電子式血圧計の種類と測定方式の選び方

電子式血圧計の種類と特徴

電子式血圧計の基本情報
🩺

測定原理

オシロメトリック法が主流で、血管の振動を検知して血圧を測定します

📊

主な種類

上腕式と手首式の2種類が一般的で、それぞれに特徴があります

🔍

選ぶポイント

測定精度、使いやすさ、機能性、価格などを総合的に判断しましょう

電子式血圧計は、現代の健康管理において欠かせない医療機器となっています。かつては医療機関でしか測定できなかった血圧も、今では自宅で簡単に測れるようになりました。本記事では、電子式血圧計の種類や特徴、選び方について詳しく解説します。

電子式血圧計の測定方式とオシロメトリック法

電子式血圧計の測定方式は、主にオシロメトリック法が採用されています。この方法は、カフ(腕帯)を腕に巻き、加圧・減圧する過程で発生する動脈の振動(オシレーション)を検出し、血圧値を算出します。従来の聴診法とは異なり、コロトコフ音を聴く必要がないため、医療従事者でなくても簡単に測定できるのが特徴です。

オシロメトリック法の仕組みは以下の通りです。

  1. カフを測定部位(上腕や手首)に巻き付ける
  2. 自動的に加圧して血流を一時的に遮断する
  3. 徐々に減圧しながら動脈の振動を検知する
  4. 振動パターンから最高血圧(収縮期血圧)と最低血圧(拡張期血圧)を算出する

この方法は、日本工業規格(JIS T 1115:2005 非観血式電子血圧計)にも準拠しており、家庭用から医療機関用まで幅広く採用されています。

一部の医療機関では、より精密な測定が必要な場合に、マイクロフォンでコロトコフ音を検出するフィルターコンパレータ法やリバロッチ・コロトコフ法なども使用されていますが、一般的な電子式血圧計ではオシロメトリック法が主流です。

電子式血圧計の上腕式と手首式の違いと選び方

電子式血圧計は、測定部位によって大きく「上腕式」と「手首式」の2種類に分けられます。それぞれの特徴を理解して、自分に合った血圧計を選びましょう。

【上腕式血圧計】

上腕式血圧計は、二の腕(上腕部)にカフを巻いて測定するタイプです。医師が推奨するスタンダードな血圧計で、以下のような特徴があります。

  • 測定精度が高く、医療機関でも同様の方法で測定される
  • カフを巻く「腕帯巻きつけタイプ」と、腕を通すだけの「全自動タイプ(アームインタイプ)」がある
  • 適応腕周が22~32cmのものが一般的だが、細い腕や太い腕用のサイズも用意されている
  • 設置場所を取るため、持ち運びには不向き

上腕式の中でも、「全自動タイプ」は腕を入れるだけで測定できるため、高齢者や血圧測定に不慣れな方にも使いやすいという利点があります。ただし、サイズが大きく、価格も比較的高めです。

【手首式血圧計】

手首式血圧計は、手首にカフを巻いて測定するタイプです。以下のような特徴があります。

  • コンパクトで軽量(約90~125g程度)なため、持ち運びに便利
  • 上着を脱がずに測定できる手軽さがある
  • 適応手首周が13.5~21.5cm程度のものが多い
  • 測定時に手首を心臓の高さに保つ必要がある

手首式血圧計は、出張や旅行など外出先での測定に適しています。最近のモデルでは、正しい測定姿勢をサポートする機能(例:オムロンのハートマークを胸の中心に合わせる機能)が搭載されているものもあります。

選び方のポイントとしては、日常的に自宅で測定するなら上腕式、外出先でも測定したい場合は手首式、という使い分けが一般的です。ただし、どちらのタイプも、正しい測定姿勢と方法を守れば、測定精度に大きな違いはないとされています。

電子式血圧計のアネロイド式と水銀式の比較

電子式血圧計以外にも、アネロイド式や水銀式の血圧計があります。これらの従来型血圧計と電子式血圧計を比較してみましょう。

【アネロイド式血圧計】

アネロイド式血圧計は、ゼンマイ式の機械的な仕組みで血圧を測定します。

  • 小型・軽量で携行性に優れている
  • 電池不要で長期間使用可能
  • 医療関係者が在宅往診時などに使用することが多い
  • 操作方法やデータの読み取りには専門的知識が必要
  • 定期的な校正が必要

【水銀式血圧計】

水銀式血圧計は、かつては医療現場の標準でしたが、水銀の環境影響から現在は使用が制限されています。

  • 測定精度が高く、長期間安定している
  • 校正が不要
  • 水銀の環境汚染リスクがある
  • 大型で持ち運びに不向き
  • 操作と読み取りに専門知識が必要

【電子式血圧計の優位性】

電子式血圧計は、これらの従来型と比較して以下のような利点があります。

  • 操作が簡単で、専門知識がなくても測定可能
  • デジタル表示で読み取りやすい
  • メモリー機能で過去の測定値を記録できる
  • 自動加圧・減圧で測定者による誤差が少ない
  • 不規則脈波検出など、付加機能が充実している

医療機関では、精密な測定が必要な場合にアネロイド式や電子式の専門機器を使用することもありますが、家庭での測定には電子式血圧計が最も適しています。特に、医療従事者が患者さんに自宅での血圧測定を勧める場合は、使いやすい電子式血圧計を推奨することが多いでしょう。

電子式血圧計の最新機能とメモリー機能の活用法

現代の電子式血圧計には、単に血圧を測るだけでなく、様々な便利機能が搭載されています。これらの機能を理解し、効果的に活用することで、より質の高い健康管理が可能になります。

【メモリー機能】

ほとんどの電子式血圧計には、過去の測定値を記録するメモリー機能が搭載されています。

  • 記録容量:60~100回分が一般的(機種により異なる)
  • 複数人記録:2人分の記録が可能なモデルもある(例:90回×2人分)
  • 日時記録:測定日時も同時に記録されるため、経時変化を確認できる
  • 平均値表示:直近の測定値の平均を表示する機能も便利

メモリー機能を活用するコツは、毎日決まった時間(朝起床後と夜就寝前など)に測定して記録することです。これにより、血圧の日内変動や治療効果を確認できます。また、受診時にこのデータを医師に見せることで、より適切な診断や治療につながります。

【最新の付加機能】

最近の電子式血圧計には、以下のような高度な機能が搭載されているものもあります。

  1. Bluetooth通信機能:スマートフォンアプリと連携して、測定データを自動記録・グラフ化
  2. 不規則脈波検出機能:不整脈の可能性を検知して知らせる
  3. 体動検出機能:測定中の体の動きを検知し、正確な測定をサポート
  4. 早朝高血圧確認機能:朝の血圧上昇(モーニングサージ)を検出
  5. 血圧値レベル表示:測定値が正常範囲内かどうかを視覚的に表示
  6. 気圧・気温計搭載:環境要因と血圧の関連を確認できる(一部の医療機関向けモデル)

特に注目すべきは、スマートフォン連携機能です。測定データをアプリで管理することで、長期的な血圧変動をグラフで確認したり、クラウドにデータを保存したりできます。また、家族や医師とデータを共有することも可能になり、遠隔での健康管理をサポートします。

医療従事者としては、患者さんの自己管理をサポートするために、これらの機能を理解し、適切な血圧計の選択をアドバイスすることが重要です。特に高齢者や血圧管理が必要な慢性疾患患者には、使いやすさと機能性のバランスを考慮した血圧計を推奨するとよいでしょう。

電子式血圧計の医療現場での活用と専門機器の特徴

医療現場では、一般家庭用とは異なる専門的な電子式血圧計が使用されています。これらの機器は高い精度と耐久性を備え、多くの患者の測定に対応できるよう設計されています。

【医療機関向け全自動血圧計の特徴】

医療機関で使用される全自動血圧計には、以下のような特徴があります。

  • 高耐久性:1日に多数の測定に耐えられる設計
  • 高精度:JIS規格に準拠した厳密な精度管理
  • プリンタ機能:測定結果をその場で印刷可能
  • 外部出力機能:電子カルテなどのシステムと連携
  • 左右測定対応:両腕の血圧差を確認できる
  • 専用架台:車椅子でも測定しやすい高さ調整機能

例えば、エー・アンド・デイの全自動血圧計「TM-2657シリーズ」は、軽量・コンパクト設計で持ち運びも可能な医療機関向けモデルです。気圧・気温計を搭載し、環境要因と血圧の関連も確認できる機種もあります。

【ワンハンド式血圧計】

医療従事者向けの特殊な電子式血圧計として、ワンハンド式血圧計があります。

  • 片手で操作可能:患者のケアをしながら測定できる
  • ハイブリッド方式:電子式とアネロイド式の利点を組み合わせたもの
  • 携帯性:訪問診療や病棟回診に適したコンパクト設計
  • 複数測定モード:状況に応じた測定方法を選択可能

テルモの「エレマーノ2」やニッセイの「ワンハンド式アネロイド血圧計 HT-1500」などが代表的な製品です。これらは看護師や訪問診療医に特に重宝されています。

【24時間血圧測定装置(ABPM)】

より詳細な血圧評価が必要な場合には、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)装置が使用されます。

  • 24時間連続測定:日内変動を詳細に把握
  • 白衣高血圧や仮面高血圧の診断に有効
  • 夜間血圧低下(ディッピング)の評価が可能
  • 治療効果の詳細な評価に役立つ

これらの専門機器は、一般家庭用の血圧計と比べて高価ですが、多くの患者の測定や詳細な血圧評価が必要な医療現場では必須のツールとなっています。

医療従事者としては、これらの専門機器の特性を理解し、適切な状況で活用することが重要です。また、患者さんが自宅で使用する血圧計との測定値の差異について理解し、説明できることも必要です。一般的に、医療機関の血圧計と家庭用血圧計では、同じ患者でも若干の測定値の違いが生じることがあります。これは機器の特性や測定環境の違いによるもので、患者さんに適切に説明することが大切です。

日本高血圧学会による家庭血圧測定の指針

電子式血圧計の精度維持と正しい測定方法のポイント

電子式血圧計の測定値の信頼性を確保するためには、機器の精度維持と正しい測定方法が不可欠です。医療従事者として、患者さんに適切な指導を行うためのポイントを解説します。

【電子式血圧計の精度維持】

電子式血圧計は精密機器であり、適切なメンテナンスが必要です。

  1. 定期的な精度確認
    • 1~2年に一度、メーカーによる点検・校正を受けることが望ましい
    • 医療機関の血圧計と比較して、大きな差がないか確認する
  2. 適切な保管
    • 高温・多湿・直射日光を避けて保管する
    • 強い衝撃を与えない
    • 長期間使用しない場合は電池を取り外す
  3. カフ(腕帯)のケア
    • 汚れた場合は中性洗剤で軽く拭き、十分に乾燥させる
    • 折り曲げたままにしない
    • 劣化したカフは交換する(特に医療機関では定期的な交換が必要)

【正しい測定方法のポイント】

正確な血圧測定のためには、以下のポイントを守ることが重要です。

  1. 測定前の準備
    • 測定前30分間は喫煙・カフェイン摂取を避ける
    • 5分以上の安静後に測定する
    • 排尿を済ませておく
    • 会話をせずに測定する
  2. 正しい姿勢
    • 椅子に深く腰掛け、背もたれに背中をつける
    • 足を組まず、両足を床につける
    • 上腕式:カフの中心を心臓の高さに合わせる
    • 手首式:手首を心臓の高さに保ち、肘を軽く曲げる
  3. カフの装着
    • 上腕式:上腕の動脈の上にカフの「動脈マーク」を合わせる
    • 手首式:手首の内側に表示部が来るように装着
    • きつすぎず、緩すぎない適切な締め付け
  4. 測定のタイミング
    • 朝:起床後1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前
    • 晩:就寝前
    • 毎日同じ時間帯に測定する
  5. 複数回測定
    • 1回の測定で判断せず、1~2分間隔で2~3回測定
    • それらの平均値を記録する

医療従事者として患者さんに指導する際は、実際に測定の様子を見て、姿勢やカフの装着状態を確認することが効果的です。特に高齢者や初めて血圧計を使用する方には、繰り返し丁寧に説明することが重要です。

また、測定値に大きな変動がある場合や、家庭での測定値と医療機関での測定値に著しい差がある場合(白衣高血圧や仮面高血圧の可能性)は、24時間血圧測定などのより詳細な評価を検討することも必要です。

日本高血圧学会による高血圧治療ガイドライン2019

正確な血圧測定は、高血圧の診断や治療効果の判定において非常に重要です。電子式血圧計の特性を理解し、適切な使用方法を患者さんに指導することで、より質の高い血圧管理が可能になります。