デスモグレインとデスモソームの役割
デスモグレインの構造とカドヘリンファミリー
デスモグレインは、細胞接着装置の1つである接着斑(デスモソーム)の細胞接着分子で、カルシウム結合性の膜貫通タンパク質として機能しています。カドヘリン様配列を持つため、接着斑カドヘリン(desmosomal cadherins)とも呼ばれ、カドヘリンファミリーに属する糖タンパク質に分類されます。デスモグレインには、デスモグレイン1、デスモグレイン2、デスモグレイン3、デスモグレイン4という4つのアイソフォームが存在し、対応する4つの遺伝子は18番染色体に位置しています。
デスモグレインの膜貫通型糖タンパク質は、4つのカドヘリンリピートと、これらのタンパク質を細胞膜に固定する1つの細胞外アンカードメインからなる大きな細胞外部分を持っています。細胞質ドメインは、選択的スプライシングにより、異なるアイソフォーム間で長さが異なることがあり、ヒトには4つのデスモグレインアイソフォームと3つのデスモコリンアイソフォームが見られます。主に表皮を材料に研究されていますが、小腸、乳腺、気管、膀胱、肝臓、心臓、胸腺などの臓器にも存在することが確認されています。
参考)ビデオ: デスモソーム
デスモグレインとデスモコリンのヘテロ二量体ペアは、同じ細胞上のシス相互作用と隣接する細胞間のトランス相互作用によってクラスターを形成し、細胞外で、デスモグレインは相手細胞のデスモグレインと、デスモコリンは相手細胞のデスモコリンと同親性結合(ホモフィリック結合)をしています。
デスモソームの細胞間接着における機能
デスモソームという用語は、ギリシャ語で「癒着体」を意味する「デスモ」と「ソーマ」に由来し、1800年代後半に初めて観察され、表皮の小さくて密集した結節として説明されました。デスモソームはボタンのような構造で、細胞全体に中間フィラメントの相互接続ネットワークを形成するのに役立ち、機械的ストレス下で細胞を一緒に保持し、組織の完全性を維持するために不可欠な役割を果たします。
デスモソームの2次元の断面では、2本の黒い平行線に見え、平行線の間は約30nmとかなり離れています。構造は大きく3つの領域に分けられます。
- 細胞外コア領域(ECR、desmoglea):細胞外の部分で、細胞接着分子であるデスモグレインやデスモコリンの細胞膜から飛び出た部分があり、隣接細胞間においてカルシウムイオン依存的に二量体を形成することで細胞間接着を行っています
参考)表皮組織の構造と自己免疫性水疱症の分類:自己免疫性水疱症の検…
- 外側高電子密度板(ODP):細胞膜裏打ちタンパク質のプラコグロビン、デスモプラキン、プラコフィリンが細胞接着分子に結合している領域です
- 内側高電子密度板(IDP):細胞膜裏打ちタンパク質が中間径フィラメントに結合している領域で、ここで細胞骨格と連結します
デスモプラキンは、ホモの平行二量体を形成し、N端側でプラコグロビンのアルマジロリピートを含む中央部分と、C端側で中間径線維と結合します。このデスモソームカドヘリン-プラコグロビン-デスモプラーキンの三者からなる複合体がデスモソームを構成する基本的な構成単位と考えられています。
参考)https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/80-03-04.pdf
デスモグレイン1とデスモグレイン3の発現分布
デスモグレイン1(Dsg1)とデスモグレイン3(Dsg3)は、皮膚と粘膜での発現様式がそれぞれ異なっており、この違いが天疱瘡の病態と密接に関連しています。皮膚では、Dsg3は表皮下層(基底層や傍基底層)で強く発現するのに対し、Dsg1は表皮下層から上層に向けて増加する発現パターンを示します。
参考)自己免疫性水疱症の発症と自己抗体:自己免疫性水疱症の検査 |…
一方、粘膜では、Dsg3は粘膜上皮全層で強く発現するのに対し、Dsg1の発現量はDsg3に比べると明らかに低下しています。デスモグレイン1は主に皮膚にあり、デスモグレイン3は主に粘膜(口腔、食道など)にあり、少しだけ皮膚にもあります。攻撃されるデスモグレイン1、3のある場所が違うため、尋常性天疱瘡と落葉状天疱瘡の症状に違いができます。
デスモソームカドヘリンの発現パターンは組織特異的であり、デスモコリン2とデスモグレイン2は結腸や心筋組織など、デスモソームを含むすべての組織にみられるのに対し、他のデスモソームカドヘリンは重層上皮組織に限定されています。表皮では7種類のデスモソームカドヘリン全てが発現していますが、その発現は分化段階特異的です。デスモコリン2、3とデスモグレイン2、3は表皮下層で発現し、デスモコリン1、デスモグレイン1、4は表皮上層で発現しています。
天疱瘡における自己抗体とデスモグレイン
天疱瘡の患者に認められるIgG自己抗体は、デスモグレイン1(Dsg1)か、デスモグレイン3(Dsg3)を攻撃します。デスモグレインは、表皮細胞と表皮細胞がお互いにくっつく(接着する)のに重要な役割をしている蛋白で、デスモゾームという接着装置にある膜蛋白です。天疱瘡の自己抗体は、デスモグレインに結合し攻撃することで、デスモグレインの接着する働きを阻害し、その結果、表皮細胞と表皮細胞がばらばらになり、表皮の中で水疱が生じます。
抗Dsg1、3抗体を測定することは天疱瘡の病型把握に有用です。抗Dsg1抗体のみ陽性の場合は落葉状天疱瘡(PF)、抗Dsg3抗体のみ陽性の場合は尋常性天疱瘡(PV)となります。尋常性天疱瘡では、デスモグレイン3に対する自己抗体がみられ、落葉状天疱瘡では、デスモグレイン1に対する自己抗体がみられることが特徴です。自己抗体が攻撃するデスモグレインの種類に応じて、症状が現れる部位なども異なります。
参考)抗デスモグレイン1抗体(抗Dsg1抗体)|自己免疫関連|免疫…
天疱瘡の基本的な水疱形成機序は、自己抗体が表皮細胞間接着分子デスモグレインの機能を阻害するために細胞間の接着が障害され水疱ができると理解されます。落葉状天疱瘡患者血清中には、抗Dsg1 IgG抗体のみが認められ、尋常性天疱瘡のなかで粘膜病変を主症状とする粘膜優位型尋常性天疱瘡では、抗Dsg3 IgG抗体のみを認めます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsci/29/5/29_5_325/_pdf/-char/ja
デスモグレイン代償説と病態の多様性
Dsg1とDsg3は、互いの細胞間接着機能の欠損を補い合っており、天疱瘡での水疱形成の多様性の原因となっています。この理論は「デスモグレイン代償説(Desmoglein compensation theory)」として知られており、天疱瘡の病態を理解する上で重要な概念です。
デスモソームを構成するタンパク質に複数のアイソフォームが存在する理由は明確ではありませんが、これらは接着性が異なっており、重層上皮内で異なる濃度で必要とされている可能性や、上皮の分化においてそれぞれが特異的な機能を果たしている可能性が考えられています。デスモコリンとデスモグレインの双方について、同じ細胞内で異なるアイソフォームが発現しており、また1つのデスモソーム内にも複数のアイソフォームが含まれています。
天疱瘡患者から分離された病原性抗体の研究では、ペムフィガス自己抗体が体細胞変異を通じて生成され、デスモグレイン-3のシス界面を標的とすることが明らかになっています。これらの抗体のエピトープは、DSG3の細胞外1(EC1)とEC2にマッピングされ、一部の抗体はin vitroでケラチノサイト単層を破壊し、新生児マウスの受動的移植モデルで病原性を示すことが確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3461925/
さらに、天疱瘡の自己抗体研究の進展により、デスモコリン(Dscs)などデスモグレイン以外のデスモソームタンパク質に対する自己抗体の存在も明らかになってきており、より複雑な病態機序が解明されつつあります。化膿レンサ球菌のプロテアーゼによる皮膚病態形成機構の研究では、デスモグレイン1とデスモグレイン3がデスモソーム構成タンパク質として、皮膚表皮バリア機能の維持に寄与していることも示されています。
日本皮膚科学会の天疱瘡Q&A – デスモグレインの基本的な働きと天疱瘡の発症メカニズムが詳しく解説されています
MBL臨床検査薬 – 表皮組織の構造とデスモソームを含む細胞間接着構造の詳細な解説が掲載されています
PubMed Central – 天疱瘡自己抗体の分子レベルでの病原性メカニズムに関する英語論文です