デュビン・ジョンソン症候群の症状と診断の特徴

デュビン・ジョンソン症候群の症状と診断

デュビン・ジョンソン症候群の基本情報
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遺伝形式

常染色体劣性遺伝

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原因

MRP2(多剤耐性関連タンパク質2)の欠損

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主な症状

黄疸(眼球や皮膚の黄染)、通常は無症状

デュビン・ジョンソン症候群(Dubin-Johnson syndrome:DJS)は、肝臓における抱合型ビリルビンの排泄障害を特徴とする稀な遺伝性疾患です。この症候群は1954年に初めて報告され、常染色体劣性遺伝形式をとります。多くの患者は無症状であるか、または軽度の症状のみを呈しますが、医療従事者としてこの疾患を理解することは、黄疸の鑑別診断において重要です。

デュビン・ジョンソン症候群の主な症状と特徴

デュビン・ジョンソン症候群の最も特徴的な臨床症状は黄疸です。この黄疸は通常、思春期または若年成人期に発症することが多く、約80〜99%の患者に見られます。黄疸は眼球や皮膚の黄染として現れますが、多くの場合、他の重篤な症状を伴わないことが特徴です。

主な症状としては以下が挙げられます。

  • 黄疸(眼球や皮膚の黄染)
  • 尿の色の異常(濃い色)
  • 胆道系の異常
  • 抱合型高ビリルビン血症

また、約30〜79%の患者では胃粘膜の異常も報告されています。その他、まれに以下のような症状が現れることもあります。

  • 右上腹部の不定愁訴(腹痛)
  • 全身倦怠感
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 発熱

重要なのは、デュビン・ジョンソン症候群では肝機能検査でALTやASTなどの肝酵素値は通常正常範囲内であり、これが他の肝疾患との鑑別点となります。また、かゆみ(掻痒感)は通常見られません。これは血清総胆汁酸レベルが正常であるためです。

デュビン・ジョンソン症候群の診断方法と検査所見

デュビン・ジョンソン症候群の診断は、臨床症状、検査所見、および除外診断に基づいて行われます。以下に主な診断方法と特徴的な検査所見を示します。

血液検査所見:

  • 抱合型(直接型)ビリルビンの上昇(通常2〜5mg/dL、最大25mg/dLまで上昇することもある)
  • 肝酵素(ALT、AST)は正常範囲内
  • 総胆汁酸値は正常

尿検査所見:

  • コプロポルフィリンの排泄パターンの特徴的な変化
  • 正常ではコプロポルフィリンIIIに対するコプロポルフィリンIの比率は3〜4:1
  • デュビン・ジョンソン症候群ではこの比率が逆転し、コプロポルフィリンIがコプロポルフィリンIIIより3〜4倍高くなる
  • 尿中ポルフィリン分析ではコプロポルフィリンIが全体の約80%(正常では25%)

画像診断:

  • 胆道シンチグラフィーでは肝臓の強く持続的な描出と胆嚢の描出遅延または描出不良という特徴的な所見
  • その他の画像検査では特異的所見に乏しい

肝生検:

  • 肝臓は色素の蓄積により暗いピンク色または黒色を呈する(黒色肝)
  • この色素はメラニン様物質であり、エピネフリン代謝産物の重合体と考えられている
  • 肝細胞の構造は保たれており、炎症や線維化は見られない

これらの検査所見に加えて、遺伝子検査でABCC2遺伝子(MRP2をコードする遺伝子)の変異を確認することで確定診断が可能です。

デュビン・ジョンソン症候群の病態生理と発症メカニズム

デュビン・ジョンソン症候群の病態生理を理解することは、その症状や検査所見を解釈する上で重要です。この症候群の根本的な原因は、肝細胞から胆汁中への抱合型ビリルビンの排泄障害にあります。

分子レベルでのメカニズム:

デュビン・ジョンソン症候群は、多剤耐性関連タンパク質2(MRP2)の欠損または機能不全によって引き起こされます。MRP2は以下の特徴を持ちます。

  • 肝細胞の毛細胆管側膜(頂端膜)に局在するトランスポーター
  • ATP結合カセット(ABC)トランスポーター・スーパーファミリーに属する
  • グルクロニドやグルタチオン抱合物など、様々な有機アニオンの排泄を担当
  • 抱合型ビリルビンの胆汁中への排泄に重要な役割

MRP2をコードするABCC2遺伝子(染色体10q24に位置)の変異により、機能的なMRP2タンパク質が産生されなくなるか、または機能が低下します。これにより、抱合型ビリルビンが肝細胞から胆汁中に排泄されず、血中に逆流して高ビリルビン血症を引き起こします。

肝臓の黒色化メカニズム:

デュビン・ジョンソン症候群の特徴的な所見である肝臓の黒色化は、以下のメカニズムで生じると考えられています。

  • エピネフリン(アドレナリン)代謝産物の重合体が肝細胞内に蓄積
  • この色素はメラニン様物質であり、ビリルビンそのものではない
  • リソソームが動員されて色素顆粒として沈着

この色素沈着は肝機能に影響を与えないため、肝酵素値は正常範囲内にとどまります。

デュビン・ジョンソン症候群の疫学と遺伝的背景

デュビン・ジョンソン症候群は世界的に見ても稀な疾患であり、その正確な有病率は不明です。しかし、特定の集団では比較的高頻度で見られることが知られています。

疫学的特徴:

  • イスラエルに住むイラン系およびモロッコ系ユダヤ人では比較的高頻度(約1,300人に1人)
  • 日本人集団でも複数の症例報告がある
  • その他の集団では発生頻度が低い

遺伝的背景:

デュビン・ジョンソン症候群は常染色体劣性遺伝形式をとります。これは以下を意味します。

  • 両親から変異したABCC2遺伝子を1つずつ受け継いだ場合に発症
  • 両親は通常、保因者であり症状を示さない
  • 同胞(兄弟姉妹)が罹患している場合、他の同胞も罹患するリスクは25%

日本人患者における研究では、ABCC2遺伝子のさまざまな変異が同定されています。これらの変異は機能喪失型(loss-of-function)変異であることが多く、MRP2タンパク質の細胞質/結合ドメインに影響を与えます。

デュビン・ジョンソン症候群と妊娠・ホルモン療法の関連

デュビン・ジョンソン症候群の興味深い特徴の一つに、女性患者における妊娠やホルモン療法との関連があります。これは臨床現場で見落とされがちな側面ですが、診断の契機となることがあります。

女性患者における特徴:

デュビン・ジョンソン症候群の女性患者では、以下の状況で症状が顕在化することがあります。

  • 経口避妊薬の使用開始後
  • 妊娠中(特に妊娠後期)
  • ホルモン補充療法の開始後

これらの状況では、それまで無症候性だった患者が初めて黄疸を呈することがあります。これは、エストロゲンやプロゲステロンなどの性ホルモンが肝臓でのビリルビン代謝や排泄に影響を与えるためと考えられています。

妊娠中の管理:

妊娠中のデュビン・ジョンソン症候群患者の管理については、以下の点が重要です。

  • 黄疸が悪化することがあるが、通常は母体や胎児に重大なリスクをもたらさない
  • 定期的な肝機能検査によるモニタリングが推奨される
  • 分娩後は通常、症状が改善する

妊娠中に初めて黄疸が現れた場合、肝内胆汁うっ滞性妊娠(妊娠性肝内胆汁うっ滞)との鑑別が必要になることがあります。両者の鑑別には、肝酵素値やかゆみの有無、コプロポルフィリン排泄パターンなどが役立ちます。

ホルモン療法との関連:

経口避妊薬やホルモン補充療法を受けている女性では、デュビン・ジョンソン症候群の診断が見逃されていることがあります。黄疸が出現した場合には、薬剤性肝障害との鑑別が必要です。デュビン・ジョンソン症候群では以下の特徴があります。

  • 肝酵素値は正常範囲内
  • 薬剤中止後も黄疸が持続することがある
  • 家族歴が存在する可能性

このような場合、詳細な問診と適切な検査により、正確な診断に至ることが重要です。

デュビン・ジョンソン症候群の新生児・小児例の特徴

デュビン・ジョンソン症候群は通常、思春期または成人期に診断されることが多いですが、まれに新生児期や小児期に発症することもあります。これらの早期発症例は、典型的な成人例とは異なる臨床像を呈することがあり、小児科医や新生児科医にとって重要な知識となります。

新生児期の特徴:

新生児期に発症するデュビン・ジョンソン症候群は、以下の特徴を持ちます。

  • 生後早期からの黄疸(主に抱合型ビリルビンの上昇)
  • 肝腫大(肝臓の腫れ)
  • 重度の胆汁うっ滞(胆汁の産生・排泄能力の著しい低下)
  • 一般的な新生児黄疸(非抱合型ビリルビン上昇)との鑑別が必要

新生児期に発症した場合でも、長期的な予後は良好であることが多く、成長とともに肝臓の問題は改善し、その後の健康上の問題を引き起こすことは少ないとされています。しかし、再発や成長後の黄疸発作の可能性があるため、長期的なフォローアップが推奨されます。

小児期の特徴:

小児期のデュビン・ジョンソン症候群患者では。

  • 無症状であることが多い
  • 定期健診や他の疾患の検査過程で偶然発見されることがある
  • 肝機能検査で抱合型ビリルビンの上昇が見られる
  • 肝酵素値は正常範囲内

小児患者の診断においては、ウイルソン病や他の遺伝性肝疾患との鑑別が重要です。特に、ローター症候群はデュビン・ジョンソン症候群と類似した臨床像を呈しますが、肝臓の黒色化がなく、コプロポルフィリン排泄パターンが異なります。

小児患者の管理においては、不必要な侵襲的検査や治療を避けつつ、適切な診断と長期的なフォローアップを行うことが重要です。また、患者と家族に対する遺伝カウンセリングも考慮すべきです。

新生児期発症のデュビン・ジョンソン症候群に関する長期フォローアップ研究の詳細はこちら

デュビン・ジョンソン症候群の治療と予後

デュビン・ジョンソン症候群は基本的に良性の疾患であり、多くの場合、特別な治療を必要としません。しかし、医療従事者として患者の適切な管理と指導を行うことは重要です。

治療アプローチ:

デュビン・ジョンソン症候群に対する特異的な治療法はなく、主に対症療法と生活指導が中心となります。

  • 多くの患者では治療不要
  • 症状がある場合は対症療法を検討
  • 黄疸が強い場合は、ウルソデオキシコール酸などの胆汁酸製剤が考慮されることもある
  • 原因遺伝子であるMRP2の機能を回復させる治療法は現時点では確立されていない

生活指導:

患者への生活指導としては以下が重要です。

  • 本疾患が良性であり、生命予後に影響しないことの説明
  • 特別な食事制限は通常不要
  • 一部の薬剤(特に肝臓で代謝される薬剤)は慎重に使用する必要がある場合がある
  • 女性患者には妊娠やホルモン療法により症状が顕在化する可能性があることを説明
  • 定期的な健康診断の重要性

予後:

デュビン・ジョンソン症候群の予後は一般的に良好です。

  • 生命予後は正常集団と変わらない
  • 肝不全や肝硬変に進行することはない
  • 多くの患者は無症状で通常の生活を送ることができる
  • 妊娠中に症状が悪化することがあるが、通常は母体や胎児に重大なリスクをもたらさない
  • 新生児期に発症した場合でも、長期的な