デスフルラン副作用と重大なリスク管理

デスフルラン副作用とリスク管理

デスフルランは気道刺激性が強く、マスク導入には不向きです。

この記事の3つのポイント
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気道刺激と循環動態変化

濃度上昇時の交感神経刺激により頻脈・血圧上昇が発生し、喉頭痙攣のリスクが存在します

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悪性高熱と重大な副作用

全身麻酔10万例に1~2例の頻度で悪性高熱が発生し、適切な対応が必要です

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代謝率0.02%の特性

ほとんど代謝されず呼気排泄されるため、肝機能・腎機能障害患者にも使用しやすい特徴があります

デスフルラン副作用の発現頻度と特徴

 

デスフルランは揮発性吸入麻酔薬として広く使用されていますが、副作用の発現状況を正確に把握しておく必要があります。国内臨床試験における主な副作用の発現率は、悪心27.2%、嘔吐14.2%、ビリルビン増加12.4%、血圧低下9.5%、γ-GTP増加5.9%、AST増加4.7%、心拍数減少4.7%でした。

つまり術後悪心・嘔吐が高頻度です。

セボフルランと比較した場合、覚醒の速さという大きなメリットがある一方で、気道刺激性の強さが問題となります。血液/ガス分配係数0.424という数値は、セボフルランの0.63~0.69よりも小さく、これは麻酔導入と覚醒が約1.5倍速いことを意味します。東京ドーム約1個分の容積の手術室で麻酔管理をする場合、覚醒時間の短縮は患者回転率の向上につながる重要な要素です。

しかし気道刺激性の問題は無視できません。デスフルランによる緩徐導入では、1MACを超えて投与した場合に咳や息こらえを起こし、高濃度投与で気道刺激症状の頻度が増加します。2MAC以上の濃度では喉頭痙攣のリスクが顕著に上昇するため、小児麻酔での使用は慎重な判断が求められます。

スープレン吸入麻酔液の添付文書(KEGG MEDICUS)には副作用の詳細な記載があり、臨床使用の参考になります。

術後悪心・嘔吐のリスクを有する患者には、制吐剤であるオンダンセトロンやグラニセトロン投与など適切な予防策をとることが推奨されています。これらの制吐剤は5-HT3受容体拮抗薬として作用し、術後悪心・嘔吐の発生率を30~40%程度低減させる効果が報告されています。患者の不快感を軽減し、術後回復を円滑にするためにも、リスク評価と予防的投与を検討してください。

デスフルラン投与時の交感神経刺激作用

急激なデスフルラン投与濃度の上昇は、交感神経刺激作用により頻脈や血圧上昇を引き起こします。研究によれば、麻酔導入後のデスフルラン開始時には交感神経活動が2.5倍に増加し、1.0MACから1.5MACへの濃度上昇により神経・循環の活性化がもたらされることが実証されています。

これは臨床上重要な問題です。

心疾患や高血圧の既往がある患者では、この循環動態の急激な変化が心筋虚血や不整脈を誘発する可能性があります。特に冠動脈疾患患者では、心筋酸素需要の急増が心筋梗塞のリスクを高めるため、デスフルランの濃度上昇は緩徐に行う必要があります。通常、3.0%の濃度で開始し、患者の全身状態を観察しながら濃度を調節することが推奨されています。

高濃度投与における心筋抑制作用も考慮すべきポイントです。デスフルランは同時に交感神経刺激作用を持つため、両者のバランスにより循環動態が決定されます。亜酸化窒素を併用する場合、通常7.6%以下の濃度で外科的手術に適切な麻酔深度が得られますが、濃度の調整は慎重に行ってください。

循環動態の急激な変化を避けるためには、脳波モニターを活用して麻酔深度を適切に管理することが有効です。0.7MACを目安にし、十分な鎮痛ができている状況で患者の状態に合わせて調整すれば、不要な高濃度投与を回避できます。

デスフルラン使用時の悪性高熱リスク

悪性高熱は全身麻酔における最も重篤な合併症の一つであり、デスフルランを含むハロゲン化吸入麻酔薬の使用時に発生する可能性があります。発生頻度は全身麻酔10万例に1~2例とされていますが、小児では3万例に1例、成人では5万例に1例とされ、年齢により発症率が異なります。

発症すると致命的です。

悪性高熱は骨格筋におけるカルシウムイオンチャネルの異常開放を原因とする代謝の異常亢進で、劇的な体温上昇、呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO2)の上昇、頻脈、筋硬直などさまざまな症状を引き起こします。1960年代の死亡率は約80%でしたが、特異的治療薬であるダントロレンナトリウム水和物の登場により、現在では10%台に低下しました。しかし依然として致死的な状況へ発展する可能性があります。

悪性高熱の既往歴または血族に悪性高熱の既往歴のある患者には、デスフルランの投与は禁忌です。これは添付文書に明記されており、絶対に守らなければならない項目となります。麻酔前の問診で家族歴を含めた詳細な聴取を行い、リスク患者を事前に特定することが重要です。

日本麻酔科学会の悪性高熱症患者の管理に関するガイドライン2016(PDF)には、診断基準や治療プロトコルが詳しく記載されています。

万が一悪性高熱が疑われる場合は、直ちにデスフルランの投与を中止し、100%酸素による過換気を行い、ダントロレン投与の準備を進めます。初回投与量は2.5mg/kgで、症状が改善するまで追加投与を行います。早期発見と迅速な対応が予後を左右するため、手術室にはダントロレンを常備し、スタッフ全員が対応手順を理解しておく必要があります。

デスフルラン気道刺激性と喉頭痙攣対策

デスフルランの最も特徴的な副作用として、強い気道刺激性があります。この特性により、セボフルランのような穏やかなマスク導入は困難であり、小児症例では特に使用が制限されます。6~7%のデスフルランによるマスク導入は、セボフルラン、イソフルランと比較して、咳、痙攣、喉頭痙攣、息止め、分泌物増加等の副作用の併発が多いことが報告されています。

小児麻酔では原則禁忌です。

喉頭痙攣は換気困難な状況に陥る可能性があり、2013年には使用上の注意の改訂で「重大な副作用」の項に追記されました。異常が認められた場合には、持続的気道陽圧、筋弛緩剤の使用等適切な処置を行う必要があります。喉頭痙攣による低酸素血症は、脳障害や心停止といった重篤な合併症につながるため、早期発見と迅速な対応が不可欠です。

気道刺激性の問題を回避するためには、麻酔導入にプロポフォールなどの静脈麻酔薬を使用し、十分な麻酔深度を確保した後に気管挿管を行い、その後デスフルランによる麻酔維持に移行する方法が推奨されます。この方法により、デスフルランの覚醒の速さというメリットを活かしながら、気道刺激性のデメリットを最小限に抑えることができます。

LMAを使用した全身麻酔において、デスフルランがセボフルランよりも上気道合併症をきたす発生頻度が大きいという明確なエビデンスは不足していますが、臨床経験上は注意が必要とされています。気道管理デバイスの選択と麻酔深度の適切な維持により、合併症のリスクを低減できます。

デスフルラン代謝率と臓器機能への影響

デスフルランの大きな特徴の一つは、極めて低い代謝率です。体内での代謝率はわずか0.02%と、イソフルラン(0.2%)よりもさらに低く、ほとんど代謝を受けずに呼気中に排泄されます。この特性は肝機能障害や腎機能障害を持つ患者にとって大きなメリットとなります。

肝臓への負担が最小限です。

デスフルランはイソフルランのα炭素に結合した塩素をフッ素で置換した化学構造を有しており、この化学的安定性が低代謝率の理由です。わずか0.02%の代謝は主に肝臓のCYP2E1により行われますが、体内で代謝されている唯一の根拠は尿中トリフルオロ酢酸濃度の測定によるものです。

肝移植手術など肝機能が著しく低下している患者では、代謝を必要としない麻酔薬の選択が重要になります。セボフルランは肝臓で約3~5%代謝されフッ化物イオンを生成しますが、デスフルランではこのリスクがほぼありません。慢性肝疾患患者における長時間麻酔では、デスフルランの使用により術後肝機能障害のリスクを低減できる可能性があります。

腎機能障害患者においても、デスフルランは安全に使用できる麻酔薬です。セボフルランの代謝産物であるフッ化物イオンは腎毒性の懸念がありますが、デスフルランではこの問題がありません。ただし、腎機能障害患者では麻酔薬以外の併用薬の蓄積に注意が必要であり、オピオイド筋弛緩薬の投与量調整を適切に行ってください。

肝機能障害患者におけるデスフルランの使用に関する文献(LiSA)では、貴重な移植肝への影響が少ない麻酔薬としてデスフルランが推奨されています。

低流量麻酔法においても、デスフルランは化学的に安定しているため適しています。二酸化炭素吸収剤との反応が少なく、セボフルランで懸念されるコンパウンドAの生成もありません。ただし、乾燥した二酸化炭素吸収剤を用いた場合に一酸化炭素を産生することがあるため、二酸化炭素吸収剤の乾燥が疑われた場合は投与前に新しいものと交換する必要があります。

デスフルラン覚醒時興奮と小児麻酔管理

小児麻酔における覚醒時せん妄は、デスフルランを含む揮発性吸入麻酔薬使用後の重要な問題です。ハロタン、イソフルラン、セボフルランまたはデスフルランによる小児の全身麻酔後の覚醒時せん妄の発生率は2~55%と報告により幅があります。

頻度が非常に高いです。

覚醒時せん妄は、幻聴や幻視、叫ぶ、泣く、パニック発作、体動が制御できないといった症状を呈します。これは医療安全上の問題にとどまらず、患児と保護者、医療者双方の満足度の低下につながります。手術台からの転落や医療機器の自己抜去といったリスクもあり、適切な予防と対応が求められます。

デスフルランとセボフルランを比較した研究では、覚醒時興奮の頻度に関して一貫した結果は得られていません。一部の報告ではデスフルランの方が覚醒時興奮の頻度が高い可能性が示唆されていますが、使用方法や併用薬により結果が異なります。修正小児麻酔覚醒せん妄尺度(0~16の範囲で、スコアが高いほど重症)を用いた評価では、適切な麻酔管理により発生率を低減できることが示されています。

覚醒時せん妄の予防策としては、術前不安の軽減、プロポフォールを用いたTIVA(全静脈麻酔)の使用、デクスメデトミジンやミダゾラムの併用が有効とされています。特にデクスメデトミジンは、α2アドレナリン受容体作動薬として鎮静と鎮痛作用を持ち、覚醒時せん妄の発生率を30~50%程度低減させることが報告されています。

覚醒時せん妄に関する詳細(Wikipedia)では、発生機序や対策について包括的な情報が記載されています。

脳波ガイド下麻酔は、小児における覚醒時せん妄予防の新しいアプローチです。麻酔深度を適切に管理することで、セボフルラン曝露を最小限に抑え、覚醒時せん妄を顕著に抑制できることが最近の研究で示されています。BISモニターやSedLineなどの脳機能モニタリング装置を活用し、過度な麻酔深度を避けることが重要です。

小児においてデスフルランを使用する場合は、気道刺激性の問題も考慮する必要があります。マスク導入は避け、静脈麻酔薬による導入後に維持麻酔としてデスフルランを使用する方法が推奨されます。覚醒の速さというメリットを活かしつつ、覚醒時せん妄のリスク管理を徹底することで、小児麻酔の質を向上させることができます。


真実の行方