DMARDs一覧と分類
DMARDs(Disease Modifying Anti-Rheumatic Drugs)は、関節リウマチの疾患活動性に影響を与える薬剤の総称です。これらの薬剤は免疫担当細胞や免疫物質(サイトカイン)に作用することで、骨破壊や関節炎の抑制効果を発揮します。
現在の分類体系では、DMARDsは製造法により合成型(sDMARD)と生物学的製剤(bDMARD)に大別されます。さらに合成型は従来型(csDMARD)と分子標的型(tsDMARD)に、生物学的製剤はオリジナルのもの(boDMARD)とバイオシミラー(bsDMARD)に分類されています。
この分類法は2013年にヨーロッパリウマチ学会で提案され、現在の関節リウマチ治療戦略に合致したものとして日本リウマチ学会の関節リウマチ診療ガイドラインでも採用されています。
DMARDs従来型合成薬の種類と特徴
従来型合成DMARDs(csDMARDs)は関節リウマチ治療の基本となる薬剤群で、以下のような特徴を持ちます。
主要な薬剤と有効率
- メトトレキサート(リウマトレックス):60-64%(6-9mg/週)
- サラゾスルファピリジン(アザルフィジンEN):58%
- イグラチモド(ケアラム、コルベット):53.4-62.5%
- タクロリムス(プログラフ):49%(ACR20)
- ブシラミン(リマチル):48%(ACR20)
治療戦略における位置づけ
従来型DMARDsは関節破壊リスクが高くない関節リウマチ患者の初期治療において中心的役割を果たします。特にメトトレキサートは第一選択薬として位置づけられ、予後不良と思われる患者ではリスク・ベネフィットバランスを考慮して積極的に使用されます。
効果発現の特徴
多くの従来型DMARDsは遅効性で、効果発現までに2-3ヶ月を要します。そのため最低でも3ヶ月は継続する必要があり、患者評価は1-3ヶ月ごとに行います。
DMARDs生物学的製剤の分類と効果
生物学的製剤(bDMARDs)は、従来型DMARDsで効果不十分な場合の次の治療選択肢として重要な位置を占めています。主要な薬剤には以下があります。
TNF阻害薬
- インフリキシマブ(レミケード)
- エタネルセプト(エンブレル)
- アダリムマブ(ヒュミラ)
- ゴリムマブ(シンポニー)
- セルトリズマブ・ペゴル(シムジア)
その他の分子標的薬
生物学的製剤の中でも、アバタセプトは唯一DMARDsとの同時開始が保険で認められている薬剤で、疾患活動性が高い患者において診断直後の早期から使用可能です。
使用基準と切り替え戦略
MTXや従来型抗リウマチ薬で効果不十分な場合、予後不良因子(リウマトイド因子陽性、抗シトルリン化ペプチド抗体陽性、疾患活動性が非常に高い、早期からの関節破壊)が1つでもあれば、速やかに生物学的製剤への移行を検討します。
DMARDs分子標的薬の新しい治療選択肢
分子標的型合成DMARDs(tsDMARDs)は、特定の分子経路を標的とした新世代の治療薬です。現在臨床で使用されている主要な薬剤はJAK阻害薬です。
主要なJAK阻害薬
- トファシチニブ(ゼルヤンツ):薬価2,260.9円/錠
- バリシチニブ(オルミエント):薬価1,356.8-4,820円/錠
- ウパダシチニブ(リンヴォック):薬価8,226円/錠
作用機序と特徴
JAK阻害薬は細胞内シグナル伝達に関与するJanus kinase(JAK)を阻害することで、炎症性サイトカインの作用を抑制します。経口投与が可能で、生物学的製剤とは異なる作用機序を持つため、生物学的製剤で効果不十分な症例への新たな選択肢となっています。
使用上の位置づけ
トファシチニブは他のDMARDs効果不十分例に投与を検討する薬剤として位置づけられています。生物学的製剤で効果が不十分な場合、別の生物学的製剤へのスイッチと併せてJAK阻害薬の使用も考慮されます。
DMARDs副作用対策と服薬管理のポイント
DMARDsは免疫機構に作用する薬剤のため、感染症をはじめとする重篤な副作用への対策が重要です。
メトトレキサートの副作用管理
メトトレキサート8mg/週以上使用時は葉酸(フォリアミン)の併用が必要で、MTXの最終服用から48時間後に投与します。重篤な副作用のレスキューには活性型葉酸のポリナートカルシウム(ロイコボリン)を使用します。
主要な副作用と対策。
- 血液障害(汎血球減少、好中球減少):MTXの中止
- 間質性肺炎:労作時呼吸困難、乾性咳嗽の監視
- 感染症:ニューモシスチス肺炎、細菌性肺炎への警戒
- 肝障害:基本的に無症状のため定期検査が重要
その他の主要薬剤の副作用
- サラゾスルファピリジン:胃腸障害、口内炎、皮疹(重篤な副作用は比較的少ない)
- イグラチモド:胃腸障害、肝障害(ワルファリンと併用禁忌)
- タクロリムス:腎障害、倦怠感(腎障害が有名だが倦怠感も頻度高い)
- レフルノミド:間質性肺炎、肝障害、骨髄障害(間質性肺炎による死亡例の報告あり)
生物学的製剤の感染症対策
生物学的製剤使用時の主要な感染症対策。
- 結核:イソニアジド300mg/日での予防、末梢神経障害予防にVB6併用
- ニューモシスチス肺炎:ST合剤1錠/日〜週での予防
- HBV再活性化:エンテカビル0.5-1.0mg/日での予防
- その他:肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチンの接種
DMARDs選択における治療戦略の実際
実際の臨床現場におけるDMARDs選択は、患者の病状、予後因子、併存疾患を総合的に評価して決定されます。
初期治療戦略
関節リウマチの初期治療では、治療目標を「寛解」または「低活動性(CDAI≦10)」に設定し、可能な限り早期にcsDMARDsの投与を開始します。まず単剤投与から始め、目標達成できない場合はcsDMARDsの変更や多剤併用を検討します。
エスケープ現象への対応
DMARDsの特徴の一つにエスケープ現象があります。これは有効で治療を継続していても、リウマチの活動性が亢進し効果が減弱する現象です。この場合、薬剤の変更や併用療法の検討が必要になります。
個人差を考慮した薬剤選択
DMARDsは薬効の個人差が大きく、ある患者に有効でも他の患者には無効ということが頻繁にあります。そのため、患者ごとの反応性を慎重に評価し、適切な薬剤選択を行うことが重要です。
特殊な状況での選択
- 妊娠希望患者:サラゾスルファピリジンが投与可能
- 肝機能障害患者:MTXによる肝機能障害時はタクロリムスが良い適応
- アレルギー患者:SASPアレルギー時はブシラミンを検討
経済性の考慮
生物学的製剤は高額であり、JAK阻害薬も薬価が高いため、医療経済性も治療選択の重要な要素となります。患者の経済状況や保険適用状況を考慮した現実的な治療計画の策定が求められます。
現在のDMARDs治療は、従来の「症状緩和」から「関節破壊の阻止」へと治療目標が大きく変化しており、適切な薬剤選択と副作用管理により、多くの患者でより良好な予後が期待できるようになっています。