エファビレンツ作用機序と薬学
エファビレンツ逆転写酵素阻害の作用機序
エファビレンツは、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の選択的非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTI)として分類される抗HIV薬です。その作用機序は、HIV-1の逆転写酵素に直接結合し、ウイルスRNAのDNA逆転写過程を阻害することで抗ウイルス効果を発揮します。
参考)https://shirobon.net/imgview.php?param1=6250015F2029amp;param2=PDF
エファビレンツは、逆転写酵素の活性中心部近傍の疎水性ポケット(palm領域)に結合し、酵素活性中心であるAsp110、Asp183、Asp185の位置をずらし、ひずみを作り出すことにより逆転写活性を失活させます。この阻害様式は、核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)とは大きく異なり、DNAポリメラーゼのテンプレート、プライマー、ヌクレオシド三リン酸に対する非競合的阻害を示します。
参考)154598-52-4・エファビレンツ・Efavirenz・…
エファビレンツは「tight-binding inhibitor」として分類され、薬剤が逆転写酵素に結合すると外れにくい特性を持っています。この特性により、HIV感染予防の殺菌剤としての使用も検討されている重要な薬理学的特徴があります。
参考)現在日本で使われている薬剤 – 薬剤耐性HIVインフォメーシ…
エファビレンツ薬学的分子構造と薬効
エファビレンツは、ベンゼン環と発色団オキサジナン-2-オンを持つ多環芳香族炭化水素として構造が特徴づけられます。商品名としてサスティバ(Sustiva)やストックリンとして知られ、1998年に米国で医薬品として承認され、日本では1999年9月に認可されました。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt/44/3/44_233/_pdf
薬理学的特徴として、エファビレンツは1日1回の服用が可能で、食事に関係なく投与できる利便性があります。HIV治療において第一選択薬として世界で最もよく使用されている薬剤の一つです。
分離株に対するエファビレンツの90-95%阻害濃度(IC90-95)は1.7から報告されており、強力な抗HIV作用を持つことが薬学的に証明されています。世界保健機関の必須医薬品リストに掲載されており、最も効果的で安全な医療制度に必要とされる医薬品として位置づけられています。
エファビレンツCYP2B6代謝と薬学的個体差
エファビレンツの代謝には、肝臓のCYP2B6(シトクロムP450 2B6)酵素が主要な役割を果たします。この酵素は、抗HIV薬エファビレンツや全身麻酔・鎮静薬プロポフォールなど多くの医薬品を代謝する生体内で重要な酵素です。
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薬学的に重要な点は、CYP2B6の遺伝子配列が個人によって微妙に異なることです。特に、CYP2B6*6/*6遺伝子多型を有する患者では、エファビレンツの代謝能力が著しく低下し、血中濃度が標準より数倍高いトラフ値を呈することがあります。
参考)医薬品による治療効果や副作用発現の個人差に関与する薬物代謝酵…
日本人8,380人の全ゲノム解析により、29種類のCYP2B6遺伝子多型が同定され、これらの中にはエファビレンツ代謝活性が著しく低下または消失する12種のCYP2B6バリアントが新たに発見されました。酵素活性が消失する遺伝子多型を有する場合、中枢神経障害などの副作用発現リスクが上昇することが報告されています。
エファビレンツ精神神経系副作用の薬学
エファビレンツの最も特徴的な副作用は、中枢神経系(CNS)に対する精神神経系症状です。主な症状として、浮動性めまい(35.4%)、傾眠(19.8%)、易刺激性(6.8%)、攻撃性(3.5%)などが報告されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00001577.pdf
薬学的メカニズムとして、エファビレンツ服用後数時間はめまいやふらつきが出現するため、就寝前服用が推奨されています。多くの場合、この副作用は治療初日が最もひどく、徐々に改善していく傾向がありますが、一部の患者では立ち上がれないほどの重篤な症状を呈し、服薬継続が困難となることもあります。
重大な精神症状として、幻覚(幻視、幻聴等)、妄想、せん妄、不安、怒りなどがあらわれることがあり、これらの症状が認められた場合には、減量または中止するなど適切な措置が必要です。認知予備力の低下や病歴の長さ、服薬状況なども副作用の発現に関係すると考えられています。
参考)https://api-net.jfap.or.jp/manual/data/pdf/kisokenshu2013.pdf
エファビレンツ併用療法における薬学的位置づけ
エファビレンツは、単独では容易に高度耐性を獲得するため、必ず他の抗レトロウイルス薬との併用が必要です。臨床試験では、エファビレンツとヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬2剤(ジドブジン+ラミブジン)の併用療法が、インジナビルとヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬2剤の併用よりも優れた抗ウイルス活性を示しました。
参考)成人の HIV-1 感染症の治療におけるエファビレンツ+ジド…
薬学的な治療成績として、血漿中HIV-1 RNA量が検出限界以下にまで抑制された患者は、エファビレンツ併用群で70%、対照群で48%と有意な差が認められています(p<0.001)。CD4細胞数も、すべての併用レジメンで有意に増加し(増加の範囲180~201/mm³)、強力な免疫回復効果が確認されています。 現在の抗HIV治療において、エファビレンツを含む配合錠(エファビレンツ・エムトリシタビン・テノホビルジソプロキシル)が使用され、患者の服薬アドヒアランス向上に貢献しています。薬学的観点から、1日1回の服用で済む利便性と強力な抗ウイルス効果により、HIV感染症治療の中核的な役割を果たし続けています。