では、調理の手間をかけずに栄養価の高い一品を用意できるため、介護者の負担軽減にも繋がります。
在宅での栄養剤の選択は、病態だけでなく、患者さんの好み、生活スタイル、介護者の負担まで考慮した、まさに「オーダーメイド」のアプローチが求められます。このような一工夫が、患者さんの「食べる喜び」を支え、治療効果を高める鍵となるのです。
