デラマニド作用機序と多剤耐性結核における意義

デラマニド作用機序と抗結核作用

ミコール酸合成だけでは説明できない抗菌活性がある

📋 この記事の3ポイント要約
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F420補酵素依存的な活性化とNAD付加体形成

デラマニドは結核菌内でF420補酵素依存型ニトロ基還元酵素(Ddn)により還元活性化され、酸化型NADと付加体を形成して抗菌活性を発揮します

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既存薬との交叉耐性がない新規作用機序

ミコール酸合成阻害という独自の作用機序により、イソニアジドやリファンピシンなど既存の抗結核薬との交叉耐性を示さず、多剤耐性結核に有効です

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QT延長リスクと定期的な心電図モニタリング

デラマニドの投与では心電図QT延長の副作用が発現する可能性があるため、投与開始前および投与中は定期的に心電図検査が必須となります

デラマニドのF420補酵素依存的活性化機序

デラマニドは結核菌細胞内に取り込まれた後、哺乳類には存在しない特殊な補酵素F420に依存して活性化される「プロドラッグ」です。この補酵素F420は結核菌やメタン生成菌など限られた微生物にのみ存在する電子運搬体であり、デラマニドの選択的抗菌作用の基盤となっています。

結核菌内で補酵素F420依存型ニトロ基還元酵素(Ddn)がデラマニドのニトロ基を還元し、活性化された代謝物を生成します。この過程には5つのF420関連遺伝子(fgd、ddn、fbiA、fbiB、fbiC)が関与しており、これらのいずれかに変異が生じるとデラマニドに対する耐性が獲得されることが明らかになっています。

つまり耐性機序が明確です。

新潟大学の研究グループは2020年、デラマニドが結核菌内で還元活性化された後、酸化型NAD(NAD+)と共有結合して「NAD-デラマニド付加体(6-NAD-DLM)」を形成することを発見しました。この付加体形成が実際の抗菌活性に直接関与していることが証明され、デラマニドの作用機序の一端が明らかになりました。

デラマニド活性化の詳細な研究成果については、新潟大学医学部の研究報告をご参照ください。

新潟大学医学部細菌学教室によるデラマニド作用機序の解明に関する研究成果(NAD-デラマニド付加体の形成メカニズムについて詳細に解説されています)

デラマニドによるミコール酸合成阻害の詳細

デラマニドの主要な作用機序として広く知られているのが、結核菌の細胞壁を構成するミコール酸の生合成阻害です。ミコール酸は結核菌が菌体の最外周部に持つ特殊な脂質で、細胞壁の強固な構造維持に不可欠な成分となっています。

活性化されたデラマニドは、結核菌特有のメトキシミコール酸とケトミコール酸の合成を特異的に阻害します。これらのミコール酸は結核菌の病原性や環境ストレスへの抵抗性に重要な役割を果たしているため、その合成が阻害されることで結核菌の細胞壁が不安定化し、菌の増殖が抑制されるのです。

しかし興味深いことに、デラマニドはミコール酸合成活性が低い潜伏感染結核菌に対しても有効性を示すことが報告されています。この事実は、ミコール酸合成阻害が本剤の作用機序の一部であり、先述のNAD付加体形成など他のメカニズムも併せて抗菌活性に寄与していることを示唆しています。

この複合的な作用が重要です。

さらにデラマニドは好気環境下だけでなく、嫌気環境下の結核菌に対しても抗結核活性を有することが動物実験で確認されています。嫌気環境は体内の肉芽腫内部など酸素供給が乏しい部位を模倣しており、こうした環境下でも効果を発揮できることは臨床的に極めて重要な特性です。

デラマニドの既存抗結核薬との交叉耐性と耐性機序

デラマニドの臨床的価値を高める最も重要な特徴の一つが、既存の抗結核薬との交叉耐性を示さない点です。イソニアジド(INH)やリファンピシン(RFP)などの第一選択薬に耐性を獲得した多剤耐性結核菌に対しても、デラマニドは薬剤感受性結核菌と同等の抗菌活性を示します。

これは既存薬とは全く異なる作用機序に基づくためです。イソニアジドがNADH依存型2-trans enoyl-acyl carrier protein還元酵素(InhA)を阻害するのに対し、デラマニドはF420補酵素依存的に活性化され、NAD付加体を形成して作用するという独自の経路を持ちます。

作用標的が異なるということですね。

ただし、デラマニド自体に対する耐性も存在します。前述のF420関連遺伝子(fgd、ddn、fbiA、fbiB、fbiC)のいずれかに変異が生じると、デラマニドの活性化が起こらず耐性が獲得されます。in vitro試験では、デラマニドの自然耐性菌出現頻度はリファンピシンよりも高く、イソニアジドと同等であることが報告されています。

興味深いことに、イソニアジド耐性に関与するII型NADH脱水素酵素(Ndh)の変異株の一部が、デラマニドに対する交叉耐性を示すことが新潟大学の研究で明らかになりました。これらの交叉耐性株では菌体内のNADH/NAD比が還元型優位に変化しており、NAD付加体の形成が阻害されることで両薬剤への耐性が生じていると考えられています。

このメカニズムは稀ですが重要です。

デラマニドの多剤耐性結核治療における臨床的位置付け

デラマニドは2014年に日本と欧州で承認された、約40年ぶりの新規抗結核薬です。日本において多剤耐性肺結核の適応で承認された初めての薬剤であり、結核治療の歴史において画期的な薬剤と位置付けられています。

多剤耐性結核とは、最も有効な一次抗結核薬であるイソニアジドとリファンピシンの両方に耐性を示す結核菌による感染症を指します。日本では多剤耐性結核菌の割合は全体の約0.6%(2022年)と世界平均(約3.6%)より低いものの、治療に難渋するケースが存在し、新規薬剤の必要性が高い領域でした。

デラマニドの使用にあたっては、耐性菌の発現を防ぐため、原則として他の抗結核薬および本剤に対する感受性(耐性)を確認し、感受性を有する既存の抗結核薬3剤以上に本剤を上乗せして併用することが求められています。単剤での使用は耐性菌出現のリスクが高いため禁忌です。

併用が絶対条件ですね。

臨床試験では、デラマニド100mg 1日2回投与群において、プラセボ群と比較して喀痰培養陰性化率の有意な改善が認められました。投与期間は臨床試験では6ヵ月までのデータが蓄積されていますが、個々の症例における適切な投与期間は患者の状態や併用薬の効果により判断されます。

デラマニド1錠(50mg)の薬価は約6,000円と高額ですが、日本では感染症法第37条の2に基づく公費負担制度により、患者負担は医療費の5%に軽減されます。しかし多剤耐性結核の治療は長期間に及ぶため、医療経済的な側面も考慮する必要があります。

デラマニドの副作用プロファイルとQT延長リスク管理

デラマニド治療において最も注意すべき副作用がQT延長です。QT延長は心電図上でQT間隔が延長する現象で、重篤な不整脈(torsades de pointes)のリスクを高める可能性があります。臨床試験では、プラセボ群の3.8%に対し、デラマニド100mg 1日2回投与群では9.9%、200mg 1日2回投与群では13.1%にQT延長が認められました。

このため、デラマニド投与開始前および投与中は定期的に心電図検査を実施することが必須とされています。特に投与開始後30日間は慎重なモニタリングが推奨されます。QT延長を引き起こす可能性のある他の薬剤(特定のキノロン系抗菌薬など)との併用時には、さらに注意が必要です。

心電図チェックが欠かせません。

その他の副作用として、めまい、頭痛、傾眠、不眠症、吐き気、嘔吐、腹痛などが報告されています。これらの症状は比較的軽度なことが多いですが、患者に動悸やめまいなどの症状が出現した場合は速やかに医師に相談するよう指導することが重要です。

デラマニドは主にCYP3A4で代謝されるため、CYP3A4の強力な阻害薬や誘導薬との併用により血中濃度が変動する可能性があります。併用薬の確認と適切な薬物相互作用の評価が治療成功の鍵となります。

薬物相互作用に注意が必要ですね。

心電図モニタリングなどの安全性管理を適切に実施するため、デラマニドの適正使用に関する情報は、製薬企業が提供する適正使用ガイドを参照することが推奨されます。

デラマニドと他の新規抗結核薬との併用療法の展望

デラマニドとともに近年承認された新規抗結核薬には、ベダキリン(2018年日本承認)とプレトマニド(米国で2019年承認)があります。これらの薬剤はそれぞれ異なる作用機序を持ち、組み合わせることでより強力な治療効果が期待されています。

ベダキリンはATP合成酵素を阻害するジアリルキノリン系の薬剤で、デラマニドとは全く異なる作用機序を持つため交叉耐性のリスクが低いという利点があります。実際に、デラマニドとベダキリンの併用療法は多剤耐性結核治療における有望な選択肢として注目されており、大塚製薬は両剤に新規抗結核薬候補OPC-167832を加えた3剤併用による4ヵ月間の短期治療レジメンの臨床試験を実施しています。

プレトマニドはデラマニドと同じニトロイミダゾール系薬剤ですが、米国FDAは2019年、プレトマニド、ベダキリン、リネゾリドの3剤併用療法(BPaLレジメン)を超多剤耐性結核(XDR-TB)治療として承認しました。従来20ヵ月以上要した治療期間を6ヵ月に短縮できる可能性があり、画期的な進歩です。

短期化は画期的ですね。

ただし、プレトマニドをデラマニドに置き換えたレジメンが同等の効果を示すかは現時点では不明です。両剤は同じニトロイミダゾール系でありながら薬物動態や活性代謝物の性質に違いがあるため、今後の研究により明らかにされる必要があります。

リネゾリドはもともとグラム陽性菌感染症治療薬として開発されたオキサゾリジノン系抗菌薬ですが、多剤耐性結核に対しても高い効果を示すことが判明し、WHO(世界保健機関)は2018年のガイドラインでリネゾリドを多剤耐性結核治療の中核薬剤に位置付けました。デラマニドとリネゾリドの併用も有望な選択肢の一つとなっています。

これらの新規薬剤の組み合わせにより、多剤耐性結核の治療成績向上と治療期間短縮が期待されていますが、QT延長など副作用の重複にも注意しながら最適なレジメンを選択する必要があります。多剤耐性結核治療は依然として専門的な知識と経験を要する分野であり、結核専門医による慎重な管理が不可欠です。