DPC制度の対象とデメリット

DPC制度の対象とデメリット

DPC制度の基本構造
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対象病院

急性期一般入院基本料等対象病棟の約85%

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定額算定方式

診断群分類に基づく1日定額制の診療報酬

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制度のデメリット

過小診療リスクと地方病院への負担

DPC制度の対象病院と適用範囲

DPC制度の対象病院は、全国で1,786病院(2024年6月1日時点見込み)に及び、約48万床を有しています。これは急性期一般入院基本料等に該当する病棟の約85%を占める規模です。

対象となる病床は「DPC算定病床」と呼ばれ、主に一般病棟が該当します。しかし、すべての病棟が対象になるわけではありません。以下の病棟は対象外となります:

DPC対象病院になるためには、厚生労働省による厳格な審査を通過する必要があり、継続的なデータ提出義務も課されています。

DPC制度の診療報酬算定デメリット

DPC制度の最大のデメリットは、定額制による「過小診療のリスク」です。出来高算定とは異なり、検査や投薬の有無に関わらず得られる診療報酬が一定であるため、本来必要な検査を実施しない恐れがあります。

具体的なデメリットには以下があります。

  • 検査省略リスク:包括評価では検査による収入が見込めないため、必要な検査を行わない可能性
  • 入院長期化による収益減:入院が長引くと、一定日数を超えた部分は出来高算定となり収益性が低下
  • 治療標準化の弊害:個別の患者状況を十分考慮できない可能性

日本医師会の見解によると、DPC導入により平均在院日数は低下しているものの、治癒率の大幅低下と再入院率の上昇が確認されており、患者が危険にさらされる可能性が指摘されています。

DPC制度の地方医療機関への影響

地方の医療機関にとって、DPC制度は特に厳しい経営環境をもたらしています。佐久総合病院の分析によると、地方病院がDPC制度下で不利な状況に置かれる要因は以下の通りです:

高齢化の影響

地方では高齢化が進んでおり、高齢患者は併存疾患を有することが多く、手術後の合併症リスクも高くなります。同じ診断でも年齢に関係なく診療報酬は同じであるため、高齢者の治療ではコスト高となり、看護必要度も高くなります。

広域性の問題

地方病院では受診者が広域に渡り、公共交通機関の発達も十分でないため、本来外来で治療可能な処置も入院で行わざるを得ない場合があります。乳房温存術の放射線治療や化学療法、手術前検査なども入院で実施する必要があり、経済性・効率性で明らかに不利になります。

病床稼働率への影響

DPC導入により平均在院日数が短縮した結果、地方病院では病床の稼働率が低下し、病棟閉鎖が行われるケースも増加しています。これは医師・看護師不足という要因とともに、地域医療提供体制に深刻な影響を与えています。

DPC制度の医療従事者への業務負担

DPC制度は医療従事者の業務に新たな負担をもたらしています。最も重要な点は、DPC病院には継続的で詳細なデータ提出義務が課されていることです。

データ管理業務の増加

医療従事者は診療行為のすべてを適切にコード化し、月次でデータを提出する必要があります。この作業は専門性が高く、医事課スタッフや診療情報管理士への依存度が高まっています。誤ったコーディングは診療報酬の過小算定につながるリスクもあります。

制度理解の必要性

DPC制度の正しい理解なしには適切な運用ができません。厚生労働省も「参加病院が正しく制度を理解し、適切にデータ提出などを行うことが極めて重要」と指摘していますが、一部にそうでない病院も見られるのが現状です。

診療方針への影響

定額制の特性上、医療従事者は常にコスト意識を持った診療を求められます。これは医療の効率化につながる一方で、過度な制約により最適な治療選択が困難になる場面も生じています。

DPC制度の患者・家族への隠れたデメリット

DPC制度は患者や家族にも意外なデメリットをもたらしています。最も深刻な問題は「十分な療養期間の確保困難」です。

早期退院圧力

DPC制度では入院期間が長くなるほど病院の収益性が悪化するため、患者は医学的に適切な時期よりも早期の退院を促される可能性があります。これは患者にとって治療が早く済むという利点がある一方で、十分な療養ができなくなるという負の面も存在します。

治療選択肢の制限

包括評価の性質上、高額な検査や治療法が避けられる傾向があります。患者が望む最新の治療法や詳細な検査を受けにくくなる可能性があり、インフォームドコンセントの過程でも制約が生じる場合があります。

地域格差の拡大

地方の医療機関がDPC制度により経営困難に陥ると、地域住民の医療アクセスが悪化します。特に高齢化が進んだ地域では、近隣での入院治療を受けることが困難になり、家族の負担も増大します。

再入院リスクの増加

前述の通り、DPC導入により再入院率が上昇している事実があります。これは患者・家族にとって精神的・経済的負担の増加を意味し、結果的に医療費総額の増加にもつながる可能性があります。

DPC制度は医療の効率化と標準化を目指した重要な取り組みですが、これらのデメリットを十分に理解し、適切な対策を講じることが医療従事者には求められています。特に地方医療の維持と患者の治療の質確保のバランスを取ることが、今後の課題となっています。